モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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REBELLIOUS CLEATURES(8) −FINAL−

 原作にはなかった「仮面の軍勢」の介入、それは奇しくも一護が力を失ったからこそ起きた改変であった。その改変の影響も、天満の卍解が作用しているかどうかは不明ではあるものの、浦原は虚の力が有効になると知る前から影狼佐が一護を警戒して力を失っていることを確認している時点で準備をしていた。

 一護にとっては悔しいことだ。仲間だと言い張る女一人を護れずに他人に頼るということは、力を失ったということは。それは本筋のように強がってこれは望んだ世界なんだ、なんて戯言すらも言えない程に。

 

「……黒崎サン」

「なんだよ」

「いえ……必ず、黒崎サンの力を取り戻せるようにします。それが、アタシなりの贖罪ってやつっス」

「いいよそういうのは……ただ、頼む」

「……ハイ」

 

 平子たちのアジトへ向かい、頭を下げた帰り道、一護と浦原はこんな会話をしていた。浦原にとっては自分が好奇心と探究心のままに「崩玉」なんていうものを創り出してしまったことで起きた尻拭いを一護に、たった十数年しか生きていない子どもに背負わせたことを悔やんでいた。その少年が欲しかった力を手放させてまで。

 

「……それに、天満サンはもう次の戦争を見てますから」

「あの人、一体なんなんだよ」

「それは──あの人にもアタシにも解っていません」

「はァ? 自分で自分が解んねーってなんだよ、旅好きの大学生かよ」

 

 一護のツッコミに浦原も苦い顔をする。嘘は言っていないが本当のことを言う意味もない。言っても混乱を広げるだけでしかない。

 それに稲火狩天満にとっても自分とは何者であるかを探している最中であるため、浦原も曖昧な返答しかできずにいた。

 先の戦争で敵対したこともあり、不信感を抱いている一護にとって、その秘密主義も気に入らない。浦原の説明では納得がいかないという顔を表に出した彼に、浦原は微笑んだ。

 

「ただ確実なのは、あのヒトが味方だってことッスよ」

「本当かよ」

 

 だが、天満と再会した一護は浦原のその言葉だけは信じようと決めた。もう戦うことはできないけど、その戦いを見守ることも感じることすらもできないけれど、みんな自分に救われたから、護られたから今度は自分がと微笑み、戦い、傷ついていく。

 ──いつの間にか一護は、今まで自分に言い聞かせていた「ユーレイの視えない望んだ世界」とは言わなくなっていた。

 

「後少しというところで……!」

「オマエがどんだけ強かろうが、俺の攻撃を操れん限りは無理や」

 

 そして現在、平子と市丸、そして望実ら現世組と恋次とルキア、業平が影狼佐と対峙していた。

 その速度と霊骸として強化された力はその人数差であっても対応できているが、そんな影狼佐が苦心していたのは平子と市丸の即席とはいえ卓越したコンビネーションだった。

 

「グ、ウゥ……悉く私の能力を……!」

「まさか、天満クンに隠し事が出来ると思っとる?」

「その天満って奴、喜助にも色々バラしよるから、俺もみーんなオマエの能力も目的も知ってんねんで?」

「稲火狩……天満……!」

 

 何処から情報を得たのか、どれほどまで自分の計画を知り得ているのか、その不確定要素が悉く影狼佐の計算を狂わせていた。原作では不明瞭だった望実を求める理由すらも暴かれているため、尸魂界を護るため、そして望実を護るため、動ける護廷十三隊の隊士たちが一丸となって影狼佐へと反抗していく。

 

「射殺せ──神鎗」

「來空……っなにィ!?」

 

 更に影狼佐を苦しめていたのは平子真子の斬魄刀「逆撫」の能力だった。影狼佐が反撃のために「來空」を使って空間を切り取ろうと刀を回転させ発動させる前に「前後」を入れ替える。すると影狼佐が誰もいない空間を切り取ってしまい、市丸の「神鎗」を致命傷にならない程度で躱すのが精一杯という状況になっていた。

