モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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CORPSE ROYAL PALACE(1)

 天満が零番隊によって霊王宮へと連行された。その事実を平子によってもたらされた市丸、業平、穂華の三人の反応はそれぞれ異なっていた。穂華は他に重傷だった白哉、ルキア、恋次の三名、そして卍解を折られてしまった一護とは違い、天満は卯ノ花の治療でなんとかなる筈だった。だというのに連れていかれてしまったという漠然とした不安、業平は天満の特殊な記憶に対してなんらかのアプローチを掛けてきたのかという予測、そして市丸は業平の予測に加えて僅かな不信感を抱いていた。

 

「浦原サンてどないしてるん?」

「なんや、一護の話によるとグリムジョーとかいう破面と一時的に共闘したものの、最後は浦原と織姫ちゃんと茶渡とで抑えとったせいで虚圏に置いてったらしいで」

「──グリムジョーが?」

「知り合い……藍染の部下やったやつか?」

「五番隊長さんも一度戦った元十刃や」

「あァ、あの隻腕だった奴か……」

 

 意外な名前に市丸も驚く。同時に藍染に仕組まれていたとはいえ好敵手のような一面のあるグリムジョーが滅却師と一時的に共闘したとはいえ戦わずにいられるわけがないということも理解できた。原作ではコンを介して連絡を取り合っていたものの、今回望実が生き残ったことによる修正か、彼女の傍にいた。そのため詳しい状況が解らぬまま一護は霊王宮へと打ち上げられてしまったのだった。

 

「ま、危なかったら天満クンがなんか言うとったやろし」

「その天満も連れて行かれてしまってなァ」

「あ、あの市丸た……さん」

「何?」

 

 そんな二人の会話に思わず、という形で、しかも苦手で仕方がない相手ではあったが平子のおかげで幾分かマシになった雛森がそれでも緊張気味に質問をする。

 日番谷からは市丸の刺突から身体を張って護ってくれたと言われた男、でありながら市丸を藍染惣右介捕縛の功労者としてその罪を軽くした男、そして五席ではあるが隊長並の力を持つ男、稲火狩天満という存在が良く解っていなかった。

 

「稲火狩五席って、なんでそんなに敵の情報を識っているんですか? しかも霊王宮にって」

「敵だけやないよ味方のことも、勿論キミのことも相当識っとる」

「……そ、そうなんですか」

「ま、顔の通り怪しいやつやないけどな、怪しいんなら市丸の方がよっぽどやで」

「え、ええ……っと」

 

 かつて藍染隊長の仇だと信じて疑わなかった市丸を挙げられなんとも言えなくなってしまった雛森に平子は真面目かと嘆息しそれから少し答えに迷った。平子としても天満の情報の出処は知らされていないし、それを()()()()()()()とは到底思えなかった。だがその質問に返答したのは市丸だった。

 

「彼は敵とか味方とか関係なくヒトが好きなんやと思う。ヒトを嫌いやった藍染隊長との違いは、間違いなくそこ」

「……ヒトが好き」

「好きやから相手のことを識っとる。死神も人間も滅却師も破面も、天満クンは好きで……ホントは敵を殺すんのも嫌なんや」

 

 けれどあれも救いたい、これも救いたいという立場の存在にはなれなかった。特異な生まれではなくごく普通の死神になってしまったからには滅却師も救いたい、破面も救いたいなんて綺麗な言葉を振りかざしたところで今度は死神から疎まれる立場になる。

 ──英雄にはなれない。せいぜいペテン師が身の丈に合ってる。太陽に焦がれた偽りの太陽、それが稲火狩天満の真実だ。

 

「……百年早く生まれとったら、どうなっとったかな」

「ホンマもんの太陽みたいに全ての命を救う英雄になっとるか──藍染隊長を王様にしとったか」

「前者であってほしいもんや」

 

 それからさほど時間が掛からない頃、市丸は穂華と業平の二人に頭を下げられて困惑していた。

 破壊された街の復旧や、次の戦いに備え始める中で、穂華と業平は天満の後ろ姿を見て思うことがあったらしい。そして霊王宮へ連行されたことでこのままじゃいけないと思うようになっていた。

 

「お願いします!」

「お願いします市丸さん!」

「……ボクじゃ向かんよ」

「それでも頼めるのは市丸さんだけですから」

 

