モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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PRELUDE(3) −UNIVERSE CREATION−

 空座町の小高い山にて、死神と十刃の戦いが始まっていた。

 既に新しく破面(アランカル)No.6(セスタ)となったルピ・アンテノールは帰刃(レスレクシオン)しており、八本の触手を操り弓親、一角、そして乱菊を捕らえた。

 

「やーらしい身体してるよねぇ、いーなぁ、セクシぃだなあ──穴だらけにしちゃおうかな〜」

「──っ!」

 

 触手の先端から無数の針が飛び出す「鉄の処女(イエロ・ビルヘン)」によってその名前の元となった拷問器具が如く松本乱菊の身体に穴が空くか、そう思ったところでそれが浦原の剃刀紅姫によって途中で切断される。

 愉しみを途中で邪魔されたルピは浦原の顔を憎々しげに見つめて、睨みつける。そしてその横にはもうひとりの死神が立っていた。

 

「誰だよキミたち」

「稲火狩天満、十三番隊第十席だ」

「浦原喜助、しがない駄菓子屋の店主ッス、よろしければ以後、お見知りおきを──っ!?」

「……浦原さん、ワンダーワイスとヤミーはお任せします」

「了解ッス」

 

 ここで、ルピは本来の流れならば油断したところを日番谷の「千年氷牢」を食らうものの、反膜(ネガシオン)でなんとか助かり、その後にグリムジョーによって消し飛ばされる。

 だからとその流れに任せて傷つく席官をみすみす見逃すのは彼にはもう出来なかった。一ヶ月後に彼がやってくるのなら、ここで殺す。その決意を抱いていた。

 

「……十席って言ったっけ、キミ、そこでボクが遊んであげてたヒトより下ってことでしょ」

「そうだな、俺がこの中で一番下っ端だ」

「そんなヤツが今更何しに来たのさ!」

「何しに? お互いに刀を抜いてるんだ。それくらいは判ってるだろう?」

「確かにそう、だね!」

 

 八本の触手が襲いかかるのを右手の長刀を回転させることで弾いていく。

 炎輝天麟は長刀が斥力、小太刀が引力を用いて自分の範囲内のものを対象に引き寄せたり、弾き飛ばしたりすることができる。それは物体だけでなく一護の「月牙天衝」や大虚が使う「虚閃」のような霊力の塊のようなものも対象にすることができる。

 そしてそれを強める方法が「回転」だった。刀の柄を腕で器用に回転させることで力の帯のようなものを生み出し、斥力や引力そのものを強くすることができ、それの完成形が「天麟黒星」と「炎輝白星」の二つだ。だがこの回転を用いていた能力の行使は非常に燃費が悪いというデメリットも存在していた。

 

「アハッ、うまく弾いてるみたいだけど、どこまで読み切れるカナ〜?」

「読み切る必要なんてないよ、ルピ・アンテノール」

「……あれ、キミに名乗ったっけ?」

 

 そしてルピは先程の怪しげなゲタ帽子に向けた言葉を思い出し、訝しげな顔をする。

 ──ワンダーワイスとヤミーはお任せします。聞き間違いでなければ、思い違いでなければこの二刀使いの十席(ザコ)はそう言ったはずだ。遊びのような攻撃ではあるが、斬魄刀の能力で対応しているところから内心の呼び方程ザコ扱いはしていないものの、ルピはそのおかしな点、違和感について思考する。自分とヤミーは名乗った。ルピはフルネームでなかったものの、名乗ったのだから口から出てもおかしくはない。だが問題は喃語しか喋ることのできないワンダーワイス・マルジュラの名前を発したことだった。

 

「俺が操るのは斥力だけじゃなくて引力もだ。裏はかけない」

「面倒な能力持ってるね……それにキミは、タダの雑魚じゃなさそうだねぇ」

 

 一本が浦原によって先端を切られ、そして今度はもう一本を天満の長刀によって半ばから切断されたことでルピは声のトーンを下げた。ルピの、十刃の鋼皮(イエロ)は並大抵ではない。特に武器となる触腕はルピの持つ身体の中で最も霊圧硬度の高い部分であるはずなのだ。まず刀で斬られるようなヘマはしない。だが、死角から襲わせたルピの触腕は意図しない方向へ曲がり、そして受け止められ、斬られた。

