ほんの少しの歓談。
挨拶後に行われたそれで、幾らか緊張していた彼女の表情も解れ始めた。
「しかし朔と言ったかぃ。 お前さん幾つだぃ?」
「今年で五つ……の筈です。」
どうにも自分の中で誕生日、という概念が結び付かない。
というのも、だ。
この世界で具体的に日で管理するものとして、誕生日が設定されていないのもある。
『春の初めの月の中旬』や『夏の終わりの月の終わり』など。
幅が10日前後あるものとして捉えられているからだろう。
(実際、ゲーム内の主人公の設定画面では誕生日は季節のみの設定で残りはランダムだった)
その中で俺の産まれたのは『冬の終わりの月の初め』の頃。
暦の上の設定より二月程ズレがあるからか、前の感覚で捉えるなら師走の頭辺りか。
なのでもう少し、2~3週間もすれば齢を一つ重ねる事になっていただろう。
「それでもう幽世に?」
「はい。 父上から許可が出まして……。」
若干呆れた顔をしているのは、中をよく知るからか。
或いは父上自身に対して呆れているのか。
多分どっちもどっちだろうな。
「……大変だねぇ。」
「思ったよりも大変じゃったなぁ……。」
「あぁ、でも一人ではなかったのか。 それならまだ……?」
いや、それにしてもなぁ、と。
憐れまれているような、頑張ったと見られているような。
この世界で大人から初めて可愛がられている感覚にむずむずする。
「あ、あの……お婆ちゃん?」
だからこそ、なのか。
彼女――――リーフが会話に混ざってきた時。
そうだよな、という感情が先に立った。
「どうかしたのかぃ、リーフ?」
そして、それに対して目線をきっちり合わせて話をする。
……両親の姿が見えない、というのは恐らく
迂闊に口に出さないように注意しないと。
白は話自体というよりは周囲の薬品とかに興味が向いているようだし。
「幽世……って、私達の、呼んでた『
「ああ……。 気になるのかぃ?」
途切れ途切れ、というよりはひょっとすると癖になっているのかもしれない。
店先であった時よりも若干聞き取りづらい訛りがあり。
しかし言葉自体は早く放たれる。
そして『魔界』……ねえ。
やっぱり西洋出身……或いはそっちに縁がある一家って所か。
そんな呼び方するのは『西洋』『華陽』『日ノ本』のうち西洋だけだったはず。
「……聞いても、怒らない?」
「そうだねぇ……。 お前さんと近い歳の子がこうして行っているんだしねぇ。」
……あの。
一応俺達は例外くらいに考えて貰えると助かるんですけど。
けれど、そんな口を挟める程親しい間柄では無いので。
当然押し黙っていたけれど。
「朔、と言ったかぃ。」
「あ、はい。」
話を此方に向けられるなら対応するしか無い。
無論、相手が嫌な人物というわけではなく。
何方かと言うなら好ましい二人だから、というのがあるかもしれない。
……ヒロイン達なら多分、仲良くしたい気持ちと恐れる気持ち半々になってたと思う。
「悪いけど、この子に少し話ししてやってくれないかねぇ?」
「はぁ……それ自体は構わないんですけど。」
必需品の買い物どうするかな。
先に頼んでおかないと帰る際に受け取れないよな。
業に余裕があるわけでもないし。
店先には……まだいるんだろうか。
「……どうしたんだぃ? 百面相して。」
「……あー、とですね?」
嘘だろ。 顔に浮かんでたのか?
……でも白とかに指摘されたことないしな。
特別鋭いとか?
まあ何かあったら怖いから気をつけよう。
そんな事を思いつつの事情説明。
塩などの買い物も進めたいこと。
ただ、何か怪しい人物に追跡されていたこと。
迂闊に外に出るのも少し怖いことなどを。
「……成程。 だったら、あたしが代わりにやっとこう。
どうせ、あ奴のいつもの店だろう?」
「良いんですか?」
「あぁ……ま、今回は特別さ。 それに、
ふぇっふぇっふぇっ、と。
笑い方が格好と合いすぎて童話の魔女にしか見えない。
はは、と苦笑いで返すくらいしか出来なかったが。
(今の話で気になること…………?)
ただ、妙にその言葉が気になった。
それでも、今聞き返すわけにもいかない。
「……分かりました。 リーフ、だっけ。」
「ぁ。 は、はい。」
「俺が話すけどそれでいい?」
少しの間沈黙。
……独特の会話のリズムを持っている気がする。
怒ったりする相手なら中々相手しづらいだろうなぁ。
特に子供とかならせっかちになりがちだし。
……ああ、もしかして試されてる?
試す理由とかまるで分からんけど。
「お、おねがい、しますっ。」
「そんな頑張るようなことじゃないから大丈夫。」
そして、彼女にしては少しだけ大きな声で。
頼み込む様子に、安心していいと伝えて。
「そうだなぁ……何から聴きたい?
正直、俺自身もどう説明していいか分からなくてね。」
「だ、だったら……。 その、『幽世』のこと、を。」
「分かった。 じゃあそっちの知ってる『魔界』について教えて。
これで対等……ってことでいい?」
こくり、と頷き。
俺も頷く。
「なら、任せるよ。 ちょっと留守番も込で頼んだよぉ。」
そんな言葉を言い残し、店の戸を開くルイスさん。
内側から見える景色は――――不思議と、少しだけ
おや、と思う間もなく閉まる。
……後で聞いてみるかな。
まずは、目の前の少女の期待に応えるところからだ。