オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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024/街

 

『はいはい、いらっしゃい! 北から届いたばかりの魚が安いよ!』

『奥さん奥さん! この水分たっぷりの白根どうだい!』

 

あちこちから響く客引きの声。

今世で初めて見る人、人、人。

行き来する流れはこの背丈では圧倒されるばかり。

 

「おぉ…………!」

 

それに圧倒され、立ち尽くす白。

その隣で手を掴み、流されないように見守る俺。

一見すれば俺が彼女に護られているようで。

正しく見れば、危険ではない証明として手を握っているという逆転状態。

 

「これがお主等が言っておった街とやらか!?」

「そう。 確か……『北麗(ほくれい)』とか言ったかな。」

 

北麗。

位置としては東都……元の世界で言う東京の北西辺り。

関東平野一帯の中で上野国と下野国の間辺りに属する。

山々が周囲を覆う中、その合間に作られたこの街は。

当然の如く、更に北や西等とも繋がる大きな血管とも言える。

 

……そしてその分、確立された固定の幽世が幾つも有り。

不定期に発生する物も周囲のあちこちに発生するが故。

能力者達にとっても大きな拠点の一角と成っている、そんな街。

 

「……んん?」

 

人並みに流されないように道端へと彼女を引っ張っていく。

その途中。

くいくい、と手を引かれる。

 

「どうかしたのか?」

 

叫び声などで、普通にしていては全く聞こえない。

だから顔を近づけて、耳元で話してもらう。

 

「いやな、ご主人。

 見られる視線が何だか……こう、()()のような感じがしないか?」

「んん……?」

 

はっきり目を合わせないように。

飽く迄子供の取る行動のように、建物を眺めるように人を見る。

その中で感じるのは。

 

「……確かにそんな感じだな。」

 

隠そうともしない、珍しいものを見ているといった視線

 

「ひょっとすると……。」

「何だ、分かるのか?」

「勘に近いが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、じゃないか?」

 

だからこそだろうか。

予想していたよりも人々の見る視線は優しく。

けれども自分達とは違うと……はっきりと区別しているような感覚を受けた。

 

「……おお。 成程のぉ。」

「納得出来たのか?」

「ああ。 集落で感じておったモノとは違い過ぎて気になってたのでな。」

「それは重畳。 ただ分かってるとは思うが、個別で動こうとするなよ?」

 

物珍しい、で済んでいると言っても裏を見れば恐ろしい内容は幾つも有る。

誘拐からの奴隷としての売却。

何かあった時の責任転嫁。

ざっと浮かぶだけでもこれだけ有る。

 

……特に弱い間はそうやって責任を押し付けられて借金、からの遊郭送りコースとか。

見目麗しい、というのはそれだけで利点であり。

同時に不利益にもなるってのを嫌って程教えてくる街でもある。

村娘ヒロインがその流れで遊郭に連れて行かれて永久離脱からのバッドエンドとか放心したし。

 

「分かっておる分かっておる。 ご主人から離れなければ良いのだろう?」

 

くすくす、と笑う声は御機嫌な証拠。

不機嫌よりは全然良いし、寧ろ今のほうが好きだし。

人を誂うような態度と、従順さと。

その辺りをこの外見でやってくるから此奴はズルいんだ。

 

「じゃ、まずは仲買のとこ行くか。」

 

勿論そんな内心を感じ取られないように注意して。

少しだけ冷たい体温を感じながら、腕を引いて進んでいく。

横に並ぶか、或いは少しだけ後ろか。

そんな位置関係を変えるつもりは無いようだった。

 

(……えーと、此処の塩は小壺一つで200(ごう)ね。)

 

通っている場所が恐らく自由市……フリーマーケットに近い通りだからだろう。

色々な商品が並べられ、中には大きな店が路上販売を行っている場所も見える。

その中で今回の目的の値段だけを確認していく。

 

(ごう)

()()()()()()()()、という一種のブラックジョークを込めて付けられた金銭単位。

説明書によれば大体元の世界で言う10円が1業に当たるらしい。

そして比較的食事は安く、住居や嗜好品が高いのはどの世界も同じ。

とは言え、場所に応じて金銭価格が変わるのもまた当然で。

 

(もう少し海に近ければ塩も安いんだろうが……。)

 

海に行くには西か東か。

十日前後掛ければ移動できる場所に海沿いの大きな街があったはずだから其処からの輸入だろう。

特に西は西洋からの輸入品を取り扱う港がある場所だ。

金に余裕が出来れば一度は足を運んで色々と仕入れたいところ。

 

「おーい、其処の嬢ちゃん坊っちゃん!」

 

そんな声を途中で幾つか掛けられて。

品物を覗いては断ってその場を立ち去り。

街中を歩くだけでもそこそこ時間を費やした後。

 

「やっと見つけた……此処か。」

 

疲弊した脚を引きずってやってきた場所。

『質屋やって(ます)』とだけ書かれた、一見普通の民家のような店。

此処が武器なんかを買い取ってくれる父上の紹介してくれた仲買。

 

「……何だか、想定していた外見と違うの。」

「ま、考えるだけ無駄だろ。 行くぞ。」

 

見上げ、視線を降ろし。

ぼそりと呟いた言葉に深く同意しながら、扉へと手を掛け。

開けようとした時――――内側からも誰かが戸を開けて。

 

「ん?」

「きゃっ。」

 

足元に躓いたのか、前傾姿勢。

避けるのも不味いと、胸元にぽすりと。

抱き抱えるような形で、受け止める羽目になった。


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