モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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OUTBREAK(1)

 ドリスコールの遺体は影によって回収されてしまったため、解析することはできなくなってしまった。戦闘記録で視ることのできる死体も損傷が激しいと涅マユリにはたっぷりと皮肉と共に文句を言われたが、天満の情報は九番隊の手によって瀞霊廷中を駆け巡った。相手が滅却師であること、遮魂膜の内側、影の世界に身を潜めているため廷内の特定のポイントから出現すること。

 更には第一次侵攻にはまずは幹部格がやってきて、それらは護廷十三隊隊長が卍解をして漸く相手になるレベルなど、恐ろしい程の情報が死神たちの手に渡っていた。

 

「随分久しぶりに感じますが、似合ってますよ」

「まぁこっちの方がしっくり来るんは確かやね」

 

 隊首会が終わり、市丸は死覇装に身を包んでいた。今回の戦いに隊長クラスの人員が一人でもほしいのは瀞霊廷にとっての真実であり、市丸もまたそのために此処にやってきたということを明かしたからだった。ならば死神として戦えという総隊長の命を市丸は素直に頷いた。

 そして天満としても一人でも同じ目的を持ってくれる仲間は有り難いものだ。ここからは一人も殺させないという訳にはいかなくなる。同時多発的な戦いになれば天満の手も回らない。それが現実なのだから。

 

「キミの知識──或いは()()が何処から来ているのか、これは私には興味のないことだが……それをしゃべる気はなさそうだネ」

「ないです」

「……フン、浦原喜助となにやらコソコソやって、護廷十三隊の隊長に話せない秘密をもっているキミを五席にまで押し上げた浮竹の正気を疑うヨ」

「正気じゃできないことも多いですからね──喋れることは喋りましたよ涅隊長」

「血中に霊子を流し攻撃能力及び防御能力を上げる術、自らの能力を飛躍的に上昇させ同時に霊子の絶対隷属も可能とする完聖体(フォルシュテンディッヒ)なる変化形態、金属板による卍解の奪掠……どれも厄介極まりないものだネ」

「少なくとも三つ目は防ぐ手立てを持っていますが」

「これだから情報は持っていても状況を見通せぬ莫迦は困るヨ……卍解を奪われなければ隊長格なら問題なくその静血装(ブルート・ヴェーネ)は破ることが出来る筈だヨ、尤も、相手がノイトラとかいう十刃以上の硬度を身につけているなら話は変わるがネ」

 

 技術開発局にて持っている敵の情報を洗いざらい全て話した天満は呆れたようなマユリの言葉を受けてむっと押し黙る。

 少なくとも千本桜は体表を切り裂くことができるという事実がある以上、卍解状態の霊圧なら静血装に霊子を回していてもダメージを与えることは可能だろう。それを誤魔化すように、天満は問題は完聖体の方ですねと言う。

 

「それよりも影の方が問題じゃあないかネ?」

「確かに神出鬼没ですから──」

「──影の中に世界を造り、そこに潜んでおり何らかの通行証を用いて出入りしてきた。キミはこう説明した筈だヨ」

「ええまぁ、めちゃくちゃ頭良く纏めると」

「ならばその世界は瀞霊廷と表裏一体とも考えられないかネ?」

「……影ですからね」

「とするならば影を広げ、光と影を()()()()()ことが出来ても不思議じゃあない……非常識な話ではあるものの、これはキミの言葉を鵜呑みにした仮説だがネ……もしそれが可能ならば、我々は地の利を失うどころかこの研究室や私の準備した機材や薬が全て使用不可能になるということを示している」

 

 ここで漸く、天満はマユリが何を懸念しているのかを理解した。原作で言うところの第二次侵攻の際の侵食のことを言っているのだと。

 技術開発局は瀞霊廷内での戦闘をする際の重要拠点の一つだ。言わば参謀本部と言ってもいいかもしれない。そこが機能不全になるということは組織が組織として戦うことが出来ないということ。連絡の際にいちいち一方的に「天挺空羅」を使用するのは非効率で、地の利がないのなら裏廷隊による伝令も期待できない。

 原作で起こったことを憶えているだけでは解らないデメリットを突きつけられ、天満は自分の浅慮を反省した。

 

「情報は扱い切れてこその情報だヨ」

「……仰る通りです」

「安易な対策としては、マァ瀞霊廷の内外構わず全てを発光させるくらいか」

「間に合いますか?」

「無理だネ、四十六室サマがまずそれを許すはずがない。全てというのは言葉通りの全て、完全立入禁止区域も含まれるからだヨ」

「ああ……無理ですね」

 

