モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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紅はあの人の右腕の色
蒼はあの人の左腕の色
金はあの人の背中の色
玄はあの人の眼球の色
白はあの人の心臓の色
嗚呼、私の飾り羽は、あの人で出来ている。



CRUSADE(1)

 準備期間を経て、遂に第二次侵攻の時がやってきた。

 その少し前、天満、白哉、恋次、ルキアの四人が千手丸の作った階段の前に立っていた。一護は未だ、己の斬魄刀の真の能力を引き出すことが出来ずにいるため和尚と修行をしている。

 

「ったく一護の奴、間に合うんだろうな?」

「まぁ、英雄(ヒーロー)は遅れてやってくると言いますし」

「我々も呑気に話している場合ではないだろう」

「ルキアの言う通りだ……兄の()()も外す可能性はある」

「ですね」

 

 第二次侵攻はユーハバッハの都合なんだろうけど、それでも慢心なのかは不明だが目を開くのは霊王宮で和尚と一通り戦った後だ。

 戦わないのだから目は必要ないといえばそれまで、目を閉じてもそこまで視えていることもまたユーハバッハの卓越した戦術眼だ。

 ──故に、天満が居るということで侵攻が早まる可能性はあるのだが。

 

「下は……どうなってるかな」

「涅といえども、瀞霊廷中の影を消すことはできぬだろう」

 

 それでも自分の知る瀞霊廷が原型を留めていればいいかと天満はのんびりと構えていた。

 同時に天満の中にある感情は不思議と波立つことがなかった。これからが最も人が死ぬというのに、沢山の命が消える戦いが始まろうとしているのに天満の心は鏡面の如し。それは強くなったと同時に稲火狩天満が本当の意味で自分の根源を言語化できたことに理由があった。

 

「隊長、配備、完了しました」

「ん、ご苦労さん」

 

 瀞霊廷では今回の戦いに備えて京楽春水がその口八丁で四十六室を黙らせることで瀞霊廷そのものよりも人命を第一に優先させた。

 現世から鉄裁を呼び本来なら禁術である空間転移を用いて郛外区に四十六室と清浄塔居林をそのまま転移させ、またその塔居林を解放することで瀞霊廷に住んでいた非戦闘員たちを避難、また少数精鋭で挑むため各隊の隊長が選別したもの以外はその四十六室の警備に回した。

 

「天満くんによると敵さんの雑兵、聖兵(ゾルダート)たちは副隊長でも複数人同時に相手取れるみたいだ」

「なら、俺ら隊長と副隊長、ほんで後はそのゾルダートっちゅうんに囲まれても大丈夫な奴を選出するのが基本ってわけやな」

「隊長が揃ってねぇ状態でそれをするのは少し不安だがな」

 

 日番谷の言葉に京楽は僅かに沈黙する。

 京楽が一番隊の隊長になったことでこの隊首会に出席していない隊長は四、六、八、十一、十三という状況だった。特に六番隊は副隊長もいないため隊士全員を退避させることと決まっていた。残りは隊長のみ不在は副隊長が、八番隊は前任者である京楽と伊勢七緒によって、十一番隊はその血の気も相まって希望者を、ということになった。

 

「選出基準は各隊長に一任するよ、それでもなるべく二人編成が理想的だね」

 

 少数精鋭とするのは被害を抑えるためとは別にもう一つの理由もあった。それが隊長格の強さである。

 霊力を全力で解放したならば誰もかれもがビルのような刀を振り回すことになる、それが護廷十三隊の隊長たちの霊威だ。それを十全に発揮するには瀞霊廷内で隊士たちと戦うには不利に過ぎる。だからこそ、京楽たちは自分たちの巻き添えで犠牲者を増やすことがないようにと戦闘参加させる人員を極端に絞った。

 

「席官たちは四方の門の守護と救護室の守護、隊長たちは遊撃部隊として見つけ次第敵を殲滅ってところかな」

「杜撰な作戦だね、とてもアートとは言えない」

「けどこれが最善ってなら、やるしかねぇだろ」

 

 それから配備が完了した。涅の作戦で影が出来ないように輝かせることが出来た場所は技術開発局の中央と隊首室、四番隊舎救護詰所のみとなった。一番隊舎は間に合っただろうが、京楽がとある策を練っているから敢えて侵食させようと提案していた。

