モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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INTO THE DARK(3)

 突如始まった市丸との戦いは、当然ではあるが連戦であるため、天満の劣勢だった。一護の卍解である「天鎖斬月」に対して近接戦闘で斬り込める程の実力の持ち主であるため、不思議なことではないが、天満は「神鎗」の伸縮に、つまりは鋒に注意しながら小太刀で受けていく。

 

「そんなに打ち込んでたら、折れちゃいますよ!」

「ボクの神鎗は柔な斬魄刀ちゃうで」

「俺の斬魄刀がだよ!」

「ほんなら、こっちでどうや?」

「──ちょっ!」

「破道の三十三、蒼火墜」

 

 手をかざされた、そこから蒼火墜の炎が宮の中の一つに突き刺さり壁に穴を開ける。天満はその爆炎の中から転がるように建物の中に吹き飛ばされていた。

 既に元の状態に持ち替えている左の小太刀を構えて爆炎にまぎれて「神鎗」が伸びてくることを予測したが、その煙が瞬歩によって吹き飛ばされたと判断し、天満は全力で斥力を放つ。

 

「ええね、瞬歩も視えとる、な!」

「天引!」

「神鎗を受け止めるんやなくて逸らすんのもできるようになっとるんや、戦いが上手になってる証拠やね」

「おかげさまでね、破道の五十四、廃炎!」

「──断空」

「嘘でしょ、そこまで詠唱破棄して俺の鬼道を!?」

「別に驚くことでもないやろ?」

「そりゃ、そうですけど!」

 

 軽口を叩きながら、それはまるで尸魂界で刀を交えた時のような気軽さで、だが今度はお互いに本気の殺し合いをしていく。神鎗が伸びてくるかと予想しつつ、見せているだけで蹴りが飛んでくると判断した天満は斥力を放った刀身を横に向けて白打を弾いた。

 だが即座に「神鎗」を伸ばし、天満が頭を右に振って回避する。

 

「今のはどっちも使わずに避けたん?」

「タイミング的に無理だよ!」

「けどちょっと先読みに頼りすぎちゃう? ボクみたいな嘘吐きはそれを利用するんやから」

「解って、ますって! というかその科白も俺の先読みを乱す嘘でしょうが!」

「──正解」

 

 実際に市丸は天満が仕草や癖を見抜いて先を読んでいることに気づいていたため虚偽(フェイク)と白打を織り交ぜて攻撃を繰り出していく。元々天満の視認よりも高速化した戦闘をしているのに加えて見る部分が多すぎることもあり、天満はついに飛び蹴りを脇腹に叩き込まれ、床に転がる。

 

「いや、監視室おるのも楽しかったけど、キミと遊ぶのもええもんやね」

「いいんですか、回廊操作して遊ばなくて」

「それはもう一通りやったよ、今頃ルキアちゃんがアーロニーロと戦っとる頃や」

「後は阿散井副隊長がザエルアポロと、ですね」

「流石やね」

「どうも」

 

 そこで頭を切り替えて、時間的には茶渡がガンテンバインを倒し、一護がウルキオラと戦っている頃だろうか。自分がいたことでそれがどうズレているかは判別しようがないが、既に全員が「3ケタ(トレス・シフラス)の巣」を抜けたのだということは確実だった。

 それを教えてくれたことに心の中で感謝しつつ、天満は瞬歩で近づき剣戟を再開する。

 

「手の内を知られてるとやりにくいなぁ」

「俺が手の内を知らないやつなんていませんよ」

「いい言葉やね、ほんまに強くなったんやね」

「ええ、ただ、ウルキオラと戦って正直ボロボロなんで、手加減してくれると嬉しいんですけどね!」

「それは、出来ん相談……や」

「しま──っ!」

 

 先程の蹴りが効いたせいかフェイクに釣られて鋒が向けられた際の反応が一手遅れる。そしてその一手が勝負を決することになる。

 小太刀での防御が遅れ、左肩を斬り裂かれた苦痛に顔が歪み、だが天満はその神鎗の勢いを利用し、長刀を振り下ろした。

 渾身の一撃はただ少し届かず、半身で避けた市丸の足元が圧し潰されて抉れる。その威力に市丸は僅かに目を見開いた。

 

「一手、遅れとらんかったら、ボクの方が危なかったなぁ」

「痛、はは……届きませんでしたけどね」

「それで、ここなら藍染隊長も見とらん筈や」

「はぁ、はぁ……あ、藍染は、既に崩玉と融合してます」

「──っ!」

 

