モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
ルキアが電子書簡、メールで「一護に死神の力を取り戻すために力を貸してほしい」と送って沢山の死神たちが力を貸してくれるという暖かいお話です。
ルキアによる電子書簡が出回る前、天満は市丸ギンと幾人かを引き連れて花見をしていた。もう散り始めではあったがルキアや現世からやってきた織姫と望実そしてコン、業平や穂華、そして乱菊に吉良、
こういった飲みの席が大好きな京楽は夜桜の時間には来るから、と宣言し、同隊副隊長伊勢七緒に引きずられ、仕事をしているため不在、六番隊両名もまた誘ったものの別件あるため不在だった。
「そういや、浦原サンが
「……この場でその話、しないでもらっていいです?」
「アレって何よ」
「あんな」
「教えたら意味ないでしょ!?」
「もしかして天満ァ、エロいもの……?」
「違いますよ……」
乱菊の絡みを一言で回避し、市丸に霊力の譲渡が重罪なの解っててそういうことするんですねと目線で訴えると、これまた目線でボクが言うんは天満クンが関与しとったってことだけやと微笑み返してくる。腹立たしいが、この件に関しては刀に霊圧を籠めたことくらいしか干渉していない市丸に対して、その存在を識りつつ黙っていた天満の方が問題になることは明白だった。
「天満ってホント、ギンと仲良しって感じねェ、妬けちゃうわ」
「僕にも教えてほしいな、市丸さんの表情の見分け方とか……」
「松本副隊長、吉良副隊長……」
市丸の関係者に天満が絡まれているのを肴に、業平は透き通った酒に桜の花びらを浮かべてその景色と空気を楽しんでいた。その姿は風流という一言に尽きるため、四大貴族縁者ではあるが流魂街出身のルキアが何処か羨むような表情をしていた。同じように、こちらは洋酒で花見を楽しんでいるローズもまた、同じように風流を感じさせるものだ。
「五席ってお顔が広い方ですよね」
「はは、あいつの場合は顔を突っ込んでいくんだよな」
「でもそれにしたって」
穂華は十三番隊へとやってきてから業務上天満と廷内を一緒に歩くことが常である。その中で穂華が知っている天満と友好的に接している隊長、副隊長は相当いた。穂華はそれを指折り数えていく。
三番隊副隊長、四番隊隊長、五番隊隊長、六番隊副隊長、八番隊隊長、十番隊両名、それに所属隊とはいえ浮竹やルキアにも丁寧に扱われている印象が持たれていた。
「それに十一番隊の、あの剃髪の方、確か三席でしたよね?」
「斑目三席のことか、ああそこは日番谷先遣隊だからな」
「……確か、死神代行と現世で合流して破面と戦ったっていう?」
当時は平隊士だったため詳しいことは知らないが黒崎一護と共に現世で破面の軍勢と戦闘し、従属官を複数名と一人の十刃を斃す戦果があったということは何かの噂話で流れてきていた。かくいうその「
尤も天満はそれを戦果として誇ることもなく一護と激闘を繰り広げたグリムジョーの方が遥かに格上だからと苦笑いするのだが。
「改めて凄いヒトなんですねぇ」
「凄いというか、なんと言えばいいんだろうな……あいつは、居場所を護るのに必死なんだよ」
業平は、かつて太陽を指し、あの輝きに成りたいと語った天満を思い出していた。その頃は天満のことを変わったけれど友は友だという気持ちを抱いていたものの全ての事情を識った今ではもう一つ、別の意味を感じていた。そしてそれは影狼佐との戦いで、業平の前に表面化していたものだった。
「きっと歩いていれば誰かが話しかけて世間話をしてくれる、そんな瀞霊廷の空気そのものが好き過ぎるという感じだな」
「瀞霊廷の空気そのものを……やっぱり凄いですね」
「派手なこと言ってるように感じたようだけど、要するに怖がりでもあるけどな」