 原作とは違い万全とは言わずとも対策を立てた瀞霊廷と護廷十三隊、その姿がたった一人の男の言葉で始まっているということに暗闇で拘束された男は声を発した。

 

「あの日、浦原喜助と共にキミを敗者と蔑如した私はなんと愚かで蒙昧だったのだろうか。キミは、キミこそが……世界を変える()()であり()()()だ。キミの言葉で世界は有り様を変える。キミの行動で世界も未来も変わっていく。未来を識り、その未来に異を唱え思うように改変する……それをヒトはなんと呼ぶのか、キミはもう知っている筈だ」

 

 それをヒトは神と呼ぶ。天満は藍染とはやり方は違えど規定された未来ではなく自分の思うあるべき未来があると行動している姿は己の思う最善の未来を選ぶ姿は藍染惣右介が望んだ力だった。

 

「お、おい見ろあれ……」

「は、始まったんだ……!」

 

 隊士たちや霊術院の学生、そして貴族たち、流魂街の民たちも瀞霊廷が見えざる帝国へと侵食される瞬間を眼にしていた。

 同時にそれは開戦の狼煙でもある。驚きに、本当にこんなことが可能な敵との戦争が始まるのかという驚きと恐怖、そしてそれでも護廷十三隊の隊長たちなら、選びぬかれた精鋭たちなら。そういう希望もあった。

 

「──侵攻完了だ」

 

 ユーハバッハは高みからそれを石田雨竜とユーグラム・ハッシュヴァルトと共に見下ろす。そしてその瀞霊廷にヒトが極端に少なくなっていることも、解っていた。技術開発局、四番隊舎は侵攻出来ていないことも。だからこそ、星十字騎士団は手柄を取り合うため、聖兵を率いてその二箇所へと向かっていく。

 

「ぐがッ」

「ぎゃッ」

「な、なんだ……コイツ!」

「ああ、あかんなァ……こらあかん。ここから先進むんは命を置いていってもらわな」

「悪役ですよ、その科白(セリフ)

 

 四番隊舎を守護するのは市丸ギン、阿久津業平、丹塗矢穂華、そして三番隊副隊長の吉良イヅルだった。

 そこにやってきたのは前回の侵攻で一護に一撃で斃された筈の滅却師、シャズ・ドミノだった。AからZの枠に入らない聖痕(スティグマ)の聖文字を陛下より賜った元はグレミィの被造物。能力を隠して侵攻したと本人は思っているが、本来の未来で能力を使用している以上、天満の情報に死角はない。

 

「イヅルが適任やね」

「はい!」

「市丸さんもそちらへ、聖兵なら私と十席で充分です!」

「なら行こか、イヅル」

 

 天満が間に合わないことは既に予見されていた。浦原にいざという時に残しておいた伝言の中には恐らく侵攻の後に到着するだろうという言葉があった。ならば援軍到着まで少しでも戦況を有利に保つこと、それが下に残って戦の準備を続けたものたちの役割だった。

 

「千早振れ──清龍!」

 

 偃月刀を回転させ、その遠心力と瀑布の如き一撃が聖兵を襲う。その水しぶきの中を穂華が開いた鉄扇で小さな竜巻を幾つも発生させそれらを熱風の槍へと変形させていく。

 その霊圧の高まりに焦り思い思いに聖兵たちは神聖矢を放とうとするが、業平の振り下ろしに地面を砕かれ、霧散していく。

 

「やれ穂華!」

「はい! 五色炎舞……参舞(さんのまい)穿鶴(センカク)!」

 

 五色炎舞の中で最も母が愛用していたとされるその技を使い、聖兵を貫き一網打尽にしていく。

 これなら大丈夫そうだなと業平が考えていたその時、二人の間を熱線が通り抜けていく。穂華が瞬歩で回避し、そちらを睨むとそこには指を向けた赤いモヒカンの男が立っていた。

 

