モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
PRELUDE(1) −DETERMINATION−
死神としての、稲火狩天満としての記憶も、前世とも呼ぶべき『BLEACH』を心から愛していた男としての記憶も、どちらも所持しているものの、やはり死神として長い間過ごしてきたせいか、義骸に入って歩く現世というものがこれほどまでに新鮮さに溢れてるのかと、天満は感動していた。
「何組だっけ?」
「よっと……1−3ですね」
「松本に任せてたら間違いなく失くしてたから助かるぜ」
「いいじゃない別に、にしても随分着慣れてるわね〜天満」
「よくはないッスけどね……つかお前、そのまま高校生でもバレなさそうだな」
「阿散井副隊長は……刺青でもう台無しですね」
「んだと!?」
「にしても窮屈な服だな」
「僕達みたいにスソ出せばいいんだよ」
「木刀差せねぇだろうが! 大体真剣がダメっつうから木刀で我慢してやってるんだよ!」
「ウルセーぞお前ら!」
廊下を歩くだけでも懐かしさと新鮮さが入り交じる。死神として現世駐在任務はありはしたが一ヶ月という短期の上、義骸は使わないこともあり、それが新鮮さを。そしてまだ厨二病真っ盛りの頃にこの前後くらいの展開を友人と語り合った頃の記憶が懐かしさと感慨を生み出していた。
「おーっす、元気か一護!」
「恋次、一角、弓親! 乱菊さんに天満さん! 冬獅郎!」
「日番谷隊長だ」
天満は横でこそっとあんたさん付けなのねと乱菊に言われ年上っぽいからじゃないですかねと返す。日番谷がチラリと見上げたような気がしたが気の所為だろうと目を逸し、そして何故か窓から登場するという奇行に出たルキアに一護は驚きの表情をする。
やはり長い時間で義骸に入り続けた結果か、彼女が一番、器子の身体に慣れ親しんでいるようにも感じた。
そのせいか、彼女は華麗な飛び蹴りからの往復ビンタをかまし、腑抜けた面をした一護の霊体を引っ張っていった。
──何故か本来恋次がやるはずだった肉体を持たされる役割を天満が担っていたが。
「やっぱりこうなったわね」
「そうッスね、まったく世話の焼ける」
「……阿散井副隊長、いりますこれ?」
「いらねぇよ」
「まぁあんな腑抜けたツラ見せられたらああしたくもなるだろうぜ」
騒がしい面々と一緒にいるのも楽しい。日番谷が順調に胃痛の種を増やしてはいるが。その後もひと悶着あった後、彼らはクロサキ医院へと向かうことになる。
その途中で、日番谷と乱菊が少しだけ反応をする。この時点で
「隊長と天満は行かないの?」
「誰が行くか」
「周囲の見回りとかしていますよ、俺まで行ったら狭いでしょうから」
「マメねぇ」
屋根裏から黒崎家へと突入を図ったタイミングで日番谷は大きなため息を吐き、ゆっくりと天満と向き合った。
その顔からは天満が自分と同じことに気づいていることを確かめようとしており、天満は少し迷った後に何かを言われる前にゆっくりと頷いた。
「じゃあ、黒崎は」
「ええ、ご子息だと思います」
「……そうだったのか、だからアイツは朽木に貫かれても死神の力を失わなかったのか」
「そう考えるのが自然かと」
「お前、ウチに立ってると目立つだろ」
「──っ!」
それは、天満がいることによる変化なのかそれとも気まぐれなのか、そこには大柄でTシャツにズボンというラフな格好をした男が笑みを湛えて立っていた。
本来はあるはずのなかった邂逅、志波一心……現在は黒崎一心との顔合わせに天満は驚き、日番谷は様々な感情を見せていた。
「……本当に、志波、隊長なのか……?」
「よう冬獅郎、それに」
「十三番隊の稲火狩天満です」
「ああ、あれだな、三人目の二刀一対の」
「どうしてあんたが現世に……!」
「藍染と、ちょっと色々あってドジっちまってな」
──そこまで聞いて、天満は素早くその場を離れる。二人の会話に耳を立てるのも野暮だ。積もる話もあるだろうと、だから彼は医院の屋根に登り、空を見上げた。
