モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
黒崎一護の前に父である黒崎一心が死覇装姿で現れ強力な結界で身を隠した後、市丸ギンは藍染惣右介の元へと戻ってきた。既にあちこちを怪我していることを案じる素振りもなく、藍染は唯一残った部下に語りかける。
同時に天満は、どうしたのかと霊圧を探るが隠した様子もなく生きている。そのことについても藍染は問いかけた。
「随分と遅かったじゃないか、ギン」
「いやぁ、久々に本気出すくらいの戦いやったんです」
「その口振りからしてキミが勝った……だが殺してはいないな」
「藍染隊長やって、誰も殺してはらないでしょ?」
「……そうだったな」
尸魂界の終焉を見せる。そういう目的で隊長格たちは全員生かしている。尤も雛森だけはどうなるかわからないが、と藍染が思考したところで市丸に向けて一護が刀を振りかぶり、藍染が振り向く頃には一心によってビルは分断された後だった。
部下と引き離され二対二となった状況を藍染は冷静に分析し理解していた。
「久しぶりやなァ、こうしてキミと戦うんも」
「……天満さんはどうした」
「天満クン?」
「とぼけんなよ、戦ってたんだろ」
その言葉に市丸は笑みで答える。一護はそんな市丸に対して警戒心を持って、天鎖斬月を構えて接するものの彼はゆっくりとした仕草で刀を納めていく。今の一護はウルキオラを下したものの、その力に恐れている。そして藍染の言葉を受けて自分が手にした力というものが何かということに迷いが生じていた。
「……なんで刀を納めた」
「ボクはキミとは戦わんよ」
「何いってんだ」
「戦ってあげてもええけど、
「そうですね、彼の相手は俺がします」
瞬歩で現れたその男の姿に、言葉に一護は驚き、動揺する。
そして同時に、おかしいと思っていたことが全て氷解していく気がした。
──何故、同じようにルキアの処刑を止めるためとはいえ、地下水道に現れたのか。
──何故、一度投獄された筈なのに双殛を破壊する浮竹の傍にいたのか。
──何故、監視という名目とはいえ日番谷先遣隊に選ばれていたのか。
──何故、虚圏へやってきてウルキオラと戦いつつもどちらも生きていたのか。
──何故、現世へと向かって真っ先に市丸の元へと向かったのか。
そもそも何故、第十席という席次でありながら、一護にほんの一時力を貸しただけの男が未だこんな戦場についてきていたのか。
「……天満、さん……嘘、だろ……?」
「何が嘘だって言いたいんだ、一護くん?」
「あんたは、ルキアを助けてくれてたんじゃなかったのか」
「ならなんで四深牢の後、俺は浮竹隊長の命に従った。俺は怪我をしていなかっただろう?」
「虚圏へ来たのは」
「俺がウルキオラと戦ったのは知ってるんだろう、その後、俺は
「現世に来たのは……?」
「信じ切ってはなかったんだろう、俺のこと。そしてこれが俺の答えだよ一護くん──
「卍、解……だって?」
一護が知っている卍解の使い手は隊長でないものは恋次のみ。そして自分が習得したからこそ解ることがあった。
彼が幾ら特殊な斬魄刀の持ち主だからといって、第十席の立ち位置で卍解を習得しているのは異常だということを。二刀が回転し、一つの光輝く輪となって、天満の死覇装の上に法衣と光背として装着される。そしてその光背、斬魄刀だった輪から出現した都合十二個の黒と白の球体が天満の周囲を回っていた。
「そうだ、これが俺の卍解、炎輝天麟星皇創世ノ嘶」
「これが、天満さんの……」
「チッ……けどまだ
「あらら、半分しか卍解できてへんね」
「フリとはいえ市丸隊長が盛り上がるからですよ」
「ボクのせいなん?」
「他に誰かいますか──っと、やる気になってくれたか?」
天満はよそ見をしていたにも関わらず一護の全力の踏み込みと突きをあっさりと、黒い球体を手で操りいなしてみせた。だがその刀身から黒い霊圧が吹き出し、天満は白い球体をひとつ前に出し、月牙天衝を受け止め、弾いた。
──ルキアから、天満の斬魄刀の話を聞いたことがある。二刀一対だってことは四深牢の前で目撃した。天満は引力と斥力を操る。今の打ち込みで一護は黒が引力で白が斥力だということを見抜いていた。
「あんたの卍解、その十二個の球体が
「……ああ、俺の能力は
「それが、あんたの心ってわけか」
「俺の心が知りたきゃ、全力出せ」
