オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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025/交渉

 

そんなじゃれ合い(と言うには冷や汗塗れだが)を経て。

こほん、と一つ咳をして見せる。

 

話を変えたい、という意味だが……それを正しく汲み取ったように。

ただそれでも相変わらずの笑みを浮かべたままで紫雨は態勢を立て直す。

これ以上踏み込めば嫌われる、というラインを分かってやってる節が見え隠れする。

こういう所絶対勝てないと思う。

 

「それでー?」

 

分かっていて、同じ言葉を口にする。

此処からは、ある程度商人として対応するという彼女特有の癖。

 

「新しい商品入ってるんだろ?」

 

だから、態々それに乗ってやる。

そうするだけで相手の機嫌が良くなる、というのなら付き合うのも吝かじゃない。

打算混じりまくりだが、それくらいのほうが彼女としては好みらしいのはよく分からん。

 

勿論、と弾むように声を上げ。

立ち上がり、背後……大量に並んでいる棚の中からリストを探し始める。

 

「欲しいのは?」

「いつも通り……に加えてもうちょい長めの刀とかだな。 半分くらいまでは出す。」

 

今回の探索で幾つか装備品の更新は出来た。

ただ販売している中でもっと合うのがあるかもしれない。

ゲームでは『掘り出し物』として扱われる、ランダムで商品が変わるシステム。

勿論エンチャントも完全ランダムなので、金銭に余裕があるなら覗いておきたい所。

 

「刀?」

「出来れば杖優先して欲しいんだが。」

 

ぴくり、と身体の動きが止まった。

え、まさかこの程度で何か嗅ぎ付けた?

 

とりあえず俺の希望を先に伝える。

白の胴体防具と下着、後はリーフの頭防具と杖は更新できたが俺のは出来なかったし。

伽月は取り敢えず今の無銘のをメインで、霊刀をサブで持たせた。

本来メインサブが逆なんだが、折らないか凄まじく不安だったので。

なので常に二本は持たせたい。

 

「なぁに、ボクは入れないのに新しい子でもいれたー?」

 

ギギギギギ、と軋む音が聞こえてきそうな遅さで首が回る。

顔は笑ってるが眼が全く笑っていない。

多分今まで生きてきた中で五指に入る程の恐怖を感じる。

 

……彼女を部隊に入れない理由はまあ幾つかある。

 

まだ早い、というのと。

親父さんがもう少し仕込みたい、というのと。

後は彼女の姉……紫苑さんとの関係性と。

こればっかりは当人に未だ話していない秘密の内容。

だから、今変に明かす訳にも行かない。

 

「……其処までの顔する事か?」

「うん。」

 

背中にわかりやすい程の冷や汗。

 

基本的に俺を除けば家族と……後一応白とリーフ。

これらは彼女が最も危険だった時に手助けした、という前提がある。

なので認識としては最も身近な立ち位置として扱っている筈。

 

其処から一歩外れると、彼女の世界はとても狭くなってしまっている。

『敵』という認識ではないのだろうが、『身内』と『それ以外』で区分してしまっている。

どういう基準でそれを認めてるのかは知らないが。

恐らく『身内』に『見知らぬ相手』が纏わり付いてるのが気に入らないんだとは思う、が。

 

(それはそれとして苦手なんだよこういう顔されると!)

 

いっそ喜怒哀楽が分かりやすい方が対応しやすい。

対応手段がはっきりしていないからこそ、どうして良いのか分からずに混乱する。

 

「……ちょっと色々あってな。」

「色々ってー?」

 

だから、余計なことさえ言ってしまう。

そして、それを彼女は見逃すわけがない。

先程までの談笑と似た空気。

けれど決定的に何かがズレた会話が狭い空間を支配し始める。

 

話すまで逃さない、という気配。

早々に折れたほうが楽だな……どっちにしろ近々そうするつもりではいたし。

息を漏らしながら、心の中で両手を上げた。

 

「その内当人連れてくるよ……。」

「……わかった、今はそれで聞かなかったことにしてあげる。」

 

少しだけ、空気が和らぐ。

お前はどの立場からそんな事言ってるんだ……?

そんな疑問が喉まで浮かび、腹の中まで押し戻す。

 

こういう所々、白に似てる。

だから良く小動物の争いみたいなことになってるんだろうな。

一般人から見ると超能力者同士の争いとかいう厄ネタでしかないが。

 

「ただ、先にきいていい?」

「もう好きにしてくれ。」

 

これだけは絶対に聞く、と顔に書いてある。

また空気が重苦しくなるのを避けたくて、若干投げ遣りになりつつもそう返す。

 

「新しい人って朔君からさそった相手?」

「…………アレは、いや、違うなぁ……?」

 

伽月は何と言えば良いんだアレ。

放っておけない?

ある種の師弟関係?

少なくとも男女のあれそれがあるとかじゃないし。

俺から誘ったわけでも無い、よなぁ……?

拾ったのは間違いないし、彼女から言い出したんだし。

 

「大別するなら向こうからの頼みこみ、か……?」

「へんなの。」

「お前が言う!?」

 

そうだよ、と。

 

彼女が求めていた物を彼女の持っていた程度の額で売却して。

特になんでもなく、困っているからと偽って。

対応して、次に遭遇して以降。

ずっと『部隊に入れて』(おなじことば)を繰り返す彼女は。

 

既に癖となっているのか、幾度となく見た。

上げていた片眼鏡を自分の眼に当て、硝子越しの眼で俺を見詰めながら。

髪の色と似た、淡い紫色の眼で見られながら。

 

「朔君のまわりって、なんだか人が集まるよね。」

 

ボクにはあんまりいい事じゃないけど、と。

くしゃりとした笑顔で、俺に対して告げた。

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