モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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OUTBREAK(2)

 第一次侵攻開始から十分程が経過した頃、一番隊舎地下にある真央地下大監獄、その最下層に位置する「無間」にて。

 此処には誰もが万の刑期を持ち、全員がなんらかの方法で燬鷇王、双殛を用いても殺すことの出来ぬ囚人ばかりである。そんな特殊な闇ばかりが満ちる空間に光が灯され、藍染は痣城の件以来の、久方振りというには余りに短い期間を経て目を明けた。

 

「──ユーハバッハか」

「……ん?」

「名前を知る機会など幾らでもある」

 

 そこに踏み入れ、藍染惣右介と言葉を交わそうとするのはユーハバッハ、滅却師たちの王本人だった。

 未来を見通すことなど出来る筈もないのにも関わらず──そんなことが出来るのは父たる霊王と力を取り戻したユーハバッハのみに許された特権であるため、そんなことが出来る死神など存在する筈がない。にも関わらず藍染はまるで全てを視てきたかのようにその名前を呼んでみせた。

 

「貴方の目的は地上の不快な霊圧で解るというものだ」

「話が早いな……ならば我が麾下に入れ」

「滅却師の王が、私を見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)に招こうというのか」

「尸魂界を滅ぼすという目的は一致している筈だ」

「目的が一致……フフ、面白い冗談だ」

「なに?」

「──断る」

 

 その言葉と此方を見下すような瞳にユーハバッハは僅かに目を見開いた。

 彼は、藍染という男は孤独だ。それはユーハバッハも理解していることだ。だがそれでも目的を同じくすればなんであろうと利用する。それを王は逆に利用しようと考えていた。その時間があれば彼を封殺することも可能であるが故に。

 

「死神の後ろを歩く滅却師の王を見るのは忍びない」

「……それが貴様の答えか」

()()()()()()()()()()()()()()()()

「何を……言っている?」

 

 ユーハバッハにすら理解出来ない言葉、吐くとは思いもしなかった言葉に今度こそ王は困惑する。その様子を視て藍染惣右介は市丸が時折していた愉しそうな表情の意味を真の意味で理解した。

 後から解ることと、同じ体験をしたという理解の意味はまるで違う。藍染は市丸ギンと同種の嗤いをユーハバッハに向けていた。

 

「嗚呼、無論此処から出してくれるというならば相応の礼はするつもりだ」

「出て、どうする?」

「不思議な質問だな……出たならば挨拶と近況を訊ね語らう。それが隣人というものだよ」

「……出すと思うか?」

 

 口角を上げる。その表情が不快だったのかユーハバッハは踵を返した。

 ──それが体感時間よりもずっと長い間だったということには気づくこともなく。藍染はこの王ですら()の識っている通りにしか動かない、動けないという様に、まるで道化師が客を楽しませているようだという感想を抱いていた。

 

「妙な動きをしているな稲火狩天満」

「そうかな、俺は真面目に戦ってるつもりだよ!」

「──搏凰(ハクオウ)!」

撃龍(げきりゅう)!」

 

 同じ頃、天満は穂華、業平と連携をしつつハッシュヴァルトと戦闘を続けていた。その動きに、ハッシュヴァルトは不審な点を感じ取っていた。長刀による踏み込み、それを剣で弾き返し、カウンターは同時に迫りくる斬撃そのものの水流と熱波を霊圧を籠めた剣で振り払った。そしてまた天満が剣戟を繰り返し、天満の隙を二人が塞いでくる。

 見事な連携ながら、違和感が拭えない。勿論()()にも彼の身体を傷つけることができれば、同量の不幸が相手に注ぎ込まれる。それがハッシュヴァルトの「世界調和(ザ・バランス)」だ。天満が何らかの方法で能力を識っておりそれで踏み込めずにいるというなら、もう少し対応策を考えてきていても良さそうだ。冷静に剣で三人を相手取り傷一つも負うことなく立ち回りつつ、ハッシュヴァルトは眉間に皺を寄せていた。

 

「……何かを待っているのか」

「だとしたら、何を待っているんだろうな」

 

 その余裕ぶった言葉とは裏腹に、そして行動とは裏腹に天満から、その霊圧からは嘆きと怒りが滲み出している。死神側の死者は増え続ける。既に五百を越える死者が出始めていた。

 天満は減り続ける霊圧を感じる度に暴れそうになる気持ちをぐっと堪えてハッシュヴァルトと対峙していた。

 

「なんで卍解が奪えないのよ!」

「卍解とは己の魂そのもの! そう易々と奪われる儂等ではないッ!」

 

 各地の戦況は、原作とは大きく異なっていた。まず一つ目に卍解が奪えないこと、これを試したのは狛村と相対するバンビエッタ、蒼都、そして情報の真偽を問うため試したエス・ノトの三名だった。これに驚いたバンビエッタだが、彼女はならばと短絡的な決着を付けるための方法を実行しようとしていた。

 

「これは……何が起こっている?」

「お前らのメダリオンとやらは使えねぇよ」

「……成る程、この短い時間で陛下の技術を対策するとは」

「大紅蓮氷輪丸!」

 

