モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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日間ランキング載ってたという噂を聞きつけました。嬉しいけど実感が……思いつきだったのに……


PROLOGUE(3)

 好かぬ男だ、と朽木ルキアは同隊十席となった後輩への第一印象はその一言だった。

 彼は自分の姿と名前を知って()()()()()。朽木家なのだ、無理はないがそれを表に出す彼にいい印象は抱かなかった。

 だが次に会った時、それから数年が経過していたが二度目に顔を合わせた際、彼はまっすぐに()()()()()()()()

 

「おはざす、朽木さん」

「あ、ああ……」

「え、俺なんか悪いことしました?」

「いや……なんでもない」

 

 志波海燕のおかげで朽木という名前に振り回されずに隊に受け入れられているとはいえ、自分よりも後に入隊してくるものはそうはいかない。朽木家の、それも義理とはいえ当主の妹がいると。だが多かれ少なかれ雰囲気に馴染みルキアに対してもフラットに接することになるが、それとは違う変化だとルキアは直感的に悟っていた。

 ──当の本人は最初に出逢った時のことなど、覚えてもいなかったのだが。その差異は本来のルキアの性格なら首を捻ることであるはずだが、彼女は胸の奥にずっと「消えてしまいたい」という気持ちを抱えていた。

 

「……朽木さん」

「なん、です……稲火狩十席」

「いやぁ、俺一応朽木さんのこと尊敬する先輩って思ってるんで敬語とか十席とかやめてくださいよ」

「今は業務中、そうはいきますまい」

「まぁいいか」

 

 いいのか、と一瞬ツッコミたくなる気持ちを抑えて森を歩く。彼らと残り複数の隊士は現在、流魂街の外れに出た虚の討伐に駆り出されていた。やはり斬魄刀を佩いた状態で歩くのは気持ちが締まると天満は緊張感を持ちつつも、心配事を併せていた。未来(さき)を識っているため()()()()()()()()()()()()()と考えつつもやや後ろを歩く彼女はその心配をさせてしまう程に思いつめていた。

 

「虚と相討って死のうとか、考えないでくださいよ」

「……たわけ、何故私がそんなことを」

「ですよね、すみません」

 

 また、またこの違和感だ。ルキアは男の背中を睨みつけるように観察する。戯言ならばそれでいいのだが、彼が今しがた発言したのは()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからだ。図星だったが故に一瞬素の口調になってしまったことを詫びるべきか、それとも先に詫びられてしまったためどうするべきか、悩んでいるとザラついた霊圧を感じ、そちらに思考を切り替えた。

 

「……十席」

「ああ、居るな」

 

 刀に手を掛ける天満は、稲火狩天満となった男にとってはこれが初めての実戦だった。それより前にも数度出撃したことはあるが、それは今の彼にとっては映像の中の、あるいは絵巻物のような現実感の無さで、同時に刃禅を組むのではなく自身の斬魄刀に触れることすらも初めてだった。だが彼はざわつく思考とは別に、風のない水面のような静謐で故に落ち着いた思考も存在した。それが二つ魂があるからなのかはわからないが、慎重になろうとする心と大胆であろうとする心を持っていた。

 

「っし、左右が繁みか、霊圧を極限まで抑えて待機しろ、俺と朽木さん……朽木がまず注意を引きつける」

「はい」

 

 いきなりの部隊長に戸惑いはしたものの、こうなれば有事と変わらない。これが相手が雑魚虚でも、巨大虚(ヒュージ・ホロウ)であっても大虚(メノス)であっても変わらない。あるいはもっともっと後で待っている強大な敵であっても、自分は隊士たちの命を預かる席官という立場になったのだから。

 

「朽木は鬼道が得意だったよね、縛道の四番で牽制して、それを合図に俺が突っ込むから」

「……わかりました」

 

 得意だったよね、とは言われるが鬼道をどのくらいできるかなんて天満には見せたこともないルキアはやや驚きつつも部隊長として下調べをしたのだと判断をした。

 部隊の展開が完了したところで天満が霊圧を上げれば、蝿のような翅と腹を持つ二足歩行の虚は釣られて振り返った。

 

「縛道の四、這縄!」

「──っし!」

 

 ルキアが手から光の帯を発し、それを虚の身体に巻きつかせる。突如として躰を拘束され、飛ぶこともできずにもがいていた虚の翅を天満が斬り飛ばす。機動力が奪われたタイミングで「這縄」による拘束が解けたがその拘束を解くために躰を大きく開いたことで天満の返す刀で今度は鋭い爪を持った腕が吹き飛ばされる。