 解ったならとっとと戦闘準備でもしてくるんだネと天満は追い出され、原作の京楽の言葉を思い出した。

 ──涅マユリは天才だ。情報が足りていれば丸一日で大抵のことに結論を出せる。天満は明確に、その足りなかった情報を補うことが出来たのだろうか、そうすれば無意味な血が流れることは防げるのだろうか。そんな思考の流砂に呑まれかかっていた天満の意識を引き上げたのは日番谷だった。

 

「天満、技術開発局の帰りか」

「……ええ、はい」

「どうしたの天満? 涅隊長にイジメられた?」

「松本」

「いえいいんです。俺の言葉で本当に何か変わるのかって今更不安になってきただけで」

「……独りじゃ無理だろうな」

 

 天満はその言葉にそれでも自信を持てないながら頷いた。

 だが、史上最年少で護廷十三隊の隊長へと上り詰めた日番谷冬獅郎は天満の心臓に拳をぶつける。そして先遣隊の引率として、卍解の修行相手としての顔で彼に言葉を重ねる。

 

「俺の卍解を完成させてくれたのはお前だ天満」

「そんな、日番谷隊長なら独力でも」

「そうだとしても、お前と刀を交える中で見つけた答なんだ。独りじゃできねェことなら、俺が背負ってやる。独りで出来たとしても重たいなら俺が一緒に背負ってやる」

「……有り難うございます」

「浮竹も、京楽も……市丸や朽木、お前の部下たちも勿論そう思ってる」

「はい」

「死神、皆須らく友と人間とを守り死すべし……霊術院で教わったろ」

「……ええ」

「お前は友と仲間を生かして、生き残れ」

 

 日番谷の言葉を、普段なら茶化すだろう乱菊も真剣な顔で、そして天満へと微笑み掛けて頷いた。

 彼は天満の原動力を知っている。天満がどうして急激に力を付け、席官で有りながら卍解を習得しそれをひたすらに研鑽しているのかを知っている。だからこそ、死ぬのではなく生き残れと敢えて言葉にした。

 

「お帰りなさい天満さん!」

「よう天満、喋り疲れてないか?」

「ただいま……はは、涅隊長の方が沢山喋ってくれたよ」

「なんや──エエ顔しとるよ、今のキミ」

「そうですか? きっと、道中で勇気をもらってきたからでしょうかね」

 

 ──その夜、黒崎一護はネルと再会し仲間たちと共に虚圏へと出立する話し合いをしていた。

 本来なら翌日就業時間すぐに隊首会があり、そこからすぐに滅却師がやってくるが天満がもたらした猶予がその時間を早めていた。原作と同刻の隊首会では涅マユリが精査した天満からの情報、各幹部格の特徴と天満が識っている能力、そして基礎能力に対する対策が打ち出され、そして星十字騎士団は特記戦力として数えられている黒崎一護の虚圏での活動に合わせて侵略してくることを話し、そして最後に付け加えた。

 

「癪な話だが浦原喜助に連絡を付けたところ──彼らは既に、虚圏に入り狩猟部隊と呼称される滅却師の一団と戦闘を始めているヨ」

「なんだって……それじゃあもう敵さんは」

「今すぐにでも出てくるかも知れねェってことだ……!」

「──すぐに各隊持ち場へ散り、賊軍の襲撃に備えよ! 奴らに先手を打たれてはならん!」

 

 その声に瞬歩で消えていく隊長たち、そしてマユリは元柳斎に流魂街の民が消失した事件についての追求を受ける。

 天満と業平、穂華は可城丸秀朝と合流しており、市丸ギンは吉良イヅルら席官四名と合流していった。

 卍解を使える隊士全てには戦闘開始と同時にマユリの手によって侵影薬を転送され、卍解の前には必ずそれに触れてからという使用方法も隊首会で説明され白哉を通して恋次にも伝えられた。

 

「業平、手はずは解ってるな」

「何度も確認してくれるなよ、親友」

「私も把握しています」

 

 天満たちはお互いに作戦を確認し合う。可城丸には予め退き気味で守っていてほしいと指示を出していた。何故なら此処の近くに現れる星十字騎士団は、その長を護衛する団長であり騎士団の最高位(グランドマスター)、ユーグラム・ハッシュヴァルトなのだから。その長が果たして()()()なのか、どちらにせよ更木を追い詰めることが出来る実力の持ち主なのは間違いないのだが。

 そんな思考を途切れさせたのは空中に踏みしめた軍靴(ブーツ)と、黒いマントを羽織った男を見上げた時だった。

 

「ほう、ここに貴様が陣取っているとはな……稲火狩天満」

「あ、あの男は……!?」

 

