モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
黒腔内の濃淡が段々と白に近づいていることで、天満は道の終わりを感じ取っていた。既に一護も死覇装が全て元に戻っており、いつでも戦えるという雰囲気を醸し出している。
そんな一護をチラリと窺い、天満は一護が飛び込んだ瞬間の現世の状況を思い出す。そして黙祷するかのように目を閉じた。
──彼が悼んだのは東仙要であった。死神としては魂の混在という自分の秘密を知られぬようにと意図的に避けてきた男だが、彼自身は虚圏に突入したタイミングで死ぬことが確定してしまっていた。
虚化し、更には
「一護くん、もうすぐ外だ」
「ああ、俺が前に出る」
「……頼むよ」
そして空間を割って出た瞬間、黒崎一護は藍染の真後ろへと出た。そのまま全力の月牙天衝を振り抜くが、それは藍染が仕込んでいた100万の層から成る防御壁「ミジョン・エスクード」が張られており、不発に終わってしまう。
それを見送った天満と卯ノ花はそれぞれの場所へと瞬歩で移動する。
「私は負傷者の救護を」
「……じゃあ俺は、あの人のところへ行きます」
「ええ」
天満は藍染と隊長たちの戦いを呑気に観戦していた、その前までは猿柿ひよ里を切断するという仕事はこなしていたが、それをしてからというもの傍観に徹していた市丸ギンの元へと移動した。
そして、そのまま何かを言う事もなく解放していない刀を振り抜き、市丸に襲いかかる。
「天満クン、なんや追っかけてきたん?」
「不本意ながらね!」
「おっと、へぇ……持ち替えも上手になってるんや」
かつて尸魂界で市丸に言われた解放前の弱点、これを天満は度重なる鍛錬で克服していた。尤も京楽春水でも未だ僅かに癖が出るため消しきれているということは絶対にないが、市丸はそれを含めて評価を下す。右は前のめりで左は消極的、その癖は解放した際に左が護りの小太刀、右が攻めの長刀という状態を基本としているが故だ。
「藍染隊長、ちょっと天満クンと遊んで来ますわ」
「ああ、構わないよ」
あの数の隊長格を前にしても一歩も退かないどころか余裕の表情で側近が離れることを了承する藍染に市丸も、誰も勝てるわけがないと断じており、それに関しては天満も同感だった。結局対応されてしまうため、天満は鏡花水月の弱点を隊長達には伝えていなかった。そんなことをしても無駄に足を鈍らせることになるし、黒崎一護が見ている以上は最後の一撃を食らう寸前に発動して入れ替わるくらいしかできない。そこに雛森を選ぶ醜悪さは天満も苦い顔をしてしまうが。
「さて、なんで来たん?」
「少しばかり提案がありまして……市丸隊長、以前言いましたよね? ボクと一緒にワルモノやってみたいとか思ってくれへんの……でしたっけ」
「言うたなぁ、よう憶えてるな」
「やってあげますよ、ワルモノ……一芝居打って、それで俺がアンタの運命を変えてやる」
「出来るん? ここまでキミは運命を変えてこれたって自信持って言える?」
「……いいえ。なにせ、俺が変える大きな運命はまだ後のことなので、けど……
「ええで、ボクに負けを認めさしたら……な?」
「そう言うと思った、本当にあんたは強情だ……」
迷いなく、これほどまでに迷いなくこれを唱える日が来るのを天満は心のどこかで安堵していた。
自分の卍解は宇宙を創り出し、星の一生を操る創世の能力とそれとは違うもう一つ、感じていることがあった。茶渡の影響はわからない。恋次の影響も。だが日番谷は少しずつ自分の能力の真の力に辿り着きつつあるし、ルピは疑う部分もあれど顕著だった。
──自分の卍解にはもう一つ、別の能力が存在する。それを確かめる上での市丸に向けた刀でもあった。
「今度こそ、本当に本気ですからね──卍解! 炎輝天麟星皇創世ノ嘶!」
「……ならボクも、手加減なしや──卍、解……
瞬間、天満は市丸の卍解に対応し超重力の星を生み出し、そちらへと誘導し、逸らす。
神殺鎗と神鎗の違いはただ伸びるのではなく一瞬、刀身が塵になるという、奇しくも松本乱菊の灰猫の始解に酷似している。だがそこから繰り出される伸縮は始解の比ではない。最速伸縮の斬魄刀、神殺鎗の脅威。だが塵になった瞬間を重力で捕まえれば、天満にも回避のしようがある。
「これ、初見じゃ防げへんのやけどな」
