モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
業平の卍解がBG9を呑み込んでいく最中、日番谷冬獅郎の背中の花弁が残り一つとなっていた。
既に攻守共に「
「もう終わりだ……花弁は散る。卍解が維持できなければ僕に勝てる道理もない」
「確かにな……卍解がなきゃテメェには勝てねェってのは同意するぜ」
「そうだろうな」
「けど……一つだけ勘違いしてる」
「何……?」
最後の花弁が崩れ、日番谷の背中から氷の翼が崩れていく。同時にその冷気もまた日番谷の周囲に留まる。だがその周囲の冷気は逆に濃さを増していく。極寒の世界へと、空気中の水分すらも凍り始め氷霧に日番谷が包まれて、その
「華が散ったら終わりだなんて一言も言ってねぇ……氷華が散り尽くした時、漸く大紅蓮氷輪丸はその能力の全てを行使できる」
「……何を言って? 一体、何が起きているんだ……ッ!」
「悪いな、まだ身体が追いつかねェみたいでな……この大紅蓮氷輪丸が完成すると、少し老ける」
そこに現れたのは日番谷冬獅郎をそのまま成長させたような青年だった。霊圧は恐ろしい程に静かながら、その瞳に蒼都は冷気をそのまま背中に押し付けられたかのような寒気が走った。
──危険だと判断しすぐさま攻撃に映るが、日番谷はそれを見つめることなく何か回避行動を取るでもなく、ただその場に立っていた。
「……くっ!」
「もう食らわねェよ」
「さっきよりも氷結の力は上がったようだが……ッ!?」
攻撃をしようと構えた左腕が、崩れ落ちた。その事実が蒼都には受け容れられなかった。自身の「
「俺の氷結は
「まさか……卍解が途中で変異しただと……馬鹿な、僕が陛下以外に殺されることなど……!」
それが蒼都の最期の言葉だった。氷の刃によって能力を使うことも出来ずに肩口から腰までを斜めに斬り裂かれ、蒼都は息絶えた。その身体も凍り付き、そして粉々に砕けていく姿を見送ってから日番谷は卍解を解除していく。身体の成長が終わり、元の姿になった日番谷は真の卍解を扱えてはいたものの、その代償として身体に相当な負担を強いるものとなっていた。
「──チッ、ダッセェな蒼都のヤツ、だから氷の隊長は俺に任せとけって言ったんだ」
「
「バーナーフィンガー
バズビーは、立て続けに星十字騎士団が死んでいったことで徐々に状況が不利になり始めていることに気付いていた。これまで敗北した騎士団はぺぺ、BG9、蒼都、バンビエッタ、シャズ。前回の侵攻でガブリエル、ドリスコール、ジェローム、二人のロイドが欠け、三十に満たない騎士団の中での聖文字持ちが相当数削られて、そしてほとんど前線に出てこない親衛隊のハッシュヴァルト、リジェ、ジェラルド、ペルニダを除けば既に半分もいなくなっている。
対して様々な理由はあるものの戦闘ができない隊長は一番、二番、四番、七番、八番、十三番と護廷十三隊側も半分になっているのだが、特記戦力が誰一人として倒れておらず、黒崎一護と和尚を除いた全員が戦場にいるうえ、護廷十三隊は治療機関が存在する。それが戦力の均衡が崩れている原因だった。
「はぁ……はぁ……!」
「悪りーな姉ちゃん、熱い戦いが出来たのはよかったけど、コッチも余裕がなくなってきちまったみたいだ」
「く……いかせ、ません!」
「愉しませてくれた礼だ、骨も残さず楽にイカせてやるよ──バーナーフィンガー
「しま──っ!」
背の高い建物に上り、決定打が与えられず息も絶え絶えの穂華に対し、バズビーは三本目の指を用いて、あたり一面を溶岩に変えていく。これで穂華も感覚を操作して何処かに潜んでいる平子も一網打尽に出来たとバズビーはまずは消耗しているであろう日番谷の元へと移動を開始した。
それを確認し、離れていった後で、瓦礫を白打で吹き飛ばし、穂華と平子が姿を見せた。
「……ふーっ、あっぶな、初見やったら逸らしきれるかわからんかったわ」
「あ、ありがとうございます……平子隊長」
「礼なら丁寧に情報出してくれた天満にな……って言っとったら来たわ」
「穂華、平子隊長!」
平子の「逆撫」によって見えている方向と判定を逆にしてなんとか回避出来ていた。自分たちと反対方向が溶岩に呑まれていったのを見るとぞっとするなと彼は穂華を気にする。気力だけで戦っていた彼女は、戦いが終了したことで膝から崩れ落ちた。
あのままバズビーが決着を焦らなければ、穂華はどうなっていたか、そう感じていた平子は遠くからやってきた二人の男を見て息を吐いていた。