 ──しかもその「逆撫」の能力は平子の霊圧に虚が混ざっているため切り取っても扱えない。

 

「市丸、オマエとっとと卍解して終わりにでけへんのか?」

「街ごと両断してええんなら」

「めんどいやっちゃな!」

 

 そう言って平子もこの状況では卍解を使うことなどできはしないのだが、それは棚に上げておいて虚化する。影狼佐は禍々しいまでの虚の霊圧に目を細めつつ防御しようとするが視えている方向と斬られている方向を逆にされ、肩を斬り裂かれる。

 相手の感覚を自由に入れ替えることができる「逆撫」と視覚外から伸びてくる「神鎗」のコンビネーションは、じわじわと影狼佐の傷を増やしていく。

 

「業平」

「天満、って割とボロボロじゃないか」

「ちょっとはしゃぎ過ぎてな……終わりそうか?」

「どうだろうな」

 

 その頃、天満が業平の隣へとやってくる。既に味方はいなくなった。それでも孤独で戦おうとする影狼佐に最期の言葉を掛けるため、自分が歪めた世界の物語を閉じるため、救う命のためにまた一つの命を奪うという贖罪のために因幡影狼佐の元へと近づいていく。鬼道を絡めた攻撃と、強化された隊長との戦いで傷ついた仲間たちを見て、望実の隣にやってきて天満はその肩を叩いた。

 

「……お前は」

「キミは、どうしたい?」

「え?」

「何もないというなら、俺は影狼佐を殺す……けど、同じ由嶌欧許から生まれたキミに問いかけたくてね」

「どうして?」

 

 それは、天満の業と呼ぶべきものだった。天満は彼女の最期を識っている。彼女の最期は悲しいものではあったけれど、由嶌欧許の心にあった孤独を満たされ、満足そうに消えていく。影狼佐もまた、それが怒りや憎しみでなかったことを、そして自分の復讐心が間違っていたことを悟り、認め消えていった。

 ──無意味に失われる命なんて少ないに限る。望実だって、そのうちの一つであると天満は考えている。だが、このまま望実だけを残すのは果たして正しいのか、天満は自分の霊骸との戦いを通して少し立ち止まって考えていた。

 

「私は……()()知ったんだ。記憶にあった心がなんなのか。強いとか弱いとか、そういうのじゃないって」

「そうか」

「影狼佐にも……解ってほしい。由嶌欧許(わたしたち)はただ、独りだっただけなんだって。そして今度は……私がアイツの仲間になってやりたい」

「良し、なら俺は……影狼佐も救うよ」

「救うだと?」

 

 天満のそのやり取りを聞き取っていたのだろう、影狼佐が怒号に近い声を上げる。

 傲慢なまでの、まるで神のような言葉を、群れているような弱いやつが吐き出す。それは彼にとっては我慢ならないことだった。自分がひたすらに孤独だったが故に、仲間たちに背中を預ける天満が、望実が、そして力がないにも関わらず望実のために出来ることをこなした黒崎一護が許せなかった。

 

「貴様は今、誰を救うと言った! 私は、私は貴様に救われるような、寄り添い、庇い合い、馴れ合う弱き者ではない!」

「なら九条望実は?」

「……なに?」

 

 影狼佐が抱える怨嗟のような孤独の中にある唯一の光、それが九条望実だ。そしてなにより融合が完全でなくなる唯一の理由が望実はもう孤独ではない、もう充分に満たされたということでもあった。天満は始解し、影狼佐と刀を合わせる。そうすることで、いつも黒崎一護が他者を理解してきたように、まるで寄り添うように天満は影狼佐の斬魄刀(こころ)に触れる。

 

「ああ、解る。俺には解るよアンタの孤独が……ただの一般隊士(モブ)でしかなかった俺には」

「なにを……!」

「そして、もう一人の俺にとっても」

 

