オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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038/主従

 

浅く、深く。

確かに呼吸をしているのは確認できるが、彼女は動く気配がない。

それに合わせ、周囲の空気の重さも消えて。

俺の目にも、元の――というのが正しいのかは分からないが――景色が映り出す。

 

「…………リーフ?」

 

軽く揺さぶっても気配はない。

恐らく、神降ろしかそれに近い状態だったと思われる彼女。

その代償に意識を失っているのだろう、と何となく考える。

……普段は占った後に部屋に戻り、倒れるように意識を手放していたのだろうとも。

 

(……駄目だな、こりゃ。)

 

そのまま変に動くわけにも行かず、その場に腰を下ろす。

倒れ込むようにした彼女の顔は何処か安らかで。

部屋に戻すにも筋力が足りるか分からず、目が覚めるまで待つしか無い。

 

(疲れたが……収穫はあった。)

 

俺の言葉が何処まで有効だったのかは分からない。

ただ、確実に俺自身にも何かしらの影響はあった。

 

内側に罅が入り、砕ける感覚。

確かに一歩、越えなければいけない何かを乗り越えた感覚。

もしかすると、アレは()()()()()時に感じるものだったのやも。

 

(そうなると……父上が言っていた堕ち人ってのは。

 もしかするなら、取り替えっ子に近い性質もあったのかもな。)

 

そう考えると、幾つか納得がいくこともあるのだ。

俺自身に起こったこと。

俺の家系に起こること。

『月』の、妖に近い性質と掛け合わせれば。

 

きっとその本質は。

()()()()()宿()()()()()()()()()()()()

 

妖に負ければ血に酔い溺れる。

妖に打ち勝てば、その力を存分に発揮する。

妖と同化すれば――――多分、その結果が俺だ。

 

人の形を為し、人の記憶を引き継ぎ、()()に接続する権利を得た能力者。

それが何故ゲームの記憶を持っていたのか。

何故この世界に来てしまったのか。

そんなことまでは、今の現状では分からないけれど。

 

「多分、リーフに言ってやれるのが似たような存在の俺だった……ってことかね。」

 

そんな風に、ぽつりと呟けば。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

階段側から聞き慣れた、呆れた声。

そちらに目線を向ければ、柱に腕を組みながら押し付けて。

その場で妙な表情を浮かべた白。

 

そうして腕を組んでいても、悲しいかな。

一部分は全く浮かび上がらないが。

 

「小娘が姿を消しておるし、ご主人も部屋にいない。

 何か聞こえると思えば上で密会か?」

 

……妙な、というよりは怒っている様子。

多分俺がまた声を掛けなかったからだろうけど。

 

「そういう風に見えるか?」

「見えぬ。 が、それくらい言わせろ。」

 

柱を蹴ろうとして、途中で止める。

全く、と呟きながら此方に近付いてくる。

そういう細かいところで自分を制御できるから、全面的に信用出来るんだけどなぁ。

 

「途中から見ておったからある程度は分かっている。」

 

……あの位置から?

確かに気を張り続けていたから視線には反応鈍くなっていたが。

リーフからは白見えていたはずだよな、その場合。

 

「なら声掛けてくれても良かっただろ。」

「阿呆。 この娘が落ち着いたのは()()()()()()じゃよ。」

 

愚痴を呟けば軽い蹴りを肩に浴びる。

これで勘弁しておいてやる、とはどの立場から言っているんだこの蝙蝠娘。

 

「俺だから?」

「ああ。 人だから、ではないぞ?

 ()()()()()()()()だと。 あの内側が認めていたご主人だから落ち着いたんじゃ。」

 

…………は?

いや待て、落ち着こう。

そうだ、落ち着いて聞かなければ。

 

「何でそれが分かる?」

「そりゃお主。 小娘……()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

……ふぅ。

落ち着け。

今足元で眠っているんだから起こさないように言わなくては。

 

「何でそれ黙ってるんだよ!?」

「ある程度確信したのが食事が終わった後じゃったしな。

 それに、話そうとしてもご主人が捕まらんし?

 小娘に一日付き合ってやれって言われてたし?」

 

声色は普通。

ただ、その内容と顔色がじっとりとしている。

そして半目で俺を見ている。

……うん。

 

「……ごめんなさい。」

「うむ。 吾は心が広いから許そう。」

 

頭を下げれば、若干ドヤッとした顔で見返してくる。

 

広いってなんだっけ。

多分そう言えばまた怒り出すから黙っておく。

 

「……それで?」

「単純な話よ。

 あの娘は自分に対しての自信が欠片もない。 それは話して思った事じゃろ?」

「まあ……そうだな。」

 

自分を責めて欲しかった、と。

内心でずっと抱えていたリーフ。

全てを許されて、自分のせいではなく。

代わりに家族だけが犠牲になっていく。

 

言い換えればそれは、彼女が生まれた時から負った能力と向き合う機会を奪っていた。

だから、その能力に自身の意思と存在意義を依存しきっていた。

その部分を俺は言葉で突いただけだ。

 

「それに対し、ご主人は徹頭徹尾自分しか考えておらん。

 ……いや、正確に言えば周囲も考えてはおるな。

 だが、最後は全て自分と自分の縁に殉じるじゃろ。」

 

……うん、まあ多分そうだが。

 

「なんか見透かされてると気持ち悪いな。」

「うっさい、黙って聞け。」

 

ぽ、と少しだけ頬を染める。

 

「そして、あの娘は占い故か、同類故かは知らぬが。

 ご主人自身の抱えたモノを捉えていた節があった。」

「……ひょっとして。」

 

あのタイミングで自分の能力を見せたのも、それが原因か?

そう問い掛ければ。

 

「関係ないとは言えんじゃろうな。

 ひょっとすれば反応が見たかっただけやも知れぬが。」

 

小さく頷きつつ。

 

「同類と認めた存在からの言葉だからこそ落ち着いた。

 今後は……まあ、悪い方向へは進まぬとは思うが。」

 

吾にだけ答えよ、と声を更に小さく。

耳元、息と息が届く程度の距離まで近付かれる。

 

「今がおそらく最後の機会じゃぞ。()()()()面倒を見る気かや?」

 

……まあ、そうだなぁ。

 

「約束もしちまったし。 ……なんだかんだ、お前も見捨てられないんだろ?」

「うっさいわ。」

 

多分、答えが分かっている質問。

だからこそ、そう切り返せば。

照れ隠しか、図星を突かれたのか。

背の羽根が、俺の肩を一度叩いた。

 

――――将来の仲間候補として内定だなぁ。

 


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