オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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001/三人

 

空に輝く白い月。

雲も何もなく、ただ見上げるだけならば季節外れの月見も出来たのかもしれない。

 

ただ、その場所が幽世でなく。

その周囲に血飛沫が存在せず。

身体を侵す瘴気の中で無ければ、の話だが。

 

きぃ、ぎぃと騒がしい玄室の一角。

慣れながらも、油断はせずに敵に向かって武器を構える。

 

「白! 目の前の動き潰せ!」

「応!」

 

飛び掛かった白の刃が、相手の振るう鈍器の力の向きを明後日へと振り回し。

伸ばした白い髪が、左右に振られ視界を塞ぐ。

同時に鼻先に放たれた『種族特徴』……【魅了】は生憎効果を発揮させなかったが。

 

両手に握った杖――三代目――を握り、空いた隙間に一歩踏み込む。

以前よりは踏み込む距離は大きく、深く。

それでいて周囲を見回す余裕さえもある。

 

――――キィ!

 

振り下ろされた一撃を受け、斜めに立てた杖を持って地面に逃がす。

真正面から受ければ両腕に少なからず振動が来ていただろうが。

こいつら相手であれば、二体同時までなら対処もできる。

 

以前と同じ子鬼、以前よりも遥かに多い頭数。

但しその身に宿った瘴気の濃さは明らかに上で。

瘴気深度(レベル)に関しては、昔に比べて確実に上。

 

だからこそ。

その腕力も、速度も、狡猾さも上だというのに。

 

「大体読み切ってるんだよ――――起動せよ!

 

どん、と地面を一度叩く。

地面に図形――――五芒星を象った奇妙な形が、俺達と敵を含んで持ち上がり。

()()()が、その円に縛られ硬直する。

 

二回りも三回りも強く、修練を積んだ結果。

その動きがはっきりと目で追える。

動きに対処できる。

それを読んだ上で、嵌めることだって出来てしまう。

 

1行動目
>>子鬼Dの攻撃。攻撃が0回命中。
>>子鬼Eの攻撃。攻撃が0回命中。
>>『朔』の『封縛の陣:地』。干渉成功。子鬼A~Gまでの行動停止。
>>行動待機中...

 

見えてしまう数値を確認し、誰も攻撃を受けていないのを確認。

全員が引っ掛かっているのを確かめて。

 

()()()!」

「……はい!」

 

背後にいる筈の少女に対して大きく叫び、後ろに三歩ほど距離を取る。

当然の如く、白は俺が叫ぶ一手前に飛び退っていて。

 

万が一、発動前に呪法が解けても届かない位置へ。

暴れまわるその攻撃が、被害を及ぼさないその位置で。

 

――――ズン。

 

一度、空間自体が揺れるような音が響き渡る。

 

加護を与えし神よ。 全てを司る、名すらも伝わらぬ秘されし神よ。

 

――――ズン。

 

その速度が、更に増していき。

周囲の瘴気が霊力に塗り潰され。

直上の月が、彼女の髪色の――――蒼へと塗り替えられていく。

 

()()()()()その光景。

初めに見た時は敵味方含め、全員が見上げているなんて間抜けな光景になってしまったが。

慣れてきた今では、その振動音自体が頼もしさを伝えてくる。

 

贄を捧げる。 神力(しんりょく)を以て、全てを祓うその意志を。

 

リーフの持つ『太陽神の裁き』。

超長時間詠唱、且つ火力も異常さ極まる最上位呪法の更に上。 遺失級呪法(レリック)

取得するには通常の手段ではない、幽世内の瘴気箱から見つけるしかない希少さ故に。

実際に使われている現場を確認して初めて詳細を理解した、俺自身も知らなかった呪法。

 

それを惜しげもなく使わせているのは、当人の希望が一番強いのは間違いない。

ただそれと別に、純粋に「使い慣れさせておきたい」という部隊全体の意志に基づいて。

 

どの位置なら安全なのか。

補助系列の能力を使用した場合、どれくらい時間が短縮/延長されるのか。

使用後の疲労や負担は、連続して使った場合でどの程度影響するのか。

普段は使わない奥の手だからこそ、その熟練度は可能な限り上げておく必要があった。

……ただ、こいつら程度に使う呪法じゃないんだよなぁ確実に。

 

堕ちよ神罰。 私の父と母と、始まりの存在に於いて命ず。

 

ふっ、と。

周囲に漂う風の流れが留まった。

 

……それは、これから起こる被害の中心点。

台風の目にも近い、使用者たちを護るための無風点。

 

刻め――――『太陽神の裁き:(■■■■■■■)

 

閃光。

暴風。

 

周囲に存在していた妖と、玄室の壁沿いに生えていた木々と。

それらを包み込む壁自体が刻まれ、一部分は砕け散っている。

 

死骸なんてものは何処にも見えず。

ただ、元いただろう場所に転がる瘴気の塊。

 

「……ふうっ。」

 

それを為した張本人はいつものことだと、息を吐き。

それを見ている俺達も、また別の理由(あんしんかん)から息を吐く。

 

「……なぁリーフ。

 今回はいいんだけど、次回は敵に応じて使う呪法調整の練習しような。」

 

恐る恐る、というか。

少しだけ恐怖心を感じつつそう伝える。

巻き込まれたら死ぬもん、俺達。

 

「……やっぱり、そうです?」

「あったりまえじゃろぉ!?」

 

火力馬鹿、とまでは言わないが火力偏重気味の性格が見え隠れし始めた少女。

それに対し、一番巻き込まれる可能性が高い俺の式。

そんな二人に指示を出したり、色々便利に動き回っている俺。

 

そんな三人で組み始めて。

出会って、色々あって。

幽世に潜り始めて――――三年程が過ぎようとしていた。


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