モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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護廷十三隊侵軍編
REBELLIOUS CLEATURES(1)


 一番隊隊舎を目指す道中、やはりといった方がいいのか、複数の死神に囲まれた。

 阿散井恋次、松本乱菊、斑目一角、綾瀬川弓親といった面々に天満はため息を吐いた。ある程度は霊骸の独断とはいえ、誰の発案だろうなと。ゆっくりと天満は周囲を見渡し、両手を挙げた。

 

「ほう、抵抗するかと思ったが、素直じゃねェか」

「十席相手に大した警戒ですね、元先遣隊の皆様──ねぇ日番谷隊長?」

「……バレてんならしょうがねぇな」

 

 冗談じゃないと天満は再びため息を吐く。日番谷冬獅郎まで、これでルキア以外の先遣隊は揃ったこととなる。本来の流れとは違い、ルキアは今のところ天満と共に瓦礫の撤去作業に勤しんでおり穿界門は通っていない。幸運とも言うべきだが。

 今の段階ならば共通の腕輪型の制御装置が着いているはずだが、確認するまでもないと天満は両手を挙げつつ出方を見る。

 

「お前が無断で断界に出入りしてるって証拠は揃ってる。大人しく連行されろ」

「最初の質問には答えてくれないんですか、日番谷隊長」

「……答える必要があるのか」

「じゃあ、質問を変えますね──因幡十二番隊七席はどこです?」

 

 その言葉に全員の顔色が変化した。恋次と弓親、乱菊は驚きに一角は口角を上げて、日番谷が目を細めた。だがその後の動きは同じだった。全員の目から稲妻のような、彼ら霊骸共通の特徴と共に斬魄刀を抜き放つ。

 しかもその全員が一度に始解を始めた。

 

「やはりな……抵抗するなら殺せ」

「唸れ──灰猫!」

「咲け、藤孔雀!」

「吠えろ──蛇尾丸ッ!」

「伸びろ、鬼灯丸! 手前とはやりあって見たかったんだ、天満ァ!」

「縛道の二十一、赤煙遁」

「なっ!?」

「狼狽えるな!」

 

 天満は冷静に挙げていた手を地面に叩きつけ、広範囲に赤い煙幕を張る。

 その間に瞬歩で別の場所へと移動し、斬魄刀の柄に手を掛けた。同じ顔をしていようが、同じ霊圧をしていようが、相手が彼らの呼ぶ原種でなければ鈍るはずがない。彼らが命だったとしても、彼らを見逃した先は尸魂界の滅亡なのだから。

 

「明け灯すは棚引く煙羅、昏く浮かぶは手招く桂雲──炎輝天麟!」

「霜天に坐せ──氷輪丸!」

「この人数を相手にするつもり? 美しくないね」

「さてと……卍解できれば楽なんだけどなァ」

「あたしたちはあんたの卍解を識ってる。させるわけないってことくらいはわかるわよね?」

「ですよね」

 

 引き抜いた斬魄刀を両手で持ち解号を唱えれば影のようにブレ、両手を広げることで長さの違う二つの斬魄刀が手に収まる。

 尸魂界にただ三振りしか存在しない二刀一対の斬魄刀「炎輝天麟」の解放をした瞬間に、頭上から水氷の龍が降り注いでくるがそれを天満は右手にある長刀を一回転させて斥力によって弾き、弓親の斬撃を左の小太刀を一回転させてから引き寄せる。

 

「裂けろ、鬼灯丸!」

「っと、弾き飛ばせ!」

「ぐあ!」

「蛇尾丸!」

「灰猫!」

「群青氷柱!」

「天鱗黒星──破道の六十三、雷光咆」

 

 三節棍となった鬼灯丸が天満を囲おうとするのを弾き、その隙に回転させきっていた小太刀から発生した黒い星が伸びた刀、灰、氷の矢を吸い込んでいき、その瞬間を逃さず天満は右手から刀を離し、詠唱破棄が出来るほぼギリギリの上級鬼道を放つことで黒星を自ら破壊した。

 

「くっ、しまった……!」

「君臨者よ、血肉の仮面、万象羽搏き、ヒトの名を冠すものよ──」

「コイツ!」

「──蒼火の壁に双蓮を刻む、大火の淵を遠天にて待つ……破道の七十三、双蓮蒼火墜!」

 

 完全詠唱で放たれた鬼道に呑まれて、一角、乱菊、弓親の霊骸が消滅していく。また黒星に吸い寄せられ爆発を受けた恋次、日番谷の二名も肩で息をしていた。五対一、あまりに有利だったはずの戦いであるにも関わらず、有利なのは天満の方だった。