 天満からすると正確には斬ったのではなく鋼皮ごと斥力で圧し潰し、圧し広げ、無理やり切断しただけなのだが。

 

「──き~めたっ、お前の首、ぐちゃぐちゃに潰して、グロテスクな肉塊にしてやるよ! そうしたらちょっとくらいはソソる見た目になってくれるかなぁ?」

「……悪趣味でおしゃべりなヤツだ」

「死ね!」

「天引……っ!?」

「アハハ、遅い遅い!」

「ぐ、スピードが……!」

 

 突如として触手の動きが速度を増し、全方位からの攻撃が一つ一つを視認することで精一杯となる。瞬歩と斬魄刀の能力をフル活用して、致命傷は避けるものの、次は長刀を振れるものではなかった。

 捕えるのは得策じゃないとは気づいているようで、ひたすらに針を出した蔦嬢に翻弄され続けていた。

 

「さっきの余裕はどこに行ったのさ! ほらほらほら!」

「そう、だな……」

「は?」

「もう、そろそろこの辺なら……大丈夫だろう」

 

 気づけば逃げに徹していたことで最初よりも上空で戦っていることに気づいたルピが再び訝しげな顔をする。身体のあちこちに傷を作り、肩で息をしていた天満だったが、深呼吸と共に息を整え、ありったけの霊圧を放出する。

 その様子に下で応急処置をしていた一角や弓親、そして乱菊が驚きに上を見上げ、霊圧を消して身を潜めていた日番谷がゆっくりと息を吐いた。

 ──街中からは外れている。また、その空中ならば他の誰も巻き込む心配もない。日番谷はゆっくりと千年氷牢を準備している氷を解凍させていく。

 

「ルピ・アンテノール……最初に謝っておくよ」

「なんのつもり? 命乞い?」

「キミにはまだ()()()()()()。それはキミの渇望を満たすものとは程遠いけど、屈辱でもあっただろうけど、俺の知ってるキミは復讐の機会を得ていた」

「ハァ? キミ、さっきから何のことを言ってるのかなぁ、出番がどうとか、イミわかんないなぁ」

「ご免な、ルピ……でも俺の救世に、お前はいらない」

 

 そういえば、市丸がルピのことを気に入ってると言っていたなと思い出しながら彼は二刀を横向き並行に、漢数字の「二」のような形にする。空中で置かれたそれが天満の霊圧によって動き出し、お互いの引力と斥力によってどんどんと回転し始め、円を創り始める。

 天満の頭の上に昇っていき、光輝く。それはまるでそこに生み出された、もう一つの太陽だった。

 

「すいません市丸隊長、でも約定はまだ有効だと思ってますからね」

「て、天満……?」

「ま、まさか……あいつが!?」

「──卍解」

 

 約定、松本乱菊を護ってやってほしい。その約束に基づくならばコイツは殺さなければならない。

 天満の言葉に合わせて太陽から闇が放出されていく。それは闇だけでなく光をも生み出し、次第に山の上空全体に小さな宇宙が創られていく。満天の星空、宇宙空間、そんな世界すらも支配する程の力と霊圧に、ルピは驚きのあまりに周囲を見回していく。

 宇宙を生み出した二刀の回転から生まれた太陽はそのまま、天満の背中へと移動し、闇と星の世界に唯一ある恒星として輝き続けていた。それに合わせて彼もまた白い法衣のようなものを纏っていた。

 

炎輝天麟(えんきてんりん)星皇創世ノ嘶(せいおうそうせいのいななき)

「は、ハハッ! 卍解を使えるのはビックリしたけど、お前が幾ら派手に卍解しようが、所詮一対八なんだよ!」

 

 ルピは苛立ち触手を振り回して天満を攻撃しようとするが、天満が手をかざせばそれは簡単に動きを止め、あらぬ方向へと曲げられる。八本の触手を操ろうとも、天満はそれを手をかざすだけで全てを、少しも動くこと無く捻じ曲げていく。

 そして、天満はその苛立ちに焦りが乗り始めた攻撃に嘆息しながら口にした。

 

