モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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タイトル通り「Spirits Are Forever With You」の時系列の話になります。


SAFWY ANOTHER

 稲火狩天満の最大の特徴であるもう一つの人格、前世と言える記憶の存在を識るものは限られている。

 浦原喜助、阿久津業平、市丸ギンが該当し、彼が二つの魂が融合したのではないかと推理しているのが京楽春水。藍染惣右介も恐らくそれに近い推理をしているだろうことは解る。

 ──だが、天満は識っていた。自分の護廷十三隊の隊士では業平しか知らない天満の秘密を識っているものが世界にもう一人だけ存在していることを。

 

「なに? 旅禍だと?」

「技術開発局が襲撃を受けたとかで……」

 

 それは現在病欠中の浮竹の代わりに激務をこなしていたルキアの耳に届いた報せから始まった。もっと前から、それこそ一年前から前兆は起きていたが、その突如の襲撃に瀞霊廷は慌ただしさを増していく中、天満はどう出るかなとゆっくりと過ごしていた。

 今回の事件は更木剣八、そしてドン・観音寺が解決するべき事件だ。天満が未来を変える理由となっている「生命の浪費」が存在しない以上、触れることはない事件だと考えていた。

 

「──やっぱり来たか」

 

 その半日ほど経った頃、無人の隊舎道場に居た天満は空間のゆらぎを感じ取った。

 そうして空気が色を付けて、ヒトの形を保ち始める現象に対して驚くこともなく天満はまるで客人をもてなすかのようにその男の名前を呼んだ。

 

「ようこそ護廷十三隊十一番隊八代目隊長殿」

「……無駄な挨拶は結構だ」

「そうですか、では痣城さんはどうして此方へ?」

「……争うつもりはない。できれば協力をしてほしい」

「アンタの計画に加担しろってか、それこそアンタが嫌う無駄だろ……痣城双也」

 

 口調を変え、天満は相手を敵として認識する。勝てるワケがない、そもそも天満の有利なフィールドであったなら姿を現すこともなかっただろう彼をおびき出したとも取れる天満の行動に痣城は眉を顰めた。

 痣城の計画は「生命の浪費」に直結する。原作では結局失敗に終わるが、そんなものを看過しろという彼の言葉に対して天満は彼が抱く最高の嫌悪をぶつけた。

 

「救世主になるというなら……虚を鏖殺することが近道ではないか?」

「じゃあ今直ぐ影ん中にいる異物殺してこいよ。そっちの方がよっぽど害だからな」

「……何故キミはそう私を厭悪する」

「魂魄を弄くろうとするからだろ」

 

 敵意を剥き出しにして拒絶の意思を示す天満に痣城はため息を吐く。彼は常時卍解しているためその傍らには「雨露柘榴」が喧しく彼を嘲っているのだろうと判断した。さしずめ全ての計画が露見していることと、予想されたはずの回答をわざわざ訊きにきたことへの無駄を指摘しているに違いないだろうなと天満は少しだけ同情していた。

 

「あ、そうそう──天麟黒星なら、周囲の霊子を吸収することも可能だよ」

「……貴様」

 

 その瞬間、天満の周囲の空気が揺らいだのを感じ、天満は素早く始解し周囲の空気すらも長刀で弾き飛ばしていく。

 ──天満の行動から、たとえ建物内であろうが人的被害がなければ殺すと決めれば卍解するだろう予測に痣城は表向きは淡々とした様子で、だが警戒する。

 

「四十六室がキミの卍解に制限を掛けないのは何故なのか……いや掛けてもキミには関係ないのだろうな」

「まぁ、そりゃ無視しますよ」

「だがキミは、死神の本来の役割である歯車足り得ない」

社会の歯車(モブ)は出来てたんだけどな……解ってるなら退いて綾瀬川五席の瑠璃色孔雀でも奪ってきたら如何です? 俺が入れ知恵してたらどうなっていたでしょうね?」

 

 煽る。無駄に、とは言えない煽りを天満は繰り返していくことにする。無駄を嫌う彼に、無駄を排除しようとする彼に無駄口をたたき、無駄に時間を浪費させていく。真面目に戦えばまず勝てないであろう相手だが、痣城は煽りには滅法弱いと天満は読んでいて感じた。それで運命の引力を逃れることは出来ないだろうが、天満は言いたいことだけを述べていく。

 

「俺はアンタの前に立ち塞がらないよ」

「──何を、言っている?」

「まぁ思うままに行動していれば解るさ」

「本当に……未来を読んでいるな」

「識ってるのに確認するの、今まさに雨露柘榴に無駄だって嗤われてそうですけどね」

 

