モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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INTO THE DARK(4)

 大挙として押し寄せる虚を天満は斬り裂いていく。迷いを断ち切ったのか、あるいは市丸との戦いで、ウルキオラとの戦いで何かを掴んだのか、もはや彼の動きは、少なくともルキアには護廷十三隊の隊長と遜色ないように感じられた。

 防御不可の斥力による一閃で巨大な虚の首を切り落とし、集団で迫ってきていた虚に対して左の小太刀を回転させたことで生んだ黒星を放ち、圧し潰していく。

 

「天満!」

「ルキアさんはあの破面をお願いします!」

「……ああ!」

 

 あの破面と天満が呼称した──ルドボーン・チェルートの「髑髏樹(アルボラ)」は樹木であるという特性上、氷雪系には弱い。故に葬討部隊を産み出す大本を叩いてもらうため声を掛けた。

 既に一護はウルキオラとの戦いへと向かっている。ならばと天満はいずれ出てくるであろう最後にして最強の十刃に意識を向けていた。

 

「……っ!」

「なんだ?」

「始まるか……」

 

 その音はウルキオラが天蓋を破った音だった。十刃の中でNo.4以上の数字を持つものは虚夜宮を破壊しないよう天蓋内での解放を禁じられていた。破ったということは、一護は絶望的なまでの力の差と対峙する。天満はそれを知りつつ、その結末に悲しみを生むことを知りつつ、流れのままにした。

 

「な、なんだ……こりゃあ!?」

「天蓋の上……霊圧、なのか……?」

 

 すぐにウルキオラの霊圧が天蓋の上を覆い尽くすようにのしかかってくる。識っている天満でも、石田雨竜の表現が正しいことをその身で味わっていた。虚の霊圧は色で判断するなら黒だ。ザラザラとしていて、色も重たい。破面はそこに死神のような色が混じる異質なものとなり、刀剣解放することでまた虚の色に戻る。だがウルキオラの色はザラザラとした感覚がない。ただただ濃く、重たい黒色が頭上に溢れていく。

 

「ヤバかったな……あれは」

 

 解放しろと挑発した手前勝てると豪語したいところだったが、天満はその霊圧に汗を掻いていた。戦ったなら卍解したとしても間違いなく勝てないであろう相手との力量差にまだまだだな、と小さく呟く。

 一護の中にある虚の力はそれを上回るのだから、それも驚くことしかできないのだが。

 ──そのまま虚を押し留めていると突如、塔の下部から巨大な破面がルドボーンを弾き飛ばしながら外へと出てくる。

 

「何だァ!?」

「……こいつは」

「ヤミー……!」

「ヤミー、日番谷隊長が言ってた十刃か!」

「ああ……だが妙だ」

 

 茶渡は見上げる程に大きなヤミーの姿を見て、困惑する。無理もない、茶渡が戦ったヤミーとは、そして天満が目撃したヤミーとは身長が倍になったのではと思うほどの大きさに変貌しているのだから。

 寝て霊圧を溜めることで身体の大きさが変化する。その特性を持つヤミーの完全回復状態は、叫ぶだけでめちゃくちゃな霊圧を飛ばしていた。同時に天蓋の上から巨大な虚閃が周囲の砂を吹き飛ばしていく。

 

「とりあえず、ヤミーに集中しましょう」

「おお!」

「ああ」

「ザコ共が!」

 

 どうやら既に天満のことも忘れているようで、基本的に脳筋で、自分を傷つけた、ムカついた奴だけ憶えているという感じなのかと観察した。流石に四対一は鬱陶しいようでヤミーは虚弾などを使ってまとわりつかれないようにする。

 だが天満の長刀から生まれた白星がヤミーを吹き飛ばし、塔にめりこんでいく。

 

「炎輝白星……!」

「カスが……ちょっと吹き飛ばしたくらいで……!」

 

 ──そのタイミングで上にあったウルキオラの霊圧が完全に消失する。本人からすれば勝ったとはとてもじゃないが言えないだろうが、黒崎一護が勝利した瞬間だった。

 ヤミーはそれを苛立ち気味に塔に裏拳で怒りを散らす。そして更に身体が巨大になることで数字が顕になった。そこに刻まれた数字は十番(ディエス)、全員が一瞬でも十刃と対峙したがその誰よりも数字は下だった。