 

「今だ!」

「おお!」

「十席からの合図だ!」

 

 攻撃力も機動力も半減し、悲痛にも思われる雄叫びを発したがそれは他の隊士三人を前にはなんの意味も成さなかった。そのままルキアが縦に振るった刀が致命傷となり、仮面が割れ躰が崩れていくのを、そして喜びの声を上げる隊士たちを天満は刀を納めながら安堵の表情で眺めていた。

 

「良し、件の虚は討伐だな! 帰って報告に行くか、報告までが虚討伐だ!」

「そりゃ遠足っすよ──はい!」

 

 彼の安堵の正体はルキアにも、他の誰にもわからないことだったが、これがもしも霊圧を消す巨大虚やら、特殊能力持ちのめんどくさい虚だったら──言い換えれば藍染の実験虚じゃないよな、ということだった。

 時系列上の話では、虚の死神化の研究は大方終わりを告げ、もうそろそろ虚圏(ウェコムンド)へ侵攻し大帝バラガン・ルイゼンバーンを屈服させ、研究実験はそちらで行われているだろう。そう信じていたいと天満は油断して死んだなんてことにならないよう注意を払っていた。報告までが虚討伐、というのはそういう意味も含まれていた。

 

「そういえば十席は」

「もうお仕事終わりましたよ」

「……報告までが虚討伐だと仰られたのは稲火狩十席ですが」

「確かに……いやそんなに意固地になることでもないんだけど、どうかしました?」

尸魂界(ソウル・ソサエティ)で三人目の二刀一対の斬魄刀を持つもの、という話を聞きましたが」

「大層な斬魄刀持っちゃいましたよ、まぁ京楽隊長みたいに普段から二つなくてラッキーでしたけど」

 

 例えるならば浮竹十四郎は解放前は一刀だが始解をすることで二つに分裂する。そして天満もまた、解放前の斬魄刀の本数は一振りとなっていた。おかげで必要以上に目立つことはなくて安堵している部分があるが、その特異性故にやや技術開発局に目を付けられ始めているという背景があった。

 表向きは京楽や浮竹のような明確な理由らしいものがない以上、これは仕方のないことなのだが。

 

「修練でしか始解したことないですからね、まだ慣れないのもなんとも」

 

 平時であれば廷内での帯刀すらも許されない。帯刀を許されても始解が許されることはもっと稀である。今回のようなケースであればやむを得ず始解はできるだろうが、その必要に駆られることもないまま数年が経過してしまっていた。

 だが確実にその噂、稀有な斬魄刀の持ち主というのは隊長格には伝わる。それと同時にそれは強者への期待にも変わっていく。

 

「……重くは、ないのですか?」

「重たいですよ。刀は元々、重たいもんでしょう? 命を奪う、幾ら虚相手は浄化と言っても、これを同じ死神に振れば、また別の敵に振れば──相手を殺せてしまう」

「──っ」

「ああすみません、()()()()()()()()()()()()()!」

「……え?」

「え、あ……えと」

 

 持論を語っているとルキアのリアクションが劇的に変化してしまう。そのせいで天満は慌てて、いらぬ言葉を口走った。

 ──多弁は銀、沈黙は金。漫画の中でキルゲ・オピーが発していたセリフをこんな形で身を以て知ることになるとは、と天満は空を仰いで言い訳を考えていく。

 志波海燕は彼が入隊する前に死亡している。彼が知っているのは副隊長が現在空位であること、ただそれだけだ。決してその()()()()()()()()()()()()()()()()()など知る由もない。ルキア自身も語るどころか忘れてしまいたいほど辛いトラウマである。

 それを彼は気遣った。思い出させると口にした。ルキアの眉根が寄るのは至極当たり前のことだった。

 

「何故──私の過去を知っている?」

「ま、まぁ当然こういう反応になりますよね」

「なりますよね、ではない! 質問に答えろ!」

 

 隊舎に戻り一刻程経過してから、天満は隊舎内の二人しかいない鍛錬所でルキアから詰問を受けていた。

 とんでもないミスである。それ以上にまずいことを口を滑らせたという事実があるにしろ、こうして面と向かっておかしいと口にされたのは初めてのことで、如何に市丸の性格が厭らしいかつ、狡猾なのかということをルキアの怒りを以て実感していた。