これだけ穏やかで平和な空気だが沢山のヒトが傷つく戦いはもう目前に迫っている。白い軍服を身に纏い、星十字を掲げ、軍靴鳴らす敵の軍勢は今もこの瀞霊廷の影の中で戦の準備をしている。
この一年と少しの時間で天満も業平も、そして穂華も見違える程に強くなったという確信がある。だが、それでも敵は強大で強力だ。
「穂華……俺たちは天満にとって護るべき存在だ。あいつはそう思ってる」
「はい」
「けど、俺はそう成りたくない。俺にとってあいつは友だ、霊術院時代は眼の上の
「それは、私もです」
「ならばこそ、戦うことに躊躇うなよ」
「……はい」
業平の言葉に穂華は頷いた。少し酔いが回ったのか、業平は自分でもそっとらしくないことを言ってるなと振り返って桜に目を向け、この木もすぐに焼け落ちてしまうのかという哀愁に想いを馳せていた。
その頃、天満は管を巻いていた吉良の相手をしていたが寝てしまったのでローズに任せ放置し、酔いの回っている乱菊を市丸に押し付けて夕暮れの太陽と桜を両方肴にしていた。
「なんやカッコつけて」
「平子隊長」
「喜助や市丸とコソコソしとるみたいやけど、護廷十三隊におんのにあんまし関わると後悔することになるかも知れへん」
「……浦原さんも今や闇商人じゃなくなりましたけどね」
「ケド、闇研究者ではあるで」
「それは否定しませんね」
せやろ、と笑う平子に天満も微笑みを返す。それと同時に彼がここまで気にかけてくるというのは恐らく藍染の時のような隠し事の気配を「逆撫」が読み取ったのかも知れないなと言葉を選ぶように頭を切り替えていく。
そして彼の予想はそのまま正解であり、外の世界にあまり興味のない筈の「逆撫」が気にしていた二人目の人物であったため、平子もその正体を見極めるという目的で近づいていた。
「──俺は、嘘吐きで秘密を沢山抱えていますが隠し事は苦手です。実は腹芸もそんなに得意じゃなくて」
「そんな顔しとるわ。元は結構スナオな性格してますって顔」
「本当に……もっと要領のいい奴がよかったですよ」
今度は苦笑いで返す。この記憶がもし、それこそ浦原喜助や京楽春水のように腹芸が上手な死神に宿っていれば、平子真子のように飄々とできるだけの胆力があれば、何度そう思ったかは解らない。影狼佐の最期、痣城に伝えられた藍染の言葉、そして目前に迫ったひとまずは宣戦布告として殺されてしまう隊士たちのことを考えると押しつぶされそうになり、色んな隊長たちに洗いざらいしゃべってしまいたいという衝動に駆られてしまうのだった。
「独りじゃ戦えへん」
「……そうですね」
「いや、オマエは解ってへん、今のオマエの顔は独りでどうこうしようとしとる奴の顔やわ」
「俺の表情、もの言い過ぎじゃないですか?」
「自分で言うたやろ、隠し事は苦手ですってな」
「言いました、けど」
「ケドもなんもないわ、まぁ俺が信用できひんのはしゃァないわ、フツーの死神やったらそういう反応してトーゼンや」
「まるで俺がフツーの死神じゃないみたいな言い方しますね」
「俺が隊長になるの最初から解っとったみたいな反応した奴はフツーとは言わん」
天満はその言葉につくづく自分が隠し事が下手なのだということを再確認させられていた。あまりにも読み返しすぎて、先を識りすぎているが故の驚きの薄さ、リアクションの薄さ、そんなところまで読まれるとは思わないよなぁと思いながら逆だったらその程度には怪しむなという結論に至り肩を落とした。
「言っても半信半疑で精一杯ですよ、俺の隠し事」
「なんや御伽話みたいなことか?」
「もうすぐ滅却師と戦争になります」
「……ホンマに御伽話染みとるやないか」
「だから半信半疑で精一杯って言ったじゃないですか」
「アホ!
