モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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OUTBREAK(3)

 バンビエッタ・バスターバインはその男の動きに困惑していた。知られている筈のない自分の聖文字「爆撃(ジ・エクスプロード)」を初見どころか初回で対応してくる明らかなモブ顔の男を前に理解と思考を放棄した。爆弾を射出するのではなく霊子を打ち込み、それが爆弾になるという能力、初見では見抜くことが不可能なその能力に天満は触れずに対応していく。

 

「何その技!」

「斥力、あらゆるものを弾く力だよ」

「何言ってるのか意味解んないんだけど!」

「……そうか」

 

 どうやら斥力では伝わらなかったのかと天満は斬魄刀の左右を持ち替えて戦っていた。基本的に左で防御、右で攻撃を行う天満にとって、逸らすだけでも危険なバンビの霊子弾は斥力で弾く方が最善だと判断していたからだった。

 かと言って天満に気を取られると上から「黒縄天譴明王」の一撃が叩き込まれ、地面が抉れていく。

 

「稲火狩! 攻撃は儂に任せろ!」

「任せます狛村隊長!」

 

 だが天満が懸念しているのはここでのバンビエッタの勝敗ではなかった。サボっているであろう彼女と親しい、と言ってもいいだろう彼女の呼称のままでいるなら「バンビーズ」なる五人組のうちの残り四人、その中でルキアと戦っているミニーニャ以外の三人──リルトット、ジゼル、キャンディスの動きは原作でも描かれていなかったのだから。彼女がピンチになれば出てくる可能性も否定しきれなかった。

 

「──なに!?」

「元柳斎殿……!」

「始まったか……」

 

 そのタイミングで分厚い雲が吹き飛ばされ、尸魂界が灼熱の砂漠地帯のような気候に変化した。

 太陽が照りつけ、その日差しと熱に汗が噴き出す。

 ──総隊長山本元柳斎重國の卍解「残火の太刀」の影響だった。

 

「元柳斎殿も戦っておられるのだ、我々も不甲斐ない戦いは出来ぬぞ!」

「はい!」

「なんなのよ、邪魔!」

「──天麟黒星!」

「いいの、これも爆弾になっちゃうわよ!」

「まぁそれ、元から爆弾みたいなものなんでね──狛村隊長、刀の後ろに!」

「うそ──っ!?」

 

 自身の爆弾とはまるで規模の違う爆発を受けて、バンビはその光の翼で後ろへと回避した。同時に狛村たちも明王の刀に隠れたことで被害を回避しており、彼女が反転し攻勢に出ようとしたところで瞬歩で出現した穂華のありったけの霊圧を籠めた掌底を受けて壁に叩きつけられた。

 

「深追いはするなよ穂華!」

「解っています」

「攻撃は儂が担う! 明王!」

 

 振り下ろされた明王の刀は区画一つをまるごと吹き飛ばしそうな威力を放っており、味方である天満たちもその風圧に踏ん張る。

 だが天満はその瞬間、狛村の卍解を狙う雷霆を察知し、咄嗟に右手に持ち替えていた小太刀を「黒縄天譴明王」の頭上に投げた。

 小太刀が避雷針のように引力によって吸い寄せた雷を受け、スパークする。落ちてくるその刀を空中でキャッチし、天満は狛村の卍解を護るように新たな敵、キャンディス・キャットニップと相対した。

 

「丈夫な刀だな、アタシの雷受けてんのに!」

「丈夫じゃなかったら投げて防御なんてしない」

「……隊長かと思ったらそうでもないみたいだし、副官証も着けてない?」

「五席だからね」

「その程度で、アタシとヤろーっての!?」

 

 嘲るような派手な髪色をした如何にもギャル然とした滅却師の前に天満の目は冷徹に細まっていく。此処に彼女がやってきたということはバンビはそこそこのピンチということで、逆に言えば、ジゼル・ジュエルとリルトット・ランパードも近くに来ているということでもある。天満はそれこそ個別に全員の能力を識っているが同時に襲い掛かられて対応できる程、強くもない。黒崎一護程の強さがあれば別なのだが。

 

「おいビッチ、そいつは闇雲に突っ込んでいい相手じゃねぇ」

「うるさい! 小手調べを受け止めたくらいでスカしやがって──ガルヴァノブラスト!」

「因果天引」

 

 リルトットがやってきて何かを言ったがそれを無視して神聖矢に自分の「雷霆(ザ・サンダーボルト)」の能力を上乗せした五ギガジュールもの熱量を誇る必殺の一撃を放つ。だがそれは天満を貫くことなく、小太刀の剣先に発生した引力が矢をギリギリまでひきつけ、突き出したそれを後方へ振ると制御を失った矢は誰もいない地面を灼き焦がした。

 

「なにっ!?」

「因果──っと、危ない。手を出してこないかと思ったよリルトット・ランパード」

「悪いな、手は出すつもりはねーが、口は出させてもらってるぜ」

 

 当然、そんなことも予想はしていたため天満は突然出てきた大口の化け物を僅かに引力で逸らしつつ瞬歩で距離を取る。

 言葉通りその場から一切動くことなく「食いしんぼう(ザ・グラタン)」の能力で口の端だけが異形となって襲いかかってきたリルトット・ランパードはもう少しでキャンディスの腕が千切れていたということを察知していた。

