オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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028/薬屋

 

店内も店先と似たような雰囲気。

ただ、草木の匂いが更に増し。

瓶に詰められた多量の薬に恐らく塗り薬を一回分で纏めた葉っぱの束。

それに素材そのままで並んでいたりする。

想像しやすい”魔女の工房”に近いものだった。

 

「あ。」

「…………ぁ。」

 

そして、先程聞こえた声の主。

昨日偶然に遭遇した少女がカウンターに腰掛けている。

ただ、内側は淡い蒼で染められた服装を纏って黒い外装と。

見えなかった部分が見える、という意味合いで違ったけれど。

 

「この店の子だったのか?」

「……き、昨日は……ありがとう、ございます?」

「良いよ、怪我がなくてよかった……店主はいる?」

 

こくり、と小さく頷いて。

立ち上がり、奥側……恐らくは住居と一体の構造なのだろう。

廊下のような場所へ、小さな声で『お婆ちゃん』と呼び掛けた。

……そのまま戻ってきて、また椅子へ戻る。

 

「……ちょっと、時間、掛かる、かも。」

 

そんな言葉を口にして、目線を伏せた。

……まるで、目を合わせるのが苦手なように。

 

「なぁ、ご主人よ。」

「ん?」

 

耳元で小さく呟く声。

それに応じて俺の声も小さくなる。

 

「表側から足音がするが入ってきそうにない。

 何にしろ暫くは此処で待機になりそうじゃ。」

「そうか、分かった。」

 

……入ってこないのか、来れないのか。

ひょっとすると何かしらの結界にも似た効果が張り巡らされているのやも。

あの姿と、この店と。

雰囲気を考えるに、『魔女』に親しいものを感じたから。

 

魔女(ウィッチ)

 

その名前が出るのは西洋出身のヒロインルートに入った時。

主に修道女系のイベントで出る名前だが、この場合は攻略目標として『黒魔女』。

つまり、悪意を以て人を害す魔女が敵として現れる。

色々な情報を集めて、倒す鍵があれば無事戦闘に突入。

時間制限に間に合わないか、鍵が足りなければ修道女が闇落ちして色々と酷いことになる。

割と外見も人気なタイプ(金髪碧眼貧乳清楚)だったからバッドエンドもねっとりしてた。

うん。 いつも通り悲鳴と怨嗟の声が広がってた。

 

(敵として戦っても強いんだよな……。

 見る限り多分『白』も『黒』も混じってそうだが。)

 

そして其処から派生した構築が『白魔女』『黒魔女』型。

白魔女は主に回復系列と道具・薬の調合や補助に能力を振ったタイプ。

黒魔女はその逆、相手に魔法火力を叩き出すことに特化したタイプ。

大体は極端に割り振らず、ある程度のバランスで組むのが推奨されてたわけだが。

少なくとも、この店の店主は白に重点を置いてるタイプの方らしい。

 

「どうしたんだぃ、リーフ……おや、お客さんかな?」

 

そんな事を思い出していれば、奥から嗄れた声。

()()、と床を軋ませながら歩いてくるその姿。

白、というよりは透明な髪を纏う老婆。

黒い外套は其処の少女と似たような形。

 

にも関わらず、()()()、と。

背中を襲ったのは普段通りの圧力に加え。

もっと根本的な、恐怖心を揺さぶられるような悪寒だった。

 

「……ご主人、ご主人。」

「あ、ああ。 ……失礼。

 父上から紹介されたので顔合わせと、一つ探している薬がありまして。」

 

じっ、と見られているのは分かっていても動けず。

隣で軽く手を握られたことで我に返る。

一度こほんと咳をして、目上の相手に挨拶を。

 

「……父?」

「はい。 手紙を預かっています。」

 

手紙、というにも見窄らしい紙ではあるが。

中身は筆で書かれており、内容は達筆すぎて読めなかった。

いつかは読めるようになれ、と言われたが出来るんだろうか。

 

「どぉれ。」

 

手渡した際に震えに気付かれていただろうか。

……多分、『恐怖』*1に近い何かを身に付けている。

日ノ本の生まれではない……と思う。

ぺらりぺらりと捲るそれを、緊張しながら見届ける。

 

「……ああ、あ奴の息子かぃ。」

 

ふっ、と圧力と悪寒が消える。

それだけ警戒していたということか、或いは見定めていたのか。

それを直接問い掛ける勇気は俺にはなく。

 

「あー……どのような知り合いなんですか?」

「あ奴専用の薬を調合したり、代わりの素材を調達して貰ったり。

 後は此処に住む際に保証して貰ったり……持ちつ持たれつ、と言うんだったかね?」

 

代わりに聞いたのは父との関係。

そうして返ってきた言葉でなんとなく彼女達の立ち位置を察する。

父が保証……つまり、他所から流れてきた人物ということで間違いないらしい。

 

「あたしゃ『ルイス=クライエント』。 まぁ見て分かるだろうが、流れもんさ。」

「『朔』です。 此方は俺の式の『白』。」

「どうも、ご老人。」

 

互いに挨拶。

奥の方で目線を合わせないようにしていた少女が、少しだけ顔を上げるのが見えた。

 

「……人の形を取った使い魔、というのも珍しいものだが。

 言葉を解すのもまた珍しいもんだ。」

 

じろじろ、と見つめる顔。

だが、不思議と不快感はなかった。

恐らくは研究者というか……そういった目線だったからかもしれない。

 

「そういうものなんですか?」

「そうさ。 何方かと言うならば戦力として見る場合が多いのもあるかもしれんがねぇ。」

 

そんな事を言いながら、奥へと手招きする老婆……ルイスさん。

恐らくは少女を招くためで、彼女が恐る恐る此方に近付いてくる。

 

「一応紹介しておくよ。 あたしの孫で『リーフ=クライエント』。 さ、リーフ。」

「……り、リーフです。 ……よろしく、おねがい、します?」

「うん、宜しく。」

 

……年下、なのかどうかも分からないが。

友好的な形で落ち着けそうで、ホッとした。

*1
行動が確率で失敗する精神系バッド・ステータス。


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