モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
一晩明け、浮竹の容態も安定した頃、同時多発的に霊圧の衝突が行われた。
一つは総隊長山本元柳斎重國と京楽、浮竹の衝突、もう一つは更木剣八同士の戦い、そして朽木白哉と日番谷冬獅郎の戦いが。天満は屋根に登りそれを肌で感じ取っていた。
「始まったみたいだねぇ」
「ええ、京楽隊長は」
「ボクは影狼佐の元へ向かうとしますかね」
「……すみません、お手伝いできず」
「いいのいいの、これはキミの先読みを信じた上での判断だからね」
因幡が断界の操作を行えなくなる頃、卯ノ花が山本元柳斎を連れて現世へと離脱する時を見計らって現世へと向かうことにしていた。最後の手段である「虚化した霊圧を持つ死神」を確保するためにはやはり浦原に助力を頼む必要が出る以上、天満が露払いをするべきだと京楽が判断したからであった。確かにどんな隊士が待ち受けているか解らない以上、天満が助けに向かうべきだ。それを怪しむ余裕を奪うため、京楽は自らが前に出る決意をした。
「こちらに突入してきた隊長たちの息の根を確実に止めるため、影狼佐は必ず自身の手を使います……あいつは他者を信用することなく、個の力のみを信じようとしますから」
「ん、たった一人で護廷十三隊を相手取れるんだ。そのくらいの自信があって当然だね」
「ええ、だがこの場合は慢心となります」
因幡影狼佐は天満との読み合いに勝利していると感じている。こうして浮竹を戦闘不能にしたことで彼は実際に天満が厄介ではあるものの読み合い、軍略においては敵ではないと断じていた。斬魄刀の能力を知られているのは意外だったが、それでも優位性は揺るがないと疑わない。
八番隊の隊首室で作戦を再び確認していると、そこに浮竹と卯ノ花が入ってくる。
「俺も行くぞ、京楽」
「浮竹!? 身体は大丈夫なのかい?」
「ああ、卯ノ花隊長のおかげでな」
「全快とまでは行きませんが、戦闘に支障はないかと」
その言葉に京楽と天満の口許に笑みが浮かぶ。卯ノ花はその雰囲気が明るくなった状況にほんの僅かに微笑んだ。
浮竹は本来、天満の作戦によって現世へと避難するはずだった。だがそうなっては天満や京楽に自分の怪我を背負わせることになると霊骸となっていない清音も呼び出し──尤も呼び出す前から待機していたが、二人がかりで治療に当たっていた。
その無茶をするだけの成果はあったと卯ノ花は隊首室の雰囲気から感じた。
「天満」
「はい」
「なるべく早く帰ってこい。お前には
「……必ず、元から死ぬつもりなど毛頭ないですから」
「それでいい、お前はそれで」
護廷十三隊は護廷のためには自らの命を賭して、そして死ねと教えられる。護りたいものを護るためにはその生命を燃やせと。
──だが浮竹はその理念と真っ向から反対した言葉を放った天満の肩を叩いた。死んでも護りたいものを護るのではなく全てを殺しつくしてでも護りたいものを護る。その精神を浮竹は認めたのだから。
「それじゃあ天満くん、昇進祝いと騒動解決祝いにはパーッと呑もうか!」
「ご相伴に預からせていただきます」
「ん、だから卯ノ花隊長に治してもらえる程度の怪我にしておきなよ?」
「それじゃあ死ぬ手前くらい無茶しても大丈夫ですね」
「あら、そんなことを言うと治してあげませんよ?」
「ははは──よし!」
こうして浮竹と京楽は影狼佐の元へ、そして卯ノ花は山本元柳斎の救出、天満はそこから穿界門までの道を切り拓き、殿を務めることになった。
霊骸はどこまで投入されているか、不安は募るものの隊長の霊骸はほぼ影狼佐の護衛に回される。さすれば一対一を厳守すればひとまずは問題ない。天満は誰が来てもいいようにと準備をする。
「よう天満」
「……斑目三席でしたか」
そこに立っていたのは斑目一角だった。目から青白い光を輝かせ、最早霊骸であることを隠すこともないその姿と元々好戦的な一角、そしてなにより席官ながら卍解を扱う相手として、天満は厄介な配置をしたなと苦い顔をする。
影には他の気配もしているが、恐らく倒したら次々と襲いかかってくるのだろう。ゆっくりと刀を抜いていった。
「なんだァ、俺じゃ不満か?」
「いえ、むしろ簡単に吹き飛ばせる相手じゃないので面倒くさいと思っただけです」
「いいじゃねぇか、サシでやらせてもらうぜ!」
「明け灯すは棚引く煙羅、昏く浮かぶは手招く桂雲──炎輝天麟」
「延びろ、鬼灯丸!」