 だが、天満は二人を警戒する。その警戒を二人は知ってから知らずか、追い詰められたことで躊躇うことなく同時に口にした。

 

「卍解、大紅蓮氷輪丸!」

「卍解ッ、狒狒王蛇尾丸!」

「……勘弁しろって」

 

 そこで天満は幾つか考えた上で、()()を選択した。

 卍解が使えない市街区で、そのうえ二人には卍解されてしまえばもはや打つ手はない。ここで死ぬわけにはいかない。

 ならばと天満は抵抗するのを辞める。

 

「……なんだァ、抵抗してた割にはやけにあっさりじゃねぇか、暴れることもできやしねェ」

「そう言うな、阿散井」

 

 霊骸はその特性上、原種よりもやや血気盛んなきらいがある。殺気を剥き出しにする恋次を睨みつつ、天満は一人の少女のことを考えていた。本来ならば改造魂魄であるコンがその存在を拾い、そして一護が護るために刃を振るうことになる少女、九条望実の存在だった。現世に逃げているのか、逃げているのなら因幡影狼佐は現世か、そんな思考を回しながら天満は牢獄へと連行された。

 

「投獄された重要参考人、稲火狩十三番隊第十席は昨晩捕縛部隊を相手に抵抗し、十一番隊の斑目三席、綾瀬川五席、及び十番隊松本副隊長を殺害した。これは護廷十三隊への明確な反逆と見なす!」

「……お待ちください総隊長、天満さんが……彼が三名を殺害というのは些か」

「いいや、それは事実だ。俺の傷も天満につけられたもんだ」

「日番谷隊長にかい!? 一体彼に何が……?」

「何を疑問に思うことがある京楽隊長」

「何がも何もないだろう、総隊長殿が仰られていたことが全てだ」

「……天満」

 

 翌朝、隊首会が執り行われ、天満に席官殺しの罪状が追加された。幾らなんでも滅茶苦茶に過ぎると反応したのは卯ノ花、京楽の二名であることに、浮竹は彼の言葉が正しいことを示していた。苦虫を噛み殺すように、投獄された部下とそして現世で亡命しているであろう隊長や副隊長たちの身を案じつつ昨晩の話を思い出していた。

 

「成る程のう……喜助と何やらコソコソしとっただけはあるな、その十席は」

「ああ、それで四楓院」

「砕蜂と断界で行方不明になっとらん副隊長どもの居場所の見当はだいたい付いておるが、なにせ向こうは十三隊のほぼ総力じゃからのう」

「……戦力が圧倒的に足りない」

「それに迂闊に動けば今は無事と其奴が言っておった隊長も危険じゃな」

 

 密かに夜一と合流していた浮竹は頷く。現状味方と成り得るのは山本元柳斎重國、卯ノ花烈、京楽春水の三名。そのうち戦力で言うならば山本元柳斎一人で充分すぎる程だが、そんなことは黒幕も当たり前にわかっていることだろう。

 そんな中で、二人の会話を聞いて色々と思考を巡らせていた男を夜一は指さした。

 

「ところで、此奴は?」

「あ、俺は阿久津業平です」

「阿久津……ほう、面白い男を連れとるのう」

「彼は天満の友人なんだ」

 

 そうかと頷いた夜一は続けて、天満が語った言葉で自分の霊骸が造られないであろうことを伝える。

 ──理由は単純だった。断界の通行した跡から霊子を採取し、そこから霊骸たちの核である改造魂魄を造るのなら、彼女は穿界門を通る際は常に黒猫に変化しているのだった。

 

「それでも多少の術は使えるじゃろうが、まぁわざわざ造る程のもんではないじゃろうな」

「……でも、天満は、アイツは何か焦ってるんです」

「阿久津?」

「アイツは敵の名前まではっきり口にしていたのに、何の対策も取ってなかったってことです。これはかなり慎重さが必要かもしれません」

「ああ、そうだな……」

 

 そう言って翌朝で隊首会の内容に幾つか不審な点があったため、浮竹は雨乾堂に業平を呼び出す。彼は天満が先遣隊へと出発する前に少し話した際の言葉をよく覚えていた。

 ──業平なら、阿久津業平なら俺のことを誰よりも読み切れると思います。もし俺のことで何かあったら、業平に訊ねてみてください、と。

 

