モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
NEW FACE&NEW ORDER
藍染惣右介の反乱、そして空座町決戦から約三ヶ月、漸く新体制の護廷十三隊も慣れ親しんだ真冬の頃、天満は信頼できる十席以下の席官を二名伴っての市丸の我儘──もとい尸魂界への渡航を手配させられることになった。
護衛っぽい言い方はしているが要するに監視を兼ねているのである。下位席官に限定するところ辺りが四十六室らしいやり方だと天満は苦い顔をするが。
「そっちの子とは初めまして、やね」
「はい、年始から二番隊から十三番隊の第十三席を任されております、
「元二番隊か、よろしゅう……で、業平くんおるってことは?」
「天満の後釜、第十席に昇進しました」
「二人とも順調なんはいいことやね」
赤茶色の髪を左側頭部にお団子で纏め、五色の色鮮やかな羽の髪留めをし、少し短めの赤い鞘の斬魄刀を腰に差す穂香は元二番隊の隊士であり刑軍の所属だったが、諸事情あり浮竹の目に止まったことと軍団長であり隊長の砕蜂の推薦もあり異動してきた女性隊士だった。十三席という席次だが走、打に秀でており業平とも互角以上の戦いが出来、鬼道を用いなければという条件はあるが天満が相手でも良い勝負をするような女傑でもあった。
一方、それほど悔しそうでもなく「やっぱり天満の後を追っかけるんだよなァ」とぼやくのは天満が約二十年間座っていた十席に収まった業平であった。
「それで、二人は天満クンの中隊の小隊長ってとこ?」
「そんなとこです」
「浮竹隊長いわく
「言わなくていいって」
業平の真面目くさった言葉に市丸も笑みを浮かべる。因幡影狼佐の騒動で浮竹は天満の暴走を懸念していたため中隊を率いての行動をほぼ義務付けていた。文字通り独りで戦うと気軽に使っていいようなものではない卍解を遠慮なく使うため、というのが業平の予想であり、それは事実でもあった。
「穂華、もうこの辺で大丈夫」
「はっ、それでは失礼致します」
「流石の動きやね」
「歩法で言うなら俺より上っすよ」
「しかも酒強いし、気立てもよければ器量もいい」
「業平」
「はっ、すみませんでした、五席殿」
天満の言葉に直立し瞬歩で消えたところで彼女には聞かせられない話を交えている。
──彼は少し悩んだものの、きちんと話すという約束を守るため業平にも全てのことを話していた。ただ安全というか安心できることが、阿久津業平という男は自分の記憶になく未来は視えてないということだった。
「後、一年なんだよな」
「それで、侵影薬はなんとかいきそうなんですか?」
「色々と苦労したわ」
市丸は浦原と共にひっそりと破面の生き残りに接触したり、残りの「仮面の軍勢」である羅武や鉢玄らの協力を得て
「それじゃあ、帰りはまた伝令神機にご連絡ください」
「おおきに」
恐らくというかほぼ100%松本乱菊に会いに行ったであろう市丸と別れ、天満と業平は修練場へと向かう。そこでは丁度、浮竹がルキアと穂華の鍛錬を眺めつつお茶を嗜んでいたが、二人に気づくと柔和な笑みで湯呑を新しく二つ頼むと指示する。
「業務……はもう終わったからいいか」
「おいおい、ちゃんと現世に送るところまでが仕事だろう」
「隊長はどうかされたんですか?」
「なに、丹塗矢の様子が知りたくてね」
浮竹の言葉に天満もまた座り、二人の模擬戦を眺める。彼女は鬼道が苦手だが歩法と白打が上位席官にも勝るクラスであるためルキアとしても苦手とする斬魄刀戦術を補うための鍛錬に丁度いいと声を掛けたのが始まりで異動して以来度々見かける光景でもあった。その分、天満と鍛錬する時間が減ったため少し寂しいという気持ちは彼にもあるが。
「舞え──袖白雪」
「
真っ白で美しいまでの白を纏うルキアの「袖白雪」とは対照的に短い、天満が普段左手に持つ小太刀程の刀身を持つ斬魄刀がそのまま鉄扇へと変化し、それを開くと中にあるのは白、黒、赤、黄、青の鳥が舞う美しい画だった。炎熱系の斬魄刀にして、開けば斬り、炎嵐を起こし、閉じれば叩くことが可能となる妖艶かつ麗しき斬魄刀、それが「五色燕凰」だ。
