オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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034/性質

 

「お前さん、将来はどうするつもりだぃ?」

 

帰る時に持っていきな、と話が纏まり。

部屋を去ろうとした時に。

背中越しに問い掛けられたのはそんな質問だった。

 

「と、言いますと?」

 

くるりと振り返り、視線を向ければ。

いつの間にか用意されていた椅子が二つ。

何処から出したのかさえも分からない、木で作られた作り込まれた椅子。

座って話さないか、という意思表示だと察して。

話に付き合うのも悪くないかぁ、と席に座る。

 

「そのままの意味さ。 自分で気付いてるかは知らんけどねぇ。

 ()()()()()()()()()。 たまぁに()()()でも見た類だ。」

 

向こう……西洋か。

ただ、向こうでも見た?

 

「……すいません、もう少し詳しく。」

()を乗り越えていく強者の方ってことさぁ。 言わせんじゃないよ。」

 

……壁。

それは能力者としての通称の意味での『成長の壁(レベルキャップ)』でいいのか。

 

深度上昇(レベルアップ)を重ねていくと、ある程度のところで深度上昇が止まる。

経験値だけが溜まっていき、それ以上に変化が起こらなくなる。

その壁を超えるには、自身の壁……「想い」と「瘴気の蓄積」、そして「器」が必要となる。

 

強くなりたい、という壁を超えるだけの感情。

瘴気の蓄積、というその為の足掛かり。

器、という最も普遍的で最も手に入らない『人のまま変わらない』性質。

 

それらはゲームでは特定のボスを撃破だったり、撃破数・攻略幽世数で管理されていたモノ。

日数だけでは決して超えられない壁。

世界の能力者……NPCが時折漏らす情報を繋ぎ合わせることで導かれる設定。

それがそのまま、この世界の法則として適応されているのだろうか。

 

「俺が、ですか?」

「あぁ、気を悪くしないでほしいんだけどねぇ。」

 

彼奴の息子って話だし、リーフと仲良くしてくれてるようだし。

そんな言葉を口遊みながら。

 

「年寄りの助言と思って聞いてほしいが、聞くかぃ?」

「是非。」

 

返した言葉は当然に是。

余り聞ける機会の無い助言だ。

無視するような選択肢は存在しない。

 

「まぁ……一言で言っちまうなら、『異常を異常のまま受け入れる』才能……になるのかねぇ。」

「…………?」

 

異常を、異常のまま?

 

「あぁ、よく分かっていない表情だ。」

「あー……いえ、なんとなく言葉自体が持つ意味はわかります。」

 

一瞬理解まで遅れたが、なんとなく理解できる。

否定したりしない才能。

遠巻きにでも、拒否でも、阿る(おもね)でもなく。

ただ、あるがままに受け入れる性格。

……俺が?

 

「ただ、そんなつもりは全く無いんですけど。」

「そらそうさ。 自分のことが分かるのはこぉんな婆になっても難しいもんさね。」

 

かんらからから、笑う声。

……この人の事が少しだけ分かってきた。

よく笑う、よく話す、そして色々なことを知っている。

文字通りの意味で、田舎に住まう古き良き薬師……『魔女』か。

 

「だからこそ、生きるってのは面白いもんだよぉ。」

「そうですかね……?」

「そうさ。 ……まぁ、その意味も知らずにあのバカ達は先に逝っちまったがねぇ。」

 

あのバカ達。

先に。

浮かんだのは、この店で二人以外に見掛けない人物達。

本来なら存在しなければいけない――――リーフにとっての両親。

 

「まぁ、うちの孫娘もその意味を知らずに生きるのかと思ってたけどねぇ。」

 

じろり、と向けられる目線が『俺』を捉えた。

今までは何処か、肉の器としての俺を見ていて。

今は、精神としての『俺』を見られているような。

目線も雰囲気も変わらないのに、見られるものだけが変わったような感覚。

 

「だから、お前さんには言っておきたいのさ。

 この婆に言い放つくらいに勇気のある若造なんだしねぇ。」

「……何を?」

 

()()()

多分、ルイスさんが伝えておきたかったことは。

そんな直感。

 

()()()()()()()()()()()()

 だから――――何かがあったら、あの子を世界に連れて行ってやっとくれ。」

「…………は!?」

 

けれど、口から出たのは全く以て想定外の事。

自分の死を予感している、という事実と。

その先を任せる、という頼み事。

 

叫んだのは、どっちの意味に対しても。

長くない、ということにでもあり。

任せる、ということにでもある。

いや、最悪前者は分からないでもない。

ただ後者はまだ出会って2日の男に任せることか!?

父上にでも頼んでくれ!

 

「そう叫ぶんじゃぁ無いよ。 あの子に聞かれちまう。」

「いや、叫びますよ!?」

 

聞かれちゃ不味いって……知っておくのとじゃ全然違うだろ!?

心構えとか、これからのこととか。

考える時間は絶対に……。

 

「逆だよ、逆ぅ。」

「逆……?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

じっ、と見る目線が強くなった。

 

「だからまだ言えないのさぁ。 あの子が、あたし以外に頼れる誰かを見つけて。

 他の人生を見つける勇気を持てるまではねぇ。」

「いや、だからって……。」

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それは、確信を持った上で放たれた言葉。

小さく頷き、だろうと思ったと呆れた口調。

 

「多分、色々言葉も足りてないだろうし……。

 婆の懺悔もある。 聞いてってくれると助かるがねぇ。」

 

断る選択肢は――――今に至っては、無くなっていた。


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