 刀を握るのが怖くて、虚すらもまともに倒せず震えていることしかできなかった自分、無力だった自分の他にいつもは封印している「天麟」が保持している現世の社会人だった時の記憶に触れる。あまり触れすぎると此処の世界の現実感が薄れてしまうため普段は原作知識以外は開かないようにしている前世の記憶の匣の中にある自分もまた、独りだった。

 ──アパートの隣人とも付き合いはない。会社ではただの先輩後輩同僚でしかなくて、ほんの僅かにあった友人関係も流行りの疫病で断たれた。あの雨の日、六月のあのジメジメした日に足を滑らせて「稲火狩天満」の記憶と融合するまでの数年間、ただの人間だった彼にはその数年間が苦痛でしかなかった。

 

「だから解るよ。俺も黒崎一護が羨ましい。ああやって全部を背負って、仲間と手を取り合って、支え合って、慈しみ合って、それでも尚、強くいられる彼らが羨ましくてしょうがないよ」

「稲火狩天満……!」

 

 刀が打ち合う、回転する双頭剣を二刀が防ぎ、逆に二刀の連撃を回転する双頭剣が防ぐ。能力も使わず鬼道も使わず、瞬歩で回避することはあっても基本的には刀と刀がぶつかる音が、ただ響いていく。

 

「何故だ……何故そこまで理解していながら、お前は……っ!」

「俺が、独りじゃないってことを知ったからだ」

「……クッ、ふざ、けるなァ!」

 

 この時、影狼佐は断片的に天満の記憶を見せられていた。刀と刀が触れ合う度、断片的な記憶と感情が流れ込んでいく。小太刀を受ければヨレヨレのスーツに身を包むこともなくなり、ワンルームのアパートでパソコンに向かい合うだけの日々と、ニュースに淡々と流れる何かの人数と、落胆。

 長刀を受ければ、霊術院で斬術、鬼道を褒められるもののいざ模擬戦で向かい合った時の恐怖、そして落胆する講師の表情、そして虚すらも討伐できないという絶望。

 

「なんだ、これは……!」

 

 そして望実との会話が流れてくる。聞こえなかったはずの望実の言葉が鮮明に伝わる。

 記憶と感情の波、影狼佐は自分に関する記憶すらも見てしまい全てを理解した。自分が本来どうなるかというのも、天満の刀に触れたことで識ってしまった。

 

「そうか……結局、私は……」

「……影狼佐?」

「キミは選び続けていた。ならば……私も選ぶとしよう」

 

 ──そうして、天満の突きが影狼佐の胸に深々と刺さった。それには天満も、望実も、その場にいた全ての人物が驚きに目を見開いた。心臓を完全に抉り抜いたその刺突に、影狼佐は血を吐き出し仰向けに倒れ伏した。

 あっけない幕切れ、一瞬影狼佐が「來空」を操り損ねたのかと市丸や平子は感じたが、そうでないことを天満の表情から読み取った。

 

「……なにして」

「フ……()()()だけだ。キミが、未来の選択肢を握るように……私もまた、自分の運命を変える選択をしたまで……ゴホッ!」

「おい……影狼佐」

 

 殺すつもりだった。もちろん影狼佐が望実の願いを受け入れることがないのなら殺すしかないと決めていたし斬魄刀で防がなければ死ぬような斬撃を繰り出していた。

 だが、自ら刃を受け入れ死ぬというのは天満が予想だにできないことだった。

 

「黒崎一護に伝えておけ……望実を、私の仲間を頼む、とな」

「お前は」

「私はどのみち長くないことを……識っていたであろう」

「けど……だけど!」

「フ、フフフ……読みを全て上回られて腹が立つ、奴だったが……ああ、やっと貴様に勝てた──」

 