 蒼都もまたその戦力の差が詰まっていることに驚愕していた。同時にその力が情報にあるよりも()()()()()()()()()ことも彼の驚きを助長していた。周囲の気温が急激に下がっている感覚と、その真冬の空気を作り出している一人の男が背に龍を背負い蒼都に襲いかかろうとする。

 

「狒狒王蛇尾丸──狒骨大砲!」

「……ッ!」

「無駄だ」

 

 霊圧の光線を回避し棘を放つがそこに卍解した「千本桜景厳」が防御をする。その攻防の切り替えはエス・ノトの血装(ブルート)の切り替えるスピードを徐々に越え始めており、白哉によって下へと叩き落されたマスクド・マスキュリンがまだ来ないことに少し苛立ちを見せていた。

 

「──天満!」

「ああ」

「なんだ……!?」

「よォ、お前がこの雑魚共の親玉か?」

「……更木隊長!」

 

 攻撃をしながら徐々に門から離れており、更にそこに現れた特記戦力の一人である更木剣八にハッシュヴァルトはどうやってこの手順を高みから見下ろすユーハバッハの影法師と自身に気づかれることなく組めるのか、この短期間で更木剣八が三人もの星十字騎士団を屠り、この場に現れると予想したのか、ハッシュヴァルトは天満の異常さに顔を歪めた。

 

「可城丸六席! 更木隊長の戦闘に巻き込まれないよう部隊に退避を!」

「解った、全軍退避! 更木隊長の戦いに巻き込まれる! 天満くん、キミたちは!」

「私達は奴と戦闘を継続しつつ殿を務めます!」

「待て──!」

「行かせるかよ、清龍!」

 

 業平のはなった空中からの水の刃の乱舞がハッシュヴァルトの足を止め、その間を縫うように距離を詰めてきた天満と穂華が同時に蹴りを叩き込む。剣で防御するも身体が少し浮き、石畳を滑ったその後ろには天満が予め設置していた黒星がハッシュヴァルトの動きを止めていた。それを剣先で吸収しようとしたその瞬間を天満は狙い済ましていた。

 

「炎輝白星」

「成る程これで──!?」

「いいや、忘れてるよユーグラム・ハッシュヴァルト、そいつの二つ目の特性を」

「行けるな穂華!」

「はい、破道の三十一!」

「──赤火砲!」

「破道の五十四、廃炎」

 

 黒星と白星の霊子を吸収しようとした瞬間、業平と穂華の「赤火砲」と天満の「廃炎」が白星にぶつけられそのエネルギーに耐えきれず白い星は罅割れ、暴発する。破面の体皮すらもボロボロにするほどのエネルギーを受けたハッシュヴァルトはマントのボロボロになった姿で出現した。端は黒星に捕まった際に自ら切り裂き、爆発の勢いも霊子を吸収したことで弱めることは出来たが。それはハッシュヴァルトにとっての幸運といっても過言ではなかった。

 

「逃しました……申し訳ありません陛下」

「良い……特記戦力もこんなものか、私はどうやら死神を買い被り過ぎていたようだ」

 

 更木剣八の敗北、だがそこに出現するのは本来ならば山本元柳斎重國である筈だった。

 ──だが、その瞬間空中の空間が弾け飛んだ。その霊圧に、無間にいたユーハバッハもまた驚きに目を見開いていた。

 既に技術開発局もぺぺ・ワキャブラーダによって被害を受けていたため伝令等はなかったが、それでも全員が誰が瀞霊廷へとやってきたのかを察知した。

 

「……黒崎一護か、キルゲは失敗ったか」

「そのようですね」

 

 だがこれでも黒崎一護は原作よりも長くキルゲと戦っていた。

 天満が浦原喜助に与えた情報によって奴の動きを止めるには完全にその首を取るしかないと、そう一護も浦原に教えられたからだった。そして緊急事態ではあるが、一護に一刻も早く来てもらわねばならないほど尸魂界側が切迫してもいなかった。その噛み合わせが今回の辻褄合わせの結果となった。

 

「まだです……私が陛下に与えられた命は、命を賭しても……黒崎一護、貴方を足止めすること!」

「……これが乱装天傀ってやつかよ!」

「この技も識っているとは……! 石田雨竜も使えたようですが!」

「石田に訊いたわけじゃねーよ、天満さんだ」

「……稲火狩天満が?」

「俺も詳しいことは知らねぇ、けどそれを使うってことはもう、アンタの身体はボロボロなんだろ?」

「くっ……黒崎一護ォ!」

「一護!」

「チャド!」

「グッ、人間風情が私の血装の上から攻撃を与えるなど!」

 

 結局、最後まで暴れ尽くしたキルゲは浦原と織姫の援護、茶渡の防御に加え途中で致命傷を与えつつも矢を撃ち続ける狂戦士となったキルゲを前に一時的な共闘をしたグリムジョーによって漸く完全に動きが止まった。

 そして今度は茶渡と織姫が全力でグリムジョーの動きを止めつつ一護を尸魂界へと送ることが出来た。

 