 

「デカさにビビっても始まんねぇ、とっとと倒して一護拾いに行くぜ」

「……恋次」

「あぁん!? 俺を倒すだぁ、テメェらみてぇなクソカスがか? 笑わせんな!」

「来るか」

「……天満さん?」

「ブチ切れろ──憤獣(イーラ)ッ!」

 

 解号と共に数字が変化していく──「10」だった肩の数字は「1」が消滅し、その真の番号が姿を現していく。

 同時にその巨躯はもはや見上げても足らないほどの巨獣のようだった。最強の称号である十刃No.0(セロ・エスパーダ)ヤミー・リヤルゴがそのベールを脱いだのだった。

 

「炎輝、白星!」

「効かねぇなぁ!」

「……手で弾くって、本当に化け物かよ」

 

 最大技でも手で払うだけで全く効果を発揮できないことに天満は唖然としてしまう。

 ならばと長刀で腕を斬り裂いていく。腕の太さだけでも分厚すぎるため切断は出来ないが、鋼皮ごと斥力で圧し潰し、かき分けるように腕の一部を刀でもいでいく。

 

「その、能力! てめぇ、ルピを殺ったやつか!」

「今頃思い出さないでほしいな」

「こんなちょっと肉を削ったくらいで、いい気になってんじゃねェ!」

「うっ!?」

「天満!」

 

 虫を払うようにして手を払われ、天満はその勢いを斥力で殺したものの地面に叩きつけられる。蛇尾丸も通用しない、茶渡の「魔人の一撃(ラ・ムエルテ)」もヤミーの鋼皮と霊圧に全てが防がれる。その霊圧は斥力を伴っているはずの天満の長刀が軋む感覚があったほどだった。

 

「なら俺が卍解して……!」

「なんだァ!?」

「ぐ、うぉ……!?」

 

 地面に叩きつけられた拳打の余波で置きた砂の波と瓦礫に呑まれて恋次は下敷きになってしまう。ルキアの発生させた氷も、体表をほんの僅かに凍らせるだけでダメージにはならない。ならばと天満は素早く指を斥力で無理やりにでも引きちぎってやると瞬歩で近づいたがその上空、ヤミーの顔が大口を開けておりそこから黒い、一護の卍解状態の月牙天衝のような虚閃──黒虚閃(セロ・オスキュラス)が放たれた。

 

「おおぉぉぉぉ──!」

「茶渡くん! 頼む炎輝天麟ッ!」

「どうだ! コイツが解放状態の十刃だけが放てる黒い虚閃だ!」

 

 茶渡が間に入り「巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)」を盾のようにして弾こうとするが、黒虚閃に呑まれそうになる。天満が斬魄刀の斥力と引力を全力で放出し、なんとか左に逸らしていく。

 瞬歩でヤミーの暴れる外まで気絶した茶渡を運び寝かせる。その間にルキアは建物の陰に隠れつつ、鬼道などで攻撃していたが、ついに捕まってしまっていた。だがそのタイミングで一護が天蓋の上から降りてきた。

 

「大丈夫ですか、ルキアさん!」

「天満さん、ルキアも……チャドは?」

「茶渡くんは俺が運んだよ、向こうで気絶してる」

「ふたりとも……ここで待っててくれ、すぐに片付ける。こんな戦い、とっとと終わらせるんだよ」

 

 瞬歩でヤミーと一人で対峙していく。そして飛び回り、天満たちや恋次、茶渡からヤミーを遠ざけていく。虚化した月牙天衝に叩きつけられるようにして倒れ伏したヤミーを憂いの表情で見下ろし、そして仮面の模様の変化、彼の内面に納得できないという気持ちが積み重なっているのが如実に現れていた。

 

「天満は……一護の虚化の仮面を見たことがあるか?」

「ええ……まぁ」

「今の仮面、少ししか視えなかったが……模様が完全に別になっていた」

「はい」

 

 ルキアの違和感は彼の表情からくるものなのだろうと天満は感じていた。自らの破壊衝動とも言える完全なる虚化、一護がそれを恐れている。この後きちんと虚化したのは「一刀火葬」の隙を衝いた月牙天衝を放った時の一回だけだ。後はウルキオラを斃した破壊衝動に圧し潰されまいと中途半端な虚化しかできなくなってしまっていた。それどころか、虚化すらもできずに仮面が霧散してしまう。