仕掛けてきたのは一角、高速の連続突きを小太刀で防御されるが間髪入れずに三節棍へと変形させ、うねる蛇のように襲いかかる。
天満はそのタイミングを読んでおり、瞬歩で一角の肩を斬り裂くがやや浅く、気を失うことなく三節棍を振り回し空中に居た天満を壁に吹き飛ばす。
「痛っ、て……」
「どうしたァ! 本気で来い!」
「因果炎斥」
「なに!?」
肩の傷をものともせず間髪入れずに突きを繰り出す。だが左手に握られていた長刀は天満の言葉に呼応するように白く輝き、天満を除いた半径五メートルに及ぶ全てを、衝突した壁すらも吹き飛ばした。
まるで鉄の塊が超高速で──現世での知識が戦国時代で止まっている一角には理解できない喩えだが大型のトラックが時速60キロでブレーキもなく衝突したような、そんな圧力が一角の身体を吹き飛ばしていく。
「チッ、右と左を入れ替えてやがったのか」
「そういうことです……破道の三十二、黄火閃!」
「しゃらくせぇ──!?」
「縛道の六十二、百歩欄干」
「しまった!」
直接の斬り合いを楽しむ一角のようなタイプはある程度合わせて斬り結び、不意を突く形で「黄火閃」を目眩ましにしてから動きを止める。尤も原種の一角の方が咄嗟の判断力は高く、また直接の斬り合いを楽しむと言っても更木剣八には通用しない手ではあるが、上空からの光の杭に縫い止められた一角には為すすべはなかった。
「これで終いです……炎輝白星」
「ガッ」
目眩ましをした辺りからずっと回転させていた長刀から白い星を放つ。白星は一角の腹部に衝突し、そのまま先程とは比べ物にならない程の斥力を放出し、縫い止められていた一角の身体はバラバラに砕け散った。
だが、これで終わりではない。そう切り替えようとした瞬間、投擲された「風死」を回避し、吉良の攻撃を直接受け止めることなく斥力で弾いた。
「俺たちは
「いいですよ、纏めてきてくれた方が有り難いんで」
「コイツ……十席が副隊長を二人纏めて……?」
「おい吉良、影狼佐も言ってただろ、コイツは注意すべきだと」
「──こういうやり方、好きじゃないんですけどね」
読心術と原作知識を合わせて相手の隙を突き、後ろから鬼道と斬術を絡めて戦うのが天満の戦い方だ。基本的に消耗する技も多いため普段から霊圧を抑える癖がついている。同時に霊圧で相手を威圧するやり方は好むところではなかった。
──それが勝つための手札ならば、話は別だが。天満は霊圧を全開にし、二人の霊骸に叩きつける。
「くっ……なんだこの霊圧……!」
「まるで、隊長……っひ、檜佐木さん!」
「チッ、風死!」
瞬歩を見きった檜佐木に投げつけられた鎌の軌道をズラし「風死」は小太刀の腹を撫でるよう後方に逸れていく。そのまま長刀で突きを繰り出すが檜佐木は瓦屋根から脱力したように後ろに落ちていった。
天満はその光景がフラッシュバックする。天麟が所持する記憶の中にこれと全く同じ動きがあった。空座決戦の際に彼がフィンドール・キャリアスと戦った時、その光景を思い浮かべ、檜佐木の手元に注目する。
「なっ、俺の風死を読んでやがるのか!?」
「面を上げろ──侘助!」
「縛道の三十九、円閘扇」
後ろから迫る「風死」を引力を使って小太刀の切っ先に寄せて、操り檜佐木に投げ返す。
それを危険だと判断し吉良が「侘助」を解放し、重量を増やそうとするが天満は吉良の攻撃は徹底的に物理で受け止めることなく防御していく。片手で詠唱破棄した縛道に防がれたことが信じられないような顔をする吉良の顔をめがけて、天満は斥力を用いることで空中で身体を高速転換し左上段の回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ、くそ……!」
「コイツ、白打まで使えるのか!」
「両手は基本塞がってますからね、脚技くらいですけど!」
「何っ」
瞬歩で真後ろまで移動し、半歩退きながら檜佐木が繰り出した半回転の斬り払いをしゃがみ足払いを回避させて空中を浮いたところを跳躍し、長刀で上から下へと斬り裂き、その回転の勢いのまま小太刀で首を落とした。檜佐木の霊骸が斃れたが、それを時間稼ぎとして吉良は詠唱を終えた鬼道を天満へと向けていく。
「散在する獣の骨、尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪、動けば風、止まれば空、槍打つ音色が虚城に満ちる──破道の六十三、雷哮炮!」
雷鳴と轟音、壁を吹き飛ばして閃光が収まり爆炎に包まれた破壊の路だけが残る。肩で息をしていた吉良は終わったのかと「侘助」を握りながらゆっくりと近づいていく。