「そうですね、答えは霊圧だと思います」

「……そうか! 戦った理由も、戦いを止めた理由も、全て()()()()()()()()()()を京楽や卯ノ花隊長に知らせるためか!」

「届くかどうかはさて置くとして、虚圏に赴いて、市丸さんと戦って、何があったかはしりませんが天満の今の実力は席官では止めきれないほどでしょう」

「ああ、それは間違いない」

 

 この数ヶ月で天満は驚く程力を身に付けていた。それが天満の斬魄刀の有する運命を引き寄せる能力のおかげなのか、星の巡りを操る天満の卍解が影響しているのかは定かではないが、少なくとも浦原喜助は独自にそう仮説を立てていた。

 その上で業平は昨夜の霊圧の揺れを思い出し、天満の不可解な行動を読み解いていく。

 

「そして天満の最たる特徴はその防御性能です。護りに徹すれば()()()()()()()()崩せないでしょうね」

「卍解を使われる状況を見越したのか」

「そして実際、阿散井副隊長と日番谷隊長が卍解したことは隊長と四楓院さんが言っていましたね」

「だが急に……それも霊圧の不自然さか」

「敢えて霊骸を倒し、焦らせて卍解を使わせたところで戦闘を止めることで罪状をそれにして投獄できます。天満は投獄されることで、浮竹隊長が動くと京楽隊長が予想すると思ったんじゃないでしょうか」

「……成る程な、辻褄は合っているが」

 

 そこまで会話したところで、十三番隊の席官が失礼しますと声を張り、浮竹が応対する。そこでその男から京楽春水が来たためお通ししましたと言われ、業平が予測した──正確に言えば予測したのは天満の行動と思考だが、その通りに京楽春水が自ら接触してきた。

 霊骸を制御するための腕輪がないことをチラリと確認してから、浮竹は京楽を招いた。

 

「……あんれ、阿久津くんじゃないの」

「京楽隊長、お越し頂けると信じていました」

「成る程、ここまで天満くんの筋書き通りってわけか、いや凄いね」

「京楽、落ち着いて聞いてほしい。俺と阿久津が知り得る限りの今回の事件の情報だ」

 

 浮竹の説明に京楽は疑問を抱いていた部分があっという間に氷解していく。そして自分の周囲がいつの間にか敵だらけになってるという事実に、愕然とする。藍染の反乱の事後処理でバタバタしている隙を突いてきている。敵は一筋縄ではいかないのだと。

 だが、敵もここまで勘付いているとは考えていないのは確実だった。付け入る隙はそこにしかない。

 

「ただ、卯ノ花隊長と山じいと接触する機会がない」

「あら、どうか致しましたか?」

「……卯ノ花隊長!」

「これはこれは……」

「安心してください、本物です」

 

 左手を見せて穏やかな笑顔を見せるのは卯ノ花烈、その本人だった。どうしてここにと浮竹、京楽が驚く中で、そこまで沈黙を貫いていた業平は彼女がこっそりと天満に接触したのだと気づく。

 そんな彼の表情の変化に卯ノ花は業平の心の中を肯定するように笑みを崩さずに頷いた。

 

「……卯ノ花隊長、その、虎徹副隊長は?」

「ええ、天満さんの話を聞いている途中に襲われたので応戦しました」

「じゃあ天満も」

「……どうも、業平も悪いな」

「天満!」

「いや、まさか卯ノ花隊長から来るとは思わなかったからマジで霊骸を疑いましたよ」

 

 

 天満は現状、夜一を除くほぼ全戦力だと説明する。夜一は最後の戦力であるルキアを迎えに行って説明をしている頃だ。天満は昨日話しきれなかった敵の目的やそのために必要なものを説明し、由嶌欧許の霊子から造られたもう一人の改造魂魄であり、復讐によって造られた因幡とは対極に位置する自制心とも言うべき「九条望実」を捜索するために現世に向かわなければならないことと言い切った。

 

「すると現世に派遣するのは、朽木と四楓院、天満か」

「俺も、連れて行ってください」

「隊長、業平も」

「……わかった、その四人だな」

「頼んだよ」

「尸魂界の未来は、貴方達に託されました」

 

 三名の、数百年の間の長きに渡り隊長を続ける古参とも呼べる三名の言葉に天満と業平は深く頷いた。夜一とルキアとも合流し、天満たちは穿界門を目指すことになる。だが、そこには過剰とも言える戦力が常駐しているのだった。

 白哉、狛村、日番谷、剣八、そして吉良、射場、檜佐木の合計七名の霊骸の警備に、夜一は中央突破を図ろうと提案する。

 

「まずは門を破壊します……炎輝天麟」

 

