モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
黒陵門付近、そこに突如現れた不審な霊圧に雀部長次郎は敵の正体を即座に看破した。
──やはり奴らは生きていたのだと。記憶にあるのは千年前、山本元柳斎重國や初代護廷十三隊と共に討ち滅ぼしたはずの存在、そして二百年前に残党を滅ぼしたはずの存在だった。
「つれーよなぁ、なんにも解らねェまま殺されるなんて、つれーなあオイ!」
突如として遮魂膜内に現れた「旅禍」に驚きを隠せない隊士たちがいる、そう思って進もうとしていたがその前に二人の影が立ちはだかった。
片方は死覇装であからさまな雑魚という顔だが、もう片方は黒シャツのスーツスタイルをした蛇のような男。ドリスコールはその二人に疑問をいだいた。
「……どうやら間に合うたみたいや」
「まぁずっと黒陵門で張ってたんで、当然ですがね」
「あ? なんだテメーら」
「あれ、俺らの
「あらァ、そらアカンわ──無用心やろ」
「……っ!」
そのまま市丸が刀を抜き、それを伸ばして刺突する。突如とした攻撃に驚きつつも槍に近い神聖矢を精製し防御するが、その隙を天満は見逃すはずもない。
ドリスコールは即座に静血装で防御しようとするが、天満の長刀が触れた瞬間、肉と身体の組織が圧し潰されるような痛みを味わった。
「っなんだ、テメェ!」
「──嘴突三閃」
「この程度の鬼道が利くか、よ!」
「因果天引」
腕が千切れるところまでは行かなかったが流れるような縛道を無理やり破壊した投擲は天満の左手の小太刀に吸い寄せられ切っ先を前から上に向けることで軌道を完全に操ってみせた。
その能力と二刀の斬魄刀に、ドリスコールは陛下から賜った
「稲火狩殿……それに、市丸殿!?」
「あらら、一番副隊長サンもう来はったん?」
「すみません、事情は後で説明するので助太刀願います、雀部副隊長!」
「元よりそのつもり! 穿て──厳霊丸!」
雀部はひとまず敵と味方を認識すると「厳霊丸」を解放し三対一で戦っていく。だがまだ一人も殺していないはずのドリスコールはその三人を相手に力だけで互角、もしくはそれ以上の戦いをしていく。
恐らく数分で強制的に帰還するだろうドリスコールを天満は此処で殺しきる為のタイミングを見計らうものの、思った以上の強さに汗を掻く。
「ぶははははははっ、卍解ナシじゃ元隊長副隊長が揃ってこの程度ってのはつれーなァ!」
「……すみません、一分時間稼ぎしてもらえますか? それで確実に相手を殺せます」
「承知……」
「それと、もし卍解されるなら、この丸薬を刀で触れてからお願いします」
雀部は無言で頷く。この緊急事態に相手は滅却師、であれば今まで使うことなく副隊長としての責務を果たし続けてきた彼にとってもその力を振るう場面なのだと理解する。
刀を通して魂魄に丸薬が浸透していく。その僅かな違和感はほんの少しで霧散してしまった。
「なんだ? 副隊長一人かよ!」
「卍解……黄煌厳霊離宮!」
ドリスコールの表情が喜色に変わる。メダリオンを取り出しそれを卍解に向けるとそれがメダリオンに吸収されていく。力ごと魂の一部が剥がされていくような喪失感、雀部はその感覚に愕然とした。
だがその瞬間、ドリスコールの身体に異変が起こる。
「が……な、なんだこりゃあ……!」
「雀部副隊長の卍解がお前の身体機能を汚染してるんだよ」
「な、んだとォ!?」
驚愕に目を見開き、そしてそれは本能が故かメダリオンから再び雀部の頭上に霊圧の雷が展開される。これで一分、天満は時間稼ぎを頼んでいた間に創り出した黒と白の二つの星を融合させ、星の核を創り出した。黒の星の中心に帯状の白が展開され、それを上空に放つ。そして、市丸と共に同時に鬼道を放つ。
「破道の五十七!」
「──大地転踊」
「チッ、けどよォ、この程度でおれが殺せると思ったら大間違い──!?」
「殺すんなら確実に胸に孔開けんとなァ──卍解、死せ……神殺鎗」
流石の市丸も「神殺鎗」は伸縮を操り切れない。平面で放てば十キロに渡る被害が出る。だが天満はずっとドリスコールを
「ゴボッ、テメェら、全員道連れにして──!」