 倒れ伏した天満の傍にあった瓦礫の山に腰を下ろした市丸はその言葉に驚く。天満はそのまま今の市丸が知らないであろう藍染の情報を伝えていく。崩玉には意思があり、周囲の願いを叶える力があること。藍染はそれと融合することでやがて不死となり、完全に従えることになる。

 

「……藍染隊長が」

「それで……ここからは、俺の識る未来の話、ですが市丸隊長は卍解の真の能力を使って藍染の胸に穴を穿ち、一時は崩玉を奪い取ります」

「でも、ボクは死ぬ」

「ええ……死への恐怖から覚醒し、不死となり、また崩玉と完全に一体化するため奪った崩玉と藍染が引き合うことになります」

「ほんで居場所がバレておーしまい、ってことやね」

「……はい」

 

 市丸は自分の死の運命を知った。尸魂界ではどうしても伝えることができなかったその事実を、未来を伝えることが出来たことで、天満はこれで虚圏に来た目的は達成できたなと天井を見た。死ぬほどの傷ではないが、ウルキオラとの戦いで最初の虚閃を僅かに逸したものの食らったこと、加えて市丸との戦いで既に身体が動かない。

 

「殺しますか……俺を」

「殺す……ってゆうたら?」

「流石に、それは全力で抵抗しますよ──それで市丸隊長を殺すことになっても」

「ならボクも、殺すなんて言わへんよ」

「俺も、市丸隊長を殺すつもりなんてないですよ」

 

 力無く笑う天満に、市丸はここで初めて、彼がどうして自分と関わってきていたのかを確信した。

 自分が考えた最高の計画、完全に格下しかいない状況で、鏡花水月を使う必要もない場面で刀を振り抜こうとしたそれに触れ、卍解の毒で殺す。それが市丸の抱いていた「神殺し」なのだ。だが天満にそれを真っ向から失敗すると告げられ、市丸は稲火狩天満が二十年で急激に力を付けた理由の一つ、命を救いたいと願うその「命」の中に自分が入っていることを知った。

 

「キミは……本当に面白い子や」

「けど、俺は神殺し足り得ません……時間が足りなかった」

「でも、藍染隊長は止められるんやろ?」

「ええ、彼がいますから」

「……黒崎一護」

「藍染は自分の目的のために一護くんを育てた、けどそれはまた別の意思に拠るもので、最後の最後で藍染の想定を大きく突き放します」

 

 その意思、ユーハバッハの意思に拠るのは非常に業腹だが、未来(さき)を識ってから約二十年、それだけの時間では超常的な力を持って世界の法則さえも変えようとする上位種に刃を向けることは叶わない。瀞霊廷に潜む影の領域に踏み込んでも返り討ちに遭うのが関の山であるし、藍染には刃を届けることすらできない。それが今の天満の力なのだから。だからそこは黒崎一護に頼るしかない。未来(さき)を識っているのに結局は原作主人公にその覚悟を預けることしか出来ない。

 

「……結局、乱菊が取られたもんを取り返すことも出来んまま、か」

「それは……」

 

 そうして天満は迷った末に乱菊の魂魄の行く末を語った。彼女は魂魄の90%を削り取られ死ぬ筈だった。だが藍染にも意外なことだったが彼女はその10%の魂魄で動き、死神として副隊長としての力を有していた。その90%の中に混じっていたのが「霊王の爪」なのだから。それは多数の死神と死神の才を持つ魂魄を練り合わせて創られた「ホワイト」という虚になった。

 

「霊王の……乱菊ん中にそれが?」

「だけど霊王の部位には……俺も断言できることじゃないんですけど、親から子に転移するって特性があります。恐らくホワイトの転移はそれなのかと」

「……つまり、()()()()?」

「でしょうね……すいません、これは流石に確証ではないです」

 

 

 ホワイトから真咲へ、そして真咲から一護へ。こうやって霊王の欠片は百万年という悠久の時を過ごして来ている。欠けることなく、失われることなく。それが幸運でもあり、不幸でもあった。

 市丸はその真実を知り、大きく息を吐いた。崩玉を奪えば全てが終わりだと思った。そこから乱菊の魂魄を取り戻せると思った。けれどそんな計画も全てが無意味だと識って、市丸ギンはこの百年の自分を振り返って呟いた。

 

「……しょうもな」

「市丸隊長……」

 

 天満は乾いた笑いをする市丸に向けて何も言えなくなってしまった。浅い慰めの言葉なら幾らでも持ち合わせている。けれどそんな言葉で市丸を癒せるかと問われれば当然、首を横に振ることしかできない。

 だが、それを徒労だと思わせたとしても天満は市丸ギンという命を救おうと決めて虚圏に来ている。そう決めている以上天満としても退くわけにはいかなかった。

 