 

「──破道の三十三、蒼火墜」

 

 捕まった一護を救ったのは白哉の蒼火墜と剣八の、天満を含む全員が苦労していたヤミーの肉体をあっさりと切り落とした斬撃だった。流石の十刃最強を以てしてもあの二人には敵わない。護廷十三隊の隊長の中でも指折りの力を持つ二人なのだから。

 それと同時に天満は卯ノ花の霊圧を感じてルキアと恋次、茶渡を抱えて瞬歩で彼女の前へと移動する。

 

「天満さん」

「卯ノ花隊長」

「山田さん、お願いします」

「は、はい!」

「では、行きましょうか天満さん」

「はい──ん、えっ……今なんて?」

 

 天満は卯ノ花の言葉に一度脊髄反射で返事をしてから問い直した。それには答えず、卯ノ花がチラリと天満を窺ってから一護や涅、白哉の元へと移動するのを天満は慌てて追いかけた。

 ──移動しながら、天満はついこの間、瀞霊廷でも同じような展開になったなぁと苦い顔をする。どうやら卯ノ花によって自分まで連れて行かれるらしいということにはもう、気づき始めていた。

 

「二人揃って自ら進んで験体志願とは、酔狂な事だネ」

「……俺は自らでも進んででもないんですけどね」

「あら、私は貴方を信用しているのですよ涅隊長……天満さんも大丈夫、この実験は()()()()()()()

 

 俺を巻き込まないでくれ、と天満は目を閉じた。けれど現世で「解空」とその内部「黒腔」を解析し続けた浦原喜助に対し、虚圏で破面の研究者、ザエルアポロの研究室から資料を読み漁って解析したものでは精度もまるで違うに決まってる。それで失敗しようものなら浦原関係なく科学者の沽券に関わる問題だろう。だからって煽るのはやめてほしいと天満は不穏な会話をどうにか聞かない振りをしてやり過ごしていた。

 

「天満さん、勇音」

「……はい」

「はいっ!」

「勇音は残って朽木隊長達の補佐を……さぁ参りましょう、黒崎さん、天満さん」

「ま、待ってくれ! ヤミーってやつは強いんだ、俺も残って……!」

「思い上がるな黒崎一護……護廷十三隊の隊長に、兄如きが助けになる腕のものなどおらぬ」

「……白哉」

 

 それは、即ちいつもは言い争いをし、剣を交えそうな程の剣八のことを認めているということでもある。静謐ながら誇りを以て刃を振る白哉とは正反対だが、その強さ、独力でノイトラを斃して見せた実力は確かだ。そして何より彼は戦うだけのケダモノというだけでなくて、己の剣で拓いた道に隊士たちがついていくというカリスマもある。実際に十一番隊の隊士たちは自身のことを「更木隊」と呼称する。それほどまでに強く、そして気高さすらもあるのだから。

 

「行け、兄は空座町の死神代行だろう」

「……あァ、そうだ──行ってくる」

 

 こうして、世界を救う英雄は己の街を護るために、仲間を護るために現世へ向かうこととなる。

 ──そして、天満もまた。巻き込まれる形でその場所へ。俺も藍染の肉壁にされるのか、と今後の展開に不安を抱きながら黒腔を見つめていると白哉が天満に声を掛けてくる。

 

「稲火狩天満」

「はい」

「命を救うことが兄の信念ならば、それを貫け」

「……有り難う御座います、朽木隊長……それと、すみませんでした」

「……何を謝る」

「ルキアさんのこと、任されたのに」

「良い、あれはあれで己の誇りを護ったのだ……兄を責めることはせぬ」

「では、行って参ります!」

 

 アーロニーロが志波海燕の肉体を持っていたことを知ったのだろう、天満はそう判断しながら一護の先導で黒腔内へと突入する。だが天満と卯ノ花は進んでいくうちにその、一護の雑さを思い知ることになるのだった。

 薄くて足が抜けそうな部分も多く、途中で道が崩れることもある。卯ノ花の怒りのメーターが頭の横に見えた気がしたが、天満が何かを言う前に卯ノ花が藍染について言葉を紡ぐ。

 