「長旅ご苦労さん天満、それに業平も無事倒せたみたいやな」
「少し調子に乗りすぎてしまいまして、俺は戦線離脱となりましたが」
「穂華の、部下たちの面倒を見ていただいたみたいで、感謝します」
「ちょっとしたお節介や」
そういう本人もところどころに火傷を負っていた。天満と業平はそんなお節介を通してくれた平子に対して深い礼をして瞬歩で救護詰所へと移動した。
──そこに敵の魔の手が迫っているとは、誰一人として気づくことは出来なかったが。
「稲火狩くん」
「吉良副隊長……と檜佐木副隊長」
「お前は確か浮竹さんとこの五席」
「どうも……お二人はどうしてここへ?」
「マスキュリン、だったか……そいつに襲われてな、久南と応戦したんだが……久南も俺もだいぶ痛めつけられたよ」
「なるほど、すると久南さんは治療中ですか?」
「ああ」
「それで、僕らと阿散井くんが援護に向かって、市丸さんと阿散井くんがまだ戦ってると思う」
成る程と天満は戦況を理解した。マスキュリンは本来、恋次一人でも問題なく倒せる敵ではあるがその復活能力とパワーアップした場合の破壊範囲が面倒な敵であり、同時に「
「天満さん!」
「山田七席、穂華と……業平の様子は?」
「えっと、丹塗矢さんは火傷だけですぐに治療できますし、阿久津さんは特に異変はないです」
「そっか……よかった」
業平の卍解は酸の雨であり、触れたものに赤錆と酸性という毒を用いて侵食、腐敗させるものだ。そしてその錆の水を一番浴びているのは誰かと言われれば業平自身だ。天満はそれを懸念していたが、どうやら赤錆とは言うが業平の霊圧を水分のように相手に浴びせるという説明の方が正しいようで、その霊圧の持ち主である業平自身には影響はないということを花太郎から聞かされ安堵する。だが斬魄刀が無い以上業平は留守番だなと頭を掻いた。
「──斬魄刀が無いんじゃあ留守番だなと考えていないか親友」
「業平、でも流石に鬼道と白打だけじゃ」
「大丈夫、斬魄刀は私が治しておいたから!」
「……い、井上さん」
そこにいたのは井上織姫だった。原作ならばまだ修行中だろう彼女が此処にいることへ若干の困惑をしていると茶渡泰虎も姿を現し、今しがた浦原さんの手伝いを終えて織姫を救護詰め所まで護衛したところだということを説明してくれた。
いつ攻めてくるか解らないから時間がかかっただけで、解っていればそれをベースにするのは当たり前かと天満は納得した。
「井上さんが来てくれて助かっています、ありがとうございます」
「ううん、こうしてると前の戦いが終わったばっかりのことを思い出して、また四番隊のヒトともお話できて嬉しかったから!」
彼女は藍染の動乱の後、しばらくの間四番隊舎へ通い詰めていた。それは敵に捕まってしまったことへの贖罪なのか、ひたすらに、学生ボランティアのように無給で重傷だった隊長たちの治療に当たっていた。
その過去があるため、四番隊、その副隊長で現在は治療班の総指揮でもある虎徹勇音は織姫をすぐさま治療部隊に組み込んでいたのだった。
「それより天満さん、戦場へ行くなら俺も連れてってくれ」
「茶渡くん……いや、俺の次の行き先は戦場じゃない」
「……それはどういう?」
「元一番隊舎執務室、そこに呼ばれてるってさっき技術開発局から連絡が来た」
「つ、次はなにやったんですか!?」
「──穂華……あのな、俺が隊規違反やらかした前提をやめてほしいんだよ」
比較的怪我が軽かった穂華も天満の前に姿を現し、日常のようなテンションでしゃべる彼女に対して天満は安堵と同時に溜息を吐き、業平はゆっくりと頭を押さえて首を左右に振った。茶渡はリアクションは薄いが困惑、織姫も苦笑いを浮かべていた。
壊されたシリアスな空気を元に戻すねらいで咳払いをして、天満は呼び出されただけだとして予測、というよりは確信を籠めてその内容を話した。
「恐らく藍染がいるんだと思う」
「──藍染!? 浦原さんの話じゃ地下深くに封印された筈じゃないのか!」
「随分と気に入られたな、天満」
「本当にね」
狙ったわけではないがと天満は眉根を寄せる。茶渡にも今回の滅却師の侵攻を天満が予知していたことを話し、その敵の首魁を討ち滅ぼすために、崩玉と同化し不死であり「鏡花水月」という唯一無二の催眠能力を持つ彼の力が必要だったから前回の動乱の際も殺すのではなく封印したのだと説明した。本人の性格に多大な問題はあるが、ユーハバッハの能力は一護にも天満にも、誰にも不可能だ。