今日は一護に破面のおおまかな説明と大虚の説明、そして、彼が空を見上げている理由は今日が六体の破面がやってくるからであった。襲撃は夜、その時に何をするかを考えた結果、彼は阿散井恋次と共に浦原商店へと向かうことにしていた。
「お前も浦原さんに用があんのか」
「ええまぁ、個人的な興味ですけど」
「研究者志望か?」
「そうじゃなくて……アウトローな話にちょっと」
研究対象として薬物漬けになる気はないため涅マユリにこのことを明かすつもりは毛頭なかったが、浦原には少しだけ伝えてもいいかもしれないと考えていた。自分に二つの人生の記憶がありそれによって二刀一対の斬魄刀を持っている。これは霊王に関する何かの影響なのかと。
「まぁでもあの人、ルキアさんの話によると面倒くさがりでのらりくらりと躱してくるっぽいんで、俺が交渉してきますよ」
「おう……俺はどうもそういうの苦手だからな」
「こういう時は適材適所ですよ……すいませーん、十三番隊第十席の稲火狩って言うんですけど〜、店長さ〜ん?」
そう言って既に閉まっている浦原商店のシャッターを叩く。だが返事はなく、沈黙が返ってくるのみだった。
とりあえず居留守を使われるのは確実だったため、現世の方の知識を「天麟」から拝借してこういう時に出てきてもらいやすい語彙を検索していく。そして息を吸ってさっきよりもやや大きめの声で催促をしていく。
「あのー、店長さ〜ん? いるのは判ってるんですよ〜、出てきて出すもん出してもらわんと困るんすわ」
「て、天満、それは正しい交渉なのか……?」
「ご、護廷十三隊に借金した覚えも何か借りた覚えもないんスけど〜」
「どうも、いやぁ助かり……っ!」
だが、タイムリミットが来たようでザラザラとした虚のような、だが死神のような感覚すらもある不思議な霊圧が空を駆け巡っているのを探知する。恋次も同じだったようで、素早く義魂丸を口に含み、義骸を脱ぐ。霊体になり死神の身体になったものの、恋次は天満に向けて手で制する。その先には既にイールフォルト・グランツが立っている。
「手ェ出すなよ」
「……わかりました、副隊長」
既に限定解除の申請は通した。後は向こうがどれだけ一角と戦っているエドラド・リオネスの『
──霊圧を探知すると既に日番谷、乱菊の二人はシャウロン・クーファンとナキーム・グリンディーナと交戦を始めて、日番谷は卍解している。そしてルキアと一護の元にはグリムジョー・ジャガージャックが。
「お前程度のカスが副隊長か! 護廷十三隊の底が知れるな!」
眉を顰めるが、我慢する。自分の役目はここで刃を振るうことではない。限定解除の申請を待つことだ。
やがて浦原商店の屋根で様子を見ていた被造魂魄である紬屋
「突き砕け──
「……っ!」
天満はその瞬間、雨をジン太に投げ渡しながらその場に割り込み、斬魄刀を解放する。
だが霊圧の上昇率は天満の予想を遥かに超えており、斥力を放って叩き折ってやるつもりだった角に右腕を貫かれ苦悶の表情をした。
姿の変容と傷が治っていることに対して驚く恋次に向けてイールフォルトは言い放った。
「これが俺達破面の斬魄刀解放だよ、兄弟……!」
「阿散井、副隊長!」
「チッ」
小太刀で切り落とそうとしたものの回避され再び突進してくる。斥力を使っても回避しきれないほどの速度での突進を止めたのは恋次の卍解、狒狒王蛇尾丸の刃節だった。幾つかの刃節が角によって貫通され、破壊されているものの勢いが止まった──かに見えてたがもう一度突きこむことで恋次の身体ごと貫通する。
「はははは! 最後に俺の名前を教えてやろう! 破面No.15イールフォルト・グランツだ!」
──その瞬間、彼の手に持っていた通信機から音声が流れる。技術開発局からの連絡、漸く許可が通ったのだった。その瞬間、井上織姫の住居があるアパートの方角でも霊圧が爆発的に増大した。つまり日番谷がシャウロンの
「限定解除、許可出ました!」
「やっとか、待ちくたびれたぜ……限定解除!」
本筋よりも早くはあるがそれにしたって焦らされる程長かったと感じると共に戦いの終わりを予見し刀を納めた。
