オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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001/問題

 

見えない筈のものを見る。

 

今までに何度もあったこと。

夢でも、現実でも。

現世でも、幽世でも。

能力に依って感覚を拡張し。

それ以外は特に何も対応していない筈なのに。

 

(……いや。 全く何もしてない、ってわけでもないんだよな。)

 

俺の意識の大本。

肉体が持っていたものなのか、別の意識が塗り潰したのか。

種族的に「妖」と定義されてしまう何かの影響なのか。

それらを調べようとしても、答えなんて出ない。

ただ、ふとした時に答えを求めてしまうのは悪い癖。

 

「……遅いのう。」

 

数日が経ち。

俺の認識上ではどれだけの期間が経ったのかさえ曖昧な日にちの後。

正しく目覚め、妙な能力が『写し鏡』に映るようになって数日後。

当初の予定通りに出立出来る、ということになり。

紫雨が合流するのを待つ、朝日が昇る前。

 

「遅いって言ってもまだ余裕あるだろ。」

「少し早く来るもんじゃろぉ?」

「…………どう、なの、かな?」

 

文句を言い始める白を宥めつつの待機時間。

恐らく、普段は時間管理を厳密にしてる相手からすれば曖昧なのは逆に難しいと思う。

 

朝日が昇る頃、という曖昧な時間帯での合流予定。

正確に鐘を利用する方法がなくもなかったが、それは成人後の超能力者達も利用する方法。

変に見咎められたり声を掛けられるのは出来れば避けたかったので、この時間帯。

 

一番最初……特にそういった事を考えていなかった時期。

白とリーフの外見に釣られたのか、少しだけ年上の少年が二人を誘い出した事があって。

その時から時間帯を変えて今に至る。

 

……そういえば、あの時の奴最近見ないな。

別の場所に旅立ったのか、或いは月夜に旅立った(しんでしまった)のか。

まあ外見にだけ釣られた、良くいそうな奴だったしなぁ。

 

「あの……。」

「ん?」

「気を抜き過ぎでは……?」

 

新しい鎧と増えた刀を一本。

毎回の如く、というのもアレだが装備を更新し続ける伽月。

それだけ武具防具が見つかる、ということなのだが。

 

「逆、其処まで緊張し続ける必要もない……って言っても難しいか。」

「……緊張、というよりは考え込みすぎてしまうんですけれどね。」

 

こうして旅立つ回数が極端に少ないのが伽月。

逆に旅に出る回数が最も多いのは俺達……よりも紫雨かもしれない。

定期的に親父さんや紫苑さんと行商してた筈だし。

 

ただ、幽世に潜る回数だけなら多分俺達。

休息日程加味しても、多ければ月に4~5回だったからなぁ。

持ち帰れる量が少ない分、数を増やすしか無かったのが実情ではあるんだが。

 

「今までよりは安心感あるだろ? それでも。」

 

一人で出立した時。

信頼もなく四人で出向いた時。

そして今。

 

少しずつ人数は増し、どんな行動を取れるのかを知った。

本来なら紫雨も交えて修練を重ねたいところなんだが、そんな余裕もなく。

彼奴が何を出来るのか、を知る面々で少しずつフォローするしか無い。

 

「それは……はい。 信用してるからこそですよっ。」

 

口の端だけが小さく上がる。

 

今はこうした表情を浮かべているが、いざとなったらまた眼が落ち込むんだろうなぁ。

その根幹にはまだ対応できていないから、不安定さが見え隠れする。

それでも以前に比べれば大分マシ。

前衛として信用できるから、俺みたいな中衛でも余裕を持って対応できる場面が増える筈だ。

 

「おいご主人。」

「今度は何だよ。」

 

そんな会話をしていれば。

”不機嫌です”とばかりの態度を示して横から割ってくる白。

珍しいな此処まで長続きするの。

 

「あの雌猫じゃが、大通りで何やら捕まってるようだぞ。」

「は?」

 

白の服装……普段から着込んでいる呉服と耳が少しだけ変わっていた。

呉服の端の辺りに椿の花が咲き。

片耳には耳飾りが巻かれている。

 

『火』属性に対応した布装備を纏ったことで外見に影響が出た、というのと。

純粋に聴力に影響を与え、奇襲などへの足音に気付きやすくなる呪法道具。

前者は以前の幽世で拾った素材を使用し、後者は白向きということで振り分けた道具。

少しずつ見た目も変わっていく辺り、成長しているのが見て取れる……のだが。

 

「捕まってるってなんだよ。」

 

冷や汗が一滴、頬へと流れた。

今はそっちが問題だ。

誰に捕まる理由があるんだ今。

 

「あー……ほれ。 今唯でさえ厳重な状況じゃろ?」

「らしいな。」

 

例の人斬りのせい……と言うよりはあの被害者の状態を見たせいで、か。

色々と重苦しい雰囲気を漂わせるこの街は、特に今厳重な警備を行っている。

そのせいで色んな店も売上が悪くなっている、とか所々で聞こえてきていた。

この辺りは白やリーフのような他店とも付き合いがある相手の方が詳しいんだが。

それが?

 

「そのせいで情報を掴めている側とそうじゃないのが生まれる……のは分かるな?」

「ああ……うん。 待て、ちょっと待て。」

 

凄い嫌な予感がする。

頭を抑えながら口にするが、白は待つことをしなかった。

 

「で、どこぞの阿呆な子供が雌猫を見咎めてな? あの外見もあってな?」

「大通りの何処だ!?」

 

どっちも不味いだろ!?

紫雨を下手に傷つけでもしたら親父さんが冷静に怒り狂う。

いや理由ありきならともかくとしても、今回は明らかに言いがかりな面が目立つ。

特に()()()()()に、ってのは只管に不味い。

地雷踏みつけてるじゃねえか!

 

「此処から数分――――。」

 

気付いたら白の片手を持って走り出していた。

 

引きずられるような形の式。

取り残される二人。

 

何で出立前からこんなトラブル起きてるんだよ!

この時間帯、普通は人なんていたことねえぞ!?

 

そんな内心を抱えながら。


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