モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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総合評価が一万を越えました! 若輩でBLEACH初書きでしたが、とても嬉しいです!


CORPSE ROYAL PALACE(2)

 天満が先を読んだとしても、卍解を十全に使え、自分が絶対的有利であっても勝てないと感じる相手は何人かいる。

 藍染惣右介、ユーハバッハ、浦原喜助、他にも幾人か思い当たるが、眼の前にいる男もまたそんな人物の一人だと強く感じていた。

 漸く濃く重い霊子濃度の空間に慣れ動けるようになった天満は和尚と対峙していた。

 

「おんしのもう一つの魂の出処は、儂は勿論、霊王様にも解らん!」

「……そんなことある?」

「ある!」

「言い切っていいのか、この世界が成り立つ前から存在しているヒトが」

「おんしの半身はその外側から来とるからな」

「まぁ、それはそうなんですけど」

 

 さらりと放たれた爆弾発言に天満は嘆息する。外では合流したルキアと恋次が修行を始めるという段階で、一護もまた死神としての基礎からやり直しているという状態だった。天満はそんな和尚の緊張感のない言葉、敵意や警戒心を霧散させる態度に毒気を抜かれたように立ち上がってから気になったことを訊ねた。

 

「……俺を此処に呼んだのは、和尚ですか、霊王ですか?」

「これ、様を付けんか」

「すいません、不信心なもんで」

「霊王様じゃ」

「解りませんね、俺もまた、歯車ですか?」

「それは解らんが、おんしはある意味で霊王様の全ての意思を識るものでもある」

「……原作者(れいおう)ですか」

 

 再び、敬称をつけよと言われて再び謝罪をしつつ、そうなんだろうなと考察する。

 ユーハバッハは未来とは砂粒だと表現していた。眼の前には砂粒の如き無数の可能性があって、それを渡っていくのが未来の選択、未来は変えられるという真実。

 ──だが天満にとって、未来とは一本道だ。第二次侵攻の時期、誰と誰が戦うか、どうなるか、そしてユーハバッハはどうなって一護はどうなるのか、その本来起こるはずだった全ての確定した、変えようのない未来を読んでいる。マンガは読んでも結末が変わりはしない。十度読んでも、千度読んでも。

 

「けど、変わってますよ未来は」

「それは、おんしが変えておるだけじゃ」

「……それ、アリなんですか?」

「誰もナシと規範(ルール)を決めておらんからのう」

「……ええ」

 

 実際にユーハバッハが視る未来とは、変える未来も含めて物語の流れだ。変えると決められた未来は、果たして変わった未来と言うのだろうか。濃い霊子の空間の中で哲学染みた答えのなさそうな問題を突きつけられ、天満はくらりと目眩がする。だが和尚が言った未来を変えるという正しい意味での使い手は天満のみということでもあると言えた。

 

「ユーハバッハは未来を変える、という必然に従っておるだけ。儂もその変えられた未来に敗北するという必然に従わねばならぬというだけ、それが世界、それが理じゃ」

「……理は、理に縋らねば生きていけないもののためにあるって知り合いが言っていました」

「そんな強がりを言った藍染惣右介もまた、必然には抗えん」

「そうですね」

 

 だが、天満に必然はない。言うならば運命という糸に操られた演劇の中で突如として天満はその糸が別の誰かの意思によって断たれた存在、そして天満がその存在を知覚していたことによって幾人かがその糸を断たれている。それは市丸であり、業平であり、穂華であることも、或いは可城丸もまたそうなのかも知れない。

 

「じゃが霊王様のご意思におんしの言う運命とやらが引かれるのもまた必然」

「その糸は霊王……様から出ているから」

「その通り」

 

 または霊王の意思という糸を扱うハブを介して物語を執筆している真の神、それが天満が切った糸の先にあるものだ。弾かれた弦は上下に移動するが元の線に戻ろうとする。その喩えが天満の中ではしっくり来る。

 何故、自分がその外側の世界から創作の世界、「BLEACH」へと入りこんでしまったのかは定かにはならない。そう思い込んでいるだけの世界の真実を識る霊王の欠片が宿っているわけでもない。

 

「何かしらのバグで自分が二次元へ転げ落ちた、って感じの解釈でいいんですかね」

「それが良いじゃろう」

「……じゃ、俺はちょっくら一護くんと修行してます」

「黒崎一護は、ユーハバッハに勝つのか?」

「ネタバレになるんで、言えません」

「そうか」

 

