ガキン。
刃と刃が衝突する。
同時に、二人が共に距離を取った。
片方は飛び跳ね、もう片方は地面を滑り。
そして離れたところで刃を収め。
「……此処までじゃな。」
「此処まで、ですね。」
全く同時に、集中を解く。
始めてから数分程度の、それでいて濃密な時間。
疲労が目に見えて現れたのか。
溜息が普段に比べて長く、深い。
「お疲れ。」
「……どう、でし……た?」
完全に観客の目線で眺めていた。
前衛に特化するとこの段階の深度でも此処までやれるもんだなぁ、という感想。
まあ俺の場合は何らかの別の役割を担わせる方が好きだから戦闘特化は苦手なんだが。
「確かに若干混乱するの。 特に吾は肌感覚を頼りにしている部分もあるが……。
その感覚がブレると回避が難しい。」
そう漏らす白の左袖には一筋の切断跡。
服として構築されている、その中でも弛んでいる部分を切り裂くだけの速度と威力か。
うむむ、と集中しながら修復するのを眺めつつ、評価を少し上向きに。
「双刀の相手をするのは初めてでしたが……そうですね、動きが対妖に偏重してるかと。
もう少し頭が回る相手ですと多分……利用されますよ?」
とは言え、今回私が拮抗できたのは運が良かっただけだと伽月は漏らす。
取り敢えずで渡した女性用の和服、その背中部分が汗でびっしょりになっている。
「ただ、目で追うのは途中から諦めました。 無理です。 なんですアレ。」
「吾としてはお主のほうが理不尽なんじゃが……。」
「動きが云々言えるってことはある程度は理解したってことじゃないのか……?」
いいなー、と羨ましそうに見つめる彼女。
若干引いている白に、純粋な疑問を抱く俺。
ぱたぱたと、戦闘後に汗拭き用の布などを渡しているリーフが視界に映る中で。
「ええっとですね……私の流派は『相手の動きを見切る』事を重視してまして。
刀を起点に相手の動きの癖とかを自分なりに噛み砕いて。
それに対して合わせられるようにする事ばっかり練習してました。」
何故出来たのか、というのを噛み砕いて説明される。
うん、原理は分かる。
分かるけど……。
「それが出来るだけ恐ろしい才能だと思うんだけど俺の気のせいかなぁ……!」
常に見て対応された、って言われたほうがまだ納得できる。
法則性を導き出した?
あの短時間で?
白を見る。
彼女も俺を見ていた。
目と目で会話。
――――癖とか気付いてたか?
――――動きやすい組み合わせ自体はご主人とも連携していたであろ?
――――その程度だよな? 繰り返し使ったのは?
――――精々1~2。
だよな。
俺も見ててその程度だと思った。
頷いて返事とする。
「あのぉ……?」
「ああ、すまん。 ただ何にしろおかしいってのは意識の統一が出来たぞ。」
「目が良いのか悪いのかどっちなんじゃお主……。」
あはは、と苦笑しているリーフはさておいて。
おかしいおかしくないの話は多分平行線だと思う。
となると、一つ気になることがある。
「仮におかしくないとして、基準はどーなんだよ。」
「……基準?」
「自分一人を見ておかしくない、って言い張るのはどうなんだってこと。」
この言い方をするのは少し卑怯だとは思うが。
もし引っ掛かるのなら、過去が少しばかりは読めてしまう。
「私一番出来が悪かったんですけど!?」
「その動きが出来てか!?」
「兄弟子やら師匠……父はもっと凄かったんですよ!」
……えーっと。
師匠=父、だろうから道場か流派かは分からないがその娘、か。
兄、で区切らないってことは一番弟子はまた別にいると。
「信じたくないんじゃが……。」
「実際本当ですし……。」
「それ、見切るために能力使ってたとかって話じゃなくて、だよな?」
『見る』事に特化してるとすれば、魔眼とはまた別の……動体視力への干渉能力とかはどうだ?
俺が見知らぬ能力が存在するとすれば、あってもおかしくはないと思う。
多分単純に『鳥の目』とかの視界延長・俯瞰能力とはまた別種のだろうし。
近接戦闘時にのみ多大な効果がある、とかの前提が付くならまあ有り得るよな。
「……ちょっと、分かりません。」
「分からない?」
基本、
その反面、
何方も一長一短の側面を持つわけだ。
とは言え、感覚に干渉する能力は記憶が正しければ一律
ただ俺自身の目は変質化しているせいか、色々と濃い場所でなければ仕事しなくなってしまったが。
「師匠は私に能力を見せてくれませんでしたし……とても敵わなかったので。」
「あー……。」
まあ流派を共に学んだのなら、経験の長さの差は決定的だよなぁ。
「……まあうん、深度を上げれば十二分に働けるのは分かった。」
その分を俺達でフォローする必要はあるけど。
深度が上がったら何かしらの役割を見つけて担当して貰おう。
……武器制作とかだろうか。
「ご主人! もう一回!」
「いやなんでだよ。 疲労残してどうする。」
そうして引き上げようと思えば、白が珍しく我儘を口にする。
実際幽世に潜る時には疲労完全に抜いて欲しいんだが。
「……吾はご主人の式じゃ。 だからこそ、負けてられん。」
「…………。」
そう吐き捨てて、伽月を睨む。
彼女自身は構いませんよ、と口にして。
武器を構えて……ちらちらと此方を見つめてくる。
……はぁ。
「後一回だけな。 ……無理はするなよ。」
そう言われれば、流石に拒否出来るわけがないだろうに。
白も言い方を学んできたなぁ、と。
空を少し、見上げてしまった。