オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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002/選択

 

「……まあ良いか。」

 

俺の明らかな変化というか、異常さを不審に思ったようだが。

未だに一度も幽世(ダンジョン)、どころかこの里の外に出して貰えたこともない俺を疑う理由も無く。

子供特有の癇癪か何かだと思ったようで、改めて問い直してきた。

 

「もう一度聞くが、どの方向を目指すかは決めているな?」

 

その目は偽りを許さない、という強い目線。

――――正確に言うなら、目の奥の【瘴気】(みあずま)を介して見つめている。

だからこそ、俺の言葉を俺自身が必ず実行しようとする強制効果を受けてしまう。

 

【瘴気】(みあずま)

一言で言うなら主人公達が成長する要因であり、武器や防具が生み出される元であり。

妖の元であり、全ての元凶でも有る。

専らプレイヤーからすれば”経験値”とも呼称される謎エネルギー。

主に幽世を満たす成分であり。

だからこそ其処に潜らなければ成長出来ない……と定義されている。

 

今回の場合で言うなら。

【瘴気】の影響を強く得た(レベルが上の)父上は、ほぼ影響を受けていない(レベルが下の)俺に対して命じる能力を持っている。

データ的に言うなら【魔眼】と呼ばれる類の能力を以て問い掛けてきているわけだ。

 

(…………えーっと……どうするべきなんだこれ。)

 

落ち着いている自分と混乱している自分がいる。

何がどうしてこうなった、と言わんばかりのこの状況。

大真面目に何も知らない場所なら大声を上げたりなにかしたり。

傍から見れば発狂でもしたのかと思われる行動を取っていたと思う。

偶然、良く知った場面だったからこそ多少は落ち着いて受け答えが出来たと言うだけ。

 

()()()()()()()()()()を口にしてしまって良いもんなのか?)

 

そして、今考えているこの体は主人公のものでいいのか?

少なくとも遊んでいた当時の『俺』のものではない。

性別は男で固定であるものの、ある程度は外見のカスタマイズが可能だったからこそ。

水面とかで自分の外見を確認しないと色々な不安が浮かんでは渦巻いていく。

 

……ただ、何も答えないわけにも行かない。

その目線が段々と鋭く、怒りを帯びていくのが分かったから。

 

「どうした、何も考えていないのか?」

 

恐らく、このまま何も答えなければ最悪の選択肢を選んだのと同じになってしまう。

流石にそれは不味い……頭を出来る限り回転させる。

 

(……絶対に損しない形で口にしとかないと不味いな。)

 

あー……ゲームだとどうだったか。

 

「かくゆめ」の場合、ゲーム自体に職業と呼ばれる大枠が存在しない。

代わりに存在したのは5つの大枠のスキル種別とその中の山程のスキルにスキルレベル。

それに(ほぼ)有限のスキルポイントを割り振るタイプだった。

ファンたちの中で「戦士型」とか呼ばれるある程度の推奨スキル群は無論あったけど。

 

その中で、最初のこの選択肢……『最初のスキル振り分け』に関しての選択肢は確か6つ。

『花』『鳥』『風』『月』『無』『選ばない』。

最初に得る初期ポイントだけは、此処で選んだ選択肢の大分類にしか割り振れない。

そんな初期の方向性決め。

 

因みにこの中で『選ばない』という選択肢を選ぶと後で地獄を見る。

具体的には『幽世』に潜れるようになるのが年単位で遅らされる。

その上でヒロインに変なフラグが立ち、誰かしら一人が必ずバッドエンドに突っ込むことになる。

何でそうなった、とファン全員が突っ込んだことでは有るが……。

確かに説明書には『必ずスキル種別を選びましょう!』とは書いてあったんだよな。

 

閑話休題(それはともかく)

 

(後半にまで引っ張れて、且つ今時点でも確実に役立つの……っていうと。)

 

せめて読んでいた本やゲームのように。

『転生した』とか、そういったのがはっきりしていれば別だった。

ただ、今は何も分からない。

時間を稼ぐことも出来ず、悩む時間も殆どない。

 

仮に、今見ているものが夢や幻だったとして。

『俺』が何故此処にいるのか良く分からないが、俺自身も困らないように選ぶとすれば。

普段から選び慣れているものを選ぶしか無く。

 

「父上。 俺は、『月』の技術を先ず身に付けたいです。」

 

その選択肢を、口にする他無かった。


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