モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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 藍染惣右介の反乱、そして空座町決戦から一ヶ月が経過した。後片付けも終わり、天満もまた十三番隊の第十席として久しぶりとなる仕事に励んでおり、それが一段落ついたことで流魂街にある実家へと戻っていた。両親にいたく心配をされてしまい、大丈夫と笑う。稲火狩天満にとっての両親、それは現代日本で生きたもう一つの記憶にある両親にとても良く似ていたせいか、違和感なくこうして息子として見送られることができた。

 ──その一ヶ月前、天満は実はそこそこの重傷だったがその場に駆けつけてくれた井上織姫によってハリベルや三獣神(トレス・ベスティア)たちと一緒くたに治療され、すぐに十三番隊の本隊と合流した。

 そしてワンダーワイスによって身体を貫かれてしまい、動けなかった浮竹に代わり指揮を取る小椿仙太郎によって後片付けを手伝うために天柱結界で移動してきたレプリカの荒れ放題となった空座町へと踏み込んでいく。

 

「それじゃあ部隊を俺、清音に大まかにわけて、十席までのうち奇数が俺、偶数が清音の班の部隊長として動く!」

「はい!」

 

 何の因果か、片付けをさせられたのは自分が一護と一番激しく戦っていた場所だった。天満は苦い顔をしながら誰が作ったんだろうなぁと現実逃避をしたくなるほど、キレイに両断された星の破片やら、一部が落ちてクレーターとなった地面を冷静に、まざまざと見せつけられることとなった。

 そのただの死神の激突とは思えない破壊の跡に一般隊士たちも困惑の色を浮かべつつ作業をする。

 

「うわ、なんだすげー……隕石でも落ちたのかこれ?」

「鬼道でこんなになるか?」

「……天満、部隊長殿? なんか変な顔してるわよ」

「なんでもありません虎徹三席……と言いたいんですが、自分の後始末させられるのちょっと精神にダメージ入ってまして」

「随分暴れたわねェ、誰と戦ったの?」

「お、オフレコでおなしゃす……」

 

 まさか悪役ロルプして黒崎一護とドンパチしましたとはとても言えず、天満は首を横に振った。

 そしてそれが原因で稲火狩天満は現世でも強敵と戦い、その圧倒的な力で勝利を収めた、と一時十三番隊を越えて噂になったのは彼にとって忘れたい過去の話となった。

 

「やっぱり無理やったわ」

「でしょうね」

「けど、ボクが虚圏いってからだいぶ根回してくれとったん?」

「そりゃもう、十席一人の声でなんとか出来る領域とっくに越えてますからね」

 

 戦後処理として、藍染惣右介は流れ通りの「無間」で二万年の投獄刑、市丸も第三監獄に送るべきという意見もあったが、天満が市丸のおかげで藍染を捕らえることが出来たという証言をし、それを他の隊長たちが支持したことと、浦原喜助の言葉もあり、浦原の監視付きでの現世への追放という形となった。四十六室的には手元に置いときたくもないというのが見え見えだった。

 

「その浦原さんも尸魂界永久追放が解除されただけですっけ」

「まぁ、アタシ的にはそれで充分なんスけどね」

 

 ということで、穿界門に弾かれていた浦原もこうして約百年振りに尸魂界の土を踏んでいた。更に引き渡しの護衛として天満と天満が信用に足る人物を同隊の席官以外から一人選出せよとの浮竹の命により、友人である阿久津業平を指名したことで、少し友人から小言を言われたが、こうして今は付き添ってくれていた。

 ──そして、見送りというべきか、そこには三番隊の面々と松本乱菊の姿があった。

 

「ギン!」

「乱菊……ご免な、乱菊の取られたもん、なんにも取り返されへんかった」

「そんなの……!」

 

 人目を憚らず、乱菊は市丸の腕の中に飛び込んでいく。それを、市丸は今度こそ拒絶することなく受け止め、今度は乱菊にしか聞こえない声量でありがとうと伝えた。

 その瞬間は、天満が死にかけながら、何度も後悔し迷いながら、それでも描いていた画とぴったり重なったことで一筋の涙を零した。

 

「市丸隊長」

「ボクはもう隊長やあらへんよ、イヅル」

「市丸さん……今までお世話になりました!」

「俺たち、これからもあなたのことを尊敬しております!」

「干し柿、現世にも届けさせてもらいます!」

「……うん、キミらもありがとな」

 

 その市丸の表情は憑き物が落ちたように穏やかで、天満はゆっくりと穿界門に市丸ギンを誘導する。

 ──こうして、天満は完全に未来を変えた。それがどういうことになるかは、一年と少しの時を待つ必要がある。そして天満は確信を持って言えることがあると浦原に伝えていた。