星のうち黒と白一対が刀の形に変化し天満の手の中に収まる。その瞬間に霊圧の高まりを感じた一護が虚化をした。だがやはり中途半端で脆いものだ。月牙天衝を天満は黒星と白星を並べて道を作りだし、明後日の方向へと逸していく。それを瞬歩で懐まで入ったと思った瞬間には右手の白刀が天鎖斬月を受け止めていた。
「吹き飛べ」
「月牙……」
「──っ!」
「天衝っ!」
至近距離での月牙天衝を受け、天満は一護を吹き飛ばしつつ、よろめいた。ビルを数棟薙ぎ倒しながら吹き飛んだ先には、藍染と一心が対峙しており、天満は藍染の側に立つ。
一護は、白星を斬月で弾きながら、一心の隣に立っていた。
「稲火狩天満、どういう風の吹き回しだ?」
「崩玉でも叶えてくれないあんたの願いを叶えてやろうかと……で、なんか話してました?」
「そうか……いいや──話ならたった今、終わったところだ」
そう言って藍染の身体から、中央に埋めこまれた崩玉から白い繭のようなものが溢れ出す。天満は瞬歩をして、その場から離脱したが、藍染の肩を浦原の開発した改造鬼道「重撃白雷」が貫通していった。
ここから、浦原の仕込みが入る。天満はそれを見守るために市丸の元へと戻っていった。
「ええな、彼……けど、藍染隊長に勝つには時間が足りんような」
「大丈夫ですよ、ここから先は俺たちの力量と理解の外で行われるんで」
「具体的には?」
「藍染は穿界門を開けて、拘突を破壊します」
「……拘突って、霊圧でどうにかできるもんやないけど」
「けど、あの状態の藍染はできちゃうんですよ……でもそれが、一護くんが育つ隙になる」
「断界ん中で……」
「ええ」
一護の意識は隔絶たる藍染の力に驚き、そして浦原、一心、夜一の三人の戦いを見守っているため、天満と市丸からは意識が逸れていた。それに気づいた市丸が、少し顔を顰めた。今の彼はどう考えても絶望している。あの蛹のような姿、天満にも市丸にも最早霊圧が読めなくなってしまったあの藍染を前にしてまるで圧し潰されそうな程の力を感じているように。
「ええの、後ろ、取ってるで」
「──くっ!」
「なんてな、少しサボろか天満クン」
「そうですね」
瓦礫に腰掛ける。そして今度は一護がいるのにも関わらずなんと二人で話し始める。万が一、彼がそこで月牙天衝なり斬撃なりしても天満の卍解である惑星が周囲を回っているため防御できると踏んでの行動だが、天満にも市丸にも、今の彼にそんな気概も闘志もないことは理解できていた。
「崩玉と融合するとああなるんやね」
「そうみたいですね……霊圧も
「……え?」
「ん、どうした一護くん」
「……あんた……今なんて?」
「あの状態の藍染惣右介は霊圧が読めない、俺はそう言ったよ」
「……また得意の嘘かよ」
「かわいそ、藍染隊長のせいか、天満クンのせいか、疑心暗鬼になってもうとるよ」
「浦原喜助のせいでしょう」
「それもそか」
一護は圧し潰されそうな程の、化け物かと思い違うほどの霊圧を感じている。それは、現時点では力の差はあれど藍染と同じ高みに到達していることを示していた。恐らく、天満としては具体的な予想こそできはしないが、あのウルキオラを圧倒した完全虚化した状態なら蛹となる前の藍染とも善戦できたのではないだろうか。もしくは、下手をすれば蛹籃の時を過ごす藍染惣右介すらも、浦原たちの手を借りれば──だがそれはあくまで予想の話、実際は恐れて虚化すらまともにできなくなった一護に対して話すようなことでもないと天満は感じていた。
「そこで見てるといいよ、じきに全てが終わる」
「……ふざけんな、終わらせねぇ」
「終わりだよ、護廷十三隊は堕ち、霊王宮も直に堕ちる。そうして現世も、尸魂界も、虚圏も、全てがおしまいだ」
「……させるかよ」
「ええね、そう言うやろと思うてたわ」
「それに、全部終わりだったら、あんたらだってどうなるかわかんねぇんだぞ」
市丸がチラリと天満を見て、天満もまた肩を竦めた。本当にこれでいいのか、この男が断界で過ごしただけであの化け物を倒せるようになるのか、という言外の不安を察した天満が、目線と仕草で英雄たる彼を信じましょうと返事をした。無論、一護にはそれは二人が呆れたように映る。
「……何を」
「諦めるなら逃げた方がいいよ」
「……な!」
「俺が全部護る……なんて言いながら逃げるのはお笑いだけどな」
その言葉に、一護はほんの僅かな闘志が瞳の中に宿るのが市丸には見えた。同時に成る程、黒崎一護のことを識っているからこそ、力の引き出し方も識っているのかと市丸は天満がワルモノに成りたがった理由がわかった。