「初の舞、月白!」
「五色炎舞、
ルキアの「月白」に囲まれるが穂華は身体を一回転させ鉄扇から熱波を放ち氷柱を崩していく。
その熱波にルキアが怯んだ隙に瞬歩で近づき、閉じた鉄扇で狙うのは手首、武器を落とさせることが狙いとなるそれをルキアは慌てることなく冷静に摺足と同時に腕を引くことで刀身で受け、続く上段蹴りも瞬歩で回避してみせた。
「いつ見ても不思議な動きしてるよな」
「……フツーの死覇装のじゃ戦いにくそうではある」
「そうなのか?」
「独自の白打で誤魔化してるけど、もっと大ぶりに構えるよ……多分」
「雑な解説だな」
「すみません、浮竹隊長」
業平と会話していたためうっかりと浮竹の存在を失念していた天満はすかさず謝罪する。
だが自信こそないものの太極拳に近い動きがベースになっていることはなんとなく理解できる。普段の構えが鉄扇を前に出し、足を大きく前後に広げて左手を頭の上に出す、という中国拳法を彷彿とさせる為だった。無論、前世的にも詳しくはないため曖昧な言い方ではあるが。
「ヤッ!」
「まだだ!」
「
「……くっ、これは!?」
下段からの扇を開きつつの攻撃を受け止め「月白」を繰り出そうとしたが、それより前にゆらりと熱が揺らめき、新しく二人の穂香がルキアに向けて襲いかかる。なんとか回避するが、陽炎のようにゆらゆらとブレる分身に驚きを隠せずにいた。
──それは天満たちにとっても同じことだった。
「て、天満! 今のも拳法か!?」
「砕蜂隊長が分身するのとは……違いますよね?」
「ありゃ多分霊圧の操作と熱波による陽炎を歩法に絡めた……手品みたいなものだろう」
手品で済むか? と天満と業平の心の声が被った。
霊圧操作に長けた浮竹からすれば真実と虚構がひと目で解るものだった。霊圧の操作における虚構の分身を作る能力、これの最上位を知っているからというのも理由にはあるが。
「……霊圧の操作で分身作れるのに鬼道が苦手なんだよな」
「それは俺も思った。三十番台も暴発させることがあるって」
「そもそも隠密機動って白打と歩法もそうだけど鬼道も求められる。大前田副隊長なんかは苦手だって言うけど、刑軍は特に鬼道が必要じゃないかな」
そしてそれが穂華が二番隊及び刑軍から十三番隊へとやってきた一つ目の理由だろうと天満は考えていた。
他にも理由はあるだろうがそれは本人と砕蜂、浮竹しか知らないことだ。
やがてルキアと穂華の模擬戦が終わり、お互いの感想を話していたところで漸くルキアはそこに三人の見物人がいることに気づいた。
「天満に阿久津、それに浮竹隊長まで」
「いい戦いだったぞ、朽木も丹塗矢も」
「あ、有り難うございます」
「どうした天満、鍛錬漬けの生活に漸く飽きがきたか?」
「あー……色々とありましてね」
「……そうか?」
「けど……業平」
「言うと思った」
先程の模擬戦を見せられ、天満は自分も刀を振りたいと感じていることに気づいた。日番谷との鍛錬も続けているし、こうして暇さえあれば身体を動かしている天満のことを、ルキアは結局かとため息を吐いた。だが以前よりも焦りが消えてその実力に相応しい余裕というか、がむしゃらな様子は少なくなっていることを、同時に感じ取っていた。
「副隊長は、五席と仲がいいんですね」
「うむ……まぁあやつが席官になったばかりの頃からの付き合いだからな」
「そうなんですか」
「そういえば丹塗矢は天満の部下として業務をしているのだったな、お前からみてあやつはどうだ?」
「五席ですか……」
浮竹がいなくなり、男二人の剣戟をBGMにして女史二人の会話は続いていく。
穂華の母、
そんな母が隠密機動を退いたのは父に出逢ったからであり、穂華は二番隊に配属された十五年前まで、母によって独自に鍛えられていた。そんな出自の彼女は無論、郛外区出身者という偏見を持ち合わせてはいなかったがそれでも天満に対する第一印象は「薄い」だった。