「オーッ、中々動けるじゃねェか姉ちゃん」

「……バズビー」

「へぇ、見たとこ副隊長でもなさそうだが、そんな奴にまで名前を知られてるなんてな」

「五席が言っていました、貴方は炎熱系の能力者の中でも最上位に位置する能力、前総隊長に次ぐ力を持っていると」

「どの五席か知らねーが、中々いい評価下すじゃねーか」

「報告にあった通りです」

「なんだよ、あのキツネ野郎か、それとも陰険そうな副隊長か、どっちにしろ要注意とでも書かれてたか?」

「いえ──鶏みたいなだっせぇ髪型してるからすぐ解る、と」

「──ブッ殺す!」

 

 霊圧が火焔の姿となって吹き出すのを挑発した穂華は冷静に観察していた。彼はいつもこうやって相手の言葉を引き出し、観察した上で最小限の動きで敵を相手取っていた。だが生憎、自分には卓越した眼はない。どちらかといえば直情型で盲目なきらいがあることを穂華は自覚していた。だが闘志は秘める、怜悧(クレバー)な振りでいいからそう立ち回れ。穂華は母からも、天満からも、ルキアからも、そして市丸からもそう教えられてきた。

 

「十三番隊第十三席、丹塗矢穂華! お手合わせ願います!」

「星十字騎士団“H”灼熱(ザ・ヒート)のバズビー! 俺の髪を馬鹿にした五席もてめーもブッ殺してやる!」

 

 二人の霊圧が衝突し、熱で温度が上昇していく。その様子を業平は聖兵を相手にしながら気にしていた。市丸との鍛錬があったとはいえ、相手は隊長格で漸く釣り合う相手なのだ。特にバズビーは天満が事前に浦原に手渡していた危険度を四段階に分けた場合の二段階目、隊長格でも卍解をしなければ対応しきれない可能性がある敵だと評価していた。

 

「……どうした稲火狩」

「いえ……穂華の霊圧を感じた気がして」

「もう戦いは始まっているということか……急がねばな」

「作戦は、さっきのでいいんだよな?」

「ええはい、ひとまずは二人編成で別れましょう。朽木隊長はルキアさんと、俺と阿散井副隊長でよろしいですね?」

「問題ない」

「ああ」

「おう!」

 

 天満たちは侵食された見えざる帝国の姿が見えてきていた。

 もう第二次侵攻は修正力や運命なんて語るだけ無駄なことであると天満は考えていた。恐らくそれでも日番谷と蒼都、狛村とバンビエッタ、砕蜂とBG9(ベーゲーノイン)の戦いは起こるだろう。

 ならば狛村は、と天満は一瞬だけ瞠目した。卯ノ花にもロクな言葉も感謝も出来なかった、狛村も一緒に戦って、義理堅い男だと憧れにも似た気持ちを抱いた。天満にとって止められない死がどれほどの悲しみなのか、白哉はその一瞬の瞠目を見逃さずそして言葉を掛けては余計に後悔させるだけだと何も言わなかった。

 

「おや……ユーハバッハではなくキミだったか」

「……藍染惣右介! 何故、此処に……!」

「何故、おかしなことを訊くものだユーグラム・ハッシュヴァルト、私が居たのはこの地下だ、さほど動いてはいないよ」

「やれやれ、元は一番隊隊長の執務室だってのに自分がちゃっかり上座に陣取っちゃうんだから」

「……京楽春水、どうやって藍染を……」

 

 その頃、一番隊舎だった場所へと出向いたハッシュヴァルトはそこに対峙した人物に驚きの声を上げた。

 ──どうやって藍染惣右介を手懐けたか、ハッシュヴァルトの質問は藍染本人の泰然自若とした微笑みの前に止まった。手懐けられるはずがない。こんな筈ではなかった。そんな思考が回っていた。

 

「全く、遅参とは英雄気分なことだ」

「本当にねぇ、ボクもキミの話し相手は疲れると思っていたところだ」

「他の隊長や隊士達への言い訳を考えるといい。詰られることは確実なのだからね」

「キミが考えてくれてもいいじゃないの」

「断る」

 

 京楽との会話をしつつハッシュヴァルトの動きを窺う藍染に対して、星十字騎士団の最高位(グランドマスター)として、そして親衛隊(シュッツシュタッフェル)として、この天秤を傾けるための策を冷静に考えていた。

 

 




遂に始まりました。
後ためていて使う暇もなかったポエムを前書きで消化しようと思います。

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