「あら、ボクの毒を受けて孔空いとってまだ生きとるん? 辛いなァ」
「雀部副隊長!」
「承知した! オオオォ────!」
雷の帯を束ね纏めた「厳霊丸」を構え瞬歩とはまた違う高速移動でドリスコールに肉薄する。既に身体は死んでおり霊圧だけでなんとか持ちこたえている彼に、二千年という永い年月を掛け、鍛錬を怠らなかったその卍解が、本来は扱われることもなかったその卍解がドリスコール・ベルチの頭蓋を貫き、全身を灼き焦がした。
「市丸さん」
「せやね、総隊長サンにご挨拶しとこか」
「一番副隊長サン、この死体、総隊長サンに持ってくで」
「私も元柳斎の元へと参ります」
その死体、どうやって運ぶんですかと天満が訊くより前に市丸は未だ解除していなかった卍解で一番隊舎の隊首執務室めがけてドリスコールの遺体を巻き込み伸縮させた。
──原作とは真逆の結果となったこの戦い、だがこういう修正力もあるのかと天満は運命というものの強大さを改めて感じていた。
「……何ッ!?」
「お主ら……!」
「すんません、お話の途中でしたか?」
マスクで顔を隠してはいるがその声には明らかな驚愕が混じっていた。リューダース・フリーゲン自身はメッセンジャーとしての使い捨ての駒──本人はそう思っていないが、ユーハバッハにとってはそういう扱いのためここで死んでも大した問題はないだろうが、ドリスコールは全くの別だ。星十字騎士団の中で聖文字を得ている彼が宣戦布告の時点で殺されるなど、あってはならない失態だ。
「──こうなるとは思ってなかったって感じだな」
「くっ、だが……貴様らの未来に変わりはない。五日後、尸魂界は
「待てい!」
爆炎が放たれるが、既に旅禍たちは影へと逃れた。そしてゆっくりと総隊長の表情へと戻った元柳斎は膝を突いた雀部とその後ろで立っている天満と市丸を一瞥した。
まずは雀部の報告を聞き終えた元柳斎は、天満と市丸にも事態の報告を促す。
「……稲火狩天満、お主が現世へ向かったと報告を受けた時に、まさかとは思っておったが」
「申し訳ありません」
「良い、して……この報告は後ほど隊首会でじっくりと聞かせてもらうとしよう」
「はい」
その威圧感のある言葉に天満は背筋が伸びる。原作知識があろうと、未来が視えようと、やはりこの男に勝てるビジョンは全く浮かばない。あの藍染惣右介がその炎を封じる術を創り、それを敢えて暴発させることで漸く戦闘不能にした理由も対峙すれば解るというものだった。それほどまでの圧、それほどまでに、山本元柳斎重國という存在は強大だ。
「遂に隊首会デビューおめでとさん」
「査問ですよほぼ」
「まぁこれでチクチク言われんように地道に味方作りしとったんやろ?」
「確かにそうですけど」
ひとまずは色々な隊規違反によって隊舎で謹慎を受けることとなった天満と、監視対象であるため同様に謹慎状態になった市丸はそんな会話を繰り広げていく。
無断出撃をして一護を取り逃がしたことで査問された経験のある市丸はその様子を思い出しながら総隊長サンは怖いからなぁと天満に言葉を向けた。
「でも先ずは目標達成しましたよね!」
「気を抜くなよ穂華、ここからが始まりなのだからな」
「……ああ、ここからが始まりだ」
天満は浦原にキルゲが「乱装天傀」を使用できることを事前に伝えていた。これで第一次侵攻の際の被害は激減することだろう。
相手は情報戦を常に仕掛けてくるのなら、こちらも情報の圧力で潰すだけ。それが未来に於いてどんな影響を与えるかを考えるのはもう考えずにいた。
それから数時間後一番隊舎会議室にて、天満は護廷十三隊隊長全員の前に立たされていた。
「──して、此度の戦いは概ね長次郎からの報告を受けておる」
「はい」
「儂が問うのは一つじゃ──お主は何を知っておる」
「敵の正体と目的を」
「なんだと!?」
「ナルホド、そいつを知っていながら我々に一切の情報を与えず、宣戦布告をされるまで放置していた、とでも言いたいのかネ?」
「涅、その言い方はねぇんじゃねぇのか?」
「日番谷隊長、大丈夫です……そう詰られてもおかしくはないですから」