 天満の言葉に和尚はニカリと笑みを浮かべる。本来ならば一護はユーハバッハには勝てない。その一護の遺体を使って次代の霊王を創り出すことによる勝利、それこそが和尚が考えていた確定した未来だったのだが──どうやらそれは正しい必然ではないのだと天満の反応を見て理解した。

 その先にあるものこそが真に天満が悍ましい世界だと判断するに至った結果だということは識る由もなかった。

 

「天満さん」

「もう随分動けるみたいだね」

「ああ、慣れてきたよ」

「じゃあ、二刀同士、手合わせ願おうかな」

「おう!」

 

 天満は和尚に用意された空間で一護に向き合っていく。王悦によって打ち直され、治された「炎輝天麟」を水平に構える。

 その構えに一護はいきなりか、とかつて空座町のレプリカで戦った時の姿を思い出していた。あの全ての重力を支配する太陽のような卍解、それが来るのだと。

 

「あの時とは違う、俺の本当の創世を見せてあげるよ──卍解!」

「……な、なんだこれ、宇宙!?」

「──炎輝天麟星皇創世ノ嘶!」

 

 以前は半分しか卍解出来ていないと言っていた。この空間全てを支配し自分の宇宙空間にしてしまうのが彼の真の卍解なのかと一護は二刀になった斬月をしっかり構える。

 そして天満は敵ではない一護の為にピンポン球程の星を創り出し、能力を説明する。

 

「俺の卍解の真の能力は星を創り、その一生とベクトルを操る」

「……一生とベクトル、重力とかも思いのままってことか」

「さすが現役高校生、しかも一年の途中までは優等生だったんだったな」

「けど、無重力で空気がねェってわけじゃねーんだな」

「まァ、それはあくまで領域を区切る時の背景みたいな感じだからね、朽木隊長の殲景を思い浮かべてくれると助かるよ」

 

 隔絶された無限にも等しい距離があるこの空間に、だが一護は気をつけなければいけないのは周囲に輝く星が背景、と割り切ることは出来なかった。そしてその通りで周囲に輝いている星は天満が操ることの出来る星で、卍解した際に最初に創られる星でもある。それすらも光の速度で衝突してくるのだから、この卍解が市丸の「神殺鎗」を越える速度を持つ卍解という説明も納得できるというものだった。

 

「じゃあまずは小手調べだ」

「……これって」

「そう、流塵星群」

 

 以前は半分の卍解であったため、色々な補助をして漸く再現できた大技だったがそれを一瞬で、その上戦った時よりも倍近くの星を創り出し、一護に向けて手を振り下ろす。その速度もまた以前戦った時とは比べものにならないものなのだが、一護はそれを躱しつつ天満に近づいていく。

 

「うおッ!」

「この重力渦に生半可な攻撃は通用しないよ」

 

 右手に握った長い方の刀を振り下ろすが、それが見えない壁に掴まれたような感覚、それと同時に天満の数十センチ横を滑っていく。

 攻撃がそのまま隙となってしまった一護に天満がその場で跳躍、前方に回転しながら踵落としを決めようとする。だが一護も隙を突いてくることを予測していないわけがなく、左手の刀で防御していった。

 

「重力まとったまま攻撃も出来んのかよ……」

「最近白打を使う機会が増えたからね!」

「月牙天衝」

 

 天満は重力渦の方向を僅かに操り、浴びせ蹴りの威力を上げており、一護を下に吹き飛ばした。距離が開けられ再び流星群が襲いかかるが、一護はそれを左の刀を僅かに動かし、月牙天衝で相殺してみせた。ただ刀を横に薙いだだけなのにその威力の上昇には、原作での完成形を識る天満にとっても驚きだった。識るのと目撃し、体験するのでは全く意味合いが違う。この時天満は殺す気でなければ明確に勝つビジョンを思い起こすことが出来ずにいた。

 

「二刀同士、やっぱりこうじゃなくちゃな!」

「アンタ、卍解すると十二刀だろ!」

「──正解」

 

 再び距離を詰められ、今度は白と黒の星を刀にして受け止めつつ、残り五対の星も刀の形に変わり一護に襲いかかった。

 振り払おうと刀を構えるものの黒刀がそれを吸い寄せて体勢が崩れる。

 それを見逃すことなく、天満は直径が十メートルはあろうという星を上に創り出し、それを手掌で指揮し、一護にぶつける。

 

「──ッ!」

「くっ……これも、破壊するか」

「おんしら、休憩の時間じゃ」

 

