ことり、と湯気を立てながら置かれた湯呑。
中に漂う緑と、香る匂い。
「薬湯、ですか?」
「そんなに大したものでもないさね。 喉も渇くだろうからねぇ。」
話を続けよう、と言われながら用意されたモノ。
確かに喉は(緊張もあって)乾いてきていたが、それも見通して……というのは考え過ぎか。
何方かというのなら、客に出す飲み物といった意味合いが強そうに思える。
一口含み、意外な程に口の中で花開く
「……甘いですね。」
「花から作ってるもんだからねぇ。
まぁ、この辺じゃうちくらいしか作ってないもんだけども。」
もう一口飲みながら。
しつこくない甘さを飲み干して、心の苦さを押し流す。
話の続き……こうなれば踏み込めるだけ踏み込むと覚悟を決める。
「……それで。 懺悔、と言いましたが。」
「ああ……
少しばかり、見る目が遠くなる。
見ている先は恐らく、
「あの子のカードを見たなら分かるとは思うけど、かなり特殊だろぉ?」
「まあ……はい、そうっすね。」
占いに関しての才能。
霊力の底が見えない存在。
神々が持つ権能を再現するような呪法。
そのどれを見ても霊能力者として目覚めたばかりとは思えないラインナップ。
「あれもまぁ、少しばかり特殊でね。
「……それ、少しじゃなくて全部じゃないですかね……。」
呆れる、を越えて少し震えが出てきた。
日ノ本だと『金太郎』や『かぐや姫』に類する
『本来産まれるべきところで産まれず、人とは違った能力を持つ』能力者の総称。
霊力の底が見えない……つまり、霊力を気にしたことのない存在が人として産まれた結果。
そして、だからこそ”神”と呼ばれる超高位の存在に見つかって。
祝福と言う名の固定化された呪いを受けたと彼女は言っている。
……まあ、だよなぁ。
妖/悪魔と戦ったことが有るとは言っても、一度戦った程度であの能力は流石におかしい。
最初から取得可能になっていた、というよりは
「だからこそ、あの子は狙われ続けてた。 ……って言って通じるかい?」
まあそうだよなぁ。
基本的に取り替えっ子は能力的に何かしら特異な存在。
組織にしろ個人にしろ、手元において損はないと考えるバカが大量に出てくる。
あの雑魚ラッシュ地味に面倒なんだよなぁ……。
一定ターン以内に一定数以上倒すの必須だし、失敗するとバッドエンド直行だし。
しかも態々ねっとり
「まぁ、なんとなくは。」
「やっぱりお前さん、年齢の割におかしいさね。」
そうは言われても、と苦笑いが浮かぶ。
知らなくて良いことばっかり知ってしまっているのが今の俺です、と。
そう言ったとして信じて貰えるかどうか。
知識は父上辺りから教え込まれていると考えて貰った方が楽かもなぁ。
「まぁ、西洋の……その”神”を崇めてる組織はもう追っかけては来ないだろうけどねぇ。
悪魔はどうか、ちょっとあたしでも読み切れないってところ。」
「追っかけてこない?」
何故に?
神からの加護を与えられている子なら、どんな犠牲を払ってでも奪いに来そうなもんだが。
「あの子の両親……あたしのバカ娘とその旦那が命を擲ってその糞を破壊したからだよ。」
「それは……。」
「あぁ、良い良い。 その辺は生きてた頃にあたしとバカ娘で散々やりあったからね。」
どっちが犠牲になるか。
どうやって破壊するか。
何処に逃げるか。
それを前提としなくてはならない程に組織は根を張っていた、と彼女は嗤う。
「ま、最後の最後でバカ娘がバカやらかしてね。
何故いなくなるのか、リーフ自身に知られちまったのさ。」
其処から逃げて逃げて、華陽を経て日ノ本へ流れ着き。
当時薬師を探していた父上と巡り合い、今のような感じに落ち着いたらしい。
そして、その頃には彼女は籠もる今の性格を形成しきっていたらしい。
「それが……そうさね、二年程前の話か。」
「……あの、リーフって今何歳なんです?」
「あの子? 今で……6歳になったばかりかね。」
そうだとすると、ほぼ俺と同い年。
その年齢で自我を持ち。
何故、という部分を理解していたということになる。
「だから、あの子はあたし達を世界の全てとして置いてる。
それは、と言おうとして。
それを言うのなら、彼女当人へだと思い直した。
「今は、あたしが生きていてほしいと願っているから生きている。
もしいなくなってしまえば。 あの子は生きる理由そのものを無くす。」
だから、只管に言葉を聞く。
心に刻む。
幾度も言葉を重ねても、伝わらなかったその気持を。
「そんな折に、あんた達。
……あたしが頼めることじゃないけどね。 もし万が一があれば――――。」
あの子の世界の一欠片になって欲しい、と。
それは、魔女からの言葉ではなく。
恐らくは一人の祖母からのものだと思った。
――――だから。
「リーフが望む通りに。 これで、良いですか?」
俺の本心でそう返し。
先程の、三人で話していた時のような思いを胸の中に抱きながら。
「……あぁ、今はそれでいい。」
きっと若い頃は相当に声を掛けられたんだろう。
十分に魅力的な、彼女と良く似た微笑を浮かべていた。