「鏡花水月の発動条件は相手に始解を見せること、私達護廷十三隊は勿論、貴方達が通じている浦原喜助の一団、そして彼の部下である破面や十刃に至るまでその始解を目にしています──そう、黒崎一護さん、あなたを除いて」

 

 一護だけが鏡花水月の完全催眠に掛かることはない。藍染としてはそれも意図したことなのだろうと天満は感じていた。藍染惣右介は一護が自分と刀を交える瞬間を、自分と同じ高みに至る瞬間を心のどこかで待ち望んでいる。それが叶わないなら死神の力など失っても構わないとでも言うほど、彼は渇望している。

 

「……ところで一護くん、俺が前を走ろうか」

「え?」

 

 そんな話が一区切りついたところで卯ノ花の怒りのメーターが溜まりそうになったため、ここだろうと天満が口を出す。今の一護は霊力が半分以下の状態だ、それを卯ノ花に治してもらうためにも天満が先導するべきだろうと口にした。だが、一護は呑気に断ろうとしてくる。

 

「イヤいいよ、霊圧の消費を心配してくれてるなら」

「──天満さんと代わってあげてください、黒崎さん」

「でも」

「天満さんと代わってあげてください」

「……はい、あの……なんか、すいませんでした」

 

 結局、卯ノ花の圧力に負けて天満が前を走る。流石に卯ノ花が作るようにはいかないが、それでもちゃんとした道、舗装された道を意識して足場を作っていく。それを見て、一護は眉根を寄せながら道を見る。やはり自分の道がちゃんと作れていないというのは行きでも実感したことなのだろう。

 

「……天満さんが作るとこんなもんなのか……さすがにショックだ」

「卯ノ花さんならもっとキレイな道になると思うよ」

「黒崎さんは生来、霊圧が雑で不向きなのでしょう」

「いやでも、俺も霊圧が全快ならもうちょいイケるって」

「あらまぁ、寝言にしては目が開きすぎていますよ」

 

 流石は卯ノ花さん、と天満はその皮肉たっぷりの言葉に先導しつつ苦笑いをする。だがここで一護が自分の死覇装を含めての卍解で、今は霊圧が右袖分しかないと言い訳をする。そうじゃなくても結局行きの時に茶渡が落ちかけるという危険な状態を経験しているのだから無駄な言い訳でしかないのだが……だがそれが卯ノ花の気づきになる。彼が霊圧を回復させきっていないのだと。そして傷が治っている状態なら霊圧の回復など訳ないことだと。

 

「天満さん、そのままお願いします。私は黒崎さんを」

「はい、道はお任せください」

「なぁ、天満さん」

「ん?」

「いっこ聞きたかったんだけど、天満さんってルキアと同じ浮竹さんの隊なんだよな?」

「十三番隊だけど?」

「純粋に疑問なんだよ、なんでこうやって、色んな隊長の指示で動き回ってんのかなって」

 

 一護は少しだけ疑問に感じていた。それは彼の卍解を知らないということも含まれているのだが、初めて会った時には独断行動だったのにも関わらず、現世に来た時には先遣隊に選ばれた理由こそ総隊長だったが日番谷の指示で色々と動き、白哉の指示で虚圏へとやってきて、今は卯ノ花の指示でこうして現世への道を作って一護の前を歩いている。彼はそこに、天満の不思議さと不自然さを感じていた。

 

「……俺には俺の目的があってね」

「天満さんの?」

「ああ、それに隊長たちが気を回してくれてるんだ……ですよね、卯ノ花隊長?」

「ふふ、さあ? ですがあなたは現世に向かうべきです。追いかけたいのでしょう?」

「……ええ」

 

 最初こそ困惑したが、白哉の態度と卯ノ花の態度、両方を鑑みて天満は隊長たちの暗黙として、天満が彼の間違いを正すべきだと考えていることに気づいた。知っている隊長だけの公然の秘密というものだ。だからこそ協力している隊長たち、四番、六番、八番、十番、十三番の隊長たちは密かに約定を交わしていた。

 ──稲火狩天満を、市丸ギンの元へ。孤独で戦い、そして死のうとする市丸に本当の意味で刀を向けられるのはもう、その共犯者たる天満の役目だと。そのために、天満は一つの嘘を突き通そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 


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