 ──その瞬間、瀞霊廷の各所から青い火柱が上がる。遂に始まったかと天満は静かに刀を抜いた。光の柱の中からゆっくりと現れる金髪に緑掛かった碧眼、西洋人としても恐ろしい程に整った、美しさすらも感じる容姿。揃いの一点の染みもない白のマントの下には実剣を佩いていた。

 

「明け灯すは棚引く煙羅(えんら)、昏く浮かぶは手招く桂雲(けいうん)──炎輝(えんき)天麟(てんりん)

千早振(ちはやぶ)れ──清龍(せいりゅう)!」

搏翼(はくよく)舞うは()(しき)絢爛(けんらん)、五音(さえず)吉祥(きっしょう)(しら)せよ──()(しき)燕凰(えんおう)!」

「慄け死神共──これより星十字騎士団がお前たちを粛清する」

 

 ハッシュヴァルトの言葉が開戦の狼煙となって三対一での戦いが始まる。

 だが隊長たちも隊士達と既に合流を果たしており、この時点での被害は阿近が確認しているだけでもこの時点で原作の三割、つまりは三百に抑えられていた。だが相手の損害は無しに対して七分で三百名の隊士の命が失われたことだった。そして刻一刻と増えていく霊圧の消失を感じた天満の瞳は冷たい色を宿していた。

 

「テメェが元三番隊隊長、市丸ギンか」

「そや、その特徴的な髪型……キミが()()()()()()()()やね」

「……俺のフルネーム、どうやらメチャクチャ有能な情報屋がいるっつーのはマジみてェだな」

「情報屋……成る程、()()()()()()()()()()()()()

「どういうことだよ」

「教えると思う?」

「そりゃそうか……けど、テメェがどんなに強かろうと()()()ってとこだな」

「──言うてた通りなんやね」

「……不気味なヤローだ」

 

 同刻、市丸の霊圧を受けたバズビーは皆殺しという命令以前に立ちはだかるこの男をどうしてでも殺さなければならないということを感じ取っていた。この男は護廷十三隊にはない危険な匂いがする。それこそ、身内ではあるがエス・ノトやグレミィのような底知れ無さ、本能的な危険を駆り立てる何かを感じていた。

 

「余裕がねえな隊長さんよぉ!」

「キミの能力の前に様子見は拙いってことは解っているからね」

「……情報通はやっぱ口が軽いんだな」

「生きて帰れると思うなよナナナ・ナジャクープ」

 

 部下の死に怒り、そして「モーフィンパターン」と呼称される霊圧の隙を突いて相手を無力化することのできる能力だと解っているローズは「金紗羅」をしならせ攻撃していく。そして誰もいない今だからこそ、とローズは奥の手を使うため霊圧を上げていく。

 

「奴の光る棘には触れるなよ恋次」

「解ってます!」

「ム、悪党共、お前の能力に気づいているようだぞ」

「……新タナ特記戦力、想像以上ニ情報ヲ持ッてイる」

 

 その言葉に白哉は天満が情報を持っていることそのものが相手にとって不測の事態であることを感じ取っていた。そして誰もがその情報を共有しているわけではないこと、これは天満が予め間違いなく天満の存在を知っているもの、恐らく知っているもの、知らない可能性が高いもの、絶対に知らないものの四種類に騎士団を分類していた。

 

「……本当にこんな少女までもが賊軍の戦士とはな」

「何? ワンちゃんあたしのこと知ってるんだ? ってかこんなワンちゃんが隊長だなんてズイブン人手不足なんだね尸魂界って!」

 

 狛村はその顔が予め情報を渡されたバンビエッタ・バスターバインという少女であること、そして天満が間違いなく情報を持っていないということを伝えていた。それには最も重要なものに()()()()()()()()()()()()()()ということも含まれる可能性がある、とも。

 

「成る程、鋼鉄(ジ・アイアン)の能力の通りだな」

「能力が解ったところで僕は陛下以外の誰にも殺すことはできない」

「試してみるか? 俺の卍解の前で、同じことが言えるのか……」

 

 卍解を奪われること、そしてその対策が出来ていることを伝えられているため、それぞれの隊長たちは自身の全霊を以て敵を討ち滅ぼすために霊圧を上げていく。

 その様子に高いところから見下ろすユーハバッハに扮したロイドは稲火狩天満のもたらした影響を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 




描写的に陛下の情報ちゃんと読んでる
親衛隊、エス・ノト、リルトット、ロバート、キルゲ、(ドリスコール)

絶対ちゃんと読んでない
マスクド・マスキュリン、バンビ、ジジ、キャンディ、ミニーニャ


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