モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

19 / 74
INTO THE DARK(2)

 天満は駆ける。初めてとなる道のわからない一本道をひたすらに走らされるという緊張を孕んだ行動を、だが天満は続けていた。正しく鬼が出るか蛇が出るか。そういった祈りに似た道だったが、幾つかの霊圧の衝突を感じた。

 ──既に一護とドルドーニが、石田とチルッチが、茶渡とガンテンバインが戦い始めたのだろう。そこでチラリと後ろを振り返るが修正力というべきか、無事にペッシェとドンドチャッカはそれぞれ石田と恋次の元へと行ったことに安堵する。その時だった、階段の上から足音が聞こえてくる。その音と声に、天満は振り返った。

 

「どうした死神……そんなに仲間が心配か?」

「……なんでここに」

「言葉の意図は判らんが此処は俺の宮だ。お前が此処に来ただけに過ぎない」

「やってくれたな、藍染……!」

 

 声の主はウルキオラ・シファー、藍染もある程度は駒としての有用性を感じているであろう十刃だった。

 そして本来は井上織姫の世話を任されており、彼は無意識ながら織姫、そして一護へのなんらかの感情を抱いている男でもあった。だからこそ、天満はまず除外していたパターンに困惑する。困惑すると同時に自分を利用するでもなく、だが放置するでもなく潰しに来たことを察知した。

 ──そしてそれが判った瞬間に天満の声は落ち着いていく。頭の中が鮮明になり、ゆっくりと斬魄刀を抜いていった。

 

「ふぅー、まぁいいや。出迎えありがとうウルキオラ」

「俺の名を識っているのか、名乗った憶えも顔を合わせた憶えもないが」

「最初に空座町に来た時にヤミーが散々名前呼んでるんだよなぁ」

「そうだったな」

「護廷十三隊十三番隊第十席、稲火狩天満だ」

「俺は十刃No.4(クアトロ・エスパーダ)ウルキオラ・シファーだ」

「行くか──炎輝天麟!」

「──っ!」

 

 斬魄刀を解放し、右の長刀で左腕を狙うが金属音に受け止められる。まずは手刀で来るかと思いきや刀で受け止められたことに天満は少し驚いた。消すべき敵であるものにしか使わないはずの斬魄刀を迷いなく抜き、そして手刀の要領で突きを主体とした苛烈な攻撃を繰り出していくのを小太刀で的確に、少しズルをして引力を使っているものの的確に受け止める。

 

「それがお前の斬魄刀か」

「ヤミーから報告もらってないのか?」

「奴のことを識っているならば、そういう細かいことをすると思うか?」

「そりゃそうか──破道の三十二! 黄火閃!」

「……目眩ましか」

「はぁああ!」

 

 裂帛の気合と共に斥力を伴った長刀による突きを繰り出す。身体にかすれば鋼皮ごと斬り裂き、当たれば抉れる。肩と左上腕部に僅かな傷を受けたウルキオラは突きにカウンターを繰り出すように指を出し、そこから霊圧を高めた虚閃(セロ)を至近距離で放つ。

 爆発の衝撃と煙に包まれ──だがまだ彼が死んでいないことを確信しているウルキオラはゆっくりと近づいていく。

 

「あっぶねぇよ、防御し損ねるところだったっての」

「……俺の至近距離の虚閃を受けてその程度か」

「お前の虚閃の予備モーションは識ってるからな」

「成る程……藍染様が警戒しろと仰った意味が理解できた」

「──っ!」

 

 瞬間、ウルキオラの姿が掻き消える。霊圧知覚をすり抜けることのできる破面特有の歩法、響転(ソニード)だが、天満は上だと即座に判断し小太刀で突きを吸い寄せ受け止めながら受け流し、その回転の勢いのまま長刀を首に向けて振り下ろす。

 しかし再びの響転によって刀は空を切った。天満は舌打ちをしながら、小太刀を腕で回転させていく。

 

「着地狩り、思った程うまくいかないもんだな」

「貴様……響転の弱点を」

「霊圧知覚……破面(おまえら)風に言うと探査神経(ペスキス)をすり抜ける代わりにストップする場所を決めないといけないってやつだろ? 識ってるよ、()()()()()()()()()()()()()!」

 

 ウルキオラからすれば意味不明な言葉を放ちつつ、引力を集中させた黒い星を敵に向けて放つ。黒い星は周囲の建物やウルキオラ自身すらも引き寄せる程の引力を宿しており、常に表情を変えないウルキオラが少しばかり驚いたように天満には見えていた。

 黒星を破壊すればいいと気づいたのかウルキオラは宮を出ながら追いかけてくる黒星に虚閃を放つ、だが天満も小太刀から「廃炎」を放ったことによる霊圧同士の大爆発が虚夜宮内にある偽りの太陽の下の世界を震わせた。

 

「よっと、ここなら広くて多少は戦いやすい……っと! ピンピンしてる……いや超速再生か、強くて再生するとかズルだろ」

「……俺の再生力まで」

「お前の能力は全部識ってるよ。帰刃も、それが虚夜宮の外じゃないと使うなって言われてることも──第二階層(セグンダ・エターパ)もな」

 

