オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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006/異常

 

街から離れ、森の中に入り込む。

途中途中で背後を確認し、追跡されていないことを確かめ。

それでいて不機嫌そうな全員が離れてしまっていないことを目視しながら。

確実に、後を追われない道を選んで進んでいく。

 

「……ご主人。」

「何だ。」

「宿場町側が少し騒がしくなった。 ひょっとすると探してるやも知れぬ。」

 

そうか、と告げて更に南西へ。

全員がその頃になれば異常に気付き、表情を一変させつつ。

地上で使用できる磁石を頼りに進むこと半刻程。

 

「……流石にこの辺りなら大丈夫か?」

「念の為仮眠程度で済ませた方がいいやも知れぬな。」

 

周囲を確認し、互いに意見を交わし合い。

少しだけ開けた森の一角で、全員が腰掛けた。

 

「…………何事……です、か?」

「どうなっているんです? あの宿場町全てが罠だと?」

「……流石に、それはないかなぁ~?

 あの街は何度か利用したことはあったんだけどさぁ。」

 

事情を全て分かっていた俺と白は兎も角、他三人の精神的な消耗が酷いという理由もあって。

火を起こすかどうか少しばかり悩んだが、明かりが無いのも不味いと判断。

周囲の落ち葉や枯れ枝を使って火を起こし、湯を沸かす。

 

「で、大体何が起こってたか分かってるとは思うが……一応説明しとくぞ。」

 

ぱちぱち、と火花の音が響く中で。

本来取る予定だった食事よりも簡素な……干飯を戻した粥のようなモノを全員で取りつつ。

先程までの出来事を簡単に説明しようとして。

 

「いや、何事かは別にいい。」

「……だね。 ボクも気を抜いてたってのはあるし、助けてもらったっていうのは分かる。」

 

それを発する前に止められる。

片目を瞑って目線を向ければ、他の二人も同じ様に頷いている。

ただ、と何かを言いたそうな表情のまま。

 

誰が聞くのか、と言った様子で全員が顔を見回した後。

代表して――――なのだろうか、白が口を開いた。

 

「何故分かったのじゃ? 吾達としては、その方が余程気になる。」

「……だよな。」

 

小さく息を吐く。

一度目線を伏せてから、もう一度全員を見据えるように顔を持ち上げた。

 

「予め言っておくが、別に隠そうと思ってたわけじゃない。

 不明瞭過ぎるから何かしら分かってから説明しようと思ってたことだ。」

「…………分からない、です、か?」

「ああ。 多分一番近いのは……リーフか。」

 

私?と指を向ける彼女に頷く。

何と言えば分かるんだろうか……。

 

「こないだ、変な夢を見てな。 朝起きたら妙な能力を取得してた。」

 

細かい内容……そして俺のもう一つの思考に関しては取り敢えず伏せておく。

正直言って、それを聞いて良い気分になるとも思えなかったし。

余計な情報が多すぎれば思考が混乱して当然だ、という判断でもあった。

 

「妙な?」

「見て貰ったほうが早いな。」

 

水滴を浮かべ、『写し鏡』を展開する。

画面を全員に見えるように回転させて、そのうちの一点を指す。

上から下まで眺めようとして、途中に見える明らかに異常な存在に目が留まるのが分かった。

 

「【禁忌】……?」

「干渉……っていうのは、この能力自体が特殊ってことですか?」

「その辺が全く分からなくてな。 多少分かってから言おうと思ってたんだよ。」

 

多分だが、この【干渉:五感】は五感を拡張するという意味合いではない。

これを持つからこそ、五感で認識し何かに干渉できる……という権限的な意味合いだと思う。

まあ、それに関しては一旦置いておく。

 

「これな、夢の世界で”もしも”の出来事が見れる能力っぽいんだ。」

「”もしも”……ひょっとして、そういうことかの?」

「ああ。 あのまま俺が声を掛けなければ、って先の出来事が見えた。」

 

成程な、と唯一詳しく知る白は頷き。

 

「ええっと~……。 これ、信頼度は?」

「幾つも見た夢の中だとほぼ確実に発生してたからな。

 あの宿関係だと九割九分起こったと思って良いと思う。」

 

真逆に疑問に思い続けているらしい、紫雨が質問を投げかけてくる。

それに答えれば、なにそれ、と。

冗談めかして返答するけれど。

その眼は一切笑っていなかった。

 

「で、だ。 紫雨に白。 ちょっと相談なんだが。」

 

有り得ないことが起こっている。

今までに経験したことがないことが起きている。

それらを全員で共有しながら、更に理由を深掘りしようと声を掛ける。

 

「相談?」

「……また何か面倒事、とか~?」

 

面倒事が起こる、というよりは起きている、に近いんだがな。

リーフと伽月には火の番を任せ、少しだけ距離を取る。

 

鳥の鳴き声や虫の声が響く森の中。

月明かりが空から降り注ぐ中、他に足音が無いかを常に確認してもらいつつ。

まず、極めて当然のことを問い掛ける。

 

「当然のことを聞くようだが……こんな事普通には起きないよな?」

 

常識の摺合せ。

俺個人としては起こる可能性があることを知っている。

ただ、旅慣れている……或いはそういった人物と親しい側からすればどうか。

 

「こんな事……と言うと、どの範疇でだ?」

「そうだな……人斬り騒動からさっきの面倒事まで。」

 

先ず無いな。

先ず無いねえ。

 

異口同音に、ほぼ同時に発せられた声。

そして互いを見て、じっと睨み合う。

 

……別にいいだろ同時に言うくらい。

俺も同じように二人を睨めば、空の咳をしながらも答えを返す。

 

「起こるやも知れぬ、というのはまぁ納得できる。」

「警戒しなきゃいけない、ってのは事実だから……でも。」

 

「「()()()()()()と思うぞ」よ~?」

 

運。

少しだけ言葉を入れ替える……確率。

普通に生きていて起こらない事ばかりが起こる。

 

糸。

操られる。

自身の意志とは別物……操り人形。

操作。

 

――――つまり、そういう事なのか?

 

「……助かった。 ちょっと一晩考えさせてくれ。」

 

何となく脳裏に走る悪寒を背中に。

二人には、改めてそう告げた。


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