オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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022/帰還

 

「ぁ~。」

 

幽世の奥から戻って三日。

出るまでに一日、其処から街に戻るまでで一日、休息と装備確認で一日。

若干強行軍じみたところはあったが、無理にでも出ないと不味そうなので強引に抜けて。

朝からばきばきと音さえも鳴りそうな身体を解しつつ。

前日に受け取っていた武具防具なんかを整理していれば、目の前に影が差す。

 

「朔、さん?」

 

あ? と思いつつ顔を見上げれば不安そうな表情の伽月。

 

「何だ、どーした?」

 

そう言いつつも手を止めることはせずに。

ええっと、鞘がついてないのはいつも通りに布で巻くとして。

今回は切れ味が鋭すぎるのが混じってないから良いものの。

……その内持ち運びに良さそうなのを()()に聞くか。

 

「あの、何処かに出るんですか?」

「何で?」

「いえ……荷物を纏めてるじゃないですか。」

 

……ああ、そりゃそうか。

そういや伽月には一切説明してないもんな。

これに関しては完全に抜け落ちてた。

 

「知り合いの店に持ち込んで買い取ってもらうからな。

 もう少ししたら出ると思う。」

 

ついさっき鐘が鳴ったし、今が巳の刻(10時頃)くらいか?

作業に集中して見ていなかったが時計を見れば、大凡予想通り。

だったら今から準備するくらいで丁度いい筈。

 

「知り合いの……?」

「そう。 あー、ただ。 今日はお前連れていけないからな?」

 

その視線が明らかに熱を帯びていたので先に断る。

ちゃんと理由はあるんだが、出来ればちゃんと紹介した後のが伝わると思うんだよな。

だから何故、という答えは伏せつつも。

 

「えっ。」

「次の機会なら構わんが、今日は駄目だ。」

 

断られると思ってなかった気がする。

目に見えて落ち込んだ表情へと移り変わる……当初のクール然とした表情は何処行った。

はぁ、と溜め息を吐きつつも作業を継続。

 

「な、なら何をしてれば良いんです?」

「いや自由でいいと思うぞ。 一人で街に出るのは流石に認められんが。」

 

流石に非常識なまま放流はさせられん。

何を仕出かすか分からなすぎる。

 

「それじゃ何も出来ないんですけど……。」

「……あー、そっか。 そういやそうだな。」

 

落ち込んだ表情を見て、俺の発言に無理があったことを思い出す。

 

昨日の時点で『布防具への付与効果の付け方』を教えた白は勿論。

リーフはいつも通り調合手順や薬草の扱いに関して学んでいるだろうし。

唯一そういった分野に手を付けてない此奴はやれることがないのか。

 

「なら家の中で鍛錬でもしててくれ。 今日だけは本当に無理。」

 

ええっと、と唯の布製の下着を鞄の奥底へ詰めれば。

その手をガッと掴まれ、自分の方を向くように引っ張ってくる。

 

「……なら、せめてその理由教えてください。」

「知りたがりすぎないか……?」

 

いや、子供っぽいと言い直したほうが正しいのか?

元々の性質がそうなのか、或いは俺がおかしすぎるだけなのか。

良くは分からないが、言わない限りは離そうとせず。

あからさまに――彼女に通じるように――息を漏らした。

 

()()()()()()()()()危険があるから。」

「え?」

「ちょっと特殊な相手でな。」

 

言葉尻一つを拾い上げる危険がある相手達。

そして、紹介せねば入れない場所に入らなければ行けない関係性。

若くなるにつれて有能度が上がり、同時に知らない相手への扱いが冷める。

今の彼女を連れ込むにはリスクが大きすぎた。

 

「普段ならある程度は織り込んでも良いんだが、ちょっと今はその少しが怖い。」

 

出立前に伽月の装備を整えたからな。

 

恐らくそれを補填して余りあるくらいに稼げたとは思うが。

たった一言漏らしただけで引っ張られてしまうことが怖い。

一応それらを甘く見てくれる相手ではあるが、一見客にはほんっとに怖い。

後契約を破る相手。

 

「だからまた今度。」

「えぇ……じゃあ何すれば良いんですか……?」

「さっき言ったろ。 訓練でもしろよ。」

 

或いは深度も上がっただろうから手慰みになる制作系能力を覚えるか。

若干突き放すような形にはなってしまったが、多分これは彼女の為。

 

周囲を警戒していた時はまた違ったが、今の彼女に見える特徴が一つある。

恐らくは生まれ育った経験からなんだとは思うんだが……。

頼れる時は誰かに頼ってしまう、というのが習慣付いてるように思える。

 

逆に言えば頼れず、自分でやらねばいけない場所。

つまりは幽世の中などで見せるあの視線は吹っ切れすぎた状態なのやもしれない。

内側に何かを抱える人間がそんなに増えて欲しくない、という俺の願望込みだが。

 

「本気でやることがないならルイスさんに聞くのでも本でも良い。

 何かしらやりたい事を見つけるのも勉強だぞ?」

「そ、そんなこと言われても……。」

 

手を振り払う。

若干強引にでもしないと多分いつまでも独立しきれない。

今はこうして『仲間』として同行しているが。

本質的には超能力者は『一人』で完結する存在なのだから。

 

同種はいても、全く同一の存在は生まれようがない。

その基本から教え込まれていない相手はやはり厄介だ。

 

「やりたいことが見つかったら言え。

 出来る範囲だったら手伝ってやる。」

 

だから、俺が彼女に今言えるのはこの程度。

早く済ませて此処から抜け出そう。

今は明らかに落ち込んで見えるが。

 

多分、またその内頼ってくる気がするから。


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