オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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037/異変

 

店内から外へ出る。

『またね~』なんて声が背中から聞こえながら、扉を超えれば。

憎らしい程に外は雲ひとつ無いほどの晴天。

 

(そろそろ暑くなり始める時期かぁ。)

 

薬屋から出た時はそんなに感じなかったが、少し外にいれば汗ばみそうな気温。

この外気に気付かない、というのもおかしな話なので。

ひょっとすると感覚が麻痺していただけなのかもしれない。

 

(……考えすぎても仕方ない、って言われりゃそれまでなんだけどな。)

 

戦闘中の咄嗟の閃きや運に全てを賭ける……なんてことは出来ない。

世界の基準、超能力者の予め定める『自身の進む先』。

それらの積み重ねと連携、後は動き方で全てが決まる。

 

数値が見えても、それは相手に騙されないというだけの話で――――。

結局は自力こそが全て、という意味ではこの世界は弱者に只管に冷たい。

だから、結局出来ることは積み重ねる事。

 

深度を深める。

連携を深める。

仲間を増やす。

 

総数を増やし、取れる対応を増やし、予め何が起きても良いようにする。

超贅沢を言えば蘇生手段も確保したいが、あんなものは超高位でやっと叶う呪法。

或いは希少な素材を用いて作り上げる霊薬くらいなもんだ。

そう考えれば……。

 

(陣を用いた回復手段と、式の蘇生手段……最悪は白に頼る手法も持ち合わせるべき。)

 

それは分かる。

ただ、彼女を最後に残して……という手段を取れない俺自身もいる。

それでも、深度基準の壁を一つ越えたら取得できる能力なんだし優先度を上げよう。

”万が一”にばかり備えていても仕方ないが、それでも持ち合わせることに意味がある。

 

(……ま、唐突な奇襲よりは数億倍マシか。 うん。)

 

ぐぅ、と小腹が音を立てる。

何か食べてから帰るか、と。

足を街中……というよりは西寄りの入り口へと向ける。

そちらでは他の場所から持ち込まれた魚系が並ぶ店がある。

 

何となく肉系ではなく魚系の口。

端飯(魚の端だけを集めた丼飯)でも食えば腹も満ちるだろう、と。

足を向ければ――――。

 

『………………しゃ!』

『…………で来い!』

 

「……ん?」

 

なにやらザワつく声と叫び声。

そして人々が集まっている。

半数ほどが武器などを背負う……超能力者。

それを遠巻きに見つつ、何処か恐れている街の住人。

 

(なんかあったのか?)

 

見ている方角は丁度西の入口側。

そちらを警戒する理由なんてあるのか、と思いながら集団に近付き。

人々の隙間から覗き込めば。

 

『……っ!』

『おい、回復呪法師は!?』

『走って向かって来てます!』

 

肩口から大きく切り裂かれ、片腕だけになった剣士。

ぷらり、と裂かれた皮鎧が揺れている。

背中には恐らくは幽世で手に入れたのだろう、武具が見え。

それらで防がれたから即時致命に至る負傷を免れたように感じる。

 

ある程度の距離を歩いてきたのか、道々に血痕が垂れ落ちた。

普通の人であれば既に死んでいるのが明白な、半死半生の存在が座り込んでいる。

 

(いや…………は?)

 

ある程度戦ってきたから分かる。

自分なりに道筋を立ててきたから分かる。

 

あの怪我は、妖によるモノではない。

そして、幽世で受けた傷でもない。

幽世からこの街の何処かで負った、刀傷。

 

『…………! …………。』

『おい、しっかりしろ!』

 

『怖いわね、あんな怪我をさせるのがまた現れたのかしら。』

『早く何とかして貰いたいもんだね。』

 

聞こえる二種類の声色。

仲間を助けようとする超能力者。

その恩恵を受け、街で暮らす住人。

 

何方が大事とか、そういう問題ではなく。

俺は今、何方にも属していない。

それが浮き出ている――――眺めているだけの光景。

 

『…………おい! 此方だ!』

『助けが間に合ったぞ!』

 

遠くから駆け寄ってくる足音。

視線がそちらに向くのに合わせて、通り過ぎる人混みに紛れて姿を消す。

そのまま歩くペースを落としながら……少しだけ、考える。

 

(恐らく、山賊とかの強奪目的じゃない。)

 

もしそうなら、武具毎切り裂こうとは思わないはずだし。

一人でも逃せば死ぬまで――それこそ()()()()――追い回され続けることになる。

だから証人を絶対に残さないことが先ず絶対条件。

 

ついで言えば商人などを護衛してきた……というわけでもないと思う。

その場合であっても、護衛だけが逃げればその時点で街に滞在は難しくなる。

逃げろ、と命じた証拠でもなければ株仲間はそうした存在を絶対に許さない。

念の為後で親父さんにも確認はしてみるが、飽く迄念の為。

 

そうなると、最も可能性が高い目的は――――狂人。

ただ立会を、斬る事だけを求めてしまった超能力者。

堕ち人よりも更に罪深い存在。

 

(……ただ、それにしても疑問は幾つも浮かぶんだよな。)

 

何故こんな場所に唐突に現れたのか。

ゲームでもランダムで発生することがなかったとは言わない。

ただ、その場合にしても予兆……住人の会話や同業者が噂するものだった。

 

”危なそうな顔をしたやつが流れてきたらしい”。

”最近外から旅人が来ない”。

 

少なくとも親父さんとかが行ったり来たりしてる以上、予兆が一切無かったのはおかしい。

完全に同じじゃないにしろ、人である以上食事や武具防具の整備は必要になる。

今回が初めてにしろ――――。

 

「…………待てよ。」

 

考えて、考えて、考えて。

何かに指が触れ、引っ張る。

 

予兆が本当に無かったのか?

ひょっとして、俺達だけがそれを知っていたんじゃないのか?

伽月は――――何を探していた?

 

……足を、薬屋に戻す。

話をしなければいけない人物が、出てしまった。


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