「それでだな~。」
「……ぁ。 や、やっぱり、匂いとか、も?」
その後少し。
どことなく距離を保っての話始めだったが、気付けば二人きり。
今は幽世の中での『匂い』の話をしているらしい。
実際、何とも言えない自然に混じる血の匂いが濃いんだよな。
最下級の妖の場合は其処に腐臭とか体臭が混じる。
(……まあ、考えてたって言えば考えてたが。)
ちらりと覗いたのは白の顔。
ある意味予想通りに、最初の何処か嫌厭していた表情は消え。
俺と話している時と似た、コロコロと変わる顔でリーフと雑談をしている。
…俺以外、父上以外とも話す必要性は時々考えていた。
折角話せるのだから、という理由だけではなく。
将来的な問題、つまり
(実際大体一緒に動くつもりだが……なぁ。)
例えば手分けした買い物。
例えば俺が拘束された時。
後者は考えたくもないが、何も出来ないよりは出来るけどしない方がよっぽどいい。
そして、若干ではあるが彼女自身が抱いている恐怖心に折り合いをつけてほしいから。
俺達の歳故に仕方ないことだし、立場……役割からどうしてもそうなってしまうのだが。
出会う人物達ほぼ全てが圧力を感じる――――高位の能力者達ばかり。
本来なら同年代とは言わなくても同程度の知り合いから作れればいいのだろうが。
自由に動けるようになるまでに数年を要す事もあり。
最低でも対等な立場を作っておいて欲しかった。
「……ほう。 花の匂いかや?」
「……お婆ちゃん、が、焚きしめて、くれて。」
まあ、こうして見れば必要なかったかもしれんが。
寧ろ俺が取った行動が余計だったか? とも思うレベルで。
そんな折に、
やはりその隙間から見えたのは紅色。
見間違いというわけでは当然のようになく。
ちりんちりんと鈴の音が響く。
「今戻ったよぉ。」
黒い外套を翻しながら、足腰がしっかりとした歩き方で。
けれど、顔色が少しだけ暗い。
いや、何かを訝しんでいるような。
「お婆ちゃん。 おかえり、なさい!」
「はいただいま。 お前さん等も有り難うね。」
「いえいえ、お願いしてた立場ですから。」
それに少しだけでも仲良くなれた、という気分もある。
何方かというと秘密を共有できた、に近いのか。
初めての人間の友達……というと途端に悲しくなるのは何故だろう。
「あぁ、それに関してなんだけどね……朔、今日の宿は?」
「え? 宿?」
どういうことだ?
元々今日帰ろうと思ってたわけで。
「業に余裕もないですし、元々今日帰ろうと思ってたので……。」
「そうかぃ。 ……なら、今日は泊まっていきな。」
「!?」
……どういうこと!?
俺が口を開く前に、白が先に。
「ご老婦よ。 すまぬが、きちんと説明してもらえぬか?
吾等も然程自由が許された身では無いのでな。」
「当然さ。 ……なんというかねぇ。
運が悪いことに、西の街との間に
……は!?
このタイミングで
いや確かにそういう理由で街移動が一手間掛かったり道具とかが値上がりすることはあったが!
あったけども!
「そのせいで色々な商品が滞ってるらしくてねぇ。
塩なんかも暫くはかなり値段も上がるだろうさ。 少しだけ待った方がいい。」
「うわぁ……。」
確かにそんな場所に出来たなら能力者が消滅させに動くだろう。
とはいえ、難度も階層も分からない。
時間が掛かるのは確実だな。
「ご主人、里の塩の在庫は?」
「一応二月くらいはあったはず。 三月分を下回ったら買うようにしてたはずだし。」
何方かというと問題は父上か。
どうやって連絡を付ければ良いのか検討もつかないのだが。
「安心おし。
恐らく半月もすれば正常に戻るから、それでから買いに来ればいいさ。」
「そうなると……大分無駄骨ってことになりますね。」
「ひゃっひゃっひゃっ。 人生そんなもんさ。」
どこか愉快そうにルイスさんが笑う。
まあ、二人と知り合えたという意味では無駄骨とは言い難いが。
「ま、今日はゆっくりしてきな。
こんなババアの手料理で良ければ腹いっぱい食べさせてやるからねぇ。」
頭にぽん、と手を置かれて。
奥へと一度脚を向けていく。
「……白、どうする?」
念の為、相棒へと声を掛ける。
肩を竦めながらに呟くのは、どうしようもないという意思表示。
「どうするもこうするも、こうなれば従う他あるまい?」
「……だよなぁ。 このタイミングかよ。」
……そういえば、頼もうと思ってた薬も頼んでないな。
後で時間を見つけて色々聞いてみるか。
「ぁ、あのっ。」
「ん?」
そんな折に、リーフが再び声を挙げる。
「……今日、泊まっていく……ん、ですよ、ね?」
「そうだね……というかそういう流れになっちゃった。」
だったら、と勇気を出したかのように一言。
「もっと……お話、しても?」
多分、精一杯の勇気。
「俺は別に幾らでも。 白は?」
「ま、時間つぶしにはなるじゃろーしなー。」
そんな彼女に返す言葉も、ある意味分かりきったもので。
「……良かった。」
けれど。
そんな当然の言葉に、彼女は。
儚げに、嬉しげに。
心の底からの笑みを、浮かべていた。