「チッ、此処が嗅ぎつけられたか……!」

「何をコソコソして……あん?」

「阿近さん!」

「何だてめえは? 俺は星十字騎士団シャズ・ドミノ、与えられた力は──」

 

 こうして一護はそこにいた黒腔の出口を守ってくれていた阿近ら技術開発職員を護るため、全力の月牙天衝をシャズ・ドミノに対して放ち空間を割った。あまりにも早い英雄の登場に騎士団も驚きの表情をする。

 同時に隊長格の中で明確に敗北したものが更木剣八一人ということも騎士団の焦りを生んでいた。

 

「バーナーフィンガー(ツー)!」

「ひゃあ熱いなぁ、そないな()()振り回したら、危なくて近づけんなァ」

「……どれだけ俺の技を識ってやがる」

「全部」

「……なに?」

「バーナーフィンガーは指の数を増やすと用途が変わる、さっきまで使っとった一本が銃弾、二本で爪、他にも足で熱波を放つ技なんかもあるんやろ?」

 

 手の内が全てバレていること、そして相手がそれの間合いまで見切り始めていることにバズビーは苛立ちよりも天満の情報量がおかしいことに気づき始めていた。

 ──ハッシュヴァルトも違和感があったのはその「記憶」だった。立ち回りでハッシュヴァルトは明確に気づいたことがあった。それは稲火狩天満がハッシュヴァルトの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が違和感だったと後で気づいた。まるで、ハッシュヴァルトが神聖弓も神聖矢も精製することが出来ないことを識っているように。

 

神の歩み(グリマニエル)を警戒している動きだ」

「もの凄く速くなる完聖体ってことが解れば、そう思って対処すればいい……単純な道理さ」

「その完聖体を識っていることが異常なのだが」

「ならボクらは天満くんに感謝しなくちゃね!」

 

 京楽は相手がスピード自慢だということで対応を変えており、右目を撃ち抜かれるような大怪我は負っていなかった。

 第一次侵攻は尸魂界をボロボロにするための戦いだ。本当の戦いである六月の第二次侵攻のための布石でしかない筈だが、隊長格に明確な被害が出ていないという状況は滅却師にとって不都合だった。

 

「月牙、天衝──!」

「ぬぅ……!?」

「陛下!」

「こいつで、終わりだ!」

 

 そして横一文字に放たれた月牙はユーハバッハの胴体を切り裂いた。極限状態でキルゲと戦った傷もあるというのに、一護の霊圧はむしろを凄みを増しているようにも思えたが、手を出すなというユーハバッハの命令にハッシュヴァルトは従った。

 糸が切れたようにユーハバッハは後ろに倒れる。そして手を伸ばした。

 

「ち、力及ばず……か……申し訳ありません……()()()()()()()

「……何言って?」

 

 その瞬間、一番隊舎が青い火柱に包まれる。そこでたった三名の最終防衛線を築いていた元柳斎、そして副官の雀部と三席沖牙は敵の頭領がすぐ地下にいたことを悟った。

 そのまま、ユーハバッハは泰山の如く構えていた千年前の仇敵と、だが老いてその面影は失せた敵と向き合った。

 

「黒崎一護がこうも早く来ているとはな……キルゲのことも予め浦原喜助に伝えていたか……稲火狩天満」

「お主……今まで何処におった」

「一番隊舎の地下には何がある?」

 

 藍染惣右介に会ってきたものだが、麾下に入れという言葉は案の定断られたことを明かす。

 その頃天満は七番隊と合流して敵の対処に当たっていた。バンビエッタ・バスターバインの能力を明かされてはいたものの「黒縄天譴明王」の特性とは相性が悪く、苦戦していたところに天満たちが合流していた。既にバンビは完聖体になっており周囲に霊子を撒き散らしていた。

 

「──出てきたか」

「さっきの爆発、一番隊舎の方けえの」

()()()()()()()()()ですね、恐らく一護くんが偽のユーハバッハを打倒したことで出てきたんでしょう」

「お前さんが言うとった他人の記憶と精神を模倣するっちゅう滅却師か」

「はい」

 

 あの時点で偽物を殺したらどうなっていたかというのに興味はあったものの、結局ハッシュヴァルトの攻略が叶わなかった。それこそ卍解をすれば「世界調和」とも対抗できるだろうが、それは相手も織り込み済みであるという可能性を考慮して、三人での足止めに注力した。全く以て不本意ながら時間稼ぎの方法は旅禍事件、虚圏での戦いで身につけてしまっていた。

 

「ワンちゃんの卍解って不便なのね、あたしの能力でボロボロじゃない」

「……それでも、この身を賭して戦うことこそ、護廷十三隊だ!」

「あっそ、それじゃあ──」

「因果炎斥」

 

 相性が悪いのは一対一の話、天満の霊子を弾いて引き寄せ逸らす「炎輝天麟」が前ではその能力を十全に扱えずにいた。

 その能力に苛立つバンビエッタに、そろそろいいかと天満は相手を殺す算段を立てているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




バンビちゃんが危ない!

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