──天満はゆっくりと目を閉じて、霊圧を高めていく。完全な卍解ではない今の彼にできることは非常に少ない。だが天満はその中で自分ができる最大の技で迎え撃とうとしていた。
「……なんだ?」
「破道の五十七、大地転踊」
白と黒の星がぶつかり、混じり合い、黒を中心に周囲に白い帯を巻いたような星が生まれる。それを上空に打ち上げ鬼道によって持ち上げられた空座町のコピーの町並みの瓦礫が集まっていく。引力で結ばれ、斥力で形を整えたそれは、さながら簡易的で急造ではあるものの星と呼ぶべき球体となった。
「
「──っ! 月牙天衝!」
直径で十メートルはあろう球体が振り下ろされ、一護は迷いを振り払って虚化した状態で月牙天衝を放っていく。中央の核となる斥力部分に一護の霊圧が触れて、やがて一護の叫びと共に彼の霊圧の方が勝り爆発していく。
もし地面に衝突したならば大きなクレーターを生んだであろうその質量と勢いに、そして爆発に巻き込まれたことで肩で息をしていた一護に、天満は無表情のまま詠唱をしていく。今度は先程とは比べ物にならない量の瓦礫が「大地転踊」によって持ち上げられ、残りの五つの核に集まっていく。
「ひゃあ、容赦ないなァ」
「
「く、クソッ、なんで……なんでだよ、天満さん!」
「……何が」
「あんたは、あんたがそうまでして
「──キミは、そうかあの時!」
一護は斬り結んだ相手の心を理解する。それは一護の人柄が為せる業なのか、それともいつだって剥き出しの一護の心が相手の心と触れ合っているからなのか、刀を合わせることで相手の感情を理解する。
最初の時に白星を刀にして触れ合ったのは失敗だったかと思ったのも束の間、変えたいという渇望だけが伝わったのだと理解した天満は言葉を紡いでいく。
「変えたいさ、この世界を! そして創世するんだよ、藍染惣右介を新たな神とした世界を!」
「そうしたら、あんたが護ったもん全部、壊れちまうんだ!」
「だからどうした! こんな歪んだ世界そのものが間違いなんだよ! 黒崎一護、キミがそうして刀を持つことも、その間違った世界が生んだ歪みだ!」
その言葉は、天満にとってのもう一つの本音だった。
死神たちの、尸魂界に生きる魂たちの救済、戦争で無為に戦いで命を散らすことなくその手から自分の意思で刀を手放せる世界に。それもまた天満の理想だ。その言葉に偽りはない。
──だが、そもそもそうやって世界を歪めたものたちがいることも天満は識っていた。霊王を弑したものがいて、死神に大義名分と正義を与えて、死神という存在を生み、そして結果滅却師という歪みを生んだ。
藍染惣右介が望む世界とは天満にもわからない。彼の本質は自分が誰かに理解されること、そういう意味では東仙要の言う正義とは違うものなのかもしれない。
ひとつ、またひとつと間に合わせの星を破壊する一護を、その力を、天満は眩しそうに見上げていた。
「月牙、天衝──っ!」
「……まさか、五つ全て破壊するか」
「はぁっ……はぁっ」
「一護くん、キミは──」
その瞬間、轟音が響き、天満も一護も、市丸も同じ方向を見る。そこには顔や肩部位が罅割れつつも平然とした藍染が立っていた。周囲には傷だらけながらも死んではいない浦原、夜一、一心の三人が倒れ伏していた。一護がそれに驚きと絶望の表情をして、天満はその姿に目を細めた。
「私と来るかい、稲火狩天満」
「俺はあんたの部下になったつもりはないね」
「フッ──ギン、穿界門を開けろ、尸魂界の空座町へと侵攻する」
「……っ!」
「天柱結界を破壊する必要もない、王宮を落とすなら尸魂界で王鍵を創る方が好都合だ」
「はい」
そう言って、市丸が前に出た時、その頭部を覆っていた外殻が完全に剥がれ、中からは白目と黒目が反転したかのような、特異な風貌の藍染が姿を現した。
一護はまだ高みへと至れる。そう理解している藍染は彼をそこに置いて、市丸を伴って穿界門の中へと消えていく。
「何だよ……何が……っ!」
「一護ォ!」
「親父……!」
「では、俺は先に向かいますから」
「ああ……頼んだぜ」
「時間稼ぎ、くらいですけどね」
「て、天満さん……?」
「一護くん、キミは……まだ自分の底へと至ってない。キミの底は、あの藍染よりも遥かに上だよ」
「──っ!?」
そう言って天満は別で穿界門を開き、市丸が軸をズラしてくれていることを願って直接空座町へと転移する。敵対していたはずの天満と一心が何やら会話しているのを困惑しつつ、だが一護は天満の言葉に衝き動かされるように、一心が何かを言うまでもなく、穿界門へと飛び込んでいく。一心は浦原と天満がどこまで