 周囲を見渡した隙を狙ったウルキオラの攻撃をバク宙で躱しつつ、腕を失った程の爆発だったが袖が欠けているだけで済んでいるところからウルキオラ最大の特徴であり多くの破面にとっては失われるはずの超速再生だと看破したこと、そして藍染にすら明かしていない第二階層の名前まで識ってるとあれば、藍染に言われるのではなくウルキオラ自身が()()()()()()()()()()と思わせるには充分だった。

 

「もはや何故かとは問わん。だが……貴様が知らんこともあるようだな」

「へぇ、何だよ」

「俺との力の差だ」

 

 霊圧が爆発的に上昇する。だが決してウルキオラは手を抜いていたわけではない。彼は彼なりに無意識ではあるものの稲火狩天満という男を、藍染が危険だと判断した男を観察していたのだった。

 だが結果として一護のように力が追いつき殺すに値するまで見送ることもなく、ウルキオラ・シファーは只々、彼を脅威と捉えていた。そして、本気を出せば天満を殺せる、そうウルキオラは考えていた。

 

「力の差だと?」

「……なに」

()()()()()()()()

 

 響転で距離を詰め、跳躍の際の勢いを利用した振り下ろし攻撃、それで天満は致命傷を負う筈だった。だが実際に地面に膝をついていたのはウルキオラの方だった。天満はやはり攻撃を予測した上で小太刀で引き寄せると同時に刃を滑らせて受け流し、その勢いのままに今度は回し蹴りを放っていた。

 

「いって……鋼皮ってこんな硬いのかよ」

「貴様、何をした」

「何って、さっきも似たようなカウンター食らわせてやっただろ」

 

 天満の言葉は確かにそうだとウルキオラは冷静に分析をする。一度目の時は響転で天満の真上からの突きを受け流してのカウンター、二度目は振り下ろしでのカウンター、どちらも小太刀で受け止めその勢いで攻撃していた。

 だが一度目と二度目に明確な違いがあると判断したウルキオラは虚閃の構えを取る。指先から広範囲を破壊する閃光が放たれるが天満はそれを斥力で弾き、瞬歩で突進しつつウルキオラの肩を斥力で抉り取った。

 

「どうしたウルキオラ、力の差ってのを見せたいなら天蓋を破れよ!」

「お前の挑発には乗らん」

「……そうかよ」

 

 ウルキオラの言葉に天満は構え直す。ここなら卍解を使う条件は整っている。だが、卍解を使うということは逆に相手に帰刃をするための条件を与えることになる。距離が無限になる以上、幾らウルキオラが解放しようとも虚夜宮は破壊される心配がないのだから。だからこそ、天満は始解だけでウルキオラを抑えていた。戦闘は、単に一ヶ月たっぷりと恋次や茶渡と戦ってきた経験が活きているのだが。

 

「ならこっちから行くぜ、縛道の六十一、六杖光牢」

「……っ、こんなもので」

「遅いんだよ!」

 

 柄を持っていた右手の人差し指を向けた途端に光の檻がウルキオラの身体を貫き、動きを封じる。一瞬しか止めることはできないが、その一瞬で充分だった。天満は詠唱を終え、二刀の斬魄刀を振ったその周囲に鬼道の刃を生成していた。

 それがウルキオラに一斉に向かっていく。

 

「破道の七十八、斬華輪!」

 

 天満にとっては大技となる七十番台の上級鬼道を放ち、ウルキオラは腕や足、胴体が切り刻まれる。だが冷静に斬魄刀で最低限の内臓を守護しそのまま攻撃が止んだタイミングで今度は虚閃の二十倍の速度を放つ虚弾を連射する。

 小太刀で方向を逸らしながら瞬歩で回避しつつ、天満はこれでもウルキオラが倒れる気配がないことに対して息を吐く。

 

「無駄だ、その程度で俺を倒すことはできん」

「斬華輪は俺が使える鬼道ん中じゃ一番強い技なんだけどな……」

「そうか、なら鬼道で俺は倒せんということがわかっただろう」

「……ムカつく言い方だな」

 

 ウルキオラは今までの動きを見て、一つの結論を立てていた。虚弾は初見ではない、ヤミーが放っているためそれは判っている。そして天満の能力の特性上、動きに不自然な点はない。だが()()()()()()()()()()()()()()()()とウルキオラは二度目のカウンターの際から考え、そしてこう推察した。

 

「俺の動きを予知してるのか」

「そんな大層なもんじゃねーよ。()()()()()()()()

 

 それこそが彼が自分よりも遥かに速度で勝る敵の攻撃を防御できる理由だった。

 稲火狩天満という男は、読心術を習得していた。これは刀を振るわれることも振るうことも怖がった彼の性質上、判断を早めるための手段であり、小さな頃からの癖を技として昇華させたものだった。相手の目線、足の動き、呼吸、そして霊圧のブレから攻撃を予測し対応する。だがそれは相手のことを知っていないと効果が半減するという欠点もあった。それでも天満は以前から会話をある程度交わし、対応を絞ることができたのだが。