「一対八っていうのは、計算出来てないな。俺の武器は()()()()()()()()()()()()()だ」

「な──っ!?」

炎星降雨(えんせいこうう)

 

 目にも止まらない速さで何かがルピの八本の腕の一本を貫いた。それは一つが始めとなって上から下へと雨のようにキラキラと光の尾を引き降り注ぎ続ける。

 それは天満の掌程度の大きさの()()だった。炎を纏い、圧倒的な破壊のエネルギーを伴った速度でルピの身体を貫いていく。

 

「ぐ、ナメるなァ! 虚閃(セロ)!」

「炎輝」

 

 触手から虚閃を放つが今度は手をかざすこともなく天満の周囲をなぞるように虚閃が勝手に曲がっていく。ルピはそれが何が起こっているのかを全く理解できない。理解できないが、追い詰められているのは自分で、相手は余裕の表情でコチラを見下ろしている。プライドを刺激されるような煽りを受けてることだけは判っていた。

 

「……あれが、天満の?」

「ああ、あれがアイツの卍解、炎輝天麟星皇創世ノ嘶だ」

「隊長!」

「仕込みをしてたんだが、無駄になっちまったな」

 

 宇宙を創り出しているという卍解に乱菊は信じられない者を見るような顔をする。習得していることは日番谷との鍛錬で知っていたけれど、あそこまで強烈で強力だとは思いもしていなかった。あるいは未完成とはいえ日番谷の卍解よりも強力かつ無比なるものだと乱菊も感じていた。

 

「アイツの卍解は()()()()()()()能力だ」

「……文字通り創世ってわけですか」

「ああ、まずあそこは空間が湾曲していて、中はほぼ無限に広がってる。見えてる距離じゃねぇから外部からの干渉と内部からの脱出はほぼ不可能だ。そして、そこの中で創られた星はその全てが天満の思い通りの方向へ動かすことができるし、引力と斥力、重力なんかも思いのままだ」

「そんな卍解……十席が持っていいものじゃないッスね」

「そもそも卍解を十席が持ってるのが異常なんだよ、一角」

 

 日番谷は頷いた。更に彼の周囲には常に重力の渦が巻いており、いかなる攻撃も自動で捻じ曲げ、攻撃が通るという運命すらも全てを重力という名の下に歪めていく。どれだけ氷の龍を出そうとも、刀を突き出そうとも、滑るように明後日の方向へ曲がり、あまり無理に渦に突っ込めばぐしゃぐしゃに圧し潰されることになる。ルピがいくら八本の腕による全方位攻撃が可能だと言っても、光の速度で向かってくる星の弾丸とあの重力渦を突破することは不可能と断言してもいいと日番谷は感じていた。心配なんてする必要もなく、天満が勝つと。

 

「終わらせようか、ルピ・アンテノール」

「誰が!」

「いや、もう終わりなんだよ。お前はずっと前から、終わってる。それが早いか遅いかなんだよ」

 

 触腕を全てぶつける「触檻(ハウラ・テンタクーロ)」はだが彼の思わぬところで動きが止まっていた。天満が手の中に光の強い恒星を創り、そしてそれを握りつぶすように圧縮する。すると星は崩壊し、その力に星自身が耐えられない程の重力を伴った黒点となった。天満はそれをルピの前に打ち出す。打ち出すだけでいい。それは全てを圧縮し、握りつぶす。

 

「大質量を持つ恒星が己の重力によって圧縮され続けるとやがてそれは光すらも逃げることのできない重力的特異点となる」

「クソ、クソッ、こんな、こんなヤツに──ィっ」

「──縮退恒星、さようなら、ルピ」

 

 黒星に握りつぶされ、超重力に囚われルピは跡形もなく圧縮された。

 全ての終わりを悟り、卍解を解除していく。自身もまた重力をゼロにして浮いていたため地面に降り立ち、驚きのまま見守っていた三人の席官と、日番谷に迎えられる。

 

「最後のが、お前の練習してたやつか」

「はい、結構消耗しましたけど」

「お疲れ様、天満!」

「松本副隊長、お二人もすみません割り込んでしまって」

「いや、元々攻めあぐねていたからな」

「中々美しい卍解だったよ、普段の特筆すべきところのない顔面からは想像もできなかったけど」

「……それ、全然褒めてませんよね綾瀬川五席」

「気は抜くなよ、まだ破面は二体いる」

 

