モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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原作開始前~尸魂界編
PROLOGUE(1)


 ──俺はどうしてここにいる? 

 稲火狩(いなびかり)天満(てんま)が同期入隊の男に揺り動かされている際に走らせた思考はソレだった。

 思考を纏めるため、半身を起き上がらせて心配する相棒と言っても差し支えない彼を手で制し、後頭部を掻きむしる。

 月明かりの中、隊舎付近の見回りをしていた。現在は平時だが護廷の二文字を背負っている以上、そういう役割が回ってくることもある。ただ彼らは雑談をしながら歩き回る散歩と言ってもおかしくない状態だったが。

 そんな見回りの最中、天満は千鳥足を踏んだ。立ちくらみのような、目眩のような、そんな状態だったと彼も彼の隣にいた男も感じていたその目眩に平衡感覚を奪われ、廷内の塀に頭をぶつけた。そして天満はそのまま倒れ、起き上がった。

 ──()()()()()()()()()()()。彼の思考、記憶、過去に()は、大丈夫かよ天満と()()()()()()()()()()()()()()は自分の死に際を思い出していた。

 不摂生だった彼はいつものようにワンルームのアパートで仮眠に近い睡眠から目覚め、朝餉を摂ることもなくアイロンなど当てたこともないスーツを着て、滑りやすい階段を革靴で降りていた。そしてちょうど、天満と同じようにちょうど、目眩を起こし雨上がりに滑りやすかった階段を踏み外し、後頭部を打ち──痛みの中でその意識を失った。

 

「天満?」

「あ、ああ……いや、悪い業平(なりひら)、寝不足が祟ったのかもな」

「気をつけろよ?」

「ハハ──うん、気をつける」

 

 天満の意識は別のことを考えていた。正確に言えば()()()()()()()()()ではあったが、僅かに残っている稲火狩天満としての記憶の残滓、目の前の景色や業平という隊士の黒装束、全てを判断し、自身が()()()()()()()に居るということを悟った。

 パニックにならなかったのは、自分が死んだという衝撃の方が大きかったからか、前世とも呼ぶべき記憶が大きく欠落していたからなのかは彼自身にも判別はつかなかった。

 

「──死神、瀞霊廷……斬魄刀、間違いない、間違えようもないけどな」

 

『BLEACH』という単語が彼の脳裏に浮かぶ、そして自分と同じ装束の死神が戦う姿、言葉、そして敵の存在。それを彼は漫画として、あるいはアニメとして、小説として、様々な媒体でその世界を外から観察してきた。

 一人暮らしをした際、これだけはと実家から持ち出すほどに愛読していたその世界にやってきた彼は姿見を見て、ひとりごちた。

 

「モブかよ……しかも十三番隊平隊士……」

 

 彼が眺めてきた、活躍していた人物ではなくコマにも描かれない、いや描かれていたかもしれないがそれでも名前などつけられもしない一般隊士であると強く理解できた。このまま進めば良くて滅却師(クインシー)の精鋭、星十字騎士団(シュテルンリッター)に惨殺、もしくは聖兵(ゾルダー卜)に蹂躙、下手すればその辺の(ホロウ)に食われて終わりというパターンまで考えられる。どのみちまともに生き残る可能性は無に等しい。いっそ犯罪でも犯して監獄に閉じ込められた方が安全かという判断までしそうになり、はたと考え直す。

 

「今、()()()()()()()──?」

 

 記憶を辿るも天満に成り代わってしまった影響か霊術院で学んだことは思い出せても同期の顔はいまいち思い出せない。

 判断材料として使えるものを求めて、記憶の海へと没する。

 一つ、瀞霊廷を囲む壁はなかった。ならば少なくとも主人公たる黒崎一護一行の『旅禍』は突入していないと考える。

 二つ、霊術院時代の数少ない記憶に知った名前があった。そして天満が憧れた隊長が五番隊隊長藍染惣右介であること。ならば少なくとも平子真子ら後に『仮面の軍勢(ヴァイザード)』と呼ばれる八人、及び浦原喜助、握菱鉄裁、四楓院夜一は反逆者として現世にいると考えていい。

