モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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PRELUDE(2) −PREPARATION−

 傷が治った後、天満は浦原に隠していた全てを伝えた。ただし伝えていたのは過去のことのみで、彼が未来(さき)を知っていること、そして人として生きていた時にこの世界が創作物だったことは伝えずに。それは霊王の楔どころではない、世界の根幹を揺るがすようなものだ。そこまで語ってしまえば浦原がどういった行動を取るのか、天満には計りかねていたからだった。

 

「その話を聞いた限りだと何かしらのショックで現世で過ごした過去を突如として思い出した、と考えるのが普通でしょうが、あなたは違うんですよね」

「はい、俺は父と母から産まれた、()()()()()()()()()()()()です。もとより前世は存在しません」

「すると……考えにくいですが一度現世で死んだ魂魄の記憶が霊子に変わって、またあなたとして再構築されたとして、その記憶が宿っていると仮定します」

「前世では社会人として死んで、その魂魄が俺の元の魂魄と混在してる……?」

「あくまで仮定の話ッスよ、でもそれなら魂魄が二つあるから斬魄刀が二つある、という理由付けにもなる」

 

 確かに、と天満は頷いた。天満には、稲火狩天満としての元々の斬魄刀があって、本来は一刀の──炎輝をベースにした斬魄刀が解号を唱えれば出てくるはずだった。だが、そこに別の魂魄が記憶と共に混ざり込んでしまった。そしてその魂魄が死神として持つはずだった斬魄刀が今の天麟をベースにした刀だった可能性がある。

 それを仮定とした場合、やはり原因を考えることになるのだが。

 

「う〜ん、これにはアタシもサッパリ、お手上げッスね」

「浦原さんでも無理ですか」

「仮に、あなたは自身が霊王の欠片を所持していることに起因する現象とお考えのようですが……そもそも霊王の実態を何故知ってるのかについては触れずに語らせてもらいますけど、所持していたとしてそれを取り除く方法もそれを判別する方法もわかんないんス」

「……そういえば、藍染も偶然だったみたいな言い方してましたね」

「……藍染サンが?」

「あ、すみません。知ってるとばかり」

 

 乱菊の身体に宿っていた霊王の爪を藍染が手に入れたのは偶然だった。元々流魂街の民の魂魄の一部を切り取って自身の崩玉に与えるということを繰り返し実験していた際、乱菊がそこに居て、偶々爪を手に入れた。

 浦原がそれを知っているとばかり思っていたため、口にしたがそもそも完現術者(フルブリンガー)を近年まで発見できていなかったことから、それは否定できることであった。そもそも浦原が藍染も霊王の正体を知っていることを知るのは「九十六京火架封滅」によって封印される寸前のことだということを思い出し、天満は少し考え込む。

 

「あなたは不思議なヒトだ。そこまでの真実を識っていて、世界の仕組みを識っていて、何を望むんスか?」

「俺の望みはちっぽけですよ──救いたいんです。俺が救える魂魄を全て」

「それを、ちっぽけって表現しちゃうんスね」

「世界を救う英雄を育てた男に言われると、照れますね」

「……黒崎サンのことッスか?」

「判り始めているんでしょう? というかほぼ最初から判ってるんでしょう?」

「それをあなたが識っていることは、別だと思いますが」

「腹芸は無理そうなんで、隠すの苦手なんですよ本当は。隠しごとが多くなっちゃってそういうキャラやってますけど」

 

 浦原と話すためのプランを全て放棄した天満はかなり素に近い口調で──否、現世で三十年近くを生きた人間としての言葉を紡いでいく。それは言わば天満としてではなく、前世で神の視座を受けた人間としての言葉でもある。

 彼は浦原に対して言葉を続けていく。けれど未来は変わらないことを彼は予感していた。浦原は元々あらゆることを想定して最善手を選んで行動している。だから彼の行動は常に世界の流れに対して最善であるため、何を識っても変わらないという安心があった。

 

「ともかく、俺は一護が実は滅却師に虚が混ざった真咲さんと、死神であんたの義骸に入ったことで人間になった志波一心の息子ってことは識ってても口は出さないし、それで最終的に霊王に成り代わる訳でもないことを識ってるってだけですよ」

「あなたは……何者ですか?」

「霊王とは違う、神々の世界から来たものって言えばちょっとはオシャレですかね」

「……()()()()()?」

「そんな身構えることないですよ、神なんて言っても万能からは程遠くて、この世界を視て楽しむくらいしか出来ることはありませんから」

「それは……いや、まさか」

「まぁそんな()()()()の話は置いといて、俺はクソ程に間抜けな死に方をして、気づいたら稲火狩天満っていう()()()()()()()()()の肉体に混ざり込んじゃっただけの、ただのしがない社会の歯車(モブ)ですよ」

「俄には……信じがたい話ッスね」

 