「必要なら、俺も罪を背負います……」

「……何を言うてん?」

「俺はあんたを利用した。あんたが俺を利用したように、俺だって」

「だから共犯やって?」

「そうでしょう……だから謝ったらいいとか、遺さなくていいとか……俺が赦さない。死ぬ気だったら、あんたを動かなくなるまで痛めつけてでも、松本副隊長と、吉良副隊長の前に差し出してやる!」

「……キミは」

「そん時は、俺も一緒に殴られてやりますよ。共犯者としてね」

 

 身体が軋む感覚がするが、天満は長刀にもたれかかるようにフラフラと立ち上がる。身体は限界、鬼道を放つ余力もない。当然瞬歩なんて使える状態じゃない。それでも、気力だけで天満は市丸の前に立ってみせた。それどころか二刀を水平に持ち卍解の構えすら取ろうとする。

 ──そんな天満に対して、市丸は瞬歩で距離を詰め、手をかざしその意識を奪っていく。

 

「キミの気持ちは受け取っとく、だから……今は眠っとき」

「……はく、ふく……!」

「おやすみ、天満クン」

 

 天満は目の前が真っ白になって景色が塗りつぶされていくような感覚の中で必死に手を伸ばした。

 その後、市丸は天満の読んでいた未来で行ったように複雑な鬼道の結界を張り、天満の霊圧を隠した。元から巨大になったと思ったら徐々に小さくなったことも重なり、恋次と石田は着替えると言い始めたザエルアポロを無視して走り始めていた。

 

「天満の野郎まで……」

「黒崎は、一度消えたと思ったけど、戦ってるみたいだ」

「ああ……!」

 

 一護はグリムジョーとの死闘を繰り広げ、ルキアはアーロニーロと相討ちかと思われたが凍結により僅かに息があり、茶渡も気絶しただけだった。だが茶渡には葬討部隊(エクセキアス)が迫っており、ルキアの元にも十刃No.7(セプティマ・エスパーダ)であるゾマリ・ルルーがその首を取るために動き始めていた。一護にも、その激闘全てがノイトラによって観察され続けていた。

 刻一刻と状況が悪くなっていく中で天満が次に目を覚ましたのは、上半分が吹き飛んだアーロニーロの宮だった。

 

「──っ!?」

「わ、動かないで……結構酷い傷ですから」

「は、花太郎さん!?」

「は、はい……花太郎です……?」

 

 上体を起こすと、白伏を受けた後の目眩がしたが、そこには既に朽木白哉と虎徹勇音、山田花太郎がおり、ルキアもまた心配そうな顔で天満を見つめていた。

 その状況で、自分が結構な時間気絶していたのだと気づき、天満は霊圧を探知する。今は更木剣八がノイトラと戦っているのみ、だが既にノイトラも帰刃状態だということを探知した。

 

「天満さんだけ、傷の他に白伏を受けた痕跡がありました。まだ身体を起こすとふらつきませんか?」

「……ええ、まだちょっと」

「じっとしていてください」

「……すみません」

「天満……お前、誰と戦っていた?」

「市丸ギン、です」

 

 それはルキアにとっては意外であると同時に白哉にとってみれば「白伏」の形跡から破面ではなく死神であること、とすれば京楽と日番谷の報告から市丸ギンであることはある程度は予測できたことだった。

 既に隠すことでもない、故に白哉は天満に問いかけた。

 

「……奴は」

「……わかりません、ですが目的は、未だ変わらないかと」

「そうか」

 

 白哉は、ほぼ同時に隊長となった彼の姿を思い描いていた。本心を決して悟らせず、冷ややかな印象のあった男。そんな彼の本心は護廷からは程遠い復讐だったことを知った。

 只、孤独であった彼が、離反した裏切り者として扱われるべき彼がこうして案じられている。それはきっと市丸の本懐ではないことも白哉は理解していた。

 

「稲火狩天満、今は傷を癒せ」

「……はい」

「戦いはまだ終わってはおらぬ……お前が案ずる男の戦いもまだ」

 

 天満は白哉の言葉に頷く。脳裏に全てを識った市丸の顔がこびりついたまま剥がれない。まさか自棄になってしまうのではと思わせるようなため息が、天満の身体を焦燥で満たしていた。

 残る十刃はウルキオラとヤミーの二人。正直な気持ちとしてはウルキオラにお礼参りをしてやりたいという気持ちもあるが、ソレ以上に厄介なのがヤミーだった。

 ──天満の回復が終わった頃には「天挺空羅」が頭の中に響き渡る。虚圏での最後の戦いが始まろうとしていた。

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