 三つ、入隊式の際に挨拶した際、副隊長が空席であること、隊長は欠席することを説明されたため志波海燕は既に死亡している。隊長はどんなに顔を見せなかろうと過去編含め全て浮竹十四郎であるため、判断材料とはならない。

 四つ、残念ながら他隊の隊長、席官との交流はないため記憶にない。辛うじて六番隊隊長が若い朽木家当主ということを覚えているが、三つの判断材料で六番隊隊長が朽木白哉であることは考えなくてもわかる。

 

「十番隊あたりだったらなぁ……」

 

 十番隊隊長志波一心が失踪するのがおそらく一番時系列が新しい大きな人事異動となるだろう。

 ならば十番隊隊長が誰か、という推理に全ての一点が絞られる。もしくは一心が失踪してから何年が経過しているのかがわかれば見通しが立つというものだ。しかしそれを修練の際も木刀を打ち合う相棒に問うても芳しい返答は得られなかった。

 

「知らんけど、なんでそんなこと気にしてるんだよ?」

「いや、ちょっと気になって眠れなくてさ」

「繊細なやつだな、お前は」

 

 気になっていたものの、幾日経っても情報が得られないため、まぁいずれ機は訪れるだろうと頭を切り替えることにした。流石に隊長が失踪するならばこっちにも騒ぎとして耳に届くだろう。ましてや失踪するはずの隊長は没落したうえ分家筋とはいえ五大貴族の一角だ。風の噂のように耳に入ってくるだろうと安穏と過ごしていた。

 ──そうして一年が経過し、死神としての生活にも慣れ始めた頃、彼の、天満としての転機が訪れる。

 

「うまぁ!」

 

 休暇をもらい流魂街第一地区「潤林安」には貴族街である瀞霊廷とは違い、庶民的な食べ物が多くある。もちろん瀞霊廷にもないことはないのだが、やはり貴族街というのは転生する前も只の一般人だった自分には格式高く感じてしまうのだった。

 そこで天満、元の彼が好物であった干し芋を見つけ咀嚼すると思った以上に舌に馴染むと機嫌よく、そちらに夢中になっていた時だった。

 

「──うまそうなもん食うとるやん」

「……あ、えっと市丸隊長、えでも()()()()()()?」

「……へぇ、そんならボク食べられへんわぁ」

 

 でしょうね、と納得顔で突如姿を現した隊長相手に、緩みきった天満はふと気になって、それでも情報が来なかったものを口走った。

 迂闊といえばそれまで。だが幸運だったのはそれが藍染でも九番隊隊長東仙要でもなく、三番隊隊長市丸ギンであったことだろうか。

 

「今の十番隊隊長って誰です?」

「なんや、気になるん?」

「え? あーいや、なんとなく」

「──()()隊長サンは志波一心隊長や」

「あざます、あ、それじゃあ、失礼しました」

「ええよ……キミ、面白い子やし」

「……ん?」

 

 そこでようやく、自分はとんでもないミスをやらかしたのではと冷静になる。既に致命的なほどにやらかしているのだが、彼が気づいたのはよりによって話した隊長が旅禍騒動の際に虚圏(ウェコムンド)へ行ってしまう裏切り者の隊長三人のうちの一人であり、志波一心の失踪の直接の原因に関わってるということだけだった。

 ──機を待てなかったが故の失敗、待っていればいずれは十番隊隊長失踪の報が彼の耳にも届いただろうのに、彼は決断を焦ってしまった。それが、彼の歯車を大きく動かしてしまうものだとは彼自身もまだ気づかぬまま。

 

「──ここは、俺の心象風景……だよな、確か」

 

 その晩、天満は眠りに誘われた次の瞬間には孤独な温泉街に立っていた。夜に行灯の灯りが暖かく、星々が静かに冷たく瞬く静かで賑やかな世界にやってきた。自身専用の浅打を手に入れて最初の晩以来、見ていたような見ていなかったような、そんな懐かしいような新しい心象風景の中央に湯けむりのような、雲のような人型の何かが姿を現した。

 

『お待ちしておりました──』

「あなたは……」

『そしてお目覚めになりましたか』

「……それは()()()()()に対して言ってるんだ?」

『何方も何も、あなた様はあなた様です』

「そう、そうか……」

 

