モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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思っていた以上に反応よかったので……(チョロ)
二話目にして平隊士じゃなくなったのでタイトルを変更しました

「護挺隊平隊士に憑依したみたいです」→「モブ死神に憑依したみたいです」

よろしくお願いします〜


PROLOGUE(2)

 男が稲火狩天満として生きる覚悟を決めてから数年後、彼は生まれ変わったかのように木刀を振っていた。

 史上三人目となる二刀一対の斬魄刀の所持者、その勤勉さから天満はいつしか上司に気に入られ十三番隊第十席が依頼除籍を申請したことで彼は下位席官ではあるものの、約十年のスピード出世となった。

 それからほどなくして、とある一報が天満の意識を向かせた。

 

「──十番隊隊長が、失踪……?」

「ああ、しかも志波家」

「それ本当か?」

「志波隊長が失踪したって?」

「あ、稲火狩十席!」

「お疲れ様です!」

「いやいや、畏まらなくていいんだけどね……それで?」

「は、はい……二度目の無断出撃の後、霊圧が現世で途絶えたと」

 

 ──遂に始まったか、と天満はやや目を細めた。ここから志波一心は助けた女性の滅却師、黒崎真咲と恋仲になる。そして、ここからは推測、推察でしかないことだが、大学四年間を経て結婚をし、すぐに長男黒崎一護が生誕するだろう。何かの年表で失踪から一護誕生までの期間が四年だったことが根拠だが、つまりこの世界の主人公たる黒崎一護が旅禍としてこの瀞霊廷へとやってくるまで、そして藍染惣右介が離反するまでおおよそ二十年ということになる。

 人間だった頃の感覚でいれば長いが死神としてはほんの一瞬だ。その間に、少しでも強くなりたい。彼のモチベーションは未来(さき)を識っていることで成り立っていた。

 

「や、天満クン」

「……市丸隊長、お久しぶりです」

「なんや、久し振りいう割にはあの時より随分緊張してるやないの」

「そりゃあ、隊長って存在がどんなものか身にしみる機会も増えたので」

「はは、ってことは昇進したんやね、おめでとさん」

 

 そんな彼も描かれていないことには対応できない。故に商店で突如として市丸ギンに声を掛けられたことで驚きと警戒を顕にした。してしまった。それすらも失敗であることに気づけぬまま、切り上げることもできずに市丸と言葉を交わす。

 祝いの言葉に天満は緊張気味に頭をさげて有難う御座いますと返答をした。

 彼が緊張しているのはタイミングの問題だった。志波一心失踪の真実に深く関わる人物が、このタイミングで声を掛けてくるというのは天満にとって警戒すべきものであった。

 だがそれは同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを相手に教えることでもあった。市丸からすれば()()と前置きをして十番隊隊長の名前を知りたがった後、その男が自分たちの実験の結果現世で死神の力を失った。そして話しかければ()()()()()()()()()()と反応される。彼への興味は尽きることがなかった。

 

「あ、今日は干し柿買ったんですけど、食べます?」

「──そんな物欲しそうな顔しとった?」

「いや、前のことがあったんで」

「やっぱりキミは面白い子や……三番隊(ウチ)にこおへん?」

「えっ」

 

 彼はその言葉を正しく捉え思考する。三番隊といえば、この後市丸ギンが離反し、暫定的に副隊長の吉良イヅルが隊長業務を代行し、後に無罪放免で復隊した鳳橋楼十郎(ローズ)が次の三番隊の隊長を務めることになる。

 なによりもしここで上位席官待遇をくれるなら、と天満は探りを入れる。

 

「ちなみに……何席で?」

「ま、とりあえず六席あたりでどう?」

「遠慮しときます」

「なんや、欲張りさんやなぁ」

 

 六席、がっつり上位席官であり、つまりはいずれ吉良を部隊長として滅却師の第一次侵攻に挑むだろう。

 彼の識っている未来ではその際、副隊長である吉良、三席の戸隠李空、五席の五里武綱、六席の片倉飛鳥と共にたくさんの一般隊士がバズビーによって瞬殺されている。その一員になれと言われているようなものだと天満は市丸の提案を断った。折角無駄にカッコいい斬魄刀を持っているのにアニメでは始解する描写すら省かれる噛ませ犬になるのは勘弁してほしい。