 ──だが今の彼にとって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ウルキオラが手刀とそれを拡張した突きが主体であること、その能力、虚閃の固有の構え、全てを把握しているという前提がある場合はそれは予知のような精度を誇っていた。

 

「お前が俺の何を知っている」

「識ってるさ、お前の司る死の形は虚無だ。そしてお前の信条は眼に見えぬものは存在しないってこと、そしてお前が種族の中で唯一口を持たないものだったってことも、識ってるんだよ」

「何……」

「第二階層の黒い姿をお前が藍染に言わない理由も、俺は識ってる」

「貴様……!」

 

 それはウルキオラにとっての禁句、それを天満は敢えて口にした。これでウルキオラのタイムラインをズラすことで様々な影響を及ぼすことができるのではないか、そういった意図を孕んだ行動は、だが突如として振り上げられた蟷螂の凶刃によって中断される。

 天満を狙ったその大柄の斬魄刀を、天満は斬魄刀の能力によって寸前のところで回避した。

 

()る気がねぇんなら俺に寄越せよ、ウルキオラ……!」

「……ノイトラ」

「俺と戦う気か、ノイトラ・ジルガ」

「アァ!?」

「それとも従属官からか、テスラ・リンドクルツ」

「……ウルキオラ様、この男は一体」

「どうやらそいつだけは俺達のことをコソコソ調べ回っていたらしい」

 

 やってきたのは藍染の座して待てという命令を端から聞くつもりもなかった十刃No.5(クイント・エスパーダ)のノイトラ・ジルガ、そしてNo.5従属官(クイント・フラシオン)である破面No.50のテスラ・リンドクルツだった。

 ウルキオラの言葉に調べ回ってたんじゃなくて一応本人の名乗りを聞いてるんだよな、と天満はふと思ったがテスラのフルネームは作中でも明かされていないことを思い、読んだだけだよなと考え直した。

 

「……代わってやるよ、ウルキオラ」

「そうか……好きにしろ」

「なにっ……チッ」

 

 響転でその場から去ったことで、天満はほっと息を吐き出す。そしてそれを見ていたノイトラが青筋を立てて天満を睨みつけていた。

 ノイトラにとってはそれは自分のことを調べているなら番号を識った上で──つまりウルキオラより自分の番号が一つ下だから安堵したのだと捉えた。無論、天満にとってはウルキオラよりは御しやすい相手であるからなのだが。

 

「テメェが数字を識ってるかどうかはどうでもいいが、これだけは識らねェみたいだから教えといてやるぜ、俺が──」

「──十刃最強だ! ってか?」

「何っ!?」

「笑わせんな」

 

 蟷螂は獲物を選ばない、只全てのものに対してその鎌を振り上げ威嚇し、牙を立てようとする──それが眼の前を通る馬車の轍であったとしても。その生き様を体現するかのように、ノイトラは相手の強さに関わらずその巨大な半月状の長物を振り回していく。重量武器はその重さという性質上引力で引き寄せても受け止めきれない。そんな時、天満は右と左に握る斬魄刀を切り替えるのだった。

 

「よっと」

「なんだァ? 弾きやがったのか、けど無駄だぜ!」

「……まぁそうだよな」

 

 左手に持ち替えた長刀の斥力で弾き、小太刀を振り下ろして攻撃するが、肩口を斬り裂くことはない。ノイトラが持つ最大の特徴はその鋼皮の霊圧硬度だった。全十刃の中で最硬だと語る言葉通り、ウルキオラよりも上だと判断した。同時に白打なんて打ち込もうものなら骨に異常をきたすだろうということも察しがつく。

 

「驚かねぇな、確かに俺のことも識ってやがると見た、だが識ってるだけで俺を貫く方法なんざねぇってことは識らなかったか?」

「めんどくさいな……もういいか」

「あ?」

 

 最初は斥力の白星で吹き飛ばすか、そう思っていたが相手の底を勝手に知った気になって嘲笑うノイトラの声が耳障りになったせいかいっそ卍解して殺すかと頭を切り替えた瞬間だった。天満の前に、()()でもはや懐かしくもある顔がやってきた。

 ノイトラもテスラも、天満も、反応ができずにいた。だがその登場に頭が一番最初に追いついたのは天満だった。

 ──その顔を見た瞬間に天満は警戒心を最大まで上げた。そしてその警戒通りに天満が右手に持っていた小太刀が伸びた刀を逸らしていた。

 

「射殺せ──神鎗」

「く……い、ちまる……ギン!」

「なんや、この前は壊れてしもうてたのに、随分と強くなったんやな……天満クン」

 

 立て続けにやってくる強敵に天満は勘弁してくれと泣き叫びたい気持ちになっていた。下手をしなくても此処でやってきた死神、市丸ギンは解放しないウルキオラよりも拙い敵だと判断できる。

 そのまま脇差しの長さまで戻った市丸の斬りかかりを受け止めながら、天満は徐々にノイトラから引き離されていくことに気づいていた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。