オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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014/疑問

 

幽世――――『螺旋の森』と呼ばれる、似たような光景が続く幽世。

内部の特徴は妖の種族が上がらず、個体のみが強化されている場所。

そして地図作製が非常に面倒なことで知られている。

が。

 

「……これで二部隊だよな?」

「…………他は……来てない、です、ね。」

「私が此方は見ておきますー。」

 

内部の移動先の癖を何となくでも覚えていた俺からすれば、大分楽な場所。

恐らく指導者や先導者がいる部隊なら当然知っている内容だろうけれど。

俺達のような単独だと先ず切り捨てる場所だからこそ。

殆ど他の部隊とも出会わず、連戦を繰り返すことが出来ている。

 

(玄室の度に、前の玄室から時計に置き換えて3時間進んだ角を曲がれば良し。)

 

時計回りのように進んでいけば、ある程度の場所で瘴気の影響で別の場所に繋がる。

言ってしまえば特殊な構造に対する勉強をさせる為に設けられたダンジョン。

 

(だからこそ、新しい仲間込みで来る気になったんだが……。)

 

なんというか。

他の道を確認している伽月の背中を視線で追いながら。

凛としていれば和服美人として文句なしのようなのに。

戦闘中の光景を思い出すとそんな感想が、血塗れ姿に上書きされてしまう。

 

(……()()、ってどうなんだろうな。)

 

恐らくは自分でも理解していない――――或いはある程度で意識が切り替わっている。

基本的には指示する通りに動いてくれるし、白と模擬戦を行ったことでその場の連携も取れる。

俺やリーフの呪法のタイミングが読み切れていないのはあるが、こればっかりは経験だし。

ただそれらを踏まえた上でも、時折中心に飛び込んで惨殺を繰り返す。

血を浴びる、と言うよりは()()()()()()()()()()()を目的とするように。

 

「……うむむ。」

 

複数の部隊を倒したことで瘴気箱を形取る瘴気濃度が高まり、レアな物品が出やすくなる。

但しその分箱に仕掛けられた害意……罠の難易度も上がる。

だからこそこの手を取るなら安全マージンが取れる場所でやるべき行動。

そして他の場所から集める関係上、出来るなら別の部隊がいない場所で行うべき行動。

それらを行った後の対応として、二人が苦しむのを眺めてちょっとだけ心を落ち着かせて。

 

恐らく当人の意識と周囲の意識が違っている、伽月に対して思考を巡らす。

……今日こんなことばっかりだな。

もう少し戦闘したいんだが。

 

(普通に考えて、経験値を吸い上げようと思う理由は単純だよな。)

 

自分を強くすること。

深掘りするなら、今の自分では為したいことが為せないという直感。

或いは危機感。

部隊で戦う以上、どんなに前線で戦っても手に入る経験値の量は部隊内で変わらない。

それはどんなに遠ざけても混ざり合ってしまう霊力の影響で、薄まってしまうから。

 

恐らく理性ではそれを理解し。

恐らく感情……或いは別の何かが理解できていない。

どの程度まで『師匠』から聞いているのか、それを把握する必要性は更に高まった。

 

「……とは言ってもなぁ。」

 

ついつい言葉が漏れる。

それに合わせて溜息と、問題になっている彼女へと視線が向いてしまう。

 

「大丈夫そうですねー?」

 

門番のように陣取らなくても、やってくるとしたら次の玄室へ通じる道からのみ。

まあしたいならそうさせておく、と言うだけで警戒しておくのは損はない。

変動があれば別だが、こうして()()()()()()が内部にいる以上。

そちらに注意が向き、変異化……新たな妖が生み出されることは無いはず。

 

(俺自身も色々と変な事ばっかり身に付くしな。)

 

吸って、吐く。

能力に依って変化した体質。

周囲の瘴気を自身の力に変える体質。

それは一部の能力者からすれば『悪魔に近付く』として忌避されるのだとか。

少なくとも日ノ本では聞いたことがない理由なので、西洋の方の文化なのかもしれない。

 

……まあ、元の世界でも一神教とかあったしな。

それに対して基本的には多神教をベースにした世界観設定だし、中々浸透もしないか。

ああ、そう考えてみると気にしたことなかったが中々面白い着眼点かも。

 

「ご主人ご主人。」

「んー?」

 

白の声で我に返る。

気付けば目の前で下から覗き込むように目線を合わせてきていて、慌てて一歩下がった。

 

額に掠り傷。

肩口から出血し、棘が刺さったような跡。

上からベタベタと塗られているのは恐らく塗り薬。

……棘の罠で解錠失敗したな此奴。

 

「中から何やら服が見つかったんじゃが、見てくれるか?」

「服? ……分かった、見せてくれ。」

 

これじゃ、と差し出されたのは確かに服としか言えない構造。

呉服でなく洋服の紺の上着に近いモノ。

日ノ本だと中々見ないような高級品にも見え、肌触りも滑らか。

先ず間違いなく何かしらの効果が載っている。

 

「……ええっと。」

 

『絶水の絹着』装備制限:女性価格:■■■■
効果:【水属性無効】【高級品】【布】

 

「銘有り防具……に何でか知らんが付与効果付いてるな。」

 

()()()()()()()

何でか知らんが運が上向いてきたな。

【高級品】属性だから普通に売るよりも倍近く高く売れる。

普段は麻とかそっちだろうに、態々絹で作る必要性あったのか? これ。

 

「とりあえず俺向きじゃないから3人で決めてくれ。

 水属性無効だから装備しておいて損はしない類だぞ。」

 

そう言って白へと渡し。

もう少しだけ、思考に浸る。

 

……このまま悩んでいても無駄、かな。

二人を集め、誰が着るのかをやや大きな声で相談する姿を見つつ。

はぁ、ともう一度息を吐いた。


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