 でしょうねと言って天満は真実かどうかという問いに否定も肯定もしない。したところで証明する手立てはない。これから先の展開をしゃべったところで現在の浦原には確かめようもなく意味のない話であり、過去の話は幾らでも調べはつく。卍解の名前や趣味を言ったところでも無駄なことだ。

 

「──俺の話は終わりです。では、一護くんは今頃平子真子たちのところへ向かってるでしょうかね、後はもうすぐ茶渡くんが来るんでその前には退散させてもらいます」

「あ、ちょ……!」

 

 天満が去っていくのを店外に出て見送っていると、そこへ本当に茶渡と鉢合わせた。そのままなるべく平静に普段通り、内心では彼の放っていた言葉たちが胸中で色々な可能性を渦巻いていたけれど、それをおくびにも出さずに、そして彼の突然の土下座に、思考も全てが固まる。

 

「……頼む、俺を鍛えてくれ……!」

「……はい?」

 

 成る程。天満が言っていたことは茶渡が来た為、これ以上は話せないという意味でもあったのかと納得しつつ、彼に何があったのかを訊ねていく。そして、天満は支給された現世の現金を使って一通りの服を買った上で一晩をマンガ喫茶で過ごした後、井上織姫のアパートの屋上へと向かい、日番谷の元へと向かった。彼は丁度、乱菊と何かをしゃべっていたが天満に気づいてアパートへと降りてくる。霊力があるとはいえ義骸の身体で屋上から平然とアスファルトへ降り立つ姿は、身体を使いこなしているようで羨望の眼差しを天満が送っていると日番谷が口を開いた。

 

「で、どうだ?」

「倒した五体の破面は間違いなく最下級(ギリアン)でしょうね」

「……やはりか」

「そして一護くんと対峙したのが最上級(ヴァストローデ)、力の差は……言うまでもないですね」

「セスタ……シャウロンが六番っつってたな、十刃(エスパーダ)って階級がどうやらボス格らしい」

「敵の口が軽くてよかったですね」

「ああ」

 

 その全てが最上級(ヴァストローデ)というわけではない。日番谷に対して口にすることはないが少なくとも八番(ザエルアポロ)中級(アジューカス)九番(アーロニーロ)は特殊ではあるが最下級(ギリアン)だ。とはいえ七番(ゾマリ)が不明なため天満にも詳しいことは不明だが、少なくともグリムジョー以上は全員最上級大虚が破面化したものと考えていい。

 

「解放した十刃の能力は未知だ。正直、今の卍解のままじゃキツいな」

「……氷華の話ですか?」

 

 日番谷が頷く。彼が卍解した際に後ろに出現する氷の華は彼が大紅蓮氷輪丸を扱うに足る肉体をしていないために出現する枷を意味するものでもあった。十二枚の花弁が散る毎に彼の霊圧は上がっていき、最後には大紅蓮氷輪丸に肉体が追いつかずに自分も周囲も関係なく範囲内の地水火風全て凍結させることになる。彼がその制御方法を身につけるのは少しだけ先の話だ。

 

「気づいていたか」

「まぁ一ヶ月くらいずっと見せられたら、それくらいは」

「そしてお前の卍解は……現世で使うのは()()()()()()

「街中では使いませんよ」

「どうだかな、お前は使う気になったら人命以外の全てを軽んじる。そういう男だ」

 

 バレてるな、と天満は苦笑いをする。だが彼は既に自分の使う場所を決めていた。そのために少しでも扱いに慣れておく必要がある。卍解を習得して未だ二ヶ月程で、制御もままならないものではあるが。卍解を十全に扱うためには十年近くかかる場合や、強力なものならばそれ以上の時間を掛けなければならない。二十年前に卍解を習得している日番谷ですらこの状態なのだから仕方ない部分があるのだが、仕方ないではこの先、卍解なしで戦っていける程敵は易しくはないのだから。

 

「それより天満、いいところに来たな。ちょっと手伝ってほしいんだが」

「なんです?」

「緊急の映像回線を用意する必要ができた。技術開発局から送られてくるもんを井上の部屋に運んでくれ」

「……ああ、成る程」

 

 そういった作業を乱菊が手伝うわけがないし、残りのメンバーは好き勝手出ていて招集を掛けるのも面倒だ。

 天満はうねうねと蠢き、何故か生物的なモニターを日番谷と協力して運んでいく。手触りが最悪だった上に枠についていた顔に大笑いされ二度ほど斬魄刀を抜こうか迷った程だった。

 

「天満、配線ってこれでいいのかしら?」

「ええはい、電力はここから供給できます」

「これを繋げばいいんだな」

「やっぱり天満って詳しいわね」

「現世、行ってみたくて憧れだったんですよ」

 

 そうして配線が完了し、モニターには砂嵐が出始める。現世のテレビでも砂嵐はもはや過去の遺物なんだよなぁと天満は遠い目をしていたが、そこに家主である井上織姫が帰ってきた。このモニターの運び込みは近所付き合いのある新村に目撃されており、それを聞きつけて彼女は急ぎ足で戻ってきたのだった。