 二人が頼んだこと、それは()()()()()、若しくはそのきっかけを掴むことだった。本来なら下位席官である業平と穂華には分不相応と言うべきものだ。それに目覚めるだけで二人は尸魂界の歴史に名が残る英傑となる。それほどに卍解というものは本来、急激に身につけられるものではない。

 ──そう、本来ならば。

 

「キミはとりあえず、鬼道をもっかいちゃんと扱えるようにすること」

「……は、はい」

「それが出来んかったら、具象化出来ても屈服は出来んよ」

 

 穂華の心に蓋をしているトラウマ、鬼道で上司を殺してしまったというトラウマが克服できない限り屈服なんてまた先の話だと市丸は語った。ハッシュヴァルト相手には土壇場ということもあり無我夢中で発動できたものの、こうして落ち着いた状態で放とうとすれば脳裏に広がる苦い記憶が、術式を乱してしまう。

 

「阿久津くんは具象化出来てるん?」

「ええ」

「もうその時点で天才越えとるな」

「俺は阿久津家きっての麒麟児ですから、それに天満の好敵手として、親友として、いつまでも卍解出来ませんじゃ格好つかない」

「……天満クンの影響は、デカいなぁ」

 

 市丸は天満によって生かされた。本来ならば死んで一護に願い全てを託すのが運命だったが、天満が己の命と力全てを懸けてその運命を捻じ曲げてみせた。

 ならば自分は運命を捻じ曲げるちっぽけな死神の足掻きを手助けしようと心に決めていた。冷えたこの肌に積もる雪を溶かし、仲間という陽だまりへの道を作ってくれた太陽を支えようと。

 

「よう、一護と恋次なら先に行ったぜ」

「そうですか……俺の方が軽傷だったんだけどな」

「おかしかねェよ、あのままの治療じゃお前の手足は一生動かなくなってたぜ」

「……成る程、治療、感謝します」

「オウ」

 

 雷のほぼ直撃を三回食らった影響を聞かされ、自分の足で立って手を開いたり閉じたりする。違和感がなくなっていることに天満はこの湯殿の、治療の力を実感していた。

 少し出遅れたが、天満は臥豚殿へとぶっ飛ばされていく。その際、チラリと霊王宮が視界に入りそれを睨みつけた。死神の罪過の結晶体、今回の戦争の全ての原因。

 

「……まぁ、個人的な恨みなんてこの際どうだっていいけど」

 

 原作に勿論、稲火狩天満なんていう男が霊王宮へ連行されたという記述は一切ない。ならばこそ未来全てを見通した霊王はこの状況すらも見通したのか、それとも天満という存在を織り込んで未来を導いているのか。もしそうならば、霊王やその意思を伝える存在である零番隊は天満にとって本当に味方なのか、判断がつかずにいた。

 

「天満ちゃん、いらしゃい」

「どうも、曳舟さん」

「そう警戒するんじゃないよ! ちゃーんとおもてなししてあげるからね!」

「助かります」

 

 少なくとも、死神と名前が着いて後の人物であろう麒麟寺天示郎と曳舟桐生の二人は天満も警戒が薄い。だが此処から先の三人、二枚屋王悦と修多羅千手丸には警戒するべきだし、兵主部一兵衛に至っては味方として扱うべきですらないと考えていた。だがそれを見抜いたかのように、或いはそれを語らせるために敢えて天満を独りにしたような気さえする軽さで曳舟は語った。

 

「零番隊に天満ちゃんをどうこうする気はないし、霊王様の意思もそうせよとは仰っていないよ」

「……信じろと?」

「一護ちゃんと違ってアンタは只の死神だろう? 魂魄の記憶は違っても器は少なくともね」

「ええ」

「とにかく和尚に問うつもりなんだろう?」

「答えを期待はしませんがね」

「その方がいいよ」

 

 曳舟の言葉に、天満は息を吐く。少なくとも自分に霊王の欠片が入っていないことほぼ確実だろう。いやむしろ欠片があるならこの霊王宮への嫌悪もそこそこ納得がいくのだが。

 ──天満はその会話を終えて、今度は王悦の元へと向かう。天満は誰も迎えに来ないことに眉を顰めつつ、偽の鳳凰殿は華麗にスルーをして寂れた鳳凰殿へと向かった。

 