 目の前の不定形の煙のような存在、物腰丁寧なそれがなんなのかは彼には考えずとも理解していた。

 ──これは俺自身である。稲火狩天満の魂の写し身、斬魄刀、それが今自身に話しかけていた。

 

「名前は……聴ける、のか?」

『それはわかりません』

「だよな」

『……覚悟は、お決まりなのですね』

「どうなんだろうな。こうやって一年二年過ごしてさ、天満、俺として生きていく覚悟は決まったけど、それはまだ()()だろ?」

『多分は』

「おいおい」

 

 随分曖昧だ、と感じていると煙はふふふ、と笑ったように揺らめいた。アニメオリジナルにあったようなしっかりした人型でもない、おそらく推定不定形の名前を識るためには前世、おそらく前世でいいのだろう自分ではなく天満として生きる覚悟、そしてもう一つ、ここから巻き起こる戦乱を、三界全てを揺るがす程の大事件に対して覚悟を決めて刀を振るう覚悟、生きる覚悟というよりも死ぬ覚悟を決めるというものだった。

 

「……多分、いやわかんないけどさ。俺が何もしなきゃ、きっとお前の名前も知らずに死ぬ。よしんば生きてたとしてもきっと、俺は逃げ惑っていて、何も成してない。世界を救うための刀には成れてない」

『でしょうね』

「また曖昧……もういいや、俺だって割とおおざっぱなとこあるし」

『あなたは繊細でありざっくばらん、でしょう?』

「なんかムカつく言い方だな──まぁそれは俺だからしょうがないのか」

 

 正直に言えば、目の前の存在がなんであるかをわかりつつ、嫌悪感が多少は湧き上がっていた。同族嫌悪、写し鏡でありもう一人の自分とも言うべき斬魄刀の性格は、なんであれ鬱陶しく映るものだろう。

 湯気のように、手を伸ばせば形が崩れてしまうほど繊細であり、雲のように曖昧で姿が決まらない。そんな二つの自分が内在しているということを見つめ直した彼は、天満は、彼女、口調などからおそらくの性別を勝手に決めた──彼女の前に手を出した。

 

「生き残るためならなんだってする。このむちゃくちゃ大変な世界で、危ない凶器を振るってでも、俺は──この世界で生きて死ぬ」

『嗚呼、あなたの運命はまさに星の巡り、あなたが星を引き寄せる』

「……大言すぎるだろ。俺は一般隊士、せいぜいチャドに吹き飛ばされ、聖兵に踏み潰される憐れで儚い煙だよ」

『そんな運命は弾き出せばいいのです、そうしてあなたの運命を──我が、()()()の名を!』

「わかったよ──■■■■」

 

 煙は風に靡くように集まり、彼の手の中に収まっていく。

 そんな現象の中で天満は三つの斬魄刀を思い出していた。

 京楽春水が持つ花天狂骨、元は一本の刀だったものを神剣・八鏡剣を隠すために二つに別けた。

 浮竹十四郎が持つ双魚理、ミミハギ様と呼ばれる霊王の右腕を肺に宿らせたことで魂が二つ身体に宿っている。

 黒崎一護の斬月、父から受け継いだ死神のチカラと母から受け継いだ虚と滅却師のチカラを刀と鞘として二刀持っていた。

 そして自身もまた、流魂街で生まれ、両親のためと霊術院に入り、そして見事死神として仲間入りを果たした天満とは別に、この世界を漫画として俯瞰し、楽しみ、そして迂闊さで命を落とした自分がいる。その予感は的中し、彼の手には二振りの斬魄刀が握られているのだった。

 

「まったく……平隊士の斬魄刀のクセに無駄にカッコいい名前になってくれちゃってよ」

 

 焔と立ち上る煙のような峰を持つ長刀、そして雷雲のような紋を持つ小太刀。

 ──それが生まれ変わった稲火狩天満の持つ二刀一対の斬魄刀だった。

 

 

 

 





とりあえず設定だけだともったいなくて書きたかっただけ。続きはないです。
初めてBLEACH書いたのでおそらく変だと思いますが、よければ素直な感想くれると今後の参考になりますので、どうかよろしくおねがいします。

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