オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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本日二話目です。


023/売却

 

刃を持って薙ぎ払う。

木製の杖で弾き飛ばす。

炎弾を以て焼き浄滅する。

 

結局どの選択肢を取ったとしても、俺達に出来ることは戦闘に偏っている。

ただ、『超能力者』という可能性はそれだけで収まらないという事実を俺達は知っている。

 

(――――さて。)

 

ふぅ、と一つ息を付いて。

目の前の、看板すら掛かっていない店舗の扉を開いた。

きぃ、と普段の通りに軋む扉の音。

内側には様々な物品が立ち並ぶ、幾度も見た光景。

ふわり、と漂う空気は相変わらず甘ったるい成分を含んでいる。

 

「いる?」

 

扉が開いているし、いるのは間違いないんだが。

そんな挨拶が常態化しているのは、この店の主との奇妙な関係故だと思う。

 

予想通り張り付いて付いてきたがる伽月を無理矢理引き剥がし。

自分で考えるのが無理なら二人から色々学べ、と言い残して薬屋を出た。

その際、取り敢えず要らない付与効果付きや銘付きの装備を一式集める事は忘れず。

普段からの……以前よりは一回り程大きくなった背負袋に纏めて背負ってきた。

 

(一応武具店を冷やかしてきたが……情報足りるかね。)

 

本来顔合わせを兼ねて伽月も連れてきたかった、というのも事実。

ただ、『勝負』ともなるとタイミングが悪い。

他の二人ならまだ別なんだが、薬作りと服作りに集中して欲しいから無理だったし。

ただ紹介しない理由も無いから、何処かで機会を伺ってになるだろう。

 

「……。」

 

反応はない。

またいつも通りに寝てるのか。

昼夜逆転はやめろと散々言ってるんだが。

 

「おい。」

 

ちりんちりんと何度も店員を呼ぶ鈴を鳴らす。

そんなぶっきらぼうな話し方が許されるのも、多分に知り合いだからという面が強い。

 

「ふぁぃ……。」

 

そんな寝惚けた声が奥から聞こえ、安堵する。

荷物を足下に降ろし、腕を組みながら待てば。

ずずり、と何かを引き摺るような音と共に奥から顔を覗かせる。

 

「何方さ……ぁぁ、朔君じゃん。」

「まーた徹夜でもしたのかよ、紫雨(しう)。」

 

にへら、とした笑みを浮かべる俺達と同い年の少女。

モノクルに近い、片眼鏡を付けて名前の通りの紫の髪をした。

けれどこうして店の中にいる時は外見に一切気を使わない乱雑とした髪に、適当な服装。

唯の駄目な一般人にしか見えない彼女が、実は商才に特化した超能力者と言って誰が信じるのか。

一番酷い時で下着の上に白衣を羽織っただけ、とかいう痴女じみた格好をしていた。

あの時は泡を食った。

 

「紫苑さんとかは?」

「……姉上とかお父さんなら、()()()。」

「また仕入れか。」

 

彼女にとっての姉の名前を挙げれば少しばかり機嫌を悪くする。

これもまあいつも通り。

あの人のほうが色々と打算でやり取りできるから楽なんだけどな。

 

「じゃあお前でいいか……。」

「なぁに、その言い方。」

「眠そうだからってだけだよ。」

 

若干ごまかしを混ぜて心配心を伝えれば。

それだけで少しだけふにゃりと態度を和らげる。

 

こんなので大丈夫なのか、と時々思わなくもないが――――。

真実、この彼女は見知らぬ相手に対しては極寒のように対応を一変する。

それを避けるには、知り合いからの紹介が必須。

ただ、女性陣には妙な敵対心を持っているようでたまに威嚇している。

白を連れてくると猫と猫のようにしているから、それはそれで面白いんだけど。

 

「で、買い取りして貰いたいんだが大丈夫か?」

「……だいじょーぶ。 ボクに一任されてる。」

 

父上から紹介された商店の、更に上位に位置する店。

幾つかの店から買い取り、その店が持つ強みを生かせるように売り渡す。

自身達のみで超能力者向けの市場を形成する、若くして”株仲間(商人ギルド)”の一員。

その性質上、拠点をあちこちの街に持つ勝ち組一家の一人……の筈なんだが。

傍目から見てるだけだと疑ってしまうのは何度目だろうか。

 

「取り敢えず俺等で使わない分を一式持ってきた。

 後で新しく手に入れた一覧見せてくれ。」

「はいはい。 一応見るから貸して。」

 

ほい、と背負い袋ごと渡せば。

少し待っててね、と片眼鏡越しの眼を輝かせた。

いつも通り、何となしにそれを眺めて待つ。

 

鑑定を任せる時、或いは売却が成立した時以外で物品を引き渡すのは普通の店では先ず無い。

見ていないところで入れ替えられたりする恐れだってあるのだから、一見の店では絶対に。

ただ、俺達の場合は二つの理由からそれを簡単に行う。

一つは互いに鑑定能力を持つから。 入れ替えが起きても直ぐに気付く。

もう一つは、そんな事を互いにしないという信頼が既に結ばれているから。

 

「これ、どこで手に入れたの?」

 

いつも通り、何処か舌っ足らずな声での。

けれど真実を貫くような言葉。

 

「こないだと同じ場所。」

「うっそだぁ。 あきらかに品質上じゃん。」

「連戦が多発してなぁ。」

 

疑う、というよりは冗談めかした話し方。

それに対して返す言葉も、いつも通りに普通に。

 

「え、連戦が?」

「そうそう。 運が良かったのか悪かったのか。」

「……だいじょーぶ?」

「大丈夫じゃなきゃこうして顔見せられてねーよ。」

 

確かに、と笑う顔を見て思い出す。

 

(……あれからもう一年くらいだっけ?)

 

ふと浮かぶのは、彼女達と知り合った時のこと。

 

ほんの一年程前。

大雨の中で。

困った表情をして佇んだ彼女と、出会したのが始まりだった。


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