警戒はしていた、だがそれ故に気づけなかった。無事という程でもないが天満が直撃を斥力で防いでおり、最後の一撃のために詠唱をしているということに。
「縛、道……の七十五、五柱鉄貫」
「しまっ、うわぁあああ!」
吉良は鉄杭に五体を穿たれ呻く。爆炎を吹き飛ばす空中からの衝撃で吉良は目の前に黒い星を創り出した天満を視認し、その敗北を悟った。そして、彼の身体と「五柱鉄貫」の杭は引力の奔流に呑まれてぐしゃぐしゃに、そして粉々にされていく。
やがて黒星が消え、残ったものは地面を削り取る円形のみだった。副隊長とはいえ隊長格クラスを三人、相手にした天満は「雷哮炮」の傷と一角に吹き飛ばされた傷を負っていた。だがそれ以上に天満は自身の大技の燃費が如何に悪いかを再確認させられる結果となった。
「稲火狩十席!」
「さ、雀部副隊長……卯ノ花隊長も」
「天満さん、大丈夫ですか?」
「なんとか……こっちまだ三人しか」
「残りは雀部副隊長と私で」
「……稲火狩天満」
「総隊長……!」
怪我はあるものの思っていたよりも元気そうな印象すらある元柳斎を前に天満は自然と背中が伸びた。どうやら残りの副隊長は二人によって殲滅されていたようで、天満は死神の中でも頂点に分類される二人の頼もしさに安堵の息が漏れた。
集中すると既に日番谷、白哉、剣八は影狼佐の元へと辿り着いていたようで、今なら安全だと卯ノ花と天満は頷き穿界門を潜り抜けていった。
「では、私は総隊長の治療に専念致します。他にも怪我人がいるのならこちらへ」
「私も元柳斎殿の護衛に」
「では、俺は浦原商店に向かいます」
「ご苦労じゃった……稲火狩天満」
「……有難うございます」
穿界門を抜けて、空座町の山の中腹にある大きな寺に潜伏した三人に向かって天満は頭を下げて瞬歩で消えた。
予定調和、本筋に近い流れとはいえ一護がいないのにも関わらず、どんどんと戦える人数が減っていくのは天満にとっても懸念であった。そんな懸念を払拭するためということもあり、浦原に何か打開策がないかを問いかけに向かった。
「……事情は解りましたが、平子サンたちが素直に頷くとは思わない方がいいッスよ」
「それは百も承知ですよ」
「ならどうしてアタシにその情報を? アタシに何かをさせたいんスか?」
だが浦原は厳しい言葉を向けてくる。その様子に天満は疑問符を浮かべていた。
確かに、普通に考えればこの事件のほぼ全てが浦原にとってはなんの研究的価値もメリットも存在しない。改造魂魄も尖兵計画も、浦原にとっては全てが過去に研究を終えたものであり興味の対象とはならない。そして彼は本質的には涅マユリとさほどの違いもないのだから。
天満は
「……リスクか」
「はい?」
「アンタの考える
「……いやぁ、参ったッスねぇ、そこまで読まれちゃうとは」
「そのリアクションで察した──
「成る程、完成したらそういう名前になるんスね」
「そういうのいいです……で?」
「最悪の場合、虚化します」
妥当だなと天満は唸った。先月、市丸の監視報告を受け取りに現世に向かった際に、天満は悩みつつも次の、約一年半後に起こる事件の話をした。一番の犠牲が出るためどうしたらいいのかと考え、
「俺の識ってる浦原さんは急ピッチで仕上げてたけどな」
「いやぁ、流石にそのメダリオンがないと完璧なデータは取れないんスよね」
「そうですよね、最初に登場するメダリオンの持ち主は、瀞霊廷にやってくる大男が一つ、後は現世にやってくる破面が一つです」
「どのみち完成はメダリオンの奪取がマストっス……そうでないなら覚悟はありますか?」
「虚化した時のためのワクチン、用意してる癖に」
「──魂魄自殺のことまで、ホント、天満サンと話してると怖くなりますよ」
最終的な落とし所は卍解を一瞬だけ虚化させるというところ。だが今回はその毒性たる「虚化」がいつまで持続するか解らず、浦原が想定する最悪のパターンはそのまま使用者を虚化──つまりは「
「いやでも……危険な賭けをするだけの価値はありますよ、ただ」
「ただ?」
「この薬が滅却師に露見することだけが気がかりですね……」
「それはそれ、これはこれ、また別の対策を立てればいいんスよ」
「……わかりましたよ」
影狼佐の「侵軍」との戦いも大詰めとなり天満はこれからを見据えていく。
まずは枷の外れた霊骸たちとの戦いになると、天満は浦原に原作通りなら元柳斎が刀を抜くんで空間固定の作業を頑張ってくださいねと伝え、汗を掻きつつ驚きと焦りを顔に出す浦原を楽しんでおくことにした。