仮眠の交代時刻まで、只管に地面に書きながら呟き続け。
そんな俺を隣で眺めているリーフ、なんて光景が続いて暫し。
脳裏が活発になっているせいか、交代後に目を瞑っても中々に寝付けず。
漸く眠り、気付けば翌日になっていて――――少しばかり不思議なことに気がついた。
(……夢、見なかったよな?)
今までは散々見せられてきたそれ。
一切それを見なかったことに首を捻り。
そして、其処から昨晩からの答えを結びつけた。
突発的な考え。
ただ、”これ”なら全てに納得がいく。
糸の件に関してだけは伏せつつも、話の筋が通るように構築していく。
少しばかり寝たふりをしてから、欠伸混じりに起床の挨拶。
そしてすぐに用意された、人数分の皿と湯呑。
朝食は昨晩と同じような粥ではあったが、全員黙って口に運んでいた。
但し、その表情は苛立ちなどを混ぜているというわけではなく。
寧ろ周囲に目をやり、怯えているといった表現が適当なように。
(……話すなら今、か。)
昨晩の助言。
そして、今朝方の夢を見なかった理由。
それらを合わせた結果、暫くの方針を固めた。
「ちょっといいか。 少し話しておきたいことがある。」
そう告げれば、全員の視線が俺へと向く。
疑心、混乱、戸惑い、信用。
そんな幾つもの感情が容易に理解できた。
「……話、とは?」
「昨晩からの事……次いで、それに対応する方法について推測だが纏めた。」
「もう、ですか?」
疑問が出るのは当然のこと。
それを発した伽月に頷きを返し。
昨晩を知っているリーフは続きを聞こうと、珍しく前のめりになっているのが伺える。
「色々と意見を貰った結果、って形になるし直接的に解決する方法はまだ分からん。
ただ、存在しないとは思ってないから後々で自分達でも考えて欲しい。」
考えが正しければ、関係しているのは
リーフの内側にいるような何か。
俺が見る『俺』。
妖、神々、或いはそれに親しい存在。
その辺りが正解だと、俺は考えている。
「御託は良い。 それで?」
「分かってる。 対応策としては……。」
余りこれは取りたくないが。
ただ確実策でもある。
「暫くの間、人に接する機会を限りなく減らす。
少なくとも、街々とかにはほぼ踏み入らずに進めることになる。」
そう伝えながら、色々と考えたことを口にしていく。
恐らく、干渉している何かは人にのみ対応している。
そしてその手段があの糸。
それに気付いたのは今朝方夢を見なかったことと、以前の夢の差異から。
以前は幽世の中で倒れるような光景だって流れたというのに。
今……少なくとも今日中は幽世に潜る可能性がない現状は夢を見ていないこと。
そして、昨日に仲間の頭上の糸を払った事で今は見えず。
干渉する手段を今は持たない、というのが俺の想定。
「……それは、無理があるのではないか?」
怪訝そうな、けれど幾つかの理を感じてだろう。
何とも言えなそうに言葉を選び、白が呟く。
「分かってる。 だから食事やそういった部分は出来る限り手早く済ます。
ついでに夢を当てにする機会が増えるかもしれん。」
「其処の蝙蝠娘が言ってるのはそうじゃないと思うよ~?」
それに対し説明をしようとして。
紫雨が呟いた言葉に途中で止めることになった。
「どういうことだ?」
「いつまでも続けるのは無理、って話。
短期的な話は多分朔君の方法でなんとかなるとしても、ねぇ。」
……ああ、長期的な部分か。
そもそも何故こうなっているのか、という細かい部分が一切分かってないものな。
それに対して、対応する手段が今あるわけではないのが苦しいところではあるのだが。
「……少し、良いですか?」
そんな言葉で話し合いが止まってしまい。
伽月が恐る恐るに手を上げた。
全員が微かに頷くのを見た後で、口にする。
「朔様としては今回の目的……廃れた神社に出向くのを取りやめるつもりは無いのですよね?」
「そう……だな。 何にしろ、今の内に一度は出向いておきたい。」
「それは……その痕跡を辿る、というのは余程大事なことなのですか?」
焦っている様子が見て取れる。
彼女としては、兄弟子かもしれない相手のことが重要なのは分かっている。
ただ――――そうだな、どう説明するべきか。
「以前の宝珠のことは覚えてるよな?」
「はい。 ですが、それが生命と釣り合うと?」
「そうじゃなくてだな……あー、いや、そうだな。」
多分、これははっきり伝える他無いか。
ずっと昔に白と話し合ったことを活かす機会が仲間内とは、と内心で苦笑する。
「はっきり言おう。 これは以前に白から聞いていたことと夢で見てたことの複合だ。」
じっ、と……特に白を見て告げる。
最初は怪訝そうな、何を言っているのかといった表情だったが直ぐに取り繕った。
自分で昔言ったことを思い出してくれたのだと判断する。
「白さんから?」
「と言っても白も断片的にしか知らないらしい。
だから、俺も幾つか強引に結び付けた。」
探す痕跡の正体。
唯知るだけでも恐らくは危険なこと。
薄ぼんやりと告げるのが、恐らくは精一杯。
「廃れた神社に隠れ住む神職の痕跡の有無を調べる。 これが、俺の今回の目的だ。」
多分、その言葉だけでは悪い意味にしか捉えられない。
必然、仲間の内で紫雨が声を挙げた。
「……ねぇ朔君。 隠れ住む、ってそれ相応に理由あるんでしょぉ?」
「……今は知らん方がいい。
ただ、仲間に出来れば相当助かる相手だってのは事実だ。」
もしかするとその前提さえも変わっているかもしれないが。
其処までは口にせず。
「だから、存在の有無を先ず知りたい。
……これが俺の無理強いってのも分かってる。
ただ直感的に囁いてるのがもう一つあるんだ。」
この出来事を解決するには、神職の関わりが必要不可欠だ、と。
正確には、龍脈に関わる知識が必要になるだろう――――と。
そんな、不確かな直感を。
彼女達に、告げた。