「タダで協力してくれるだなんて思ってないから、一応お話は聞いて差し上げないとな」
「──その前に、わしの相手をしてくれると助かるのう」
突如、虚空から声がする。業平でも穂華でもなく、織姫や茶渡でもない。全く別の人物からの声、それに対して困惑ではなく面倒なことになったなという反応をしたのは天満一人だった。
そして周囲を見渡すことをせず、ゆっくりと刀を抜き、二刀へと変化させた。
「ざあ、ざあ、ざあ、ざざ──っ」
「なんだ……!」
「何処から声が?」
「ここじゃよ、ここ……」
「──!?」
「穂華、目を閉じてろ!」
「は、はいっ」
「衝!」
詰め所の中じゃ拙いと判断した天満がノールックで穂華の背中にいたその老人を吹き飛ばし、滅却師たちの建物の中に叩きつけた。
そして、天満は瞬歩でその男の前にやってくる。
彼はまさか驚く前に救護詰め所から引き剥がされるとは思っていなかったようで、驚きを一瞬見せていた。
「はじめましての相手を吹き飛ばすとは……」
「そうだね、初めましてグエナエル・リー」
「……なんじゃと?」
「お前のことも識ってるよ、もうずっと前からね」
その老人は「
「わしのことを識っているという意味はわからんが、お前もわしの存在を見ることも感じることも、記憶することもできん」
「──っ!」
天満は自身の腕が斬られた感覚を覚える。
グエナエルの能力はバージョンが3つまである。バージョン1では姿が消え、バージョン2では存在そのものが消失する。この二つを瞬時に移行できるグエナエルの攻撃を回避するのは事実上不可能、天満は己の知識の中にあった更木剣八が東仙要の「清虫終式・閻魔蟋蟀」に対処していた方法でなんとか対応していた。
切っ先の触れた感触を察知して引力で逸らし、カウンターの長刀を虚空に叩き込む。だが、一向に切れた感覚がしない。
「意外と対処と反応が早いのう……」
「……だったら、どうした」
「ならこうするまでよ」
そこで天満の意識から「グエナエル・リー」が消えた。彼の「
そうして解除して再び姿を現した。
「さてもう一度、はじめまして──!?」
「お前は、グエナエル・リー!」
天満は
その慌てた様子、そして自分の身に覚えのない傷を見て、天満は冷静にその事象を理解する。
「なるほど、バージョン3を使われた影響か……まぁ想定の範囲内だな」
「な、なんじゃと……!? 今、今お前……なんと言った!?」
「だから、
それはグエナエルにとって想像を絶する発言だった。そして天満は覚えてはいないがずっと前から識っていると言っていた意味を理解した。正式な星十字騎士団ではなく、本当の聖文字“V”「
「わ、わししか知らん筈の能力を……!」
「稲火狩さん! 怪我を!」
「井上さん、敵が来る……四天抗盾を!」
「は、はい……!」
「なにをしようと無駄──!?」
攻撃をしようとしたグエナエルは自分の刃が、攻撃がものすごい速さで天満に吸い寄せられていることに気付いた。天満の「因果天引」によって、グエナエルの攻撃が天満に当たるという運命に吸い寄せられていく。だが、同時にそれはグエナエルのスペックを越えた速度で「四天抗盾」に突撃するということでもあり。相手の攻撃の威力を盾で拡散し、自動でカウンターを放つその盾に迂闊にも攻撃したグエナエルはその反射のダメージを胸部に受けた。
「グガッ、なに、きさ、きさ、貴様ァ……!」
「バージョン3がバレてる時点でお前は逃げるべきだったよ。そうしたら、
「……殺すッ!」
「殺気がダダ漏れで、敵を倒せると思うなよ」
「
茶渡は敵の正体も、何かもよく解らなかったが天満への敵対と殺気、織姫の「四天抗盾」に阻まれていたという状況があれば護るために行動するのは当たり前だということだった。
そして意識の外からやってきた茶渡の「魔人の一撃」を受けたグエナエルは、忘れさせることのできないという敵への恐ろしさを身に刻んで消滅していった。
グエナエルVS天満について一応解説を挟んでおきます。
天満は融合以前の記憶を「炎輝天麟」に保存して適宜吸い出して使っています。
なのでその知識は忘れることがありません。何年経とうとBLEACHや前世の知識が薄れないのはそのためです。
なのでバージョン3で消えたのは「稲火狩天満がグエナエルと接敵した記憶」にとどまったというわけです。知識で補完したことで天満が「これは初めましてではない」と判断したということです。