オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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025/仲買

 

受け止めたのは、俺の今の身長からみても同じくらい。

一番最初に目に入ってくるのは長い長い、陽に透けるような蒼い髪。

恐らくは切っていないのだろう、年齢は伺えないが相当に長く。

既に背中の中程から腰程まで伸ばしたままの姿。

右手には小さな袋、腰には頑丈そうな……木箱のようなものが目に入る。

黒いマントのようなものを身に着け、何処となく内向的な雰囲気。

 

「はぶ。」

 

ちょっとだけ面白い口調を漏らす。

聞こえる声は小さく、けれど何処か(りん)とした声色。

受け止めた時の感触が柔らかく、鍛えているようではなく。

何となく男ではなく女なんだろうな、と。

顔を持ち上げ――――朱い眼差しを受けるまでそんな事を思っていた。

 

「大丈夫?」

 

何かで見たようなその顔が、脳裏に引っ掛かったまま。

口調は出来る限り子供らしく装った。

ただ、その状況は傍から見れば彼女を胸で抱き抱えているモノ。

自分がどうしてそうなっているのか、気付くのに何秒か遅れたように。

その目にも負けないくらいに、真っ赤に顔を変えていく。

 

「あ、わ、わ……。」

「はい落ち着いて。 転びそうになったから支えただけ。 分かる?」

 

叫びそう……というよりは直ぐにでも駆け出していきそうな雰囲気。

落ち着かせようと、改めて現状を口にして。

感情的にも、動作的にも咄嗟の行動を防ごうとする。

特に人混みだらけのこの街で、下手に走ればトラブルに巻き込まれるだろうし。

 

「……なぁにしとるんじゃご主人。」

「何って見れば分かるだろ。 転びそうになったから助けた(?)だけ。」

 

呆れた声。 顔はどうにも見えない。

 

いや、本当なら腕を押さえるとか出来れば良かったけど。

ただ位置関係と流れから、それをするのはどうにも難しく。

更に言えば腕を掴んでいたら()()()()()()()()()()()()()()

それだけ細くも見える外観を有する相手。

ひょっとすれば、マントの内側は全然違っているのかもしれないけれど。

 

「は、は、ふぅ。 ……だ、大丈夫、です。」

 

本当に大丈夫か疑わしい声で。

けれど、少しだけ見える顔色は朱から白へと戻っていく。

本当に大丈夫かな、と思いながらに。

近場の柱を支えに自分の体勢を整えて、一礼。

 

「ご、ご迷惑……お掛け、しました。 助けてくれて、その……有難う、ございました。」

 

単語単語を区切る癖でもあるのか。

或いはどうにも()()()()()()()()()()()()()ような。

ぺこり、ともう一度頭を下げ。

その場を去っていく背中を見送りながら、ポツリと零す。

 

西洋人形(アンティーク)みたいな子だったな……。」

 

時折流れてくる西洋の出来物。

幽世の中で何故か見つかり、それなりの高値で売れる『換金品』と呼ばれる部類の道具。

そんなモノを思い出す程に細く、雰囲気もそれに似ている。

西洋の血でも流れているのか、或いは当人自体がそうなのか。

少なくとも、俺が知るヒロイン候補の中では見ない顔。

西洋系だと……固有の修道女(シスター)貴族(ノーブル)系の汎用キャラくらいだったしなぁ。

 

「……どうした? 惚れでもしたか?」

 

声は飽く迄平坦で。

ただ、受け答えに失敗すればなんだか機嫌を損ねそうな。

そんな不穏感を感じさせる空気を滲ませている白。

 

「しないよ。 ただ、目線が引っ張られる子ではあったなぁって。」

 

公言する気もないし、堂々と言えることでもないが。

どうにも性分的に一目惚れというのが苦手だったりする。

それなりに長く付き合っていくことで内面を知って……みたいなのが夢。

その点、あのゲームの恋愛の進み方は本当に好きだった。

このご時世、そんな事を言ってられる余裕なんて余り無いんだけど。

 

「むむむ……。」

「?」

 

何かを言いたそうな、それでいて言っては不味そうな。

ある種芸術的に、そんな感情が混ざった顔を浮かべていて首を捻る。

まあ、深く問うのはやめておく。

 

「取り敢えず中入るか。 このままも不味そうだし。」

 

気付けば扉は開いたまま。

本来先程の彼女が閉めるつもりだったのかもしれないが。

俺がいたのとトラブルで色々と吹き飛んでしまった。

まあ、俺自身も少し移動すれば良かったと気付いたが後の祭り。

 

「……そうだな。 時間を無駄にする程しょうもない事もない。」

 

はぁ、と息を零したのを見届けて。

先に中へと踏み込めば、内部から漂う色々な物品から漂う匂い。

そして、肌にぴりっとした感覚……恐らくは結界系。

 

(……多分盗み対策だな、これ。)

 

特定の条件……多分、商品の保有権を店が握ったままでは出られないようにする条件付き結界。

行使する能力者の腕が立つなら、人の目よりも余程確実性が高い。

……まあ、それを指先で解除できる達人には意味がないのと表裏だが。

 

(しっかし……。)

 

壁沿いに並べられた武具。

刀剣類、長柄、投擲具、弓、防具一式。

端の方に並んでみるのは瓶に入れられた薬のようだがその数は少なく見える。

恐らくほぼ全てが付与能力(エンチャント)付き。

余計な、一般の武具は投げ売りされている分を除けば溶かして材料へと変えられるはずなので。

 

うお、と俺と同じように肌で感じたのだろう。

白の言葉が店の中に響くが、奥から誰も顔を見せることもない。

どうしたものか、と思いもう一度見回せば。

会計を行うのだろう奥に、小さな鈴が一つ。

 

……鳴らせば多分来るのだろう。

早く済ませてしまおう、と。

色々と見回している白を置いて、奥へと一歩踏み出した。


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