 

「俺の卍解は、引力をゼロに出来ることがわかりました」

「運命、ッスね」

「ええ、もっというと、俺は卍解をしている時、そして卍解に巻き込んだ存在の運命の引力をゼロにできます」

「今回の市丸サンの件ッスか」

「はい……一護くんは、ちょっと無理でした。というか半端にしか卍解できてなかったんで」

「大まかなことは聞いてます」

 

 代償は勿論ある。一つは望んだ方向に動かすことはできないということ。自分の行動で相手の未来を変えることができるためある程度の方向性、特に生かすか殺すかという二択はそこそこ簡単だが、日番谷や恋次、茶渡と言った卍解を使用した相手の変化は望むようには起きなかった。時間によって少しずつ蓄積する可能性もあるため、そこは天満にとっても実験──もとい、経過観察に拠ると感じていた。そしてもう一つは、これはワンダーワイスの「滅火皇子」の爆発で判明したことだが、外部からとんでもない霊圧を叩き込まれると宇宙そのものが破壊され、以降は一ヶ月──これは再び卍解できるようになったことで判明したが、一ヶ月は卍解が中途半端になってしまうということだった。それは恐らく、自分で宇宙そのものを破壊しても同じだろうと。

 

「後はバタフライ・エフェクトによって、どれだけ俺にしわ寄せが来るかによってはデメリットに加えてもいいかな」

 

 天満はふと、バタフライ・エフェクトという言葉でふと、一護のその後が気になっていた。そろそろ復帰するはずだと。

 今まで考えなかったが、これまでは斬魄刀の反乱や三番隊の新隊長といった事件──天満にとって一番解りやすい言い方をするとアニメオリジナル編の事件がなかったことが少し気がかりだった。

 今までなかったからといって、これからも無いとは言い難い。とはいえ霊骸と因幡の事件、言わば「護廷十三隊侵軍編」は護廷十三隊内にいる以上は経験したくもない状態なのは確実だが。

 

「浦原さん」

「なんです?」

「今の段階で、一護くんに死神の力はありますか?」

「……? 何か疑っているかはわかりませんが、それはないッスね」

「そうですか……」

 

 浦原商店で二人、話を聞いてほっとする。どうやら一番面倒な話にはならずに済みそうだと息を吐いた。

 もしここでまだ残っていますなんて言われた日には今のまま現世に隠遁する可能性を考えるところだったと天満は今後のことをあれやこれやと考えていた。この一年と少しが平和ならば、それだけ修練に時間を掛けることができる。

 

「天満サン?」

「……いやね、ちょっと分岐点も知ってたりしまして」

「観測できてる世界は一つじゃないってことッスか?」

「ええ、漫画とアニオリの差分ですよ」

「なるほどねぇ」

 

 そんなことを言われて整合性が取れないけど一護が死神代行として過ごす物語には出てこない尸魂界関連の深掘りだったり、語りきれなかった部分だったりすることを伝える。

 ただ起こり得ないのだと天満はざっくりと「尖兵(スピア・ヘッド)計画」に関することが起こる可能性があったことだけを浦原に話した。

 移送からやがて、おおよそ数日が経過した頃のこと。

 

 

「副隊長たち、最近慌ただしいんだってな」

「らしいな。まぁ大規模な空間転移をした上に現世で隊長格以上の霊圧が暴れ尽くしたんだ。境界が揺らぐのも当たり前だろ」

「まぁ、境界侵度の調整なんて上位五席までの超重要任務だからな、十席殿もこうして修練に励めるというものじゃないか」

「うるさいぞ業平、それにその影響で流魂街の瓦礫撤去作業の指揮をやってるんだ、暇じゃない」

「まぁ、始解が許可されれば簡単なんだけどなぁ」

「全くだ」

 

 落ち着くことができた天満は友人とこれまであったことを、箝口令の敷かれていない範囲で話し、言葉と同時に斬魄刀を重ねる。十三番隊裏の修練場を使うのは天満にとっては久しぶりのことであり、この一ヶ月間は傷を癒やして、戦後処理をしてと忙しい日々が続きすぎていたため、ゆっくりとイチから鍛錬し直せる喜びを噛み締めていた。

 

「あ、浮竹隊長、お疲れ様です!」

「本当だ、どうしてこんなところに?」

「やぁ天満に阿久津、鍛錬中か?」

「はい」

「最近俺も体調がいいからな、少し気分転換に身体でも動かそうかと思ってな!」

「気分転換、ですか?」

 