 全員が見上げると浦原によってヤミーが弄ばれていた。あちらは原作通りの流れになっているのかと天満は浦原の行動が読めずにいたが、やがて空から反膜が降り注いでいく。

 だが、本来救われるはずだったルピ・アンテノールは既にブラックホールに呑み込まれ消滅した。光はワンダーワイスとヤミーのみを連れて虚圏へと撤退したのだった。

 

「なんだァ……ヤツら撤退していってるな」

「妙だな……天満」

「え、俺が分析するんですか……なんらかの目的が完了した、もしくはルピの撃破が痛手となったかのどちらかでしょうね」

 

 この場で何があって撤退したのか、何の目的で隊長格を襲ったのかを真の意味で理解しているのは浦原と天満のみだった。

 そして、同時に天満は明確に原作との差異を生み出したのにも関わらず、大まかな流れは変えるつもりはなかったもののルピがやられたことに目を向けたヤミーを浦原が煽り、虚弾(バラ)を相殺してシメと取り掛かろうとしたところで反膜に助けられた。ここまでのタイミング全てがちょうどよかったことに、天満は一つの仮説を立てていた。同時に浦原が何故行動を変えなかったかということもある程度の予測を立てることができていた。

 

「ひとまず、怪我してるヒトたちはウチの勉強部屋に案内して治療します」

「お願いします」

 

 日番谷以外は天満も含めてそれなりの怪我を負っている。最初に天満は治され、日番谷が浦原を観察し思考しているのを知っていながら浦原と会話を重ねていた。

 彼がそこまで踏み込まないことを、浦原の雰囲気が踏み込ませないことを天満も知っていたからだった。

 

「はい、アタシは今回、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という前提で動いていました」

「その心は?」

「理由は二つありますが、まず一つとして先遣隊として黒崎サンたちを送るため、そして二つ目は天満サンの中にしかないタイムラインがどういった変化をするか、という実験です」

「……俺の仮定は当たっていました。運命というか修正力とでも言うんでしょうか。一度決まってる流れはそこに戻ろうとする引力がある。今回は、それを実感させられました」

「引力──それを引力と表現するのは些か、因果なもんです」

「本当に、ですがその修正は別のところで、なるべく影響の少ないところで別の歪みを起こすんじゃないか……とも考えてます」

「バタフライ・エフェクトという現象ッスね」

「何かを変えれば間違いなく変化する箇所がある。そう俺は信じていますから」

 

 だが同時に、本当にそれが只のエゴイズムであることも確信していた。多数の死神を救うため、犠牲を減らすための代償は別の命だ。ルピはそのためにザエルアポロによって肉体を再構成され、涅マユリによって強化改造されるという経緯を経て滅却師の第二次侵攻で屍人部隊として登場、その後は自身を殺したグリムジョーと激戦を繰り広げることとなる。

 だがその運命は全て天満の卍解によって創り出されたブラックホールによって解体された。それは彼の決意表明の意味も込められているのだが。

 

「俺はこの歪みを生み出せる能力を利用して、()()()()()()()()と決めた命を救います……これからも」

「偽善、とは思わないんスか?」

「──この世界は欺瞞で満ちてるのに?」

「あなたは……一歩間違えれば危険、なんてもんじゃないッスよ」

「まぁこの世界の成り立ちを()()とは思ってますから。正直、藍染の創る世界を視てみたいと思ってるのも嘘じゃあないですからね」

 

 もしかしたらもっと最初から色々と運命を変えようと動いていたら、自分は今頃藍染の部下として虚圏にいたのかもしれない。多数の隊長格を殺して、王属特務すらも殺し、黒崎一護を贄として藍染の望む世界を隣で見届けていたのかもしれない。

 その言葉に、浦原は冷や汗を掻きながら普通のファンでよかったッスよと笑った。彼が最初に動くのを憚った理由の一つにあるものが自分という存在で好きだった漫画が改変されるということに恐怖したからということを見抜かれた発言に、天満はずっと胡散臭いと思ってたしいつか一護を裏切ると信じてましたよと浦原に返すのだった。

 

 


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