 斬魄刀を解放し、長刀を回転させていく。白い星を創り出し、それを門にぶつけると轟音と共に門が爆散した。瞬間に全員が抜刀し斬魄刀を解放していく中で四人が駆けていく。

 だが、それを察知した狛村の「天譴」と白哉の「千本桜」が襲いかかる。だがそのタイミングで浦原が開発した携帯用義骸が破裂し、一瞬の隙が出来る。

 ──飛び出して、最初に気づいたのは業平、次いでルキアだった。

 

「天満……何をしておるのだ!」

「行ってください、三人とも」

「どういうことだよ!」

 

 天満が先に降り立つ。手の中に既に斬魄刀はなく、明け方前の深夜にでも関わらず空には太陽の如き眩い光輪が出現していた。

 全員が気づいた頃には既に遅かった。卍解を知っていたのはこの中では日番谷のみだったのだから。光輪から溢れ出した宇宙空間が隊長たちと副隊長を包み込む。そして、その瞬間にもう七名は穿界門や夜一たちには近づくことすら出来ない隔絶空間に閉じ込められることになった。

 

「卍解──炎輝天麟星皇創世ノ嘶」

「て、天満ァ!」

「行け、この空間に居る限り、隊長たちは追ってこれない!」

「……死ぬなよ、天満」

「大丈夫ですよ、まだ尸魂界に残ってやることもあるんで、浦原さんと、まぁ会ったらあのヒトにもよろしく伝えといてください」

 

 三人が穿界門に消えていく中で、天満は向き合った。全員を空間に引きずりこんだとはいえ相手は副隊長三人に隊長四人、無限とも呼べる空間に入っては暴れ放題だ。

 無論、それは天満にとっても変わらないが。

 

「大紅蓮氷輪丸!」

「黒縄天譴明王!」

「散れ、千本桜景厳」

「行くぜェ、せいぜい楽しませてくれよ、オイ!」

「斬り合いをするつもりはないですね──天馬ノ嘶(てんまのいななき)

 

 天満は右手を上へ翳し、遥か上空に「黒縄天譴明王」の上半身程の直径を持つ太陽を創り出す。本来ならフレアだけで灼き切れそうなほどの熱量を誇る恒星を創り出したことで、隊長も副隊長も驚きのあまり空を仰ぐ。

 光背から六つずつ、黒星と白星を創り出し、天満は黒星で引き寄せ続けた斥力を全開に放つ白星を周囲に展開することで卍解の重力渦の他に二重の防壁を張る。そうでもしなければ天満すらも灼熱の中に沈むのだから。

 

「おお──明王!」

「触れられるはずないでしょう!」

 

 狛村がそれを「黒縄天譴明王」で受け止めようとするが触れた瞬間に焼け焦げ、その熱の前に消滅する。卍解のデメリットとして本体へのフィードバックがあるのだから、狛村本人も上半身が焼け、消し飛ぶ。熱が近づいてくると、次は「大紅蓮氷輪丸」の翼が形成できなくなっていく。億を越える刃も、太陽に触れた端から燃え尽きる。

 

「なんじゃあ、こりゃあ!?」

「これが、十席の卍解だって言うのかよ……!」

「滅茶苦茶……すぎる……!」

 

 副隊長は最早戦意すらも奪われる。剣八が飛び出して刀を振るが刀が溶け、そのまま紅炎(プロミネンス)に呑み込まれて消滅した。本来なら、本物の更木剣八なら下手すると耐えきって来た可能性も充分にあるが、霊骸の身体ではそこまでの瞬間的な霊圧の上昇による防御も出来ずに溶けていった。

 

「……この大きさの恒星は、流石に霊圧食うな……」

 

 次なる対策を練られる前に天満は大きな星を遥か宇宙空間内から招き、それを太陽にぶつけていく。恒星ではないが超質量の星が光の速さで衝突するエネルギーは太陽に消し飛ばされることなく、そのまま太陽にぶつかることで崩壊し、空間を塗りつぶすような爆発を起こした。

 

「くっ、お、おお……やった、防壁を増やせばなんとかいけるな」

 

 天満は先程の斥力の壁の外側に小惑星群、スペースデブリを創ることで爆発の余波を防御し、最小限に抑えていた。その生成で相当な霊力を消費するが、対集団相手には使えるということを発見したなと満足したような表情で卍解を解除する。光背の中に宇宙が吸いこまれ、一刀の斬魄刀に戻ったそれを鞘に収めた。

 

 

 

 

 

 

 


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