「なんというか、初めはその辺の隊士さんかと思いました」
「フッ……確かにな」
「けど、その立ち振る舞いは上位席官としての自信と強さに裏打ちされていると感じました」
「知り合ったばかりの天満は、もっと怯えていた」
「……怯えて、ですか?」
「ああ、浮竹隊長と京楽隊長のみが持っていた二刀一対の所持者としての重圧か、それとも……先の破面との戦いをあの頃から見据えていたのか……必死な顔ばかりだった」
今は肩肘を張っている印象は少なくなったが、時折遠くを見つめる姿は未来を識っているが故の漠然とした不安を抱くことは勿論ある。それをルキアも僅かながら気づいていた。
ルキアが気にしていたのは天満が十三番隊の車谷善之助の報告書にあった「妙な霊圧の残滓を発見したが逃した」という文言を注視していたところにまた何かが起こるのではと感じていた。
「だが丹塗矢、これだけは忠告しておく」
「は、はい!」
「天満は隊規違反をしがちだ。それが尸魂界の為の行動でないわけではないが、護廷を預かるものとして見過ごさないようにしてほしい」
「……そうなんですか?」
「悲しいことだがな」
「何をしたんです?」
ルキアは指を折り始めたところで穂華はやっぱりいいですと首を横に振った。少なくとも数えなければならない程であることは確実であり天満に確認すれば苦笑い混じりに肯定するだろう。
規律に厳しい隠密機動では考えられないなぁと穂華は呑気なことを考えていた。そもそも市丸の監視を放置し鍛錬している時点でかなりグレーなことをしているとは露知らず。
「穂華、市丸さんを送ってく」
「了解しました」
「市丸? まさか……天満?」
「おっと副隊長、いらっしゃったんですね──急ぐぞ穂華、業平、もしかしなくても怒られる」
「ええ、だっ、ダメなんですか?」
「たわけ! 危険がないとはいえ四十六室の命だろう!?」
「稲火狩五席!? 阿久津十席もですか!?」
「しかも丹塗矢に説明していないとは……わざとだな!」
鬼の形相をしたルキアの前から業平と天満が逃げるように──正しくは確実に逃げているが、瞬歩で消え、それに慌てた穂華がルキアに頭を深々と下げて失礼致しますと丁寧に断ってから瞬歩で続いていく。
浮竹隊長と虎徹三席に報告することが増えたなとルキアはため息を吐いて、隊舎へと戻っていく。浮竹本人はまぁいいじゃないかと温和だったがルキアと清音に正座をした状態で小言を言われることになるのだった。
「天満クン」
「なんです?」
「なんや、どっちの経験でもええから女性に贈り物とかしたことあらへん?」
「……井上さんとかに相談してみては、それか九条さん」
そんな未来が待ってるとは予想もしてない天満は、まさかのキャラ崩壊を醸し出し始めた市丸に対して、やや投げやりに回答を示す。どっちでもプレゼントをまともにした経験のない天満としては、まともな回答が出来ないというのも理由ではあるが。
現世の女性陣の中で浦原商店で手伝いをしつつ織姫の近隣に部屋を構える九条希実は市丸にとっても顔を合わせる人物でもあるが、警戒されているという面もあった。
「市丸さんこそ今まで……なんでもないです」
「……ん?」
「いや怖いですからそんな微笑まないでください」
結局は現世で過ごしているという事情から義骸用の服でいいんじゃないかという結論に達した。そして、先日十三番隊隊士からの報告にあったことを天満は断界の道中で話し、特に手を出す必要はないけど騒ぎになると思うということだけを教えた。そして、彼の名前は慎重に現世で。浦原ならその危険度も解るはずだと言葉を重ねて市丸を見送った。
新キャラ
二番隊及び刑軍→十三番隊十三席
母仕込の拳法と母譲りの明朗さと父の温和さを持つ女史。様々な事情を加味し砕蜂が本人と浮竹と話し合い異動した。
斬魄刀「
解号:《搏翼舞うは五色絢爛、五音囀り吉祥報せよ──》
炎熱系、五色の鳥が描かれる麗しき鉄扇。扇げば炎嵐を巻き起こす。直接攻撃としても強い。
元は母の斬魄刀を受け継いでいる。そこそこ旧い斬魄刀でもあるため解号が長い。