鋭い痛みが右上腕部に走るものの、それほどまずい傷という程でもないと左手で押さえながら戦いの終わりを見守っていると、そこに花刈ジン太がやってきて、手を差し出してくる。
「お前、雨を助けてくれたろ」
「……あ、ああ怪我は?」
「だ、大丈夫です……」
「よかった」
「だから……礼してやる。怪我、しただろ」
「……ありがとう、ジン太くん」
「なんだよ、俺の名前知ってたのか」
「ひとまず応急処置を致しますぞ!」
「ありがとうございます……」
包帯を持ってきてくれた鉄裁に礼を言って見上げると、そこには卍解した恋次の必殺技「狒骨大砲」がイールフォルトの身体を覆い、強大な霊圧で吹き飛ばしていた。戦いが終わりを告げ始める中で、天満はその身に受けた相手の強さに焦りを抱いていた。わかっていたことだったが、隊長格でも限定解除しなければ全く通用しないほど敵は強い。
「阿散井副隊長!」
「……大丈夫だったか天満」
「副隊長のおかげで腕のみの負傷です」
「……他の、戦いは?」
「残りの四体も倒せたみたいですが……現在、一護くんのところがまだ」
「そうか……応援に、行ってくる」
「なら俺も!」
「いけませんぞ稲火狩殿、筋肉どころか骨まで砕けております」
「……お前はそのまま治してもらえ」
「……わかり、ました」
無力だ。天満は己の無力さを実感していた。自分は限定霊印を刻まれてはいなかった、だというのに最下級の、
その様子を治癒のために手をかざしている鉄裁とジン太、そして雨が心配そうな顔で見守る。
「……何が、何が昇進だ、何が上位席官だ……クソッ!」
浮かれていた。藍染の反乱でうまく立ち回れてどこかで気持ちが浮ついていた。浮竹に上位席官が相応しいと言われ、先遣隊に選ばれ、自分が一番ピクニック気分だった。恋次に手を出すなと言われていたとしても、あの場面では卍解を使うべきだった。シャウロンも、ナキームも、ディ・ロイもエドラドもまとめて最下級を自分で全滅させるべき場面だった。そうすればグリムジョーを隊長格で囲んで叩けた。中途半端に原作知識を持っていたせいで、どこまで介入すればいいのかと迷った結果が、この体たらくだ。救えたのは小さな少女が傷つくことだけ。ルキア、日番谷は重傷、一角も恋次も乱菊も浅くない傷を負った。だというのに自分は、右腕を完全に潰された程度の傷、この差は自分が臆病者だったことによる差だと天満は苛立ちと左の拳をひたすらにアスファルトに叩きつけた。
「……稲火狩サン、でしたっけ」
「浦原喜助か」
「アタシに何か御用でしたか?」
「俺のことについて訊ねたいことがある。霊王も関係あるかもしれない」
「……驚きました。只の十席じゃあないと思ってましたが……まさかその名前が出るとは」
「かもしれないだけだ。無関係ならそれでいいんだ」
「では、傷を治したらお話を聞きましょう」
「阿散井副隊長もなんか話があるって言ってましたが」
「面倒くさいのでしばらくは躱しときます♪」
天満は笑いつつ、
この答え、浦原の答えによっては自分は護廷隊には居られないかもしれない。彼のように護廷の外で戦いをしなければならないかもしれない。その時のために彼に事情を説明し、交渉を持ちかけておくのは必要なことだ。胡散臭い男なのは間違いないが、少なくともこの世界のシステムを維持する側なのは間違いない。
「……どうかしましたか、稲火狩殿」
「いや、俺はつくづく……向かないんだなと思いましてね」
「それは……どういう?」
「流儀とか、サシとか、そんなくだらないものに命を懸けること、戦いに卑怯とか汚いって単語を持ち込むことです」
戦いのなかった彼にとってそれを知ることが出来たという意味では実りのあるものだったと感じていた。
護廷隊はそこそこ流儀を重んじる死神が多い。それは平和だったが故か、歴史と伝統に裏付けられた矜持か。だが彼にとっての、彼の知る戦争はそんな流儀や矜持なんてものは一つの銃弾の前には無駄でしかない。殺したら英雄で、殺されたら形だけは讃えられる。
──それでいい。勝利さえあれば誇りなんて失ったままでいい。天満の決意は黒く固く、全ての死と光を呑み込まんとしていた。