その言葉に、平子の視線に天満は凄いなと、それしか言葉が頭の中に浮かばなかった。
この流れで嘘を言うはずがないと思っていても天満の言葉は余りに荒唐無稽、しかも本人としては根拠なる知識を語ったところで余計に疑念が増えることしか言うことのできない状態だった。だが平子はそれを呑み込んでみせた。
「俺が席官の頃に滅ぼされたはずの滅却師がなんで今?」
「……これは、恐らくでしか語れませんが、約二百年前に尸魂界が殲滅したのは外での生き残りかと」
「外……つまり」
天満は頷く。あまり瀞霊廷内であれこれと語るわけにはいかないため「そのくらい予期されているだろう」程度の情報を選んでいく。
それでも間違いなく天満は個別に対処されるべき相手として認識されているだろうことは解っていた。解っているものの、二度目の侵攻は解っていてもどうしようもない。日付が解ってるだけでもまだマシかという程度だった。
──そしてなにより、ユーハバッハは今は未来を見通すことが出来ない状態だ。力を完全に取り戻すのは霊王宮へと突入してから。逆を言えば天満が動けるのはそこまでという意味でもあった。
「続きは、また今度ってことやな」
「ええ、浦原さんも交えたいですし」
「ほな、また声掛けるわ」
「はい」
手をひらひらと振って去っていく五番の隊長羽織を背負った男を見送り、天満は息を吐き出した。どこまでも未来は変えられないのかもしれない。だが出来ることはやっておきたい。いつしか天満はこの滅却師との戦争が自分の最後の役割であると考えるようになっていた。
「五席! 稲火狩五席!」
「穂華?」
「で、電子書簡……副隊長からの、見ましたか!?」
そんな花見からそれほど経たない頃、業平と共に事務仕事に励んでいた天満の元へ穂華が飛び込んでくる。彼女の慌てた様子に業平が落ち着けさせ、天満はその間に伝令神機を確認する。そして天満は少しだけ顔を顰めて首を横に振った。
何が起こっているのかはそんなものが無くても識っているし、市丸から先日完成したということも知っているためわざわざ送られてくるものに感情を揺さぶられることはないが。
「来てないね」
「……あれ、てっきり送っているのかと」
「何があったんだ?」
「実は、死神代行の力を取り戻すために死神の霊圧を貸してほしいと」
「成る程な……副隊長のことだ、天満にこれ以上規律を破らせてはならん、とか思ってそうだな。俺のところにも届いてないし」
「穂華だってルキアさんから届けられたわけじゃないんだろ?」
天満の言葉に穂華は一瞬だけ息を止めてからゆっくり頷いた。穂華は虎徹清音からの連絡で回ってきたことで知っただけであり、ルキア本人からの電子書簡ではない。つまりは業平の推論が概ね正解であることもまた証明されていた。だが穂華が少し納得出来ていないという表情をしているのが、天満の態度だった。
「五席は、黒崎一護さんと面識があるんですよね」
「うん、少しね」
少し、とは言うがルキアの処刑騒動の際に地下水道で待ち伏せをし、日番谷先遣隊として現世での駐留でも顔を合わせた。井上織姫拉致の際はルキア、恋次と共に虚圏へと赴いた。そして言葉と、刀を交えたことを少しと表現する天満に今度こそ穂華は眉を釣り上げた。
「
「ど、どうした?」
「確かに副隊長がやろうとしていることは重罪です、ですけど……その罪で投獄され、処刑される寸前まで行った副隊長がそれでも死神代行を助けるために、仲間を助けるために動いているんですよ!」
「……業平」
「そこで俺の名前を呼べるお前はやっぱり親友だな」
穂華が語った言葉は本来なら一般隊士に伝わる筈のないものだ。ならば何故彼女が知っているのかという答えを即座に看破し、天満は親友に向けて詰るような視線を向けた。
そんな天満の肩を叩いた業平としても、ここで他人の振りをするような男で居て欲しくないという気持ちはあった。だからこそ空気を読めず仙太郎からの電子書簡でこのことを知っていた彼は就業一時間してから清音に会いに行き、穂華に伝えてくださいと頭を下げていた。
「霊力の譲渡は重罪で、そんな規律を破らせるわけにはいかないってお前は副隊長に気を遣ってもらった──
「……やっぱりお前は親友だよ」
「よせよ」
「俺より俺のことを解ってる」
天満が遠慮していたのは結論を識っているからだ。結論としてこの件は不問になり、一護は死神の力を取り戻す。
だが天満は本来なら、一護に力が戻るなら手を尽くすだろう。そして恐らく、自分が只の
「……よし、残りの仕事終わらせて、空鶴さんのところへ向かうか」
「はい!」
「勿論だ」
こうして業平と穂華、そして天満の霊圧も一護の元へと届けられることになる。刀に貫かれ、死神の力を取り戻し絶望の淵から希望の光を取り戻した一護は籠められた霊圧の中に天満の力を感じ、現世には来なかったものの仲間として思ってくれているのだろうかと考えていた。
その頃天満は雨降る瀞霊廷で、流石に完現術者とは戦わずに済んだなぁと呑気なことを考えていたのだが。
完現術者、一対一だし、そのためだけに新キャラ出すのも面倒だし。