オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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004/初イベント

 

父上から受け取った呪符を使おうとする。

ええっと……確か、ゲームだとこんな感じだっけ?

最初のイベントの時だけ表示される使用モーションを思い出そうとすれば。

身体が覚えているようにその方法が浮かぶ。

 

(……うん。 やっぱこの身体の持ち主は秘蔵っ子なんだよな。)

 

『この歳で呪符を扱える』という時点で極めて高い才能を秘めているとか。

ゲームでもそんな扱いをされていた。

 

いや、正確に言えば。

俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に当たる。

父上の弟の家系が妖に襲われ、主人公を残して全滅。

他に引き取る場所もなく、妖に対抗する力を秘めていたからこそ引き取られたとか。

そんな情報が出てくるサブイベントの一つを思い出しつつ。

利き手の人差し指と中指だけを真っ直ぐに伸ばし、呪符の封を裂く。

 

剣指と呼ばれる手の形の一種。

霊力を秘めた武具と同様に扱える技術の一つで開封すれば、内側から飛び出したのは液体。

それがするすると空中を這い、四角い鏡――――水鏡の形を取る。

 

(やっぱり()()()()()()か、これ。)

 

確か「かくゆめ」でも最初に受け取るのはこの効果が有る呪符だった。

具体的な効果はと言えば、使()()()()()()()()()()()()()()()呪法(まほう)

分類で言えば『無』に当たる基礎的な物の一つ。

 

このゲーム、プレイヤーにどれだけ負担を掛けたいのか知らないが。

スキルを取得したり自分のステータス基礎値を確認する為には()()()()この呪法が()()になる。

仲間や敵の生命力(HP)霊力(MP)を確認するにしてもまた別のスキルが必要だったりと。

主人公のスキルリソースをひたすらに削る事に躍起になっている節が散見されていた。

まあ実際遊ぶ上でほぼ必須になるから取らざるを得ないスキルでは有るが。

こうして何も覚えていない子供等に身に付けさせるため、安価で(使い捨てで)販売されているだけマシか。

それらを使用すれば仲間のスキルを確認することだって出来るし。*1

 

其処に映し出された自分の姿を改めて見る。

黒髪に少しだけ混じった白髪。

蒼く染まった瞳だが、その奥は暗く沈んだような色をしていて。

以前に――――このゲームを初めて買ってプレイした時に作った外見と酷似していた。

 

(……最近は色々変えてたのに、この姿なんだな。)

 

不思議なことに。

自分のその姿を見たことで、『俺』が俺である事を飲み込めた気がする。

何故こんな状態になっているのか理由は不明だが。

自分を理解したことで落ち着いた、という感じ。

その水鏡を前に、剣指で以て五芒星の形を持ったスキル取得画面を起動する。

この画面自体はゲームでのUIに過ぎなかったはずだが……それもそのまま流用されてるんだろうか。

 

すいすいと、初期割り振り……『月』に割り振られたモノを除いて残り『3』を割り振っていく。

『月』に追加で1点、『無』に2点。

そして更に深い階層のスキル選別画面にて欲しいスキルを見つけ。

強く押し込むように、二本の指で水鏡に触れる。

途端に身体の内側を巡る奇妙な感覚が、一つの方向へと走った。

 

(……こんな感じで身体に宿るんだな。)

 

()()()()()()()()()()()()()

奇妙なものを覚えながら、取得したスキルの一覧を上から確認する。

 

【無】『写し鏡の呪法』1/1自身の内側の情報を水鏡に映し出す簡易呪法。
【無】『狩る者の眼差し』1/1任意対象の生命力・霊力・状態を確認する眼差しを得る。
【月】『式王子の呪』1/1 式を扱う才能を目覚めさせる。強さは主と同等となる。
【月】『削減の法』1/5対象の肉体を脆弱化させる呪法。【物・魔】

 

(……よし。)

 

ある時から初期の割り振りは固定化していた。

普段通りなら、最初はこれでなんとかなるはずだ。

念の為近くに転がっている石ころを幾つか確保し、遠距離武器とする。

……この時点で【鳥】とかを選んでれば素手格闘出来る分楽なんだけどな。

問題が有るとすれば、「俺」自身に戦闘の経験なんて欠片もないこと。

 

「父上。 用意できました。」

「分かった。 ならば構えよ。」

 

はい、と傍目だけは元気な声を出す。

……実際どうなるのか、全く予想はできないが。

取り敢えずこのままでいれば俺は生きることさえ難しい。

――――やれるだけやるしかないよな。

 

ぴっ、と。

呪の封が切れる音が、耳に入った。

*1
逆に言うと使わない限り仲間のスキル振りや細かい数値すら確認できないということである。


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