 実際、痣城は天満が言った言葉そのままを「雨露柘榴」に嗤われていた。同時に幾ら賢ぶろうが此処から未来が絵巻物であり何度も読んできた天満には全て見透かされていること、そしてその落ち着きようから痣城の計画が失敗することを無駄に冗長に喋られており、痣城は黙れと声を荒げた。

 

「……雨露柘榴の声は聞こえないけど予想してツッコミ入れますね、痣城さんの事件は絵巻物(マンガ)じゃなくて小説でした前後編合わせて八百頁ほどの」

「……無駄な補足だな」

「嫌いでしょう?」

 

 それが天満と痣城の最初の会話となった。天満としては藍染が自分の話をどれだけ彼にしていたのか確認したくて長話をしていたのだが、あまりに信念が食い違うため言い過ぎました、と瀞霊廷と融合しているが故に、独り言のようにして痣城に謝罪をしたのだった。

 同時に業平と一緒に藍染がどういう話をしていたのか気になるということも会話の中で痣城に伝えていた。

 そして、事件が終わり更木剣八が戻ってきた頃、天満と業平が廷内の見廻りを強めている最中に風が吹き、その風に向かって天満が突如話しかけていく。

 

「痣城さん、無間へ戻られる途中ですか?」

「……ああ、その前に、大前田邸へ行くところだ」

 

 空気が痣城を形成し、業平はその血だらけの姿と非常警戒令を出させている当人に驚く。だが全てが終わったことを識っている天満はゆっくりと、まるで前とは違う雰囲気で話しかけ、その変わりように少しだけ気味が悪いとでも言うような表情の変化を見せた痣城に向かって天満は笑みを浮かべた。

 

「俺はアンタの計画をこき下ろしただけですよ……藍染に言われませんでした? 全て識ってる癖に、表面でしかものを見ないって」

「……そうだったな。その藍染惣右介のことだが……知りたがっていたな」

「教えていただけるとは」

「キミにも、迷惑を掛けたからな……」

 

 そう言って痣城は藍染惣右介が天満のことを言及したことを匂わせつつ当時のことをもったいぶって話し始める。

 遠回りであり無遠慮にしゃべるのが、彼の生来なのだろう。天満はそう思いつつ、藍染惣右介が現状どこまで何を識っているのかを訊ねていき、痣城の意識は出ていく寸前の藍染との会話に戻っていく。

 

「稲火狩天満のことは、キミも警戒しているのだろう?」

「……彼は知りすぎているようだな」

「私は彼に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「どういう意味だ?」

 

 過言にも程があるだろう、なんの冗談だと痣城は嗤い飛ばしてしまいたい程の妄言に思わず問い返す。

 だが藍染は冗談を言ったわけでもなく、そしてそれを面白いとも鬱陶しいとも感じることなく淡々と事実をなぞるように、まるで天満へと伝えてくれと伝言を頼むように告げていく。

 

「彼は私を殺そうと思えばいつでも殺せた筈だ。ギンと共謀して、もっと早く神殺鎗で私の胸を貫けば、そこで私は死んでいた」

「それは、市丸ギンが崩玉を奪う算段を立てていたからではないのか」

「彼は、崩玉を取り返したとしても松本乱菊の魂魄が、彼女の中にあった霊王の一部は元に戻らないことを識っていた。それをもっと早く、ギンに伝えていればどうだっただろう?」

「……まさか、尸魂界の為にキミを生かす必要があったとでも?」

「もっと言えば稲火狩天満の()()の為に私の不死か、鏡花水月か……或いは両方を必要としたのだと予想しているよ」

 

 野望、という言い方は藍染の言葉遊びでしかないが、痣城は未来を見通しそれを変化させているであろうものの只の五席であり、自身が戦えば、卍解出来ない場所を選べば一瞬で殺しきれるだろう相手をそこまで買う理由が他にあるのかと訝しんだ。

 だが藍染はどこか愉しそうに痣城を見下ろし、一言付け加えた。

 

「気を付けることだ……彼がキミに対して殺意を抱かないということは、つまりキミは生かされるべき彼の駒であるか、それとも殺す価値もなくキミが別の場面で殺されるかの二択だとね」

「……聞き入れておこう」

 

 だからこそ痣城は天満と長々と会話を繰り返したのだと気づき、解っていたが藍染の読みの方が上だったなと天満は改めて自分が利用しようとしている男の頭脳と他者を見極める才能に感嘆の声を上げた。