 

「だから言ったろーが──ソイツは昨日新しく特記戦力入りした稲火狩天満だ」

「そういうことだ、キャンディス・キャットニップ。稲光と雷霆同士、気が合うといいんだけど」

「ふっざけんな!」

「そんな安い挑発に乗んな。多分お前の手の内全部識ってて誘ってんだよ尻軽(ビッチ)

「芋顔が!」

「それはひどい言い草だな!」

 

 リルトットは芋か、と食欲に満ちた顔をしており天満はこの緊張感の無さとは裏腹にこの二人がコンビを組んでくるのは拙いと判断していた。穂華と業平は射場と共にバンビの霊子を「黒縄天譴明王」が受けないように鬼道や遠距離攻撃で対応しており傷を負わせてはいるもののまだ誰かを救援に呼べる状態ではない。

 

「……けど(モブ)顔なのは認める。悔しいから、俺は逃げるとするよ」

「おいおい、逃がすと思うか?」

「腹減ってるだろうけど、()()()()()()()()()()()()()?」

「……不気味なヤローだな、何を何処まで識ってやがる」

「情報を秘匿して襲いかかってきた連中に、それを教えると思うか?」

「それもそうだな」

「モブ顔の分際でアタシを見下して、そのまま帰れると思うなよクソが!」

 

 再びガルヴァノブラストを乱射してくるその軌道と射線を読み切り、能力は極力使わずに回避していく。やはり弓というだけあって狙いを付ける必要があり、その本質が乱射だろうとなんだろうと滅却師のプライドなのかきちんと正確に狙い撃ってくる。動きを止める牽制、本筋の一撃、それを目線で見極め、天満はキャンディスの神聖矢の軌道を完全に読みつつあった。

 

「おいビッチ、あんまし撃ちすぎるな、癖を読まれ始めてる」

「そんな小手先でアタシの技を躱せるわけ──!?」

 

 肩が斬られ、その動きにキャンディスだけでなくリルトットも驚く。

 ──天満は藍染の動乱から一年半、星十字騎士団を相手取れるようにと修行してきた。相手は京楽程で漸く卍解せずに互角、完聖体になればその京楽でも相手にするのは難しい。ならばと天満は卍解の鍛錬の他に始解状態での戦闘能力の向上を目指しその中でも走打に焦点を当てた他、なんとなくで使っていた「読心術」による先読みを戦術として本格的に取り入れるように訓練をした。

 

「なんだよ今の動き!」

出歯亀(ナナナ)みてーな技をもってるってハナシだったが、この短い時間でもう観察を終えたのか!」

「俺には情報があるから、な!」

「くっ、おいビッチ、この芋ヤローオレたちの()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 結果として様々な鍛錬相手とこの訓練をこなしたことで、天満は霊圧知覚が弱い相手には瞬きと死角を利用して瞬歩で相手からは消えたように見えるという手品を身に付けた。丁度、前世の記憶の中にある「少年ジャンプ」に相手の視線を誘導するという手品の技術を応用したスポーツマンガというものがあったのも発想の手助けになっていたのだが。

 だが、そこで天満は巨大な霊圧が消え、圧倒的な熱が急激に冷え雲と雨を生んだことを──つまりは山本元柳斎重國が死んだことを悟った。

 

「……総隊長」

「どうやら、お前らのボスは死んだみてーだな」

 

 一護と手を組めば或いは、そう思っていたがどうもそうはいかなかったのだと天満の揺らいだ霊圧を傷を受けて頭に血が昇ったもののキャンディスは見逃さなかった。直撃自体は能力で避けたもののキャンディスの矢を三発、地面に背をつけ連続で受けて、遂に小太刀に罅が入った。

 

「……総隊長のジイさん!」

「黒崎一護、言ったはずだ……陛下の邪魔はさせないと」

「退け!」

「無駄だ、山本重國は既に陛下の手によって粛清された」

「退けって、言ってんだ!」

「──っ!」

 

 総隊長の敗北により尸魂界の全体に重たい暗雲が掛かり始め、ユーハバッハは黒崎一護を連れて帰ろうとハッシュヴァルトの元へ移動し聖兵によって瀞霊廷を蹂躙せよと指示しようとしたその瞬間、その身体から影が伸びて、己を覆い隠そうとしていることに気付いた。それを見て、ハッシュヴァルトは地面に膝を突き、今にも折れそうな程ボロボロになった「天鎖斬月」を地面に突き立て立ち上がろうとする一護から視線を外し、ユーハバッハへと進言する。

 

影の領域(シャッテン・ベライヒ)圏外での活動限界です……見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)へお戻りください」

「馬鹿な、まだ時間は──そうか、藍染惣右介……奴の小細工か」

 

 聖兵を出すことも叶わず、思っていた以上の抵抗を受けたものの結局隊長格はほぼ全員がその深さを問わずに傷を負った。

 特にひどいのは単独でミニーニャに挑んだルキア、エス・ノトを追い詰めていたもののマスクド・マスキュリンの乱入で卍解を叩き折られた恋次と白哉。そして偽物のユーハバッハに挑んだ更木剣八、そして稲火狩天満もまた。