 

「いや、あんまり隊風にも合わないでしょう、俺」

「……確かに、あんまり細かいことに気ィ回る子ではないなぁ」

「でしょう?」

 

 天満はほんの少しだけ、三番隊に入るべきかを迷った。俺がいることで市丸ギンを救えるなら救ってみたい。そんなことを思わないわけではない。

 彼は離反組の一人ではあるが、その気持ちは常に十番隊副隊長である松本乱菊に向いている。そしてそんな彼女を苦しめた男、藍染を殺すため、斬魄刀にすらその目的と生き様を隠すほどだ。そんな理想と愛のために生きた男を救えるものなら救ってやりたいと逡巡したが、直ぐに()()()()()()と割り切り断った。

 

「……なんで()いてくるんです?」

「もっとお話したくてなぁ」

「隊長さんとおしゃべりすることなんてないですよ」

「ほら、斬魄刀のこととか」

「それこそ、探るのは無粋ってもんでしょ……」

「──おや、市丸隊長と……キミは」

 

 隊舎へと帰ろうとしても隣をキープしてくる市丸をなんとしてでも追い払おうと苦心していたところで新たな人物が姿を現した。

 げ、と声が漏れそうになるのを天満はなんとか堪えることができた。わずかにウェーブする茶色の髪、穏やかそうな顔つきと微笑み、そして黒縁の四角いレンズの眼鏡が特徴の、彼にとってまず間違いなく最も名前を覚えてほしくない人物ナンバーワンを堂々と飾る男、五番隊隊長藍染惣右介だった。

 

「これはこれは藍染サン、この子は──」

「──十三番隊の十席に就任した稲火狩天満くんだね」

「お、覚えていただき光栄です……藍染隊長」

「霊術院で教えたこともあったね、はは、僕の方こそ覚えてくれて光栄だよ」

 

 霊圧を放出しているわけでもないのに冷や汗が背中を伝った。名前を覚えられていたどころの騒ぎじゃない。市丸がもしかして俺のことを教えたのか、と疑問と疑惑の視線を投げかけると肩を竦められた。どうやら市丸の所為ではないことは読み取れたものの、ならば何故藍染が、当面の黒幕とも呼べる存在が自分に声を掛けるのだろうか。市丸の時とは比ではないほどに頭を回転し、ミスを踏まないようにと言葉を選ぶ。

 

「市丸隊長にしつこく異動を、というか勧誘されてしまっていまして」

「そんな風に思っとったん? ボクはただ仲良くしてほしいだけやのに」

「こらこら、こんなところで引き抜きとは感心しないな」

「藍染サンもこの子面白いと考えてココ、来たんと違います?」

 

 黙ってろ糸目、と内心で毒突く。なんでここで黒幕と黒幕の会話を聞かされなきゃいけないんだと天満がやや諦観を抱き始めたところで更に藍染は驚くべき言葉を彼に発した。

 ──それは先程の市丸とほぼ同じようなもので、それは、同時に何を意味するかを示しているものだった。

 

「面白い、というのは同意できるね……どうだろう、浮竹隊長に掛け合って五番隊に──三席になんてどうだろう?」

「光栄ですが、自分は浮竹隊長の生き様に()()()()()()ので」

 

 藍染の勧誘、それはほぼ事実上の裏切り者になれという言葉と同義だと天満は感じていた。市丸に何も言われていなければ何故藍染がそんな提案をしてきたのかは考えても予想がつくことはなかったが、もしくは本当は市丸が天満のことを教えていたとしたら、と考えると敵対するのは不味いかと考えたが、これが最も上手い躱し方だと判断した。

 

「そうか、残念だが諦めるとするよ」

「失礼いたします」

 

 駆け足で去っていく。いくら自分が未来(さき)を識っていても藍染惣右介に勝てると自惚れるような彼ではなかった。

 その根拠にはいくつかの理由があるが、まず霊術院時代の講義の中で彼の斬魄刀、鏡花水月の始解を目にしていること。これはつまり天満も完全催眠に陥るということである。

 そして相手が少なくとも隊長格の倍以上の霊圧を持つ化物であること。万が一完全催眠前に刀に触れたとしても、力圧しであっという間に殺される。

 だが味方をしたところで捨て駒がせいぜいだろう。それでは目標としている天満として生きるということにも反するからだった。

 