 星を破壊する程の威力の技を使われ、その衝撃を十二刀で防いでいるとそこで和尚が声を掛けてきて、天満は卍解を解除する。

 解除すると思っていたより消耗していたのか、それとも卍解中の天満は無重力状態だったのが急に重力が増していると錯覚する程の霊子濃度を受けたせいか、膝を突く。

 

「大丈夫か天満さん」

「……うん、大丈夫」

「それより、朽木白哉が到着したらしい」

「白哉が……!」

「……早かったですね」

「うむ? 充分に長かったと思うが、なんせ三日以上かかっとるからな」

 

 天満は早かった、とは言っているが白哉の怪我は天満の識るものよりもずっと軽く済んでいた。だがマスキュリンの技を受け、右腕と刀全て、そして内臓をほぼ全てやられたところにエス・ノトの追撃まで受けた。それは修正力というべきなのか、朽木白哉はあのまま治療していても必ず死ぬだろうというところまで痛めつけられていたのだった。

 

「──成る程、確かに滅却師の影とやらに取り込まれずに済みそうだ」

「そうだネ、重要拠点はこれで対策が出来るヨ」

「それじゃあ……四番隊舎、救護詰所と一番隊舎執務室、ここは必要そうかな」

「四十六室は良いのかネ?」

「彼らが涅隊長を査問以外に招くわけがないでしょう」

 

 同刻、一番隊の隊長、つまりは総隊長となった京楽春水は涅マユリに対して正式に次回侵攻時の対策を立てていた。天満の情報を元に涅は瀞霊廷と見えざる帝国は表裏一体に在り、それは簡単にひっくり返すことが可能だと結論付けていた。影を広げて領域を拡大する。それを最大まで使えば、瀞霊廷全てが見えざる帝国に呑まれて消えると。

 理屈が解れば対策は簡単、というのが涅マユリの天才的なところで、彼は広げる元の影を一切なくせば消えずに残ると判断し、それを京楽に打診する。

 

「……後は、一般隊士や瀞霊廷に住んでる貴族たちの避難かな」

「確かに、非戦闘員に彷徨かれても余計な被害を生むだけだヨ」

「しかも瀞霊廷はなくなっちゃうんだ。安全な場所はもう瀞霊壁の外しかない」

「なんともまァ、皮肉な話だネ」

 

 京楽たちは浦原の連絡があり、それにより次回侵攻、本格的な侵攻の件を天満から聞かされていたことを明かし、そして第二次侵攻が六月の半ば頃ということを知った。

 それまでの猶予で出来る限りの対策をする。相手の次の侵攻の手立てが解っていれば、涅マユリからすれば充分すぎる時間だ。

 

「どうやらあの男、自分が霊王宮に連行される可能性も織り込み済みだった……というわけだ」

「そうだねえ、敵さんの情報も全て彼に託していたとは」

「これで未確認だった滅却師も全て情報が揃ったわけだが……問題はこの親衛隊とやらだネ」

 

 涅マユリが指差した先には、その中で特に二名そして前回黒崎一護が戦った一人、そして他の二名もまた充分に厄介な能力を有していた。だが彼の研究者としての胸を高鳴らせたのは強さではなく、備考欄にあるありえないはずの言葉だった。

 ──「霊王の左腕」と「霊王の心臓」、ペルニダ・パルンカジャスとジェラルド・ヴァルキリーの二人に添えられた情報は京楽春水には驚愕を涅マユリに微笑みを与えた。

 

「これは、他の隊長にもおいそれと知られるわけにはいかないねえ」

「これで確信したヨ、あの男の情報は──大霊図書館に潜らなければ識り得ない筈の情報を有している。私は護廷の為の善意から口を出させてもらうヨ、総隊長殿……あの男は第二の藍染惣右介に成り得る、早めに蛆虫の巣送りにでもした方がいいと思うがネ」

「かつてのキミのように……かい?」

「勿論、私のように改心し護廷の為に身を粉にして働く美しいまでの心があるなら別だヨ」

「彼は大丈夫さ」

 

 皮肉をたっぷりと籠めた言葉に京楽は少しだけ息を吐きつつそう答えた。第二の藍染惣右介とはならない、彼は藍染を理解してしまえるが、その眼の中にあるものは暗い闇ではないのだから。

 京楽が郛外区に瀞霊廷の住民や()()()()を送り出そうとしているのは、そんな天満に対するせめての恩返しのようなものなのだから。


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