「初見じゃないんだよ、残念ながら。見飽きたってくらい見てるよ……ただ毒使ったりしませんよね?」
「さぁ、手加減なしって言うたからなぁ」
「冗談じゃないですよ! というか最速の卍解の名前、俺が奪い取ってやる! いけ、流星!」
「……っ!」
遥か彼方でチカチカッと輝いたと思った瞬間、瞬歩で退避し伸縮で破壊したものの、市丸の身体があった場所に目に見えるスピードを遥かに超えた速度で星が流れてきた。一発一発も星同士が衝突すればジャイアント・インパクトが起きるほどの大きさのものも出現させることができる。ミニチュアの宇宙で起きるこの現象全てを操る卍解に市丸は本気の称賛を送った。
「えらい卍解に至ったなぁ」
「本当に、俺もそう思います──来い、白星刀」
「それは?」
「炎輝白星を刀にしたもの、って言えば楽に説明できますかね」
「……当たったらどうなるんやろ」
「死にます、触れる前に」
「はは、黒い方も出せる……よなぁ」
「ええまぁ……黒星刀」
天満は光背から出現した二刀の、天満の浅打と同じ長さの白と黒の刀を両手に持ち、重力を完全に無視した動きでふわりと浮遊しているように市丸に向かっていく。それをしながらも四方八方から光の速度で星が市丸へと降り注いでくるという状況に、市丸は笑みを浮かべた。
「神殺鎗・舞踏連刃」
「──いきなり、っちィ!」
「油断しとったらアカンよ、ボクを負かしたいんやったらな」
それでも自分にとっても必殺技に近い、舞踏連刃で二三箇所の切り傷だけで済んでいることには市丸自身も目を瞠るほどの驚きがあるのが正直な感想だった。そして天満も、明らかにルピの時とは違う、集中している感覚がある。それはルピを殺すことに少しの躊躇いがあったのに対して、こと彼に対しての攻撃に少しの躊躇いがないことに加え、ウルキオラや市丸との連戦で先読みしての動きに漸く身体がついていくようになったということも関係していた。
「手でしか星は操れんみたいやな」
「そうなんです、それが今の課題でしてね、ただ」
「ん?」
「コイツらは手ェ離しても、周囲に浮いてくれるんですよ」
「……っ!」
「巨星衝突」
白と黒の刀から手を離し、出現させた半径だけでも市丸の数倍の大きさと、それに相応しい質量を持つ星を二つ創り出し、腕を交叉させるようにすると市丸を挟む。
天満は常に重力渦に護られているためそれほど被害があるわけではないが、宇宙空間内に大爆発が巻き起こる。惑星同士の衝突、あるいはディープインパクトと呼ばれる現象の簡易版がそこには広がっていた。
「……断空か、何かしらの結界を張ったな」
「いやぁ、天満クンの斬魄刀が鬼道系やってこと憶えてなかったら詰んどったわ」
「星の爆発に巻き込まれてその科白出せるの、もう化け物ですよ」
「太陽同士やったら、もっと危なかったんとちゃうん?」
「太陽……恒星同士だと卍解すら破壊しかねないんで」
「あらら、過ぎた炎は己すら焼く……って感じ?」
「ええ、なんで今んとこの最大技は、ルピを殺したこれになりますね」
「……これは、ボクの卍解も呑まれてしまうなぁ」
「縮退恒星、ブラックホールです!」
光を歪ませる程の重力の奔流、それは藍染が愛用する鬼道「黒棺」よりも圧倒的な破壊のエネルギーだった。神殺鎗を向ければそのまま斬魄刀ごとぐしゃぐしゃにされると判断した市丸は天満本人に「舞踏」を繰り出す。だが天満も驚いたはずの不意打ちを、周囲に浮いていた刀のうち、白い方が勝手にそれを弾いた。
「──っ!?」
「炎輝、ありがとう」
『いいえ、この程度なら造作もありません』
「その刀、まだ秘密があるん?」
「いや、違うんです。炎輝天麟が護ってくれたんです」
「……なるほど、ボクには見えんけど、そういうもんやったわ」
卍解をすると具象化した斬魄刀が周囲に顕現する。
尤もそれが戦いに介入してくるというのは聞いたことがないため、市丸は驚き、天満もまたどういうことなんだろうなぁと考えていたが、一つだけ腑に落ちる説明があった。
「舞踏が当たるって運命を、卍解したことで勝手に弾き飛ばした……ってのはどうでしょう」
「そんなことして、バチが当たるんとちゃう?」
「捻じ曲げてでも、俺に都合のいい未来を、結果を引き寄せるためですよ!」