涅マユリの言葉を天満は肯定する。隠していたのは事実だ、だがその理由として根拠がないことを挙げた。その言葉に嘘はない。実は未来を読んでいました、と言っても以前平子に言ったようにそれでは全て好意的に呑み込んで半信半疑が限界なのだから。
だが今ならばそれを信じる方へと動かすことが出来る。敵がこうして目の前に現れ、そして死んだのだから。
「奴らは滅却師です……目的は、相手の集団が解ればわざわざ口にするほどのことではないでしょう」
「莫迦な……何故貴様はそれを事前に予測した、いやそれよりもどうして黒陵門付近に滅却師が出現することを知っていた」
砕蜂からすれば理解できないことの方が、解せぬことの方が多いのも事実だ。現実として滅却師を一人殺したもののその男が遮魂膜を無視して侵入していたことも、その出現ポイントの予測も、時間までも正確に予測することなど隠密機動と技術開発局の総力を以てしても不可能だと知っているからだった。
「それについては正直に答えても無駄ですので控えさせていただきます」
「……なんだと?」
「まぁまぁ、今は情報の出処よりも相手方が戦争する気なのが問題でしょう?」
「ハッ、違いねェ、それで天満とか言ったな……敵は何処にいて、強ェのか?」
「敵の陣地にこちらから侵入するのは不可能です。ですが差はあれど幹部格は卍解した隊長格クラスと見て間違いないです」
その言葉に更木剣八はいいじゃあねェかと口角を上げる。正直に言ってこれは平均値がそうというだけであって、そもそも東仙の卍解を破り、狛村の卍解とまともにやりあった彼よりも、今となっては次元を異にする彼では相手になる星十字騎士団も数が限られることになるが、そこまでは言わずにおく。
「解せぬことは多いが……兄が賊軍の情報を手にしているのは信じよう」
「だが今は情報より瀞霊廷内が賊に踏み入れられたこと、儂はそれが何故なのかを問いたい」
「遮魂膜を無視して侵入しているのは確実だネ、もしそんな技術があるのなら……」
「奴らは無視しているのではなく、
「──矢張り、あの記録は間違いではなさそうだ」
「どういうことでしょうか?」
「賊軍は影を使って移動をし、この瀞霊廷の影の中に己の拠点を持つ……仮説の段階でしかなかったがそれならば遮魂膜で侵入を防げないのにも納得がいくヨ」
「それが可能なのか?」
浮竹の疑問に涅マユリは不可能ではないと、天満は解りませんが事実として奴らは影の中にいますと答えた。
そこでタン、と床板を杖で突く音がして、全員の目線が総隊長の元へと集まる。その圧力は、雀部を殺されているわけでもないのに怒りに震えているようにも感じられた。
「稲火狩天満……影の中にある奴等の根城へと入る方法は」
「特殊な通行証を用いた移動方法ですので……現時点では不可能です」
「ならば此方から攻め入る術も無し……良い、此度の隊規違反、及び要監視対象の尸魂界への無断渡航は不問とする」
「……寛大な処置、有り難う御座います」
「そして全隊長へ命ず、これより戦の準備にかかれ──直ちに全速全霊で戦備を整えよ!」
千年に渡る因縁の戦いが、血を流すことでしか得られない多くのものたちにとっては無意味でしかない戦いが始まろうとしていた。
血を流すことでしか生きられない一人の男のための戦争、そして世界を融かすための戦争。
──千年血戦、その異聞の幕が切って落とされた。
「そうか……ドリスコールが死んだか」
「稲火狩天満と、市丸ギン、雀部長次郎によって……そして回収されたメダリオンですが、イーバーンと同様に使用したものの卍解を捕獲できてはいないようです」
「……なに?」
「あの男、どうやら我々の情報を全て得ているようです……恐らく陛下のお力も」
「特記戦力とするには、些か非力な男かと思っていたが……周知する必要がありそうだな」
「では、星十字騎士団に
稲火狩天満十三番隊五席。五席でありつつも卍解「炎輝天麟星皇創世ノ嘶」を有する。能力については別途記載する。
──追記、上記人物を「未知数の情報収集能力」として新たに特記戦力に加える。単独では大きな力はないが特記戦力の浦原喜助、藍染惣右介が加担すれば、必ず大きな障碍となるだろう。