 それが、影狼佐の最期の言葉だった。

 望実を一護に託し、そして焦りと悲嘆に暮れる天満に向けて笑みを浮かべ勝利宣言をし、影狼佐は息絶えた。霊骸だった身体は死ねば崩れ、そこに残った赤い丸薬のような球体も、光になって消えていってしまった。

 

「天満クン」

「……最初から、敵だって挑まなきゃ、もうちょっとちゃんと……物語じゃない影狼佐を見ていれば」

「それは、自分の運命を自分で選んだ影狼佐への侮辱や」

「──っ、すいません」

 

 うまくいかないことが多すぎる。つくづく天満は自分で選んだ道が楽なものじゃないことを思い知った。部外者である平子も、ルキアも恋次も、石田も茶渡も織姫も、そして望実とコンすらも。あれが納得の行く最期ではないこと、喜べるような最期ではないことは明白だった。望実は生き残った。本来の運命を変えることができた。だが、その代償はあまりに天満にとっては自分の存在意義すらも問いたくなるような勝利だった。

 

「天満」

「業平……」

「とりあえず、帰ろう」

「……ああ」

 

 この時点で現世へやってきた全ての霊骸が破壊されており、尸魂界にいた霊骸たちもまた影狼佐の選択に従うこととなった。そして、藍染惣右介の反乱から僅か一ヶ月後に起こったこの尸魂界と現世を揺るがす未曾有の事件は、露見による失脚を恐れた四十六室により徹底した箝口令が敷かれることになった。記録は全て破棄、十二番隊第七席因幡影狼佐の名前もまた、あらゆる歴史から抹消されることとなった。

 

「あんましエエ気分で終われる事件やなかったなァ、天満」

()()()()……なんでコチラに?」

「なんでて、落ち込んでるって業平から訊いたもんで」

「先週まで落ち込んでましたよ、外出許可が出て気分転換してきたんで」

「はァ〜!?」

 

 そして事件から更に一ヶ月が過ぎ、改変の影響がまた別にも起こっていた。

 一つは鳳橋楼十郎、平子真子、六車拳西の隊長就任が早まったこと。これは霊骸の事件で「仮面の軍勢」の力を借りることになってしまったため、四十六室の反対派が大っぴらに反対できなくなってしまったことに起因していた。元々その話は内々に進められていたが、虚化をしないという条件と現世に残ったメンバー含めて全員が事件を広めないという条件を呑む形で本筋よりも三ヶ月程早い正式就任となった。

 

「それより五席就任したんやって?」

「もしかしてお祝いですか?」

「アホ! オマエみたいなのが十席におったなら俺いらんかったやろって文句言いに来たんや」

「藍染たちの穴を埋められるのは、俺じゃないですよ」

「……桃のことか」

「その様子だと大丈夫そうですね」

 

 他にも檜佐木にとってかつて憧れの死神だった拳西、吉良とは色々言いつつも相性のいいローズと天満がただ実力で隊長になるのとは違うフォローとパズルのピースのような嵌り具合がある。むしろ、第五席という上位席官の席次を与えられたことに天満は最初、ほんの一瞬だけ驚いた程だった。

 

「本来は可城丸を五席にして天満を六席にするつもりだったんだが、今回の事件で一番動き回っていたのがお前だったからな」

「有り難うございます……ということは、副隊長は」

「ああ……朽木にやってもらうことにしたよ」

「はい」

 

 こうして天満は昇進し、五席へと上がることになった。責任とある程度の機密にも触れられる役職になった天満は激務とは別に現世の浦原喜助と連絡を密に取り市丸の監視の総責任を取らされることになった。じゃあ三席くらいでもいいだろと天満は思わず口に出すところだったが、三席には仙太郎と清音が今度は朽木ルキアの補佐も兼ねてという形で忙しくしているため呑み込んだ。

 

 




これにて護廷十三隊侵軍編は終わりとなります。
合間の一年間を挟んで遂に「千年血戦篇」に突入します!
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