 浮竹のその言葉に天満よりも早く違和感を憶えたのは業平だった。十三番隊隊長、浮竹十四郎は確かに肺に病を患っているせいで雨乾堂に籠もることも多い。だが彼の生来はどちらかといえば活動的だ。盆栽や散歩、鍛錬と体調のいい日は身体を動かすことが日課となっている。だが、それ故にほんの僅かに業平は違和感を覚えていた。

 

「どうかされたんですか?」

「ん、あぁ、なんでも最近現世と尸魂界の時間のズレが大きくなっちまってるみたいでさ、各隊戦後処理に忙しいのにそっちの調査が入って大変で」

「……なんて言いました?」

「え、いや戦後処理に忙しいのにって」

()()()()()

「現世と尸魂界の時間のズレが大きくなったんだ」

「それって()()()()()()()()ってことでは?」

 

 天満が汗を掻いて、焦っていることで業平は勿論、浮竹にも何かがあると即座に判断した。

 ──自分が上位席官ならば、もっと早くに、それこそ最初の仕込みの時点で気づけたかもしれない。だが、天満は既に気づくのが遅すぎた。そう、もう既に始まってしまっていたのだった。

 

「どうした天満?」

「……十二番隊だ」

「え?」

「十二番隊第七席、断界の第一人者であり専門家──因幡(いなば)影狼佐(かげろうざ)、そいつが黒幕です」

「……なっ!?」

「まずい……既に浦原さんとは連絡、取れる状況じゃあないですよね?」

「おい、天満どういうことだよ?」

「業平……浮竹隊長も、話すから隊長は落ち着いて俺の質問に答えてください」

「……ああ」

「穿界門をここ直近で通った隊長は何名いますか?」

 

 一護の症状を聞いただけで安心していた。そもそも藍染の反乱、そして市丸の生存でかなり気を抜いていたのが全ての原因だった。安全を考慮するなら十二番隊の第七席を確認して暗殺でもなんでもいいからするべきだったと歯噛みする。

 そして、天満が気づいたのが既に手遅れだという証拠は浮竹の口から発せられた。

 

「砕蜂隊長、朽木隊長、狛村隊長、日番谷隊長、更木隊長、涅隊長……六名だ」

「ならその全てが成り代わった()()()()です」

「……なに!?」

「な……天満……もっど、なんだって?」

改造魂魄(モッド・ソウル)──尖兵(スピア・ヘッド)計画の要だ」

 

 浮竹は天満がそこまで識っているということには最早驚くこともなかった。現世で力を喪うまで死神代行として虚と戦っていた黒崎一護も危険性はないとはいえ義魂丸の代わりに生き残りの改造魂魄を使用していることは報告されていた。それに彼は先遣隊として過ごした一ヶ月で浦原となにやら計画を立てていたことも阿散井恋次によって伝え聞いている。その過程で識っていてもおかしくはないだろう。

 

「……すると副隊長はほぼ全滅しているな、十一番隊は斑目と綾瀬川もか」

「ええ、後は一番隊の席官も通っていないはずですよね、後は十三番隊、うちです」

「ああ」

 

 その瞬間だった、地獄蝶が舞い、天満に向けて飛んでくる。

 そして通信、それは一番隊へ出頭せよ。現世と尸魂界の分断に関する重要参考人であるという通告。天満はそこで自分の失策をまざまざと見せつけられた。

 ──因幡自身は天満のことなど目端にすら写っていないだろう。たかが十席だ、何か支障があるとは思わない。だが隊長たちは、その記憶を持った霊骸たちは別だ。バタフライ・エフェクトとして修正を図ろうとする運命が選ぶのはいつだって歪みの少ないもの、それがこの事件の発端であり自分なのだと天満は全てを理解した。

 

「天満……!」

「浮竹隊長は京楽隊長、総隊長、卯ノ花隊長に因幡七席と霊骸のことを伝えてください、特に卯ノ花隊長には絶対に穿界門に近づかないように言っておいてください。後はひょっとすると尸魂界に四楓院夜一が潜んでるかもしれません、彼女との接触も」

「ああ……任せてくれ」

「俺は……」

「間違いなく巻き込む、業平……悪いな」

「いつもは除け者だからな、今回くらいは首突っ込ませてもらうぜ!」

「なら阿久津、俺と一緒に来てくれ」

「わかりました!」

 

 ──英雄不在の尸魂界と現世に事件が起こる。それはそのすぐ後に起こるもう一つの事件よりも、天満にとっては厄介で最悪の展開から始まることになった。天満は一番隊舎を目指す。投獄であってくれよと願いながら未来(さき)を読んで行動していることが常の天満にとって、最大の試練が待ち構えていた。

 

 

 


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