オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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006/目覚め

 

結局、彼女が起きるまでにはその後丸一日と少しを要した。

翌々日の朝、いつものように二階の部屋を覗き込んだところ。

周囲を警戒しながら見ている彼女を最初に見つけたのが俺で。

互いに目が合って、奇妙な警戒と言うか空白を空けて。

 

「起きた?」

「……此処は?」

 

そんな声を掛け合いながら。

手元で何かを探すように動く手を視界に捉える中。

ぐう、という腹から鳴る音が邪魔してしまい。

恥ずかしそうに目線を伏せる姿に気が削がれてしまった。

 

「食事取れる?」

「……多分。」

 

片方はがくりと肩を落として。

もう片方は顔を真っ赤に染めて。

布で覆われた肢体が寝床から見える中で。

 

「……一応話聞くまでは移動しないで欲しいから、仲間呼んでくる。

 悪いけど其処で待っててくれる?」

「……閑処*1だけ借りても大丈夫ですか?」

 

多分気を張っても仕方ない、と同時に思ったような気がする。

口調を緩めるのに合わせ、女性らしい(と考えるのもどうかと思うけど)口調に切り替わる。

 

案内するだけなら……とは思うが。

しなきゃいけないことを考えると――――。

 

色々と貼り付けられている肌に目線を向けて。

 

「ええっと……ちょっと仲間呼んでくる。 同性の方が良いだろ。」

 

頭を下げるのを背に受けて、下の階……二人の部屋へと向かって戸を叩く。

内側でバタバタと音がして。

若干髪を崩した状態で顔を見せたのはリーフ。

 

「……ど、どうかしました……か?」

 

幽世突入前とかで良く見る光景ではあるが。

何度見ても髪の綺麗さに目を奪われそうになる。

ただ、今は気にしてる余裕はない。

 

「上の病人が起きたんだけど……閑処に行きたいらしい。 俺が案内するのもアレだし。

 食事の準備も俺がするから任せて良い?」

「……ぁ。 起きたん、ですね?」

「そう。 薬も変えたほうが良いだろ?」

 

そうですね、と頷くのを見る。

流石に異性の着替え現場まで俺がいるわけにはいかないし。

リーフに改めて頼んでから、台所へと顔を出す。

普段の当番通りで言うなら、恐らくは……。

 

「お、ご主人?」

「ああ、いたいた。」

 

普段の呉服の上からエプロンに似た前垂れを身に着けた白。

青色に染められたそれは、普段のワンポイントに良く似た色で。

無地よりも、と彼女自身が望んだ色だった。

 

「白、準備中に悪いが少し場所借りていいか?」

 

此処に間借りする上で俺達が決めたルール。

自分達の出来る範囲……家事やら生活面は手分けして行うこと。

だから定期的に食材を買ってきては台所の片隅に置くようにして。

且つ、交代交代で食事の準備をすることにしていた。

 

昨日は俺で今日は白、明日はリーフ。 その次があればルイスさん。

大体3~4日ペースで遠征……幽世に出ることにしていたから。

俺達の順番だけで終わることも、そうでないことも半々と言ったところ。

 

「そりゃまあ、後は温めるだけじゃから構わんが……。」

 

今から完全に用意する時間もないし、恐らく重いものを口にするのも難しい。

麦粥か粥……確か冷や飯と卵の残りあったよな。

そう思いつつ、食材を纏めた場所を覗き込む。

 

「いや待て待て。 急にどうしたんじゃ。 空腹か?」

 

そんな背中を引っ張られ、心配そうな顔で見られる。

……まあ、黙っておく理由があるわけでもないから良いんだが。

 

「いや、上の……病人が起きてな。」

「ほ? あ奴が?」

「そうそう。 で、最低でも2日は何も口にしてないわけだろ?」

 

納得した、と手を離される。

改めて昨晩使った米櫃の中を確認……うん、一人分くらいはある。

 

「で、粥でも作ろうと思うんだが……なんか使えるのあるか?」

「そうじゃなぁ……。 野菜刻んだのでも入れるか?

 微量に残っていて何とも言えなかったところではある。」

 

どれどれ、と見てみれば……確かに微妙。

一人分には満たない割に使える部分として大きく切るのも難しい端じゃん。

……っていうか、昨日俺が残した部分だった。

 

「……すまん。 これ俺だ。」

「やはりか。 まぁ、全く使い道がないわけでもないから構わんが。」

 

変に捨てたら捨てたで怒るだろお前。

端の端、本来捨てる皮まで使い尽くすのが白。

若干不器用ながら、その料理に必要な分量を細かく考えその通りに作るリーフ。

ある程度大雑把な男料理になる俺。

多分、この辺も性格故だと思う。

 

「じゃあこれ使っちゃうか……。」

「なら鍋の方の準備を進めよ。 刻むのは吾がしておく。」

「分かった。 頼む。」

 

念の為軽く洗ってからだな。

簡易呪法を利用して水を用意して、と。

本来なら井戸とか川から汲んでくる必要があるが、こういう時には便利。

 

「しかし。」

「ん?」

「ご主人の主観でいいが、()()()()?」

 

一度二度水を変え、粘り気を落とす。

改めて調理に入るために瓶から水を掬って。

未だに弱火が残っている竃の火を強める。

沸騰直前まで待つ、という時になって。

背中越しに問われた、第一印象。

 

「やっぱり俺達よりは深度は下だろうな。

 ただ、呪法師じゃない。多分だが白に似てる。」

 

あの刀と、起きた直後に武器を探す真似。

武器を握り戦う剣士や侍に近いように思う。

あの筋肉の付き方からしてもそうだろうし……。

 

「ということは、前衛かや?」

「だろーな。」

 

俺は女じゃないから良く分からんが。

胸元潰さないと動きにくいんじゃないか? アレだと。

 

「信頼できるかは?」

「これから。 お前も来るだろ?」

「無論じゃ。」

 

ご主人は何だかんだ甘いからのう、と嘆かれて。

……言い返す言葉が浮かばずに、押し黙った。

*1
トイレのこと。

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