 

「──待て! 逃がすと思うのか?」

「……行くぞ」

「待てって言ってんだ!」

 

 命を拾った幸運は、修復不可能な「天鎖斬月」を完全に折られるという不運で釣り合う。

 本来ならありえる筈のないハッシュヴァルトの剣が一護の持つ刀の刀身を真っ二つに斬り落とした。

 そうして、ユーハバッハはその特異な生まれを持つ自身の血が流れる息子へと語りかけた。

 

「天満さん! 天満さん!」

「医療班がもうすぐ来る、持ちこたえろよ天満……!」

 

 滅却師全員が影の中へと消え、医療班や裏廷隊が各地を駆け巡り重傷のものを運び出していく。

 ──総被害人数は千三百人を越えた。席官も五十名以上が命を落とした。滅却師側の損害はたった数名、死神側の主な死亡は一番隊隊長副隊長、重傷が六番隊隊長副隊長、七番隊隊長、十一番隊隊長、十三番隊副隊長、重傷の隊長格は次回侵攻時に前線に立てる保証はないに等しい。

 

「業平……穂華」

「天満!」

「悪い……負け、たよ」

「致命傷は絶妙に避けてるってハナシで安心した」

「はは……まだ死ぬ運命じゃなかったってことだ」

 

 目覚めた天満はベッドに寝かされた状態で、身体も医療機器に繋がれている状態だった。その状態で穂華が元二番隊の知り合いから伝え聞いた被害人数を伝えていく。天満が一番気にしていたことだからと彼女が頼み込んでいた。

 聖兵による被害は相当な数の予定だった。その中には自分や業平、そして穂華の名前も原作と同じならあったのかも知れない。だが彼らは生きており聖兵の蹂躙は防がれた。意識が飛んでいた間も、最後まで「炎輝天麟」が護ってくれたらしく天満の手元には元の形状も解らなくなった斬魄刀の柄だけが残っていた。

 

「……天満さん」

「一護くん……ルキアさんは?」

「容態は安定してるって……けど」

「……そうか」

「なあ……いや、悪い、なんでもない」

 

 二人が可城丸に呼ばれ去った後、今度はボロボロの一護が姿を現した。

 天満は彼がハッシュヴァルトかユーハバッハ、或いはその偽物に母親の名前を出されたのだと察知した。天満なら答えを識っているのではないか、そんな淡い期待だったが、敵と何か自分に繋がりがあるのではないか、自分がもしかしたら滅却師側の存在なのかもしれない。そんな不安が一護の口を重くさせていた。

 

「黒崎一護様! 涅隊長がお呼びです……斬魄刀の件で」

「……行っておいで」

「ああ」

 

 去って行く一護を見送りながら天井を見上げて考えていた。全身を雷で三度撃たれて生きている不思議、そして自分が死んだ瞬間のような雨の日、天満は関係のない後頭部が痛むような感覚に襲われていると、今度は比較的怪我の少ない市丸ギンが天満の病室へとやってきた。

 

「や、天満クン」

「どうでしたか?」

「被害は抑えとったけど、敵サン思ってたよりも強いわ」

「その割に余裕そうで、俺は死にかけを斬魄刀に救われてるんですけどね」

「二対一でそれならいけそうやね」

「……で、殺せませんでしたか?」

「ん、完聖体に苦戦してもた」

 

 やはりそうなったかと天満は嘆息する。卍解を奪えなければ完聖体で挑んでくるのは想定済みだが、そうなると有利不利の天秤が傾かなくなる。業平と穂華の言葉によればバンビエッタも相当追い詰めることが出来たもののジゼルの介入により迂闊に手が出せなくなってしまったという。ならばマトモに勝利した死神は更木剣八を除いて何処にもいないということになる。

 

「……この状況を打開するのは俺の反則じみた未来予知じゃなくて、霊王サマのお導きですかね」

「天満クン」

「ムカつきますが……零番隊の力を借りる必要があるのは、変えられませんね」

 

 天満のその言葉に藍染と似たようなやるせなさを感じた市丸は考え込むような表情をしていた。

 そしてその翌日、天満は不気味な霊圧、ではなくそれとはまた違った感覚に目を開け、また新しい人物の訪問に目を見開いた。

 男か女か判別しづらい中性的な見た目、そして多数の手を扱うその異様な姿、そして背負う紋は番号ではなく「沈丁花(じんちょうげ)」の花弁だった。

 

「……北方神将、修多羅千手丸……!」

「矢張り、妾のことも識っておるか……ならば此処に妾が居る理由も察しがついていよう」

「……連行ですか、俺も」

「勿論、運んでやろう……優しくな」

 

 予想していなかったわけではない。可能性としては有り得る話ではあった。だがこうして目の前に現れると動かない身体で有りつつも何故だか妙に「従ってはいけない」という気分になる。それは零番隊という真実を、王族という意味を識っているが故かまでは判別がつかなかったが。

 

 

 

 

 

 


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