 そして天満は藍染惣右介に次の霊王は敵の首魁、ユーハバッハの遺骸だと告げたらどれくらい顔が歪むのかと考察していた。

 

「あ、じゃあ藍染に伝えといてください──()()()()()()()()()()()()()()()と」

「確かに承った……あの男と腹芸をするキミを侮っていたよ」

「いや勝てませんって、あの化け物には……それじゃあ、()()()()()痣城双也元隊長」

「……ああ」

 

 そうして痣城は再び風になった。

 会話の全てを聞いていた業平は改めて藍染惣右介という男の恐ろしさと未来を読んでるとはいえそんな男に警戒され、そんな男を利用しようとしている天満の恐ろしさを「お前って凄いな」と一言で締めた。

 

「──そうか、どうやらキミは表舞台から去るようだね」

「元よりそのつもり……いやそれを識っているから彼は敢えてそう言ったのだろう」

 

 それから半刻経過するかという頃、無間にて、天満の言葉を伝えられた藍染は再び闇が場を支配する空間に己の思考を広げていく。しばらくは慌ただしくはなるだろうが、それもまた、彼を愉しませる世界の流れだ。

 なにより彼は天満の行動から限りなく真実に近い未来を予知し始めていた。

 

「更木剣八、日番谷冬獅郎、朽木ルキア、阿散井恋次、浦原喜助、そしてギンと黒崎一護に……フフ、私か」

 

 あんたの役割は魔王だ、と天満は言った。そして魔王は一人の勇者によって野望を阻まれた。ならば次なる「魔王」とその配下を討ち滅ぼすものたちを予想し、藍染はゆっくりと目を閉じた。いずれ今度は自分が再び「魔王」となって英雄、勇者たちの挑戦を受ける側に立とうと。そして勇者たちに挑戦する存在であるために。

 

「藍染ってえらく有能だって話は耳にしていたが、とんでもない男だな」

「本当にな、俺じゃ百万年、いや億年あっても辿り着けやしないよ」

「そんなとんでもない男に目を付けられるのがお前だろ、天満」

「俺は識ってるから話合わせてるだけだって」

 

 時が少し戻り、消えていった痣城の会話から業平も天満も、藍染惣右介が限りなく全てに気づいていることを確信し、息を吐き出す。この事件が解決したということは運命の時はもう目前に迫っていた。藍染の反乱が終わって二度目の春、つまりはもう黒崎一護たちは高校三年生であり、天満たちが関わることはないが銀城空吾は既に黒崎一護に接触しているだろうことは確かだった。

 

「……そろそろかな」

「何がだ?」

「一護くんの死神の力を取り戻す研究」

「お前が頑なに教えなかった奴か!」

「ああ、侵影薬は前倒しで答えがほしかったけど、あれは一護のお父さん、一心さんの斬魄刀をベースにしなきゃいけないし、その前に一護くんには別の力を習得してもらわないといけない」

「……お前、そういうところあるよな」

「割り切ってるよ」

 

 本来なら銀城空吾が接触する前に一護の力を取り戻させることも出来ただろう。だが、天満はそうしなかった。これからの戦いの為にはより強化された一護の力が必要になる。完現術を完成させ、それをベースに身体能力を上げてから死神の力を取り戻させる。それが最善なんだと天満は浦原に取り戻すためのきっかけを教えなかった。浦原自身も研究者として答えありきに頼っていてはよくないということは解っていたようだが、それでも一護への気持ちが優先されているのだと感じた。

 

「そのうちルキアさんから電子書簡(メール)で回ってくるよ」

「お前は取りに行かないのか?」

「五席が関わってたら即投獄、というか霊力の譲渡って本来は重罪だから」

「規範とか気にするのか」

「俺をなんだと思ってるんだ業平」

 

 その前から規範破りは当たり前のようにしてきてるけどなという言葉はなんとか口から出ないように業平は努める。

 とはいえその電子書簡は瞬く間に席官関係なく死神達の元へと届けられることになり最終的には不問になることも識っている。所謂チェーンメールのようなものではあるが、天満は自分たちはただ霊力を籠めただけですよって顔をしてればいいんだよと悪戯っ子のように笑った。

 

「……お前、そういうところあるよな」

「割り切ってるよ」

 

 先程と全く同じ言葉を繰り返し、天満と業平はゆっくりと僅かな時間の平和と静寂の戻った瀞霊廷を歩いていった。

 




☆未来予知を得てしまった藍染惣右介、天満の明日はどっちだ!

次回は消失篇時系列の幕間です。

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