「つか……なんで黒幕側の隊長としか関われないんだよ……」

 

 関わるなら京楽春水がいい。彼の昼行灯ながら梟のように鋭くなる目付きに憧れがある。

 隊舎の周囲を散歩し、不平不満のありそうな隊士を見つけては飲みに誘い、そのストレスを発散してくれるような優しさと酒盛りがしたいという打算が織り混ざったような生き方に憧れを抱く。だが同時に、彼はそれゆえに八番隊も合わないだろうと確信していた。

 

「憧れは、理解から最も遠い感情──ですよね、藍染隊長」

 

 憧れは平安時代の「あくがる」という言葉が変化したもので、その意味は魂が身から離れるということ。憧れてしまえば相手に幾ら肉体が近くにあったとしても魂は別の場所にある。心此処に有らず、そんな状態でどうして相手の本質を見抜けようか。

 だから天満は「憧れ」という言葉を藍染にぶつけた。これがもし、もしも市丸が自身のことを教えていたとしたらそれは藍染惣右介の人と成りを理解した上で発言したということになる。少なくとも市丸はそう感じていた。

 そして市丸の態度が本当であったという証拠は憧れという言葉へのあの僅かな失望の表情だった。藍染相手に腹芸などと二度としたくないことではあったが、これで藍染は躱しきることができたと天満は確信していた。

 

「よ、十席殿」

「よせよ業平、お前と俺の仲だろう?」

「にしても急にやる気になったと思ったら、あっという間に十席だもんな、入隊したばっかの刀を振るうことにも振るわれることにもビビってたあの頃が恋しいぜ」

「──覚悟が決まったからな」

「覚悟?」

「護廷のために命を掛ける覚悟、んで何してでも生きて戻る覚悟」

「それ、教義的にどうよ。つか今平和だぜ?」

「……平和なもんか、もう予兆はあるよ」

「失踪……もしかしてお前は何か気づいたのか?」

「そんなとこだ」

 

 阿久津(あくつ)業平はゆっくりと瞬きをした。同期入隊の友人が決めた覚悟という言葉の中にはいずれ戦争があることを如実に示していると感じた。それを普段はおくびにも出さない。だが友人である自分には、こうして言葉で忠告しているのだと。

 

「俺は護廷の為と言って犠牲になることが覚悟だなんて思ってない。どんなに絶望的でも、一筋の光を目指して進むことだと思ってるよ」

「……なんか、本当に急に変わったな」

「それは認める、だから後で飲もうぜ」

「なんだそれ……いいね」

 

 友人に死んでほしくない。友人を必要ない犠牲の中から救いたい。天満が業平に掛ける言葉はそんなエゴイズムに満ちた、祈りに似た言葉たちだった。

 このままならば、業平は間違いなく死ぬ。十三番隊隊士は突如現れたユーグラム・ハッシュヴァルトには殺されることはないだろうが、どのみち聖兵に蹂躙されることには変わらない。一次侵攻で生き残ったとしても二次侵攻で死ぬ。

 そんな運命を弾き飛ばし、生き残るという運命を引き寄せるための力だと彼は拳を握りしめた。

 

「そういや天満、志波といえば、十三番隊(ウチ)にも貴族いたよな」

「朽木ルキア……さんのこと?」

「反応が早いな、流石十席殿、女史のチェックも欠かしてないと見た」

「そういうのじゃないって」

 

 業平の言葉に以前は十番隊の方が時系列的にわかりやすいと思考していたこともあるが、今となっては十三番隊でよかったと考えることが一つあった。

 この世界の未来(さき)の出来事──『BLEACH』のもう一人の主人公たる朽木ルキアは彼らの先達で入隊した人物にあたるのだ。現状は天満の方が上司ということになったが、実力的にはおそらく彼女の方が上だろう。そして彼女が現世駐在任務で空座町へと向かうのは二十年程先のこと、今のうちに仲良くなりつつ高め合うのもいいかもしれない。

 天満は、一歩でも一つでも強くなるために彼は目を閉じてこれからのことを思案していくのだった。

 

 

 

 

 




もしかするとヒロインは市丸なのかも知れない……いやそれはない、うんない。

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