オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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037/夜月

 

仮に想像する。

もし、俺が彼女の立場になったら。

同じようなことを思わなかったのかどうか。

 

()()()()()()だろう。

多分、俺は自分のせいだと責め続けると思う。

ただ、同じように籠もるかと言われればそれはない。

 

それは、性質の違いで。

生まれの違いで。

考え方の違いで。

 

「リーフ。 ……それは、違う。」

 

()()()()()()()だと、そう思う。

 

「……違う、です、か?」

 

彼女の問いに、肯定でも否定でもなく。

その考え方自体を、拒絶する。

他でもない、『受け入れる性質』と言われた俺自身が。

 

「……何が?」

 

私には、分からない。

 

彼女の言葉は、純粋な疑問。

 

枠の色が安定しない。

もし、見えているものが彼女の内心だとするのなら。

これは、幽世で見えていたモノと同一なのではないだろうか。

 

「安全、なんです、よ?」

 

死なないで済むというのに。

 

一歩、詰め寄られて。

目線は、外さない。

 

あの時見えていたもの。

今見えているもの。

その差異は、何だ。

同じものは、何だ。

 

「誰も、悩まなくて……済むん、ですよ?」

 

苦しませずに済むというのに。

 

一歩、歩み寄られて。

身体は、動かさず。

少しずつ濃くなる霊力(くうき)を吸い上げ、吐き。

息を落ち着かせる。

 

今の彼女は、全てが本心ではないと判断できる。

なら、今こうして見える枠の色が寸を刻む毎に切り替わる理由は。

移り変わる理由は。

それを、求めて、求めて、求める。

()()()()()()()()()()()()()

 

「何が、違う……と?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

気付けば、眼前に彼女がいた。

その目は、何処か透明で。

何も映さないように、()()()()()()()()()()()()にも思えた。

 

――――何が違うのか。

それを追い求めれば。

自然と、思い当たる事が一つだけ。

……だから、彼女の内側の誰かに告げる。

 

これが間違っていれば、終わりだろうな、と。

もう一人の、あの背中だけの自分が呟いているように思えた。

 

それは、君だけの視点から見た『平穏』だから。

 

ぱきん、と。

心の内側の何かが罅割れ、砕けるのが分かった。

そして、何故分からなかったのか。

今見えているものの正体に、思い当たる。

 

見えているものは、隠しているもの

 

幽世であれば、隠れている実際の行動の流れと動作。

現世であれば、隠している相手の内心を。

今の俺は、文字として認識している。

 

だから多分、枠は……安定していないことの証左。

確定している事と、揺れ動いている事の差異。

 

『神』の視点と、『人』の視点の差。

 

「言ったね。 安全を知りたくないかって。」

 

きっと、それを求める人間は幾らだっている。

俺だって、本質的には――――将来的にはそれを求めている。

 

「ただ、その安全は()()()()()()()()なのかな。」

 

例えば、今『明日は危険だからこれをやめよう』と決めたとして。

その失敗で得られるはずだった知識や経験は消失する。

『安全なことだけ』を積み重ねれば、見える範疇は安全として。

 

それがその時点で確定してしまう事象なのか。

ほんの少しの蝶の羽搏き(バタフライエフェクト)で変わってしまうことなのか。

それ自体さえも、占わなければいけなくなる。

 

「飽く迄、俺の想像だけど。

 ……このまま行けば、近い将来行き詰まるよ。」

 

そして、これは確度の高い想像だ。

全てを捨て、『安全』に籠もっている今は良くても。

近い将来、『どうやっても逃れられない危険』は襲い来る。

そして、それから逃れる手段を彼女は持たない――――持っていない。

 

だから。

俺が、そう指摘してやるしかなかった。

 

ほんの少しの、空白の後。

 

――――なら、どうすれば良かったの。

 

目の色が、少しずつあの綺麗だった赤色へと戻りながら。

それでも、何かに抵抗するように残り続ける。

 

私のせいで、皆が皆死んでいく。
パパも、ママも。 お祖父ちゃんだってそうだった。
でも、()()()()()()()()()()()

 

言葉にならない、抵抗をしていると読み取れた。

……目に、微かな痛みが走り。

けれど、周囲の空気(れいりょく)がそれを癒やす。

 

誰も、私は悪くないとしか、言ってくれなかった。
責めて欲しかった。
それだけで、多分。 少しだけでも、救われたのに。

 

「……リーフ。 自分でも気付いてるんだろ?」

「……何を、です、か?」

「何も言わなかったのは、君の事を慮ってだってこと。」

 

こんな能力、要らなかった。
こんな呪い、要らなかった。
……だから。 せめて、私達だけは――――。

 

浮かぶ感傷。

今まで口に出せなかった、内心に秘め続けていた言葉。

他に漏らせなかった、彼女自身が抱えてしまった枷。

それを読み取れてしまう俺だから。

 

「それは、君の我儘で。 君が、自分から言い出せばそれで済んでいたことだ。」

 

そう、言葉で断ち切る。

 

壁を超える執念を。

抱え込んだ怨念を。

能力に対する、嫌悪を。

 

……なら。 どうすれば良かったのか……教えてよ。 ……朔くん。

 

最後に見えた言葉。

目前の、彼女の目と同じ朱。

言葉にできない、最後に頼る先として俺を求めた。

なら。

 

「ルイスさんに話して。 全てを占うのをやめて。 自分で物事を決めて。

 ……それでも、今後も生きていきたいなら。 俺と白が、助けになるよ。」

 

――――こう、言ってやるしか無い。

 

これが、どれだけの救いになるかも分からないけれど。

()()()()()()()()()()()()、と。

とさり、と倒れ込んだ彼女を胸に抱きながら。

奇妙な達成感を感じ……深く深く息を漏らした。


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