「此方、です。」
少しして、奥から声を掛けられて。
リーフに付き従って進んだ先は、木で作られた西洋仕立ての家の中。
その中のキッチンの隣、空いている一室を
「……吾は?」
「白さんは……その、私と同じ部屋……じゃ、駄目、ですか?」
そして当然俺と同じ部屋で眠ろうとしていた白を止めたのも彼女。
まあ俺自身は別にどっちでも良いし、彼女の自由でいいと思うのだが。
家の住人からの頼み込みには中々逆らうのも難しい。
「……ご主人?」
「今日は一緒にいてやってくれ……今日だけの話だろ?」
うぐぐ、と声を漏らしつつ。
というか何故其処まで俺の部屋で寝ようとするのかを考えないようにしつつ。
荷物を置き、久々に一人という状況。
小さく小さく息を吐く。
(ほぼ常に白がいたからなー……。)
苦手とかそういうつもりはまるでない。
と言うより、俺自身も色々と……雑というか、どう言葉にしていいのか。
ある程度生活できればそれで良い、と思ってしまう節がある。
そういった部分を補ってくれてるし、そうでない部分としても既にいない生活は考えにくい。
ただ、という相反した考え方。
口にしたら多分殴るか泣かれるな。
「さぁて……。」
久々に、というのも変な話だが。
口に出してどうするかを簡単に考える。
先ず現状、必需品を買って帰れないのは確定してる。
それ自体は手紙にでも書いて貰えばいいとして。
「やっぱり優先すべきは……薬か。」
立ち上がり、部屋を出る。
隙間風が入らず、きちんと防音がしている家って素晴らしい。
というか今更だが、あの里で冬を乗り越えられるのか心配になってきた。
父上は『大丈夫だ』とは言ってたが。
サーマルマント*1でも引っ張り出すのだろうか。
微かに鳴る音と共に歩いていけば、何かを擦るような音。
場所としては店先の二つ程手前の部屋だろうか。
近付く程に大きくなる物音、そして何かの草の香り。
その時点で、なんとなくピンと来た。
とん、とん。
一度二度戸を叩き。
「すいません、ルイスさん此処にいますか?」
そう声を掛ければ、内側から鍵を開けるような鈍い音が響く。
開いた扉の奥からは、予想していた通りに老婆の姿。
そして隙間から漏れる、想像以上の薬草の香り。
「何か用かぃ? 細かいことならリーフに言って貰いたいところなんだがねぇ。」
じろり、と眺める目。
先程までの微かな好々婆としていた雰囲気は消え。
職人としての表情を浮かべた彼女。
「いえ、家のことではなくて……。
そもそも取り扱ってるものなのか、から確認したいんですけど。」
「? それは、つまり……
「です。」
一度頷く。
無理に子供ぶるよりも、この人には等身大のまま見せたほうが良さそう。
恐らく、俺の浅知恵の幾らかは見抜いた上で会話を進めてくれているだろうから。
「……少し待ってな。 これだけ仕上げちまうからさぁ。」
そう言って、部屋の中へ案内され。
視界に映るのは、幾つもの棚を埋め尽くす薬草や鉢植え。
乾燥されているものや既に丸薬状になったもの。
何かしらの水に浮いているものさえ並んでいる。
(……店先に出てるのは、
噎せ返るほどの香り。
価値が分かるようになった今だから分かる、此処に並んでいる品々の値段。
名前からして見知らぬものも、知ってしまって真顔になるようなレア品も。
恐らく一財産……どころでなく、二財産三財産のようなものだろう。
そんな言葉が無いと分かっていても、そうとしか言いようがない。
「凄いな……。」
「価値が分かるのかぃ?」
「ぁー……はい、多少は。」
驚いた、というような声色。
ただ、その中に態とらしさが混ざっているように感じるのは俺の気の所為か。
ごりごり、と鳴る音が収まったのはそれから数分後。
「悪いねぇ、待たせた。」
両手に染み付いたのだろう、薬研から手を離し近くの皿で手を洗い。
それでも尚微かに漂う匂いの中で、ルイスさんは小さく笑う。
「それで、どんな薬を?」
「式の……白の
存在するかしないか、で言えば確実に存在する。
例えば『獣の特性を強く発する能力者』。
余りに能力を使いすぎれば引っ張られ、生の血肉を求めてしまうという病を背負うモノ。
データ的に言うならば『能力自体は強力だがデメリットを負う』種類の存在。
そういったデメリットを抑える薬は、ゲーム上にも存在していた。
デメリットを抑える代わりに、一時的にメリットを失う薬。
父上の話から考えるに――――堕ち人には効果を発揮しない薬。
それをこの人なら知らない筈がない、と確信したのはついさっき。
この部屋の種々を見た時だった。
「……あぁ、あの薬かぃ。」
「少々、種族の特徴……『魅了』が悪さしているようで。
此処に来る前にも多分一人引っ掛けてしまいました。」
だろうね、と頷いたのは。
多分つい先程老婆が目撃したからなのだろう、と察した。
互いに口には出さずに、それを前提として話を続ける。
「ま、どんどん強くなるなら必須だろうねぇ。
必要な量は?」
「取り敢えず街に出入りするのに必要なだけ……。
実際どのくらいが必要なんですかね?」
「そりゃお前さん、能力の強さにもよるよぉ。」
からからからから、笑う声。
「それで――――
なんとなく、それは試しているように思えた。
だから。
「最高強度になっても打ち消せるだけ。
用意は――――ああ、
敢えて、堂々と言い放つ。
それだけ強くなるつもりだと、暗に言い放てば。
老婆の笑みは、更に強く。
そうでなくては、と。
三日月のような口角が、更に持ち上がって見えた。