恒星を創り、それを再び天満は手の中で圧縮していく。星が生まれて死せるまでの億を優に越す年月、尸魂界が生まれてから今日まででは足らない程、気の遠くなる年月を必要とするその工程を天満は手の中で数秒で終わらせる。悠久の圧縮、老いを操るバラガン・ルイゼンバーンですら恐らく時間を要するであろう年月の圧縮が産み出すエネルギーは、市丸の想像を遥かに越えていた。
「そろそろ……おしまいにしませんか、俺も結構消耗しちゃうんでね、この卍解」
「まだまだ元気って言われたら、どうしようかと思うたけど」
「これでも鍛錬で随分長持ちするようになったんですよ……縮退恒星」
縮退恒星──即ちブラックホールの唯一の弱点は消耗が激しいこととその間は流星を出現させることはできないということだった。正確に言うならば流星を放ったところで全てブラックホールに吸い込まれてバラバラに圧縮されるのが関の山だというだけだが。
──だが天満はこれを逆手に取った戦略を考えた。それが、ブラックホールに全てを呑ませるというものだった。
「なん……っ!?」
「俺がこの周辺に星を無差別に創っただけですよ。時間を無視して創られた星も、この光を呑む引力には逆らえない」
「それで、ボクも巻き込むいうんやな」
「ええそうです。そしてこの流れは、輝きは──銀河の中心となる」
もしこの戦いを遠くから見たならば美しい銀河が見られるだろう。渦巻く星たちのその中心に、天満と市丸がいた。超巨大なブラックホールの引力、そして呑まれて解体されていく星たち。それら両方から逃げることは不可能だった。
それを防いだのは市丸でも天満でもなかった。銀河すらも吹き飛ばして、空間の拡張も関係なく天満の創り出した宇宙が消し飛ばされ、天満は驚きと困惑を表情に出した。それもまた運命の導きなのか、それは山本元柳斎重國の炎を封じたワンダーワイスの「
「……マジ、かよ……!」
卍解自体が破壊されていないため、天満は未だ卍解状態の白の法衣に光背を背負っていたが、彼の創り出した宇宙は流刃若火から生み出された世界すらも滅ぼす炎熱によって消滅してしまった。こういう負け方もあるのかと驚きと悔しさに眉根を寄せた瞬間、周囲に残っていた白い刀と黒い刀が天満を再び「神殺鎗」から護った。
「──まだ、終わってないってことですかそれは」
「そうやろ? ボクもキミも、まだ卍解も解除してへんのに、終われるわけないやない」
「そういうことなら、付き合いますよ!」
単純な剣戟が始まる。といっても天満は「神殺鎗」こそ防げないものの未だ光背から放たれる重力渦は纏っており、市丸が瓦礫を蹴飛ばしてもそれは逸れ、ぐしゃぐしゃに砕かれる。そして始解とは比べ物にならない引力と斥力を伴う二刀、しかも運命を捻じ曲げるという名の通り勝手に防御されてしまう。宇宙空間が消滅しても未だ天満がやや有利であった。
「瞬歩……!」
「遅いで!」
『このタイミングで逸らせたらよいですね』
「頼む天麟! 炎輝白星・乱舞!」
「何──っ!?」
瞬歩で背後から頭上とフェイクを入れてからの市丸としては渾身とも言える「舞踏連刃」だったが天満は黒刀を手放しそれに全ての切っ先が叩き込まれたその隙に光背から始解状態の大技であるはずの斥力の白い星を五つ出現させ、市丸は防ぐ手段のないまま吹き飛ばされ焼け焦げた住宅に突っ込んだ。市丸は光背が卍解の本体であることは見抜いていたが、そこに彼の能力に「回転で斥力と引力が増す」という特性があることを思い出し、光背が
「……はぁ、負けや」
「やっと、やっと負けを認めた……意地張りすぎですって、ほんとに」
「はは、いやぁ結構楽しくなってきてもうて……ご免な」
「謝るのは、最後の最後ですよ、市丸隊長」
「解った……本当に、強くなったな、天満クン」
「卍解、隠しといて正解でしたね」
「……はは、敵わんわ」
ルピとの戦いで卍解を分析されるのは織り込み済みで、わざと「縮退恒星」でトドメを差した。天満はあの銀河を生み出しても最後はこうなることをどこかで予見していた。だから近接戦闘と光背から白星と黒星を自在に出せることを隠し通した。光背が攻撃手段に成り得るということを隠し通したまま戦った。それは、まだ市丸が三番隊の隊長羽織を身にまとっている時から、卍解を知ったその時から決めていた流れだった。無論、最後の手段としてではあるが。
──こうして天満は市丸に手を差し出し、立ち上がらせた。既に「一刀火葬」も発動が終わっており、そろそろ浦原が動き出すだろう時間だと判断し、天満は市丸を先に行かせたのだった。