 

「うわぁ、かっこい……じゃないよ! なにこれ日番谷くん!?」

「ちっ、間の悪い時に帰ってきやがったな……」

 

 かっこいいのか、このキモい集合体がと天満はその織姫の美的センスにドン引きしつつも口には出さずに直立する。

 そこで総隊長がモニターに映し出されてやや身が引き締まる思いがした。天満もよく知っている報告を聞き、崩玉の覚醒期間を考慮して決戦は冬であることを告げられる。だが実際に次の襲撃がいつかを天満は知っていた。それを彼は識っていて、此処へと足を運んでいたのだった。

 

「……それでは、あたしは一角と弓親に知らせてきます」

「俺は阿散井副隊長の方へ」

「ああ、俺も──」

 

 そこで総隊長に呼び止められ、雛森と話すことになる日番谷を置いて、彼は昨日の朝までいた浦原商店へと再び足を運んでいた。

 そこでは恋次と茶渡が既に修行を始めており、その騒がしい中ではあるが逆に好都合だと天満は浦原に向けて藍染の目的、王鍵の創生を企んでいることを告げる。

 

「王鍵……やはり藍染サンは」

「ええ、神に成ろうということでしょう」

「……で?」

「魄内封印から解放された崩玉の覚醒は早くとも四月、なので護廷十三隊は四ヶ月後の冬に向けて準備を進めることになりました」

「はい、それはアタシがよく知っていることです」

 

 その浦原の言葉にやっぱりこのヒトは自分よりも数百倍頭が回るなと頭を掻いた。作中トップの頭脳を持つキャラと腹芸なんて出来るわけもなく、天満は再び識っていることを洗いざらいしゃべっていく。

 影響がないわけではないだろうが、それでも浦原一人では大まかな流れは変わらない。そう思っての言葉だった。

 

「で、崩玉は隊長に倍する霊圧、つまり藍染の霊圧と融合すると瞬間解凍が可能です、今頃最後の破面No.77が創られたところです」

「──っ! もう、そんな数が」

「次の襲撃は一ヶ月後、十刃クラスが出張ってきます」

「覚醒期間を縮める方法が何かあるとは思ってましたが……そんな力技が、そして目的は井上サンッスね?」

「正確に言うと織姫は釣り餌、本来の目的は救助に虚圏に来た隊長格の幽閉です」

「……いやぁ、藍染サンもここまで読まれてるとは思ってないでしょうね」

「けど、織姫の捕縛と幽閉は、向こうの戦力の低下にもなるので放置しといた方が安牌かと」

「準備をするのはアタシ、ってことッスね?」

「はい」

 

 一ヶ月後なのが確定すれば浦原も手を絞って対策が出来る。当然日番谷先遣隊には言えないため、そこに手は加えられないが、準備をさせることができる。例えば平子に連絡付けるとか、それっぽく織姫に伝言を頼むとか、やりようは幾らでもあるのだから。

 天満は、戦いの、修行の音が止まったタイミングで、浦原に天満として言葉を告げる。

 

「俺も、卍解の修練がてら茶渡くんのお手伝いしてもいいですか?」

「天満サンも? もしかして泊まり込みで?」

「勿論……あ、雑用はしませんからね、それは阿散井副隊長に頼んでください」

 

 そうして天満は見事に雑用をすることなく一ヶ月分のタダメシ付きの宿を手に入れることに成功した。

 しかも相手は異常な程のタフさと霊圧的な強度を誇る茶渡泰虎だ。彼の修行ということもあり、多少容赦なく痛めつけても大丈夫なはずだろうと彼は笑みを浮かべた。

 

「阿散井副隊長、交代してください」

「アァ!? 天満……!」

「ム……アンタは確か、十三番隊の」

「第十席、稲火狩天満……さて茶渡くん、体力はまだあるかな?」

「……ああ、問題ない」

「それはよかった」

 

 自己紹介をした天満は刀を二刀へと解放しながら、近づいていく。ここで恋次も気づいたことだが、解号を唱えることなく二刀へと変化させたこと、それが何を意味するかを悟る。

 ただの十席じゃないと思っていた。それは予感していた。彼の霊圧の上昇は確実に上位席官──あるいは隊長格に類するものなのだから。だがまさかそこまで至っていたとは思いもしなかった。

 

「俺の卍解は副隊長ほど素直な物理攻撃タイプじゃないけど、遠慮なく打ち込むといいよ──後悔はさせないから」

 

 もっと強く、もっと高く輝く星のように。彼の瞳が見る先には一人の破面がいた。

 そこから恋次と天満による厳しい修行が始まる。時折、天満と恋次もお互いの卍解をぶつけ合い、戦った。

 そうして一月もする頃、天満はゆっくりと空を見上げていた。確実な日付は彼にも分からなかったため、昼は恋次、夜は天満という区分で修行をしており、その日、空が裂けた瞬間に天満は浦原と共に駆けていった。

 


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