「そうですね……何処から話せば良いんでしょうか。」
そんな切り口から始まった独白。
けれど、俺自身の内心は何割かは別方向へ。
彼女自身が呟いた、変貌した……という事象へ向いていた。
恐らく一族間の関係性は無いか、あっても薄いとは思う。
けれど、『それ』の有無を何処まで知るのか。
無性に父上に確認したくなった、がこれも後回しだ。
「先ず、今までに語った事は全て事実です。
ただ、一族の恥になる部分は伏せていた所もありますが。」
「……そうだな。 まず、その”恥”について教えてくれるか?」
分かりました、と頷く。
「私が育った里は……簡単に言ってしまえば、
或いは逃亡者たちが住まう隠れ里みたいなところでした。」
伽月が語る所に拠れば。
彼女の里は敗北者……つまり、『妖達との戦いに心が折れた超能力者の里』。
或いは『仲間を見捨て、逃げた超能力者達の最後の居場所』としての役割があったらしい。
前者は……まあ、そういうものだというのは分かる。
理想と現実の差に屈し、自ら幽世に潜ることを放棄する超能力者。
身体能力の低下に伴い、街などでの支援に回るのとは違う。
純粋な『心』の問題――――或いは、自身の才能と取得能力の
数値としてだけ、ではあるが俺自身にも経験はある。
それでも、後者は意味が分からない。
「……仲間を見捨ててどうするんだ?」
「どうも。 自分が死なないことを優先したんだと思いますよ?
そして……私の家系は、その逃亡者の一族でした。」
父が仲間を捨て、村へ逃げてきた。
先に住んでいた心が折れた母を強引に身籠らせ、私が産まれた。
姉は正確には義理の姉。 母の連れ子だった。
産後の肥立ちが悪く、私と引き換えに母は亡くなり。
そうして、姉の婚約者として同じ里に住んでいた兄弟子が婿入りし。
超能力者として旅立つまでの間修練を重ねていた。
淡々と語られる彼女自身の経歴。
何処か自分事ではないように感じるのは、過去という物を切り捨てているからか。
或いは、関わること事態を恥だと感じているからなのか。
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視界の画面の文面も少しだけ移り変わっている。
俺が選んだ行動が映っているだけ、という意味ではリーフの時とは違う。
ただ、これは明らかな異常だと認識し続ける必要はある。
「今になって思えば、あの男は私を切り捨てようとしていた側面もあったと思います。」
その途中から、伽月は父親のことをこう呼ぶようになっていた。
微かに残っていた情さえも切り捨てたような、そんな錯覚。
この世に留める為の糸が一本切れたような、そんな感覚。
「そして、決定的になったのは――――。」
思い出したくもない光景を思い出すように。
目の奥の炎が更に増す。
多分、俺だから何となく分かってしまう。
この炎のような、規定を踏み越えたから堕ちたのだろうと。
自身の中の妖に敗北する。
自身の中の妖に勝利する。
恐らく、その何方に傾きすぎても五体満足には居られない。
これは外部から何を言っても無理な問題で……最後の一線は自分で選ぶ必要があるのだと。
「
そして、その残滓を私と兄弟子が見てしまったこと。」
その時には既にあの男は住居から姿を消していて。
あちこちを死にもの狂いで探していた伽月は、二人でどんな話がされたのかを知らないのだと。
ただ、その結果として。
彼女にとっての姉は、兄弟子――――婚約者の手によって生命を落とし。
兄弟子は鬼へと変貌し、立ち塞がった村人を斬り伏せて父親を殺す旅に出たらしい。
「私もその直後に旅に出ました。
村の連中は私を『村を護るための戦士の母』にでもするつもりだったようですけれど。」
ああ、吐き捨てる内容には心当たりがある。
所々が明らかに狂っているけれど。
幾つかの大切な破片が欠けてしまっているけれど。
複合しすぎているけれど、その断片一つ一つのイベントには心当たりが思い浮かぶ。
(だからか、伽月の存在に全く思い当たらなかったのは。)
ランダムヒロインとして登場する中での、有り得ない形で継ぎ接ぎに構成された過去。
固有名を持つヒロインとして登場する、その中での継ぎ接ぎの最悪の結末を迎えた母や姉に対し。
ただ一人残された、名前さえも話としても語られることのない末裔。
復讐するモノとして用意された、処刑人。
彼女に用意された立ち位置は。
主人公がヒロインの末路を知った後。
主人公が自身の成長のために――――或いは手が届かずに救えなかった後。
『当然の流れ』として首謀者を抹殺する為だけに生み出される掃除屋か。
「なら、伽月が兄弟子を探していたってのは。」
「はい。 可能なら元に戻し。 無理なら……私が命脈を絶ち。
その後であの男をこの世から消す為です。」
其処までは、もうやるものとして決めているらしい。
ただ、井の中の蛙とまでは言わずとも。
実際に外などに出たことがある兄弟子には一度勝てず、その後で妖に襲撃され。
俺達に拾われた、というのが経緯だということ。
「私が立ち塞がった時……兄弟子は私を殺せたのに殺しませんでした。
一太刀で済ませただけかもしれませんが……それを、未だ残る慈悲だと信じたい。」
いや、信じたかったというのが本当ですか。
そう、彼女は呟いて口を閉ざした。
目線は、改めて。
俺を見つめ直して。
――――答えを、求めていた。
彼女をどうするのか。
俺達は、どうするのか。
その決定権を握る、俺へ。