 

「す、すいません……実は前に小椿三席と虎徹三席の会話を立ち聞きしてしまって……!」

 

 ──そして彼はメタスタシアの事件を間違いなく知っている原作にいたキャラに罪を擦り付けた。

 思いついた中で最も短絡的で、故に疑う余地のない返答を受けたルキアは続けて何かを言いかけてそして、がっくりと肩を落とした。

 あの二人は海燕のことを慕っており、またルキアのことを妹分のように接してくれた暖かい二人だが、喧嘩が多くそして二人揃って声が大きいという難点があった。特に小椿仙太郎の声はいつでも良く通るため、ルキアはこれ以上の追及は無意味だと判断した。

 

「あの二人が」

「……そうです」

「なら……声を荒げてすまなかった」

「いいんです、触れられたくないところ、迂闊に触ってしまったんですから」

 

 何より天満の申し訳なさそうな顔に揶揄う素振りも上官を殺めたことへの怒りもないその表情にルキアは怒ることができなくなっていた。それは天満がメタスタシアの能力を知り、そしてそれによって志波海燕が乗っ取られ、それをルキアが()()()()()()という顛末を知っているからこそなのだが。

 

「あの時の私は──」

「だから、何も言わなくていいですって。顔見りゃ、副隊長の心が何処にあるかってのもわかりますから」

「……ああ」

 

 救えない。これではルキアの「心」は救われない。この言葉で自分が朽木ルキアを救うなどと烏滸がましいことを一瞬でも考えたことを天満は恥じた。本来の流れを変えることは恐ろしくはない。自分の言葉でルキアが自傷を止め、黒崎一護にその霊力全てを渡すことがなくなっても、きっとなんとかなる。彼はそう感じていたが。

 ──だが現実としてルキアを救うことはできなかった。このまま彼女は空座町の担当となり、フィッシュボーンDと遭遇し、そして一護によって救われ、アーロニーロ・アルルエリと対峙したことで海燕の心がどこにあるかを思い出す。

 ちっぽけな小石でしかない、吹けば飛ぶ雲でしかない自分に天満は拳を握りしめた。

 

「なぁ……」

『そろそろ、呼ばれる頃かと思っておりました』

 

 その日の夜、誰もいない鍛錬場で天満は刃禅を組み、自身の内在する世界へと意識を没していた。

 温泉の湯けむりと月を覆うような薄い雲、星が瞬き行灯が灯る世界を背景に、彼は棚引く煙と、己の斬魄刀と会話をする。

 それは決意を伝えるためであり、また彼女との繋がりを深めるためのものでもあった。

 

「んでさ、朽木さんの顔見てさ……ちょっと──欲張ってみたくなったんだ」

『結構ではありませんか、大層で大仰な名を持つ私は、元よりあなたの利己的価値観(エゴ)から生まれた存在ですから』

「全部は無理だ。一護も言ってたけどスーパーヒーローなんかには成れないからさ、朽木さんも、市丸隊長も、他にも雛森副隊長とか、乱菊さんとか、浮竹隊長も山本総隊長や雀部副隊長──みんな救うのは無理だよ」

『ええ、左様です』

「だけど、このままじゃ俺が稲火狩天満である意味がない。お前の名前が大仰である意味がない。だから俺は、俺は……とびきりの利己主義者(エゴイスト)であろうと思う。俺が俺であるために、俺が未来を識るみんなのうちのできるだけを救う……!」

『善哉、そのための工程も、あなたならわかりますね』

「おう、つかもう()()()のか?」

『さぁ?』

「はいでたあやふや〜、いいよ、後二十年足らず、意地でも習得してやるから」

『具象化を?』

「卍解を、に決まってんだろうが」

 

 ふふふ、と笑う度にゆらゆらと湯気のような躰が揺れる己の斬魄刀に煽られている気がして、天満は唇を尖らせながら目を開けた。

 だが目の前が急に煙が晴れるように、彼の心にあった迷いは立ち消えているのだった。

 ──雲に覆われた月は、その切れ間から光を覗かせる。その明かりの先に、光を指し示した先に何が待ってるのか、天満は口許を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 




ルキアさんもヒロインじゃありません。恋次くんに申し訳ないんで。というか恋愛に舵を切る予定がミリもないです。

次回から本格的に物語が始まります!
一護が帰る前に始解くらいしときたい……笑

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