「おや、迷子にならなかったkai? 天満チャン」

「二枚屋王悦……」

「そう、十、九、八、七、六、五、終いに三枚、二枚屋王悦! 天満チャンもシクヨロでェ──ス!」

「……今()()()ですか?」

 

 そのふざけたテンションに付き合う気はないと天満は全てをすっとばして質問をする。それに対して王悦はさして何かを思うでもなく、同じように淡々と、質問への答えを返した。

 

「七十時間過ぎたとこSa」

「ならもうそろそろですね」

「何がDai?」

「勿論、俺の番ですよ」

「キミはそんなに時間は掛からNai 何故ならキミの斬魄刀はキミを護って、想って傷ついた。怒ってるはずがNai」

「けど傷つけた謝罪くらいはしますよ……俺の大事な炎輝天麟たちに」

 

 その答えがある時点でキミは死神さ、とは王悦は敢えて口には出さなかった。それは斬魄刀に対するほぼ全てを識っているから、だからそういう理解が出来るということでもある。だが()()()()()()()()()()()。天満は斬魄刀がなんであるのかを正しく識っているからこそ卍解を習得できたようなものなのだから。

 

「天満さん……!」

「ダメだったみたいだね」

「……けど、ここで俺が今帰ったら斬月はどうなるんだよ」

「帰っても帰らなくてもイッショだYo」

 

 そんな王悦の煽りを受けて超界門によって現世へと帰っていった一護を見送り、上がってきた恋次と入れ替わりに「浅打」たちの中に飛び込んでいく。だが不思議なことに天満に対する敵意は少ない。同時に()()するような気遣われているような感覚さえするその浅打たち、その空気に天満は自分の斬魄刀に案じられるという幸福を感じ取っていた。

 

「言ったLow?」

「言われましたね」

「天満チャンは識ってるだけDa って思ってるカモしれNai 知識、記憶でしかNee ってSa──But(ケド) 浅打たちにとってそれはナニより重要なコト、恋次チャンも憶えときなYo」

「……ああ」

()()()()()()()()()()()()()手前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()D()a()ってNa」

 

 天満はその言葉にストンと腑に落ちた感覚がした。天満の斬魄刀「炎輝天麟」は「煙気」だったかつての自分とそこにもう一つの魂が同じ浅打に触れたことで生まれた斬魄刀だ。その魂魄の記憶に耐えうるために天満自身が刀を二つに別けた。それはどちらにとっての稲火狩天満も大事するために、融合してどちらの記憶が優先されることがないように。

 

「……つまり、俺が何処から来たのかは刀神のアンタにも解らないってことか」

「その辺は和尚に聞きなYo」

「俺、苦手だなあのヒト」

「……天満は、その和尚とか言う奴に会ったことあんのか?」

「ないです」

「天満チャンはこの世界が生まれた時からこの世界を識ってるんDa……後は本人に訊いてみなYo 教えてくれるかDoかは知らNeeケドNaッ」

 

 自分が護廷十三隊にひた隠しにしてきた秘密をどいつもこいつもべらべらと、と天満はここで千手丸に対して見せた嫌悪感を表に出した。だが結論は王悦にも曳舟にも解らず、それならば千手丸からも望んだような返答はないだろうという確信があった。そして天満たちは地獄のような採寸の果てに、遂に「まなこ和尚」の元へと辿り着くのだった。

 

「まさかキミが此処へやってくるとはね、京楽隊長」

「……天満クンなら零番隊に連れられて霊王宮だよ」

「霊王宮へ……成る程、彼もまた彼の根源(ルーツ)を求めに行ったか」

「どういうことだい?」

「キミが知る必要はない」

「まぁいいや……此処を出る気はないかい?」

「勿論、有るさ」

 

 その頃京楽は天満の知る原作よりも遥かに早く、藍染惣右介と邂逅していた。京楽が予測した天満の真の情報能力、そして二刀一対の斬魄刀から導き出される真実、それが藍染を殺さずに生かしたのではないかという予想を立てていた。

 山本元柳斎重國と雀部長次郎忠息が卍解しようとも斃すことが叶わなかったユーハバッハの強大さとそんな敵を予知していた天満が藍染